第4話‐① 熟考と無策
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
4話以降は1話を小分けにして2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
ルッカに帰ってみて驚いたことは、縁談を断り続けていたことで囁かれていた自分への悪い噂が、美談に書き換えられていたことだった。
なんでも、自分には幼い頃からお互いに結婚を誓った許婚がおり、その許婚との結婚のために全ての縁談を断り続け、その娘が十七歳になるのを待って結婚した。
本来であれば十六歳から結婚は出来るのだが、その娘は両親と大層仲が良く早くに引き離すのは可哀そうだと、十七歳になるのを待って結婚したということになっているらしい。
本当に十七歳になるのを待って結婚となれば、その娘の誕生日に合わせて盛大な式を挙げるだろうと思うのだが、その辺りは誰も気に留めていないようで、今回の急場しのぎの結婚式も、一日でも早く二人で暮らし始めたいという、その娘のたっての希望を叶えるべくエイナーが反対する両家の両親を説得したとかなんとか。
なんと健気な若い二人の純愛物語だろう。
誰がこんな作り話を触れ回いるのかは何となく想像が付くが、自分には都合のいい話になっているので敢えて訂正をする必要もないだろう。
ただ、誰かに何か聞かれたときに、「正に、その通りです。」とは言えないので、その時は「ええ、まあ」とでも答えるしかなさそうだ。
そういえば、ジェイドはいつ十七歳になったのだろうか?自分が彼女の誕生日を知らないことを思い出し,併せて準備していたブレスレットを渡し忘れていたことを思い出した。
新人の剣術訓練のため早朝からジェイドを連れて城外の河原に行くと、噂になっている娘を一目見ようと、全く関係のない面々が数十人集まっていた。
しかし、想像していた人物像とは大きくかけ離れたれた人物が現れてしまったのだろう、ほとんど全員がきょとんとしている。
しかし、そんなことはお構いなしに五人の新人に対する彼女の指導が始まった。まずは、各自の能力を確認し、各々の長所と伸びしろを適切に伝えている。また自分の剣術が東方をベースにしていて、皆が習ってきた西方のものとは異なるため、興味があれば聞いてくれれば西方、東方の違いはある程度説明できるし、西方のやり方を続けてもらって構わないというような説明をしていた。
一時間程度の訓練だったが自分の期待以上に濃い内容だった。数十人の観客もほとんどが最後まで残って見物し、感嘆の声を上げていた。
今後もこのまま彼女に任せて問題ないと判断したので、希望者だけを対象に就業時間前の一時間程度、週数回続けてもらうことにした。
その後は、城の敷地内にある記録保管庫に彼女を連れて行き、今後は妻が自分の代理で調べものに来ることがあると思うので、その際は彼女が閲覧を希望する記録を見せてやるようにと、記録保管担当者に彼女を紹介した。
これで、新天地での彼女にとってのちょっとした鍛錬の場と情報収集方法が得られたはずので、訳の分からない場所に鍛錬の場を求めたり、情報集めに行ったりするとは控えてくれるのではないかと期待しているのだが、午後が自由時間になっているので出来ることならば家に帰って大人しくして欲しいが、そんなところまで監視も束縛もすることは出来ない。
取り敢えず、出かけるときは必ず家の者に行先と帰る時間を伝えるように約束させた。
目を覚ますと彼女はほぼ毎朝、既にベッドから居なくなっていて、散歩と称して森に行っている。
一度、森への散歩についていったとき、例の「彼ら」に合わせてもらった。オスとメスの二匹の狼犬で、どちらも少し小柄で愛嬌のある顔立ちだった。
本当にこれが護衛になるのか心配になったし、結局大きくなるところは見せてもらえなかった。
ジェイド曰く、
「今日は気分じゃなかったみたいだ。」
二匹はひたすらしっぽを振りながら自分の周りを駆け回って、撫でると嬉しそうに腹を出して寝転がり、ベトベトになるほど顔を舐め回してきた。
「いや、驚いたよ。ミレンナと私以外にこんなに懐くなんて。ちゃんと懐くべき人を理解しているようだ。」
褒められてないよな?と思ったが、犬たちには好かれるのは嬉しい。
「次来るときは、肉でも持ってくるよ。」
と言うと。
「この子たちは人から食べ物を貰わない。持ってきても食べない。」
とサクッと言われ、こんなに懐いてくれているのにとちょっと寂しくなった。
ジェイドがやってきて、一番面食らったのはマーサだっただろう。
彼女の言動、一挙手一投足が想定の範囲外のようで、喋り方、立ち居振る舞い、服装、生活習慣、そしてなによりほとんど家に居らず、朝は夫が起きる前から出かけ、帰ってきたかと思えば朝食をたらふく食べては出かけて行き、時には夜まで帰ってこないこともある。
行先は告げてくれるが、彼女がこの辺に土地勘がないため何となくあの辺と言う説明だったり、治安の悪そうな地域だったり、もしかすると今日中に帰れないかもなどと訳の分からない事を言いだしたりと、彼女と話をすると頭が割れそうだと小言を言われた。
そのため、遅くならずに今日中に帰ってこられる分にはそのまま行かせてしまって良いし、生活態度は何を言っても変わらないから大目に見て欲しいとだけ伝えた。
それでもマーサのジェイドへのイライラは収まることなく、
「駄目です、好き勝手を許して甘やかしては、私が指導いたします。」
と無謀にもジェイドとの全面対決を表明した。
翌週から、ジェイドは午後はドレスに着替えさせられ、マナー、社交術、化粧等の指導を受けさせられることになった。
無論、彼女が大人しく指導を受ける訳もなく、逃げ出したりさぼったりするので、その罰として部屋で謹慎させられる羽目になり、今度はジェイドから苦情が来たので、週五回だった結婚後の花嫁修業を週三回に減らすことでどうにか折り合いをつけてもらった。
その後は大人しく週三回の指導を受けているかのようだったが、講師と押し問答を繰り広げ、匙を投げた講師が辞めてしまい、さすがのマーサもお手上げ状態になってしまった。
昔、マーサは姉たちの教育担当もしていてその時も相当苦労したと言っていたが、今回のジェイドは其の比ではないと毎日ぼやいていた。
ただ、マーサも、謹慎だと言われれば文句を言いながらも一応は部屋で大人しくしていたり、パーティーに着ていく服装について気さくに相談してきたり、暇なときは隣で世間話に付き合ってくれたりするジェイドのことを、根は素直なお嬢さまだと少しずつ気に入ってきているようで、街で東方のお菓子を見つけたと言っては買ってきたり、彼女が美味しいと言ったものは頻繁に作らせたりと、なんだかんだと世話を焼いていた。
また、ジェイドに新人士官の剣術指導をさせていることがマーサに知られてしまい、エイナーはマーサにこっ酷く怒られた。
独身の時は気軽に断っていたパーティーへの出席も、結婚後は簡単に断れなくなってしまい、どうしても出席必須のパーティーでは、パートナー同伴になるためジェイドも同席することになる。
そういう時ジェイドは自分の後ろに隠れるように付いて来て、気配すら消したかのように大人しくしていた。
マーサ好みに清楚で上品に仕上がった伏し目がちな彼女を見て「可憐で奥ゆかしい白いすずらん」だの「清楚で慎み深い東方の真珠」だのと言っている人もいるようだったが、すずらんには毒があり、伏し目がちなのは単に人と目を合わせないためか、眠いかのどちらかだろう。
ある夜パーティーから帰ってきて寛いでいると、ジェイドが自慢げに
「今日は新記録更新だよ、三語だけであの場を凌げた。」
と言ってきた。
どうやら、どれだけ少ない語彙であの場を凌ぎきるかというゲームをしていたらしい。
趣味が悪い遊びだと思ったので、それはやめるようにやんわり伝えたところ、その次からは参加者全員の名前を把握すると言うゲームを始めた。
名前が分からない人物がいると、その人の前で躓いたふりをしたり、物を落としたりしてその人と話をするきっかけを作り名前を聞き出す。これもこれで趣味が悪いと思ったが、自分も知らない人の名前を把握できるので、このゲームはひとまず大事にならない限りは放っておこうと思った。
今回はいかがでしたでしょうか?
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