第64話 いざ、実食
背景説明地図や登場人物紹介は後書きにあります。
宜しかったら、そちらもご覧ください。
カラス小屋に到着した二人は、カラスのお世話係たちに見つからないように、小屋の裏手に回った。
まだ、夜明け前で暗い中を明かりもなしに歩いていたため、エイナーが何かにつまずいてしまった。どうにか、若さと強靭な足腰で転ばずに堪えた。
「気を付けろ、物音を立てるな。」
「はい。」
気恥ずかしくなったが、気を取り直してカラスたちの餌場を探した。
「もう、足環を外すのは諦めよう。」
そう言って、マチアスはカラスが止まっている大木を見上げた。月明かりの夜空に、カラスの大群がとまっている大木が闇のように黒々とそびえたっている。
カラスたちはこちらに気づいているようだが、特に声も立てずに大人しくしていた。
「やけに大人しいですね。こちらに気づいても、騒がない。」
「ああ、ただこいつらはチクるぞ、俺たちがここに来たことを飼い主に伝えるだろう。」
「え!じゃあ、もし、カラスが残ったり、帰ってきたら、ヨナスにばれちゃうじゃないですか!!」
「ばれてもいい。」
「何ですと!ばれちゃ駄目でしょう。」
「あいつがどんな仕返しをして来るのか楽しみだ。」
それを聞いたエイナーは、驚きを隠せなかったが、この人ならばこれが普通なのかもしれないと納得もしてしまった。
「面倒ごとには巻き込まないで欲しいな……」
そう呟いて、引き続き餌場を探した。
餌場は数か所に置かれてあり、中はほぼからの状態だった。これから与えるのだろうか?
「餌場に出す前の袋詰めのエサがあれば、そっちに混ぜた方が均一に混ぜやすい。」
「袋詰めのエサがあったら、多分、小屋の中に保管してるんじゃないですか、忍び込みますか?」
小屋の裏手に納屋があり、その扉には鍵がかかっていた。それをマチアスが針金のようなもので開けて中を覗くと、袋が高く積まれていた。
「これがエサでしょうか。私ならば上から使うかな。」
「俺は前を使う。」
「人によって違うってことですね。やっぱり餌場に混ぜた方がいいのでは?」
「前の方を二段くらい低くしておけば、取りやすくてそっちを使うかもしれない。」
そう言って、前側を二段ほど低くして取りやすくし。
前側の袋に薬を混ぜた。夜明け前の月明かりを頼りに混ぜたので、どのくらい混ざっているのかは勘頼りだった。
薬も結局は『もどき』だし、エサだって本当にこの袋をこれから与えるのかも分からない、いくらマチアスが出たとこ勝負な所があるとは言え、これは本当にヨナスを揶揄うためにやっているのではないかと心配になりながら、エサに薬を混ぜ続けた。
そして、この旅に出てから自分はこう言った雑用ばかりしているなと、しみじみ思うエイナーであった。
エサに薬を混ぜ終えると、小屋と納屋が見える茂みに身を潜め、お世話係がエサを準備するのをじっと待った。
まだ日が昇る前に、お世話係たちがエサ袋を取り出して、餌場に担いでいくのが見えた。カラスたちがエサを食べ始めたが、変わったことは起こらなかった。
「失敗かな。」
マチアスが呟いた。『もどき』にも及ばない、『偽』だったってことか?
それを大量に作る手伝いをさせられ、エサに混ぜたこっちの気持ちを考えて欲しいと思いながら、小声で抗議しようと身構えた途端、半数近いカラスが飛び立って行ってしまった。
「おい、何をやってるんだ。帰って来い。」
お世話係の二人が必死にカラスを呼び止めようとするが、全く言うことを聞かずに飛び立っていく。餌場に残っていたカラスたちも、先陣を追うかのように飛び立っていった。
「成功したようだ。」
ニヤッと笑って、マチアスが右口角を上げながら言った。
「まあ、後はどのくらい効果がもつかだな~。そこはもう、神のみぞ知るだ。」
そう言って、この場を離れようとしてマチアスの後について行くと、エイナーは急に立ち止まったマチアスの背中に衝突した。
「急に止まらないでください。」
そう言いかけて前を向くと、ヨナスが不機嫌を通り越し、怒り心頭とでも言いたげな表情で立っていた。
「こんなところまでつけて来て、下劣な人だ。僕のストーカーめ。」
今月の文化の日はうまい具合に言ったけど、勤労感謝の日はまんまと土曜に日に捕まってしまった。
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今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




