第5話‐② 暫しの日常を楽しむ日々
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
4話以降は1話を小分けにして2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
昼過ぎに上官のアクセルの家を訪ねた、美しい妻ヴォルヴァと、可愛い四人の子どもたちも出迎えてくれた。
三人の男の子たちはアクセルからジェイドの話を聞いていて、強いお姉ちゃんが来ると楽しみにしていた。
アクセルとジェイドは、これまでに四度手合わせをしている。
一回目の手合わせの時、自分はその場に居らず聞いた話にはなるが、割と長い間、力対スピードの攻防を続け、最後は傍から見るとジェイドが優勢という形で終わったらしい。
しかし、ジェイド曰く、あのまま続けていたら、砂で目つぶしされて、自分は素手でボコられていただろうと言っていた。剣を使わない肉弾戦となれば確かにアクセルに分がある気がする。だが、どこからそういった自信が湧いてくるのが謎で仕方ないが、顔を数発殴らせてでもドローに持ち込む自信はあったと付け加えていた。
四度の手合わせ結果は、お互いに二勝二敗であった。
ジェイドの新人への剣術訓練が予想を遥かに超えて大事になってしまい、新人でないものや、他の連部隊の士官も集まって、新人訓練の後は手合わせ大会と化していた。
問題が起こるとまずいので、結局は自分も付き添いとしてその場にいることになってしまっていた。
それなりに腕に自信があるものでは彼女には全く歯が立たず、それなり以上に強そうな対戦相手として自分に白羽の矢が当たっていたが、ずっと断り続けていた。
彼女の戦い方を見ていて、自分は勝てないかもしれないが、負けないことなら出来るかもとは考えていた。しかし、部下の目の前で妻にボコられる姿を晒したくはないし、手合わせとは言え、そもそも彼女とは戦いたくない。
その日は、ジェイドに一敗中のアクセルも面白半分で同席していて、
「いいじゃないか、手合わせしてやれよ。俺の仇も取ってきてくれ。」
と言われてしまったので、渋々手合わせをすることになった。
エイナーと手合わせが出来るのが嬉しくて微笑んでしまうのを、ぐっと堪えてジェイドが言った。
「続きをやろうじゃないか。」
縁談の顔合わせの時のことだなと思い、ついでに木の上での出来事を思い出し、我ながら意地が悪いなと思いながらも答えた。
「いいけど、恥ずかしがるなよ。」
ジェイドの顔がパッと赤くなり、剣を握る手が少し緩んだ気がしたので、咄嗟に、この隙に彼女の剣を弾き飛ばして、手合わせ終了にさせてしまおうと考え、彼女の剣を自分の剣で強く弾いた。
さすがにそんな小細工が通用する訳もなく、ジェイドは真剣な面持ちに戻り剣を強く握り直し、自分の剣でエイナーの剣を顔の前まで持ち上げて、押し返しながら言った。
「卑怯だね。」
恥ずかしがるなよ、と言われたことが悔しかったのだろう、その後、剣を交えながらジェイドは顔が近づくたびにエイナーにだけ聞こえるように小声で、心がチックっとするような少し赤面する言葉を言った。
「どこでそういう言葉を覚えてくるのかな?」
「教えてくれるのは、エイナーだけじゃないってことかもよ。」
「それはどういう意味だ?」
その後、また何か言われるかと思って心構えていたが、ジェイドの気が変わったのか、ボキャブラリーが少なすぎて言う言葉がなくなったのか、そういうたぐいの言葉は言わなくなり、最後は何故か投げ捨てるよう、
「ふざけないで、黙って真面目にやれ。」
と言って切りかかってきた。
その後は、お互いに膠着状態となってしまい、隙をついて切り込むならば、それはもう一刀両断の勢いで行かないと、結局かわされてしまうという状態に陥ってしまった。
かと言って、単なる手合わせで一刀両断の勢いで行ったら、どちらかが大怪我をすることになる。
ジェイドは、どうにかこの状態を変えようと、一旦退いて左手でもう一本剣を取り、両手で二本の剣を持ち、上半身をうねらせて大きく流れるように振りかざし、体を回転させ両手の剣を滑らかに振り回しながら切りかかったり、両方の剣で突くことで手数を増やしたり、足を大きく開き体を地面すれすれまで低くすることで、相手の足元を攻撃し、その直後に飛び上がって頭上を攻撃し、攻撃のふり幅を大きくしたりと、どうにか自分に有利になるよう動いた。
初めのうちは今まで対戦したことがない、流れるような剣術の動き、手数の多さ、攻撃のふり幅の広さに圧倒されていたエイナーだったが、段々と攻撃に慣れてきて問題なく応戦できるようになってくると、またしても膠着状態となってしまった。
ジェイドは一本剣を投げ捨てて最後は一本で戦っていたが、お互いこのまま続けてもどうにもならないと考え、ここが潮時だろうという所で、お互いほぼ同時に動きを緩め、一礼して手合わせは終了した。
その後のジェイドはこの上なく上機嫌で、
「自分の記憶がある中で、こんなに遣り合えた相手は師匠以外だと、アクセルとエイナーだけだよ。明日も明後日も毎日やろうよ~。」
と叫びながら、二人に抱きついた。
「俺は良いぞ、毎日は出来ないけど、時間があるときは相手してやるよ。こないだのリベンジもしないとなあ。」
とアクセルは快諾した。
エイナーは二度とやりたくないと思っていたが、翌朝、手合わせしてくれなければ、家出をするだの、エイナーの姉たちに言いつけるだの、お前を犬に食わせるだのと泣きわめかれ、休みの日に三十分だけということで約束をさせられてしまった。
そんな強いお姉ちゃんが遊びに来たのだ。三人の男の子たちはどんな強そうな女が来るのかと楽しみにしていたが、小柄で一見華奢そうにも見えるジェイドをみて、
「もっとアマゾネスの女戦士のような奴が来るのかと思っていたのに、マッチ棒みたいな女が来た。」
と、口に出して落胆した。
それを聞いたジェイドは、
「失礼なクソ餓鬼どもだな、人を見た目だけで判断していると、いずれ化け狐に身包み剝がされることになるぞ。」
と意味不明な言葉を返した。
それを聞いたエイナーは冷や汗をかいたが、マッチ棒はいただけないなと思った。
それを見てアクセルが笑いながら言った。
「気を付けろ、そんなこと言ってると、このお姉ちゃんに踵落とし食らわせられて、失神させられるぞ。」
アクセルの手合わせ二敗中のもう一敗の原因が踵落としによるものだった。アクセルは確実にジェイドを地面に抑え付けて勝ったと思ったのだが、何故か彼の後頭部に彼女の踵が落ちてきて脳震盪を起こした。
傍から見た彼女はまるで尾を上げたようなサソリのような姿だった。
一連のやり取りに妻のヴォルヴァは少し驚いてはいたが、「元気がいいのね。」の一言で片づけた。
結局子どもたちはジェイドを気に入って、一緒に遊ぼうとねだったため、ジェイドも「マッチ棒みたいな女」と言われたことは一先ず置いておいて彼らと遊んでやった。
『相撲ってものを教えてやる』と言って、八歳のテュールを四回、六歳のマグニを二回投げ飛ばし、四歳のダグを肩に担いで振り回した。
彼らが遊ぶ様子を見て、アクセルとヴォルヴァが「うちの子どもが五人になった。」と笑いながら冗談を言った。
エイナーは近いうちに自分が軍を辞めるであろうことを、アクセルに伝えておこうと思い、
「もしかすると、近いうちに仕事を辞めるかもしれません。」
それを聞いたアクセルはちょっと驚いた顔をして尋ねた。
「お、いよいよ領主を継ぐのか?」
「そういう訳ではなくて、ジェイドの旅に同行しようかと思って。」
「んんん?新婚旅行か?」
「詳細は言えないのですが、彼女にはどうしてもやらなければならないことがあるらしくて。自分としては不本意なんのですが、それに同行しようかと。」
「お前が不本意ってことは、復讐の類か?やっぱりあいつの母上は誰かに殺されたのか?」
勘が鋭いなと思いつつ、どこまで話して良いものかと考えていると、アクセルが話を続けた。
「十二年くらい前だったよな、俺はその時十五歳くらいで、あいつとあいつの母上が失踪して、しかも母上の方は亡くなったって、結構大きな騒ぎになったんだよな。」
「そんなに騒ぎになったんですか?」
「え?お前知らなかったのか?でも、お前は九歳くらいか、じゃあ知らないかもな。」
「その時は知らなくて、後で何かの記録で読みました。」
「そうか。でも、五年前、あいつが戻って来た時のことは知ってたんだろう?」
「実は、縁談の時に初めて知って、それまで彼女は失踪したままだと思っていました。」
「本気か?五年前だから、お前まだ学生か。ちょうどあの時うちの実家で領主の集会があって、俺も手伝いに行ってたんだけど、集会の途中であいつの父上と、お前の父上が、あいつが見つかったって、大怪我して病院に運ばれたって血相変えて帰っていったんだよ。その後、命に別状はなく元気になったって話を聞いて良かったなって、それで、お前と結婚ってことになって、それも良かったなって思ってたんだよな。」
アクセルはジェイドのことを昔から知っていて、それで今も何だかんだと気に掛けてくれていたのだなと嬉しくなった。それにしても、父上はなぜその話を一度もしてくれなかったのだろうか。
「通りで、強すぎると思ってたんだよ。特殊な環境下で育ったとか、凄まじい執念とかが無かったら、普通はあのレベルの強さにならない。その旅ってどのくらいかかるんだ?休職扱いもできるぞ。」
「どのくらいかかるかは分かりません。直ぐに終わるかもしれないし、長くかかるかもしれないし、兎に角、じっくり腰を据えて行きたいので、仕事は辞めようと思います。」
「いつ発つんだ?」
「まだ決まってません。」
「言いたくないことは言わなくていいけど、俺に出来ることがあったら言ってくれ、出来ることは手伝うよ。」
「ありがとうございます。」
その日は、ゲイラヴォル家で夕食をご馳走になり、二人が家に帰り着く頃には日付は翌日になっていた。
今回はいかがでしたでしょうか?
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