第54話 二人の良心
背景説明、登場人物紹介は後書きにあります。ご興味ありましたらご覧ください。
ジャーダンに呼び出されたカジャナも、今回の国務会議に同行していた。
ジャーダンの部下から、仕向けた刺客のことを問いただされ、待っていたが来なかったと言い続けたが、やはり納得はしてもらえなかった。
「少しでもおかしな真似をしたら、お前の命はないぞ。」
と言い放ち、部下は去って行った。
ここに来てカジャナには、やらねばならないことがあった。
サムートの体調が回復したことを証明する診断書と謹慎処分の取り消しを、稟議に通すことである。
少なくとも証明書を医務局でもみ消されたり、書き直されるようなことがあってはならなかった。その為には、医務局のトップであり、現アラン二世の主治医である男に根回しをする必要があった。
また、稟議に回すにあたり、このことをジャーダンよりも先にカリーナ王女に伝えて、王女から内諾を貰う必要もあった。
「お久しぶりですね、カジャナ先生。遠路はるばる、お疲れになったでしょう。お掛け下さい。」
現主治医の男が、カジャナの訪問に快く応じた。
「グレナディとパレオスはそこまで遠くはありませんからね。疲れたって程じゃありませんよ。」
そう言って、出されたお茶を一口飲んだ。何の味も感じなかった。
「カヒル先生、ところで、アラン二世の体調はいかがですか?」
カジャナが尋ねると、カヒルはカジャナの方を見ずに、
「良くも悪くもなっていません。」
とだけ答えた。
「意識はあるのですか?」
「時々、カリーナ王女の問いかけに反応することがあります。」
「そうですか……一日も早い回復を願っております。」
「……ご期待に沿えるよう、努力します。」
何とも歯切れの悪い返答であったが、カジャナは、それ以上この話を続けることなく、本題に入った。
「実は、サムート様の事なのですが。」
「はい。」
「いろいろなことが起こった直後で、サムート様も気が動転されていたんだと思いますが、通常であれば冷静な方です。もし、体調が回復するようなことがあったら、大臣職への復帰に協力いただくことはできますでしょうか?」
「それは、もしもの話ですか?それとも?」
カヒルがカジャナに尋ねた。主治医の表情は困惑していた。
「私は医者です。健康な人の体調を悪化させることが仕事ではありません。それは、自分の命は惜しいです、死にたくはありませんよ。でも、信念というか、心の根底にあるものを曲げるのも、とても心が苦しいのです。貴方ならばわかってくれると思っているのですが。」
「カジャナ先生のおっしゃることは分かります。しかし、私には何の力もないのです。自分の家族、親族、そして自分のことで精一杯です。吹けば飛ぶようなゲームの駒にすぎません。危険な真似はできないのです。」
「それは重々承知です。ただ、私が提出する証明書を正当に評価していただきたいのです。内容を吟味いただき、証明書として適切とお考えであれば、そのまま稟議に通していただければいいのです。勿論、何か不十分と感じる部分があれば差し戻してください。ですから、何か不正をして欲しいとか、便宜を図って欲しいという訳ではありません。」
カヒルの表情は厳しかった。
「それで、サムート様はどういうご様子なのですか?」
「証明書をご確認いただければ分かります。」
カヒルは黙っていた。カジャナが話を続けた。
「もし、差し支えなければアラン二世との面会を許可いただけませんでしょうか?国王にはとても良くしていただいておりましたので、久しぶりにお顔を拝見出来たらと思いまして。」
カヒルは少し考えて、答えた。
「分かりました。ほんの少しであれば良いでしょう。」
カジャナはアラン二世の部屋に通された。王の枕元にはカリーナ王女が座っていた。
「お久しぶりです、王女。ご機嫌いかがですか?」
「カジャナ先生、本当にお久しぶりですね。私はすこぶる元気ですよ。先生もお元気そうで何よりです。」
カリーナがそう答えた。カジャナはアラン二世の顔を覗き込んで、
「お顔色も宜しそうだ。カヒル先生がきっと治してくださいますよ。」
「はい、私もそう信じております。」
そう言って、カリーナは微笑んだ。
「先生、今日は父の顔を見に来てくださったんですか?」
「はい、国王にはとても良くしていただきました、御恩などと言う言葉では足りないくらいです。こんな時に恩返しができればいいのですが、私には何もしてあげられることがありません。せめてご挨拶だけでもと思い。」
「ありがとうございます。父も喜ぶと思います。」
「カリーナ王女。実は、サムート様の事なのですが……」
「サムートがどうかしたのですか?」
カリーナ王女は少し不満そうな表情を見せた。
「サムート様はとても反省しておりまして、自分の勘違いでジャーダン様にとんでもないことをしてしまったと。ただ、あの時はお父様が亡くなり、婚約者が自殺未遂をされるなどして、とても気が動転していたと。」
「やっと気づいてくれましたか。」
そう言って、カリーナ王女の表情が少し緩んだ。
「はい。そして、自分の体調が戻ったら、モラン国、延いては、ジャーダン様、カリーナ王女のためにお尽くししたいと仰っております。」
「それは、とても良い心がけですね。ジャーダンも喜ぶと思います。」
「そうであれば、良いのですが……」
「何か心配事でも?」
「心配事と言う程ではないのですが、あのようなことがあったので、ジャーダン様はサムート様を良くは思われていないと思います。仕方のないことですが。もし、サムート様の体調が戻ったと知ったら、サムート様のお気持ちをお伝えする前に、サムート様に処罰を与えるのではないかと……」
「ジャーダンはそんな心の狭い人ではありませんよ。心配無用です。今の話を聞いたら、とても喜ぶと思います。」
「はい、私もそう思います。ただ、サムート様に申し開きの場をお与えいただきたいのです。彼にチャンスをお与えいただきたいのです。」
「分かりました、ジャーダンには伝えずに置きます。それで、サムートの体調はどうなったのですか?」
「はい、大臣職に復帰することが可能なくらいには回復しております。ですので、謹慎処分取り消しの正式な申請をしております。そこに回復していことの証明書も添付しておりますので、一度ご確認いただければと思います。」
「分かりました、私が確認して稟議に回します。ジャーダンにとっても良い話ですもの、嫌な顔をするわけがありません。」
「ジャーダン様、カリーナ王女のお心の広さに感謝いたします。」
そう言って、カジャナは部屋を後にした。
カリーナ王女は一度約束したことは守る人であった。もし、破る必要があるときは一言事前に連絡をくれるはずだ。
カヒルは人柄がよく、敵を作らないタイプの男で、医者としても優秀だ。善人の部類に入る。ただ、争いごとを好まず、穏便に過ごしたいという気持ちが強いため、どうしても長い物に巻かれてしまう傾向があった。
いろいろと不安は残るやり方ではあるが、ここまでやったらあとは運を天に任せて祈るのみだと、カジャナはため息をついた。
迷宮グルメ異教の駅前食堂、、、ヒロシの時から見ていて、スギちゃんのも好きだったのに、突然の最終回2時間スペシャルって、、、呪術ロスのあとは、駅前食堂ロス。別れの後の出会いに期待。
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今回のお話はいかがでしたでしょうか?
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自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




