第36話 特別待遇
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿
アラン2世:モラン国王
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アムール国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
取引価格は思った以上に良いもので、これならば確かに兵士を雇って、危険な思いをしてでも来る商人が絶えない理由もわかる。
戦闘が続き不安定な状況下で、安定した物資確保をするために、商人に甘い蜜を吸わせてリピーターにするのは、確かにうまい手だ。
それに、資金調達には困っていなそうなので、モラン国はこのまま放っておけば、どんどん大きくなってくだろう。
「ありがとうございます。では、こちらでお願いします。」
そう言って、エイナーは自分とズーシュエンの分の委任状を、バナムの横にいる彼の部下に手渡した。
少し間を置いて、ちょっと聞きづらいことを尋ねるような態度で、エイナーはバナムに尋ねた。
「お伺いしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「なんでしょう?私で答えられることならば。」
「なぜ、私たちだけここに滞在させてくれているでしょうか?他の商人は皆帰っていくようですが。」
「特別待遇だからですよ、エイナーさん。領主お抱えの商人ならば、いくらでも物資を供給してくれるでしょうし、それに……」
エイナーはバナムの言葉を待った。
「貴方は、ノーサンスト領主の御子息ですよね。領主と同じ姓ですし、貴方とは以前お会いしたことがありますよ、ここで。」
そう言われて、やっぱり会ったことがあったのかと、モヤモヤした気持ちになった。そして、自分は彼のことを覚えていない。
「私のことご存じでしたか、失礼ですがどのくらい前にお会いしたのでしょうか?記憶が曖昧で。」
エイナーがそう答えると、バナムは含み笑いをしながら答えた。
「何年前って、貴方がサムート・ハンを訪ねてここにやって来たのは一度だけですよね。その時です。」
「そうだったんですね。その頃は何をされてたんですか?」
バツが悪そうな笑顔で、エイナーが尋ねた。
「当時、私はサムートの側近でした。」
彼が側近であればサムートの側にいたはずなので、面識があるはずなのだが、全く持って思い出せない。サムートの側に居たのは、もっと若々しい感じの青年で、眼鏡など掛けていなかったし、オールバックでもなかった。
そう思いながら、エイナーは頭の中でパナムの顔から眼鏡をはずし、髪を下して長くして、もっと柔和で若々しい表情に変えてみた。あ、思い出した!あのいつも側に居た側近はバナムだ。全く雰囲気が違っていたので、全く気が付かなかった。
エイナーの表情にバナムが気づき。
「思い出されましたか?随分と雰囲気が変わりましたからね。分からなかったのも無理はない。」
口元は笑っている様にも見えたが、反射する眼鏡のせいで目元が笑っているのかどうかは分からなかった。
「これは大変失礼しました。本当に随分と変わりましたね。」
「本当に、いろいろありましたからね。」
バナムはそう言って不敵な笑いをしたが、それ以上は、この話は続けなかった。
「一先ず、注文した品物が届くのを待ちましょう。引き続きよろしくお願いしますよ。」
席を立つ前に、エイナーがバナムに尋ねた。
「サムートに会いたいのですが、会わせてもらうことは出来ますか?」
「会ってどうするんですか?」
「どうもしません、久しぶりに会って話がしたいだけです。」
「今の彼は、普通に話が出来る状態ではありません。精神的に参ってしまっていて、一応、この国の大臣の一人ではありますが、職務を行うことも出来ません。今は私が彼の代理として大臣業務も行っています。会うだけ無駄ですよ。」
そう言って、バナムはこの話もここで打ち切りにした。
エイナーも始めから素直に合わせてもらえるとは思っていなかったので、今回はこのくらいでこの話は止めておくことにした。
そして、もう一つ聞きたかったことがあったので尋ねた。
「それと、折角モラン国に入国出来たので、国内を見て回りたいのですが、問題ないですよね?」
少し呆れたような顔でバナムが答えた。
「それは止めたほうが良いでしょう。スパイだと思われて捕まりますよ。この城の周りを見るくらいならば問題ありませんが、危険だし何もありませんよ。」
確かにそれはそうだよなと思い、エイナーはお礼を言って席を離れた。
と同時に、バナムがエイナーに向かって、謎の一言を言った。
「エイナーさん、明後日の夜は新月ですね。」
それを聞いたエイナーは、彼の言葉の意図が掴めず、腑抜けた返事をした。
「そうなのですか。知りませんでした。」
エイナーは、自分の正体がばれていることに開き直り、サムートの部屋のある建物の前に一人佇んで、窓を見上げていた。
他の三人は城の西側を散策に行くことにした。
「あのバナムって男は、どっちなんだ?」
ジェイドが二人に自分の消化しきれない質問をぶつけた。
「この城の中に、味方なんかいないと思った方がいいぞ。」
マチアスが答えた。
「時と場合によって、どちらにでもなるのかもしれない。」
ズーシュエンが答えた。
「どちらにでも?敵になることもあれば、味方になることもあるってことか?」
「九十九%以上敵だけど、運が良ければ、ほんの一瞬だけ味方になるタイミングがやってくる可能性がなくもないって感じかな。期待しない方がいいけど。」
「じゃあ、敵だな。そんな、気まぐれを期待するほど暇じゃない。」
ジェイドが偉そうに答えた。
「おまえ、基本的に暇だろう。」
マチアスが言った。
「暇じゃないよ。逆に何で暇だと思うんだよ。」
「生きることに必死な奴は、復讐なんてしてる暇ないだろう。生活も保障されて、生きるために仕事をする必要もなく、他に打ち込むものもない、暇だから復讐なんてことを真剣に考えてしまうんだろう。」
一瞬ジェイドはマチアスを睨みつけたが、直ぐに何食わぬ表情に戻り言い放った。
「この環境を有難いと思ってるよ。他のことは考えずに復讐することだけを考えていられる。最高の環境だよ。」
その言葉を聞いたマチアスが溜息をついた。
「お前変わったな。肝が据わったというか……まあ、いいよ。そこまで腹をくくってるんだったら、もう復讐でも何でもやれ。お前のオヤジに、最後の最後まで復讐を止めるように説得してくれと頼まれていたが、もう無理、俺は匙を投げる。」
そう言って、ズーシュエンを見た。
マチアスの視線を感じたズーシュエンは、少しどんよりした表情で言った。
「私は、少し前に匙を投げたよ。」
それを聞いたジェイドは、軽くほくそ笑んでいた。
本日もお読みいただきありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
感想、コメントなどなど、なんでも、聞かせていただけると嬉しいです。
壁に穴をあけるのが嫌で、壁に絵を飾ったりしてこなかったのですが。もういいんじゃないかなと思い、絵を飾ろうと思ったのですが、いざ飾ろうとすると、何を飾っていいのかが分からない。。。これから、おいおい飾る絵なんかを探してみようかと思いました。勿論、数千円単位のやつです。




