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第45話 エイナーの思い

始めまして、白黒西瓜シロクロ スイカです。

某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。


ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。

若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。


今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。


自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。


参考資料:

地図

挿絵(By みてみん)


家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性

 バナムの話通り、数日もするとサムートは、完全ではないものの普通に話をすることが出来る状態まで回復していた。そのことを知る者はごく一部のものに限られており、未だにサムートは体調不良で意識が朦朧としていて、部屋に籠っていることにはなっていた。


「エイナー、こんな姿で再会することになって、本当に情けないとしか言いようがないよ。」

 ベッドで上半身だけを起こしたサムートが、力なく呟くように言った。


「そんなことないだろう。こうやって話が出来て、本当に嬉しいよ。」

 エイナーはそう言いながら、胸が熱くなるのを感じた。そして、サムートの次の言葉を待った。


 暫しの沈黙の後、サムートが下を向いたまま言った。

「今の自分には何もない、いや、以前から何もなかった。何も出来なかったし、これからも何も出来ないだろう。」


「今はまだ体調が回復してないから、何でもそんな風に考えてしまうんだよ。もう少し落ち着いたら、今後のことを話そう。今は、もっと違う話をしようよ。折角、久しぶりに会えたんだから。」


「そうだね、何かいい話でもあるのかい?」

 サムートが力ない笑顔で答えた。


「良い話ね……結婚したこと意外だと、リンゴの皮むきが出来るようになったことかな。」


 昨日、サムートの元を訪れた際に、ジェイドも一緒に来てサムートに挨拶をしたので、エイナーとジェイドが夫婦であることは既に報告済であった。


「正直、昨日はびっくりしたよ。ジェイドは素敵な人だと思うよ。でも、私が想像していたエイナーの結婚相手像とかけ離れていて、何ていうのかな……その、もっと女性らしいというか、お淑やかな、いかにもお嬢様っていうタイプの女性と結婚するものだと思っていたから。例えば君の姉上たちのような。」


 サムートの笑顔が少し元気になったように見えた。


「それはないね、姉上たちのような女性は何があっても選ばないよ。そんな寿命の縮むようなことするわけがない。あの二人は悪魔だよ。久しぶりに会ったけど、相変わらずだったね。」


 エイナーが心から嫌そうな顔をしたので、それがサムートのツボにはまったようで、


「そうだった、君は、以前から自分の姉上たちを悪魔と呼んでいたね。」

 そう言って、声を出して笑った。


「そうだ、私はまだ意識朦朧状態ということになっていた、あまり大きな声は出してはいけなかったんだ。」


 そう言って、二人で懸命に笑いをこらえた。


 エイナーが、持参したリンゴの皮をむいて6等分にし、その一切れをサムートに渡した。


「凄いだろう、リンゴの皮がむけるようになったんだ。」


 むかれた皮の厚みは不均一で、リンゴの表面にもまだ少し皮が残っていた、6等分も等分になっておらず、サムートに渡した一切れは一際大きかった。


「凄いね、料理でもはじめるのかい?」


「ジェイドに教わったんだ。彼女は野菜や果物の皮をむくのが得意なんだ、芋なんか一分間で五個は皮むき出来る。しかも、きれいに芽も取って。」


「それは凄いね。でも、ジェイドも領主のご令嬢だろう、料理なんていつするんだい?」


「彼女は、幼い頃、家を離れて別の場所で暮らしていたんだ。そこで料理をしたり武術を習ったりしていたらしい…事情があってね……」


 サムートは暫し考え、カーテンを少しだけ手で持ち上げて外を覗きながらリンゴをかじった。そして、エイナーに向かって言った。


「リンゴ、美味しいよ。エイナーも食べてみなよ。」


 エイナーも自分が剥いたリンゴをかじった。


「甘い。」




 少しでも彼を元気づけられれば、前向きな気持ちを取り戻してもらえればと、エイナーは毎日サムートに会いに行った。他愛ない話をしている間、彼の表情は明るく、以前の彼と話をしている感覚が蘇ってくるようだった。

 しかし、それ以上深い話になると、彼の表情は急に暗くなり、不安に満ちた、自信のない表情に戻ってしまうのだった。


 その悩みを三人に相談してみると。


「エイナーは優しいからな、私が行ってサムートのケツを蹴り上げてやろうか。」

 ジェイドからは、気合系の答えが返って来た。


「エイナーは優しいからな、そろそろ、相手が快く思わなくても、核心をついた話題に以降して行かないと、永遠に堂々巡りになるなんじゃいかな。」

 ズーシュエンからは、そうだよなと思う答えが返って来た。


「もう、サムートのことは諦めて、バナムとお前がやれば良いんじゃないか?後から慌ててサムートも追いかけて来るよ。」

 マチアスからは、そう言う考え方もあるかも的な答えが返って来た。


 兎に角、明日はもっと核心に迫った話をしなければと覚悟を決めた。




 部屋を出るときにジェイドから「ついて行ってやろうか?」と尋ねられた。

 本気でサムートのケツに蹴りを入れようとしているんじゃないかと危ぶんだが、流石にそれはしないだろうと思い、ついて来てもらうことにした。

 自分一人では、今日もまた、サムートと他愛のない話をして終わってしまう気もしていた。


「今日はジェイドも一緒なんだね。」

 サムートが嬉しそうにジェイドに笑いかけた。


「ああ。」

 と答えて、ジェイドは笑い返さなかった。

 三人の間に変な空気が流れた。


 エイナーとサムートは暫し他愛のない話をしていたが、サムートがジェイドの様子を不思議に思ったのか、尋ねた。

「ジェイドは具合でも悪いのかい?」


 するとジェイドが答えた。

「具合は悪くないが、胸くそが悪い。」


 サムートが驚いた表情をして、申し訳なさそうに言った。

「何か失礼があったのかな、気になることがあれば遠慮なく言ってくれ。」


 エイナーとしても、ジェイドが何かやらかすだろうとは思っていたが、思いの外、単刀直入に入って来たことに驚き、この場をどう処理するのが良いのか、必死に考えた。しかしジェイドの言葉は止まらず。


「ああ、気になることだらけだよ。いつまで過去の楽しかった話に浸ってるんだ。二人ともずっとそのままでいいのか?雪辱を、無念を晴らさなくていいのか?このままいつまでも、いつまでも地下に籠ってくすぶって生きていくのか?」


「ジェイド、少し落ち着いて。そんな言い方しなくても、もう少し穏やかに話し合うことは出来るだろう。」

 エイナーが立ち上がったジェイドの腕を掴んで言った。


 サムートは下を向いて黙ってしまった。


「サムート、済まない。今日はこの辺にしておこうか。」


 そう言って、エイナーがジェイドを引っ張って行こうとしたが、ジェイドは動かずにその場に立っていた。


「ジェイド、落ち着こう。また、日を改めて話をしよう。」


「ダメだよ、エイナーも言いたいこと言わなきゃダメだよ。本気でサムートのことを思うならば、思っていることを伝えてあげなきゃダメだよ。」


 そう言われてエイナーは、自分がサムートへ言いたいこと?思っていること?それは何だろう?そう聞かれると言葉が出てこない。どうやら、ジェイドにケツを蹴り上げられたのはサムートではなく自分の方だったようだ。


 だが、エイナーは無意識に言葉を発していた。

「……ずっと、自分に兄がいたらサムートのような人が良いなって思っていた。優しくて、博識で、勇敢で、面倒見が良くて、いつでも守ってくれる。もし自分が窮地に立たされて、サムートに助けて欲しいと頼んだら、この人ならばきっといつだって、手を差し伸べてくれると信じられた。でも、もしサムートが窮地に立たされた時、自分もサムートに同じように手を差し伸べられる男になりたいって思っていた。サムートに頼ってもらえる男になりたいって思っていた。いや、今でも思っている。」

 エイナーはサムートに目を向けていた。サムートの肩が少し動いた気がしたが、彼は俯いたままだった。


 エイナーはジェイドに目を向けた。ジェイドもこちらを真剣なまなざしで見ていた。ふと思えば、ジェイドが落ち込んだ時だって、自分は何もできなかった。彼女が勝手に立ち直っていたように見えた。もしくは、ズーシュエンに何か言われたのだろうか?


「結局、ジェイドが落ち込んだ時も、自分は何の役にも立てなかったけど……」

 そう言って、エイナーも俯いた。


「違うよ、エイナー、私は出発する前からずっと怖気づいていたんだよ。ここまで連れて来てくれたのがエイナーなんだよ。十六歳になるまでは、十六歳になったら出発するんだって自分に言い聞かせていた。十六歳になった後は、毎日毎日、明日出発しなきゃって自分に言い聞かせて、次の日になったら何だかんだと言い訳をして、また明日、また来週って、ずっと先延ばしにしていた。でも、出発しなければ、あいつを倒さなければ、何も終わらないし、始まらない。毎日悶々として過ごしていたんだ。あのまま一人だったらどうなっていたか本当に分からない……」


 エイナーは顔を上げてジェイドを見た、彼女の目に涙が溜まっているように見えたが、直ぐに袖でその涙は払われた。


「私がジェイドに差し伸べた手を、ジェイドが掴んでくれたからここまで一緒に来られたってことだね。」


 エイナーはそう言って、サムートに体を向けて話を続けた。


「サムート、私が出来るのは手を差し伸べるところまでだ。後は、君がその手を掴んでくれるかどうかだ。ジェイドはマラトを討つ。サムートはジャーダンを討たないのかい?」

本日もお読みいただき、本当にありがとうございました。

いかがでしたでしょうか?


漠然と、年内くらいにこの話を書き終わらせられたらいいな~と思っているのですが、

ここから先の流れを、改めて整理してみて、びっくり。あれ、まだこんなに盛り込むことがあったんだと。。。今までは、メインキャラが1場面に一緒に居てくれましたが、今後は場面が数か所に分かれたり、それが同時進行で進んだりとか、あれ、こんなややこしいのってどうやって書くのって思いましたが、どうにか頑張りたいと思います!!そんな私に、応援をいただけると嬉しいです。

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