第47話 サムートの願い
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
「……本当はどうしたいかだって?そんなの分かり切ったことだろう。アルーム国と平和な暮らしを取り戻したい。他に何があるというんだ。」
サムートが声を荒げた。
「このまま、全てがモラン国に飲み込まれていくのを、喜んで見ているとでも思っているのか!」
「だったら……」
「だったらどうなんだ、私に何が出来ると?全く、どこまで能天気なんだ、君は。」
「サムート、君がやらなかったら、誰がやれると言うんだい?」
エイナーは、自分も声を荒げそうになるのを堪えた。
「無能な私に、何もかもを押し付けないでくれ。父もマルチナも助けられたかった。国も国民も、何もかもだ。」
そう言って、頭を抱えて動かなくなった。
「マルチナは君の婚約者かい?だったら、存命なのだろう?」
サムートは頭を抱えたまま、押し殺した声を漏らすように答えた。
「……目覚めてくれないんだ。彼女は私を許してはくれないんだ。」
「なぜ、そう思うんだい。」
「……もっと早く、私が、彼女の苦悩に気づけていれば、彼女の両親を助け出せていれば、辛い思いをさせることはなかった。」
そう言って、サムートは両膝を突いて、大きな両手で自分の顔を覆った。
「それは、彼女も同じなんじゃないかな。彼女が目覚めないのは、もしかすると、君が許してくれないと思っているからじゃないのかな。」
涙にぬれた顔でサムートがエイナーを見上げた。
「サムート、君の思いを彼女に伝えよう。それだけでもやるべきだと思うよ。」
「マルチナに会いたい……会って、彼女に謝りたい。」
「マルチナにどうやったら会えるかですか?しかも、サムートに会わせるためにですか……」
バナム・アルマンは眼鏡を外して、暫し考えた。
「彼女はモラン国の首都パレオスにある自宅に居るはずです。サムートは今は謹慎処分の身ですが、モラン国の大臣職についているので、本来であればパレオスで開催される国務会議に参加しなければなりません。今は私が彼の代理として参加していて、次の国務会議は再来週です。」
「サムートも貴方に同行すれば、パレオスに行けるということでしょうか?」
エイナーの質問にバナムは少し苦い顔をして答えた。
「あくまで大臣職の謹慎処分であって、パレオスに来ることを禁止されている訳ではありません。しかし、彼がパレオスに入ることがジャーダンに知られてしまえば、ジャーダンは刺客を送って彼を殺害しようとするでしょう。まずは、私の護衛に扮してもらいパレオスに入る。そして、謹慎処分を解いてもらえるよう交渉するのが良いと思います。彼の体調が回復していることが証明できて、適切な手続きを踏めば、謹慎処分は解かざるを得ないと思います。」
「もっと、ジャーダンの独壇場なのかと思っていましたが、思いの外、法が守られているんですね。」
エイナーは意外に思い尋ねた。
「ジャーダンは国王の娘婿です。摂政と言う立ち位置ではありますが、国王の娘であるカリーナ王女の意見を無視することは出来ません。カリーナ王女は、ジャーダンのことは信頼していますが、自分の父親であるアラン二世を敬愛していて、アラン二世の考え方を支持しています。国は法や規律の下に運営され、その法や規律は、国民のためのものであるべきと言う考え方です。」
「なぜ、カリーナ王女は、今のジャーダンの振る舞いを許しているのですか?国王の健康状態だって、ジャーダンが何か企んでのことかもしれないのに。」
「王女は、国王の体調不良は病気によるものだと素直に信じています。また、ジャーダンは国王のために、国民のために、彼なりのやり方でモラン国の国益の増大のために尽力していると信じています。まあ、周りの側近たちの入れ知恵もありますが、思い込みの激しいところもあるんですよ。」
そう言ってバナムはため息をついたが、直ぐに気を取り直して、嬉しそうに、
「サムートの願いを叶えましょう。再来週の国務会議に向けて手はずを整えなければなりません。忙しくなりますね。」
もはや、生真面目オールバック眼鏡役人などではなく、以前の優しいバナムに戻っているように見えた。
数日後、メイ・モーイエが城に居るズーシュエンとマチアスを訪ねてきた。
「今日は、鎮静剤の調合の依頼を受けたので、これからカジャナ先生に会いに行ってきます。その前に、お二人に会わなくてはと思って、ここに来ました。」
サムートに鎮静剤が投与されていないことを知っていた二人は、すっかり曼陀羅華の鎮静剤のことなどを忘れていた。
ズーシュエンはモーイエにお礼を述べて、要望を伝えた。
「差し支えなければ、私たちもご一緒できますでしょうか?」
「カジャナ先生が許可してくれれば大丈夫だと思います。取り敢えず、一緒に行きましょう。」
そう言って、三人でカジャナの元に向かった。
その途中でモーイエが何かを思い出しズーシュエンに尋ねた。
「リュウ・ズーハンという十七歳になる女性をご存じでしょうか?」
「リュウ・ズーハンですか?その方がどうかされたのですか?」
ズーシュエンは表情を変えずに聞き返した。
「昨晩、見知らぬ男がやって来て、そう言う名前の女性がここに居ないかと尋ねてきたんです。家にはそう言う名前のものは居ないので、居ないと答えました。若しかしたらズーシュエンさんのお知り合いかと思ったのですが、ご存じないですか?」
「知っています。ちなみに、その男はどんな男だったんですか?」
「それが、特徴がなくてよく覚えていないのです。でも、確か、片方の手に黒い手袋をしていました。」
ズーシュエンとマチアスは、お互いに何とも言い難い表情で、顔を見合わせた。
本日もお読みいただきありがとうございました!
いかがでしたでしょうか?感想など聞かせてもらえると嬉しいです。
日が昇るのは遅くなり、日が落ちるのは早くなりました。秋の夜長の読書には、やっぱりロードオブザリング!ゆっくり王の帰還を読み返そうと思います。




