第5話-① 暫しの日常を楽しむ日々
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
4話以降は1話を小分けにして2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
翌朝、目を覚ますと雨でもないのにジェイドが隣にいた。
彼女はいつも小雨くらいならば、朝のルーティンをこなしに森に出かけて行く。
エイナーは目をこすりながら、
「珍しいね、雨でもないのに。」
「今日は、出掛けるって言ってたから。」
そう言われ、今日は上官の家に彼女を連れて行く約束をしていたことを思い出した。
既に上官のアクセルにはジェイドのことを紹介していたが、一度家族にも会わせたいから連れて来いと言われていた。
「ああ、でもそれはお昼過ぎだよ。」
と言いながら、街中にある東方の市場に一度彼女を連れて行きたいと思っていたことを思い出し彼女を誘った。
「たまには、外で朝食でも食べないか?」
ルッカには異国情調溢れる市場が所々にあって、東方の市場はその中でも規模が大きくいつも賑わっていた。
「うわ~、ここに来れば何でも食べられる。すんごいや。」
こんなにジェイドが喜んでいる姿を見るのは初めてのような気がして、嬉しいような、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
渡し忘れていたブレスレットを渡したときにも嬉しそうにしてくれたが、今ほどの比ではなかった。
彼女には色気より食い気なのだろう。
東方の料理も地方によって個性があり、辛い物を好む地方、濃厚で油の多いこってりした味を好む地方、さっぱりした味付けを好む地方など、一概に東方料理と言っても多種多様だということを教えてくれた。その中でも彼女は辛くて濃い味のものが好きとのことだった。
失踪中の記憶がないという割にはそういうことは覚えているのだなと思いながら、彼女が選んだ店に入った。
今までに嗅いだことがない匂が漂ってきて、何故か目が痛くなった。
「これ、本当に飲食店なの?」
「何言ってるの、この食欲をそそる香り。記憶はなくても五感は忘れないんだな。食べ物の名前はよく覚えてないけど、この香りは懐かしい気がするよ。」
ジェイドは隣の席の人たちが食べている真っ赤な何かを注文した。
「あれと同じの頂戴。エイナーは辛い物は苦手か?だったら、あまり辛くないものもあるはずだ。」
と言って、お店の人にあまり辛くないメニューを聞いてくれたが、それが何かわからないので薦められたものを頼んだ。
「やっぱり、東方に住んでたのか?」
「多分ね、断片的に覚えてることはあって、寺みたいな所に、沢山の子どもたちと一緒に暮らしてた気がする。」
「そこで何をしてたか覚えてるの?」
「う~ん、殆ど覚えてないけど、東方とイズミールの公用語が話せるから、そこで習ったのかも。後は、武術、酒造り、薬草、農業、鉱物、火薬、あと星座とか。教わった記憶がないのに知識があるんだ。」
「ふ~ん、子どもに酒造りをさせるのか?」
「作る手伝いしてたんだと思う。この辺のお酒とは違って、米やもち米で作るんだよ。大きな甕に麹と酵母と一緒に入れて発酵させるんだ。」
「紹興酒みたいなものかな。」
「名前は覚えてない。エイナーは酒に詳しんだね。」
「ちょっとはね。子どもの頃から父親に、お酒、生地や織物、貨幣の知識を叩き込まれて、少し修行すればトレーダーになれるかもしれない。」
店員に差し出された真っ赤な食べ物を受け取りながら、ジェイドが尋ねた。
「トレーダーって何?」
自分も赤い食べ物を受け取りながら答えた。
「商人は自分たちで貿易をして、その利益に応じて税を領主に収めるけど、領主から貿易業務を委任されて、その儲けに応じた給金を貰う人たちがいて、彼らはトレーダーと呼ばれているんだ。領主お抱えの商人みたいなもので、資本が領主だから信用も得やすい。」
箸で器用に麺を持ち上げ口に運びながらジェイドがまた尋ねた。
「具体的には何をする人たちなの?」
「やっていることは商人と一緒で、他国に品物を買い付けに行ったり、能力や経験年数に応じてその領土の特産品などの販売ノルマを持たされて、他国に売ったりしている。君の父上だって多くのトレーダーを抱えて、他国との貿易をしているはずだ。アルタやイズミール、時には西夏や南風の方まで足を運ぶトレーダーもといると聞いたことがある。自分で取引先を探して、交渉もしてだから、買い付ける品物の知識だけじゃなく、交渉力や情勢を把握して適切に対応する能力とか、いろいろ必要みたい。」
一通り説明して、自分の目の前の赤い物を箸で不器用に口運んだ。思ったほど辛くはなかったが、口の中がピリピリ痺れる。
「これ、口の中が痺れるけど毒じゃないよね?」
「花椒っていう香辛料で、毒じゃないよ。どう?こういうの大丈夫?」
ピリピリする感覚に驚いて始めのうちは味が分からなかったが、慣れてくるとそれなりに美味しい気もした。
「慣れれば、美味しいよ。」
と答えながら、トレーダーは使えるかもしれないと考えていた。
「ジェイドは、何か詳しいものはあるの?鉱物の知識があるってことは、宝石とか?」
「うん、良し悪しとかは分かるよ。産地や相場とかもある程度わかるかな。」
それを聞いて、プレゼントしたブレスレットの良し悪しも分かってるのか、それで何も言わないということは、余り良い品ではなかったのか?と不安になっていると、彼女がそのブレスレットをしている左手を持ち上げて言った。
「例えば、このブレスレットの翡翠は熙でとれたものだろう、緑色が濃くて透明度も高い良い品だ。こっちのアメシストは色がやや淡くて透明度が高い、ヌビスの方に有名な鉱山があってそこの特徴のような気もするけど、他の鉱山でも似た特徴の石が取れるから、正直分からない。」
一先ず、そこまで悪い品ではなさそうなので安心したが、もしや値段も分かってしまうのかと思い、聞こうか聞くまいか悩んだ末に、結局聞いてしまった。
「値段とかわかるのか?」
暫し眺めて、
「多分、金の相場も考えると、二十ギーニってところかな。でも、なんでこんな高い物を突然くれたんだ?」
確かに二十ギーニくらいしたが、求婚時のプレゼントとしては特段に高いわけではない、ただ渡し忘れていて何でもない時に渡したため、彼女としては何故くれたのか理解出来ていなかった。
ならば、ここは芝居でもしてみようとエイナーはジェイドからブレスレットを受け取り、
それを差し出しながら言った、
「ジェイドさん、私と結婚して下さい。」
面食らったジェイドが赤い顔をして戸惑っていると、周りから拍手がポツリポツリを湧き起こってきた。
「ほら、いいから左手出して。」
そう言うと、ジェイドが差し出した左手首にブレスレットをはめながら、
「本当は、このために準備していたんだけど、良いタイミングがなくって、今になってしまった。」
赤らめた顔で嬉しそうに微笑みながらジェイドが言った。
「ありがとう。大切にするよ。」
ふと周りを見渡すと、簡素なつくりの食堂は外からも丸見えで、中の客や店員以外にも、外をたまたま歩いていた人たちもこちらを微笑ましく眺めていて、その中には拍手を送ってくれている人もいた。
ああ、場所を考えてやるべきだったとかなり恥ずかしくなった。
もち米で作る酒がどんなものなのか興味があったので、市場で買って帰ることにした。
「飲んだことある?」
「飲んだことないよ、酒は飲めない。」
「一滴も飲めないのか?」
「十六の誕生日に年代物のワインとやらを飲ませてもらったけど、グラス半分も飲まないうちに寝むってしまって、二時間ほど起きなかった。」
そういえば、ミレンナにジェイドと喧嘩して、彼女が喧しくて黙らせたかったら、睡眠薬は効かないからお酒を飲ませなさいと言われたことを思い出した。
何かの冗談だと思っていたが、そういうことだったのかと思い、
「睡眠薬は効かないけど、酒では寝るんだな」
と尋ねると。
「何で睡眠薬が効かないことを知っているんだ?ミレンナに聞いたのか?」
口を滑らせてしまったと思ったが、仕方なく答えた。
「まあ、そうだね。」
「多分だけど、自分で耐性を付けたんだと思う。少量ずつ試していって、だんだん効かなくなるようにしたんじゃないかな。自分ならばやりかねない。そうじゃなければ、元々の体質だね。一般的に出回ってるものは大体効かない。それに、匂いや味でわかるから念のため飲み込まない。」
「睡眠薬を盛られるようなことがあったのか?」
「まあ、戻って来てから学校でいろいろとやらかしたからね。睡眠薬で眠らせて仕返ししようとした人もいたみたいで、何回か飲まされそうになったけど、飲まなかった。」
ハリスが言っていた入学初日に男の子のあばら骨を折った話のことか。
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