第4話‐② 熟考と無策
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
4話以降は1話を小分けにして2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
ルッカはノーサンストやスノースバンにある都市とは比べ物にならないくらい大きな都市だ。
イズミール地方へもバラル湾を渡り船で一日で渡ることが出来る。人も物も情報も集まってくる。
マラトの情報はすぐに入手出来た。
また、ハリスの部下がイズミール地方でマラトの動きを探っているので、その情報も貰えた。しかし謎の組織の最高幹部ともなれば正確な情報をタイムリーに掴むのは容易ではない。
マラトが最高幹部になったおよそ二年前から「あの組織」の動向が変わって来て、それまではどこか特定の国と繋がりを強く持つことはせずに、どの国から依頼されても報酬次第で仕事を受けていたが、この二年くらいはモラン国のためだけに仕事をしているという話を頻繁に耳にした。
モランはイズミール地方の東に位置し、二年ぐらい前まではイズミールにあるほかの小国と変わらない規模の国だったが、勢力を拡大し今ではイズミール地方で四番目に広い領地を有する国になっていた。
これも「あの組織」の貢献あってのものだと言われている。モラン国の現国王は数年前から体調を崩し表舞台には出てこなくなっていて、代わりに娘婿のジャーダン ナラハルトが摂政をしている。
現国王は横暴なジャーダンを快く思っていないようで、彼への譲位を頑なに拒み続けているが、それもいつまで持ちこたえられるかという話も良く耳にした。
また、国王には幼い息子が一人いるのだが現国王の健康状態が悪くなると同時期に王位継承権を破棄し、母方の実家に身を寄せているとのことだった。
そのため、現国王が逝去した場合はジャーダンが新国王となる可能性が濃厚だと言われている。
姉達からの手紙にもこのことが少し書かれていた。自分たちの国はまだ大きな影響を受けていないが、今後のモラン国の動向によっては戦になる可能性もあり、とても不安だと書いていた。
姉たちのことは心配だったが、仇打ちには良い条件がそろっているように思えた。
無事にマラトへの復讐を成し遂げたとして、組織のトップを殺害したとなれば組織からの報復も想定しておかなければならない、組織から狙われて逃げ続けるなんて幸せな生活とは程遠くなってしまう。
モラン国に領地を奪われた国はこの組織を疎ましく思っているだろうし、若しかすると既にこの組織の壊滅を目論んでいる国があるかもしれない。そこに便乗できれば組織壊滅とマラトへの復讐を同時に行うことは不可能ではない。
たった二人の力では出来ないことも、国単位で動き出せば話は違う。
また、マラトとジャーダンはかなりの癒着状態にあるようで、ジャーダンが国王になれば、マラトが宰相のような役目に起用される可能性もある。
そうなってしまった場合、一国の宰相に手を掛けたとなればただでは済まされないだろう。そうなる前に実行に移すべきだ。
エイナーはそこまで考えて、復讐ありきで考えている自分を窘めた。だがしかし、やはり今がその時に思えてしまった。
ジェイドとの暮らしも二か月が過ぎようとしていた。
彼女から仇打ちの話は全くされず、もしや彼女は結婚生活を選んで、仇打ちのことは諦めたのかもしれないという期待が頭を過ることもあったが、都合のいい期待を抱くと、後で痛い目に合うことになるぞと自分に言い聞かせていた。
ある夜、ベッドに入って、こちらに背を向けているジェイドを後ろから抱きしめた。
すると彼女から、
「月のものが来たから、今日は出来ないんだ。」
と言われ、何となく思っていることを口にした。
「大変だよね、でもその代わり子どもを産むことが出来るってのは凄いし、羨ましくもあるな。」
それを聞いたジェイドが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「エイナーは自分で産んでみたいのか?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないよ、そもそも産めないから考えたことないし。でも、将来は子どもは欲しい。男の子でも女の子でも、どっちもいいな。ジェイドはどう思う?」
するとジェイドはこちらに背を向けてポツリと答えた。
「どっちも欲しくない。」
弟や妹たちと遊んでいた時の彼女はとても楽しそうだった。
それに、以前彼女の胸に顔をうずめていた時に一度だけ、「赤ん坊みたいだ。」と言って、自分の頭を優しくなでてくれたことがあった。その時の彼女の表情が柔和で優しく、この人の子どもに生まれたら、毎日こんな表情で微笑みかけてくれて、頭を撫でてもらえるのかと、まだ存在もしないその子どものことが羨ましくなった。
そんな表情を見せるのだから、自分はてっきりジェイドは子どもが好きだと思っていて、自分が期待するような返答が返ってくると思っていたが、そうではなかった。
「そうだよね、当分は二人の暮らしを楽しみたいしね。」
と取り繕うように答えたが、どうしても彼女が本心から子供を要らないと言っているとは思えず、そう言ったのはとある事情のせいだろうと思い、気になっていたことを聞いてみた。
「なあ、自分から聞いてもいいのか迷っていることがあるんだけど…」
ジェイドは再度こちらに向きを戻して、
「何だ?」
「母上の仇打ち……、やっぱり諦めてないんだよね?」
一瞬目を見開くと、またこちらに背を向けて、
「知ってたんだ、勿論、諦めてないよ。ちゃんと話してなくて、ごめん。」
「止める訳にはいかないのか?」
「どうして止めなきゃいけなんだ?」
「なら、どうしてやらなきゃいけないんだ?」
暫しの沈黙の後、ジェイドは答えた。
「復讐なんて意味ないし、誰も喜ばない。母上だって戻ってこない。そんなこと分かっている。でもそんなことどうでも良いんだよ。自分の気持ちに区切りを付けたい。ただそれだけだよ。」
そして続けた。
「記憶はないけど、五歳の頃からこのことだけを考えて生きてきた、一度やると決めて、いつも自分の心のど真ん中にそれがあって、追い出すことも、そこから逃げることも出来ない。やらなきゃ終わらないんだ。それだけだよ。」
少し考えてエイナーが言った。
「じゃあ、遅くても出発する一カ月前には教えて、こっちもいろいろ準備があるから。」
背を向けたままのジェイドが、怪訝そうに聞いた。
「準備?何の準備?」
「仕事は辞めることになるだろうし、長旅の準備も必要だ、作戦を考えて出来ることはやっておきたい、やることは山ほどある。一カ月だって短いくらいだ。」
驚いたジェイドが起き上がり、こちらに体を向けて言った。
「誰が仕事を辞めるって?」
「俺だよ。」
意味が分からないという表情でジェイドが、
「はあ?何で辞めるの。」
「一緒に行くからに決まってるだろう。」
益々分からないと言う表情で、
「なんでお前が来るんだ?」
「はあ?普通一人で行かせないだろう。それと、人のことを『お前』って呼ぶな。それに、ジェイドはどうやって敵討するのか考えてるのか?」
「はあ?考えるもなにも、奴を見つけて倒すに決まってるだろう。」
それを聞いたエイナーは『やっぱり』と思いつつも呆れ顔で、
「はあ?無策で行く気なのか?」
「はあ?じゃないよ、他に何があるっていうんだ。」
お互い頭に血が上っていて、今日はこれ以上話しても無駄だと思いエイナーは言った。
「もう今日は話しても埒が明かない、後日きちんと話そう。兎に角、遅くても一カ月前には教えてくれ。もう今日は寝る。」
無策だの埒が明かないだのと言われ悔しくなったジェイドが喚くように言い返した。
「はあ~?何だよその言い草は、寝るよ。バーカ」
エイナーは既に布団に包まって目を閉じていたが、バーカと言われ起き上がり言い返そうとしたが、既にジェイドも布団に包まってしまったので、ひとり口の中でゴニョゴニョと文句を言い返し、悶々とした気持ちのまま再び布団に包まった。
今回はいかがでしたでしょうか?
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