第24話 二番目の手紙
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿
アラン2世:モラン国王
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
師匠:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
餅:ジェイドが飼っていた猫
ジェイドはフォンミンから「2」と書かれた手紙を渡された。
タユナからの手紙だと聞いて何となく一人で読むことを躊躇していた。
「毎日来るんだな。」
とフォンミンが三人に向かって言った。
三人とは、ジェイド、アリマ、エイナーである。
「今日はズーシュエンの手料理を食べに来た。」
とジェイドが答えた。
「ここ居心地が良くって。」
と、エイナーが笑顔で答えた。
「うん、ここ居心地がいい。」
と、アリマも言った。
「お前は、今日は寮に帰れよ。」
とフォンミンはアリマに釘を刺した。
アリマは「うん」とも「いやだ」とも言わずに黙っていた。
ズーシュエンの手料理は、赤くて辛そうなものばかりだった。
「昨日のフォンミンの料理の後だと、何を出しても見劣りしてしまうよ。今日はジェイドが好きだった辛い料理にしてみたんだ。皆、酒飲みだから口に合うと良いんだけど。」
出て来る料理を見て、嗅いで、ジェイドの目が輝いた。流石はお母さん。とエイナーは心の中で呟いた。
昨日のフォンミンの料理も美味しかったが、今日の料理は全く指向が異なっていて美味しかったし、酒もすすんだ。
「男でも料理って出来た方がいいんですかね?」
と、全く料理をしたことがないエイナーが二人に聞いた。
「出来る方がもてるぞ。」
とフォンミンが安直な返事をした。
「ジェイドだけにさせておくと、毎日辛くて味の濃いものを食べさせられるぞ。」
とズーシュエンは現実的な返事をした。
「ジェイドって料理するんですか?やたら野菜の皮むきは早いけど、料理しているのを見たことないな。」
「十二歳までしか知らないが、その頃は普通に作っていたよ。東方料理だけだったけど。」
ズーシュエンが答えた。
「あいつ、自分のことを生粋のお嬢だから料理しないって言ってたぞ。」
と、フォンミンが言った。
「彼女は領主の娘で生粋のお嬢様だが、五歳から十二歳までは虚明堂にいたんだよ。フォンミンが追い出された後にやって来たから、知らなくて当然だけど。」
と、ズーシュエンが答えた。
「道理で、他に類を見ないユニークなキャラクターだと思ってたんだよ。」
と、フォンミンが少しエイナーに遠慮しつつ、納得した顔で言った。
皆の意識がまだしっかりしているうちにと思い、ジェイドがタユナからの手紙を取り出した。
「これ、タユナからの手紙でフォンミンからもらったんだ、ここで読んでいいか?部屋で一人で読むのなんか気が重くて。」
誰も反対する者がいなかったので、ジェイドは部屋の端に座り、鶏肉にかかっていた赤いたれを口元に付けたまま手紙を読みだした。
手紙の内容は次のようなことだった。
初めに、この手紙を読んでいる人を巻き込んでしまった事への謝罪が書かれていた。
どんな形で自分を止めようとするのか想像はついていないが、きっと何か仕掛けてくるはずだと思ってる。
その人からすれば、自ら止めれば済む話なのにと思っているだろうが、自分はそう言う選択肢を持ち合わせていない。それは彼の報復が怖いからではなく、生まれた時からそう育てられ、他の選択肢など考える余地がないためだ。
自分は創設者の孫として生まれ、創設者の娘である母に、組織のために生き創設者に認められることを価値として生きることを叩き込まれた。それを見かねた父が自分が十四歳の時に、母の元から自分を引き離したが、女だと言うだけでやりがいを感じられる仕事に就けず、自分よりも実力がない者たちの小間使いをさせられ、時には吐き気がするほどの嫌な思いもさせられた。そのため、育った環境外の世界に嫌気がさし、十六歳の時に母の元に戻った。
その後も、何の疑いもなく組織から与えられた使命を全うした。どんな任務であっても罪の意識を感じることは無かった。自分は、より困難な任務を任されることに喜びを感じ、それを全うすることで自分が満たされていくのを知っていた。そのためだったら何でも出来た。
彼に祖父や母が殺されたときも、自分の環境の変化の方が怖かった。だから、彼に付いて行き、その後も任務をこなすことだけを考えた。余計なことを考える必要がないよう、任務の中で死ねたら自分の人生は安泰だと思っていた。
しかし、この国の軍に潜入し軍の仕事をしていくうちに、自分がほんとに求めていた生活はこれなのではないかと言うことが頭を過るようになった。否定し続けたが、時々本当の自分を忘れて幸せを感じている自分に恐怖を感じた。しかし、物心がついてからこんなに幸せを感じたことが無かったので、その中で消えていきたいとも思っていた。
彼の居場所を知っている人間はほとんどいない。勿論、自分も詳しくは知らないが、何度か彼の腹心の部下を付けたことがあった。彼らは異様なほど気配を消すことができるため、それで気づくことが出来た。また、左手の甲に菱形の黒い刺青をしていて、それを隠すためだと思うが、左手に指なし手袋をしている。
毎回、モラン国を超えて西夏の国境近くまでは尾行が出来たが、いつもそこで見失っていた。もしかするとその辺りに彼がいるのかもしれない。
確証のない話で申し訳ないが、何かの助けになればうれしい。
今思えば、祖父や母を殺されたことを恨んでいたのかもしれない。だから、部下たちを尾行して、彼の居場所を突き止めようとしたのかもしれない。
自分の祖父や母も普通じゃなかったと思うが、あの男は、その上、卑怯で臆病だ。
勇敢で賢い貴方の力を、願わくは自分が幸せになるためだけに使って欲しい。
でも、どうしてもと言うならば、ご武運を祈っています。
それを読み終えたジェイドは涙をぐっとこらえて、手紙を胸元の薬袋に仕舞った。
「何が書いてあったんだ?」
と、フォンミンに聞かれ、
「ご武運を祈ってますって書いてあった。」
と、ジェイドが言った。
「母親の復讐ってやつか?」
「そうだ、マラトを討つ、母のムーラン、お前たちがヤン・リーインと呼ぶ人の仇を討つと決めてるんだ。あいつは、モラン国を超えた西夏の国境の方にいるかもしれない。」
そう言って、手紙に書かれていたタユナがマラトの腹心の部下である『ウズラ』たちを尾行したときの話を四人にした。
「エイナー、姉上たちのことはまだ心配だけど、私はそろそろここを離れることを考えなければならない。師匠と合流でき次第出発しようと思う。エイナーも来てくれるか?」
と、ジェイドがエイナーを見上げながら言った。
「もちろん、一緒に行くよ。姉上たちのことはフォンミンとアリマに任せるよ。」
と、エイナーが答えた。
「ズーシュエンは……一緒に来てくれたりするのか?」
とジェイドが尋ねた。
「う~ん、どうしようかな。」
とズーシュエンが言うと、ジェイドが少し不安そうな顔をした。
「冗談だよ、もちろん始めからそのつもりだよ。ここのことは、フォンミンに任せておけば問題ないはずだ、今度こそは人生初の本気を見せてくれるだろう。アリマと言うお目付け役もいるから安心だ。」
と、ズーシュエンが言った。
「人生初とは何だ、今まで本気を出したことがないみたいない言い方するな。でもまあ、ここのことは心配せずに先に進んでくれ。妃たちもこの国も守るよ。」
と、フォンミンが上を向いて言った。涙をこらえている様にも見えた。
「大丈夫、私が逐一見てるから、今度、手を抜こうとしたらひっぱたいてやる。」
と、出来上がり始めたアリマが言いながら、フォンミンの背中を叩いた。
「手は抜いてなかったぞ、適材適所ってやつだったんだよ。」
と、フォンミンが言い訳している隣で、ジェイドが、
「今日は飲んでしまえ。」
と言って、近くにあった誰かの酒を一気に飲み干した。そして、座ったまま眠ってしまった。
「ジェイド、どうしたの?」
とアリマがジェイドを揺さぶったが、全く起きない。
「ジェイドはお酒が全くダメみたいで、ちょっと飲んだだけでも寝てしまうらしいんだよ。話には聞いてたけど本当だったんだな。」
と、エイナーが驚きながら言った。
そして、ジェイドの鼻をつまんでみたが、やっぱり起きなかった。そして、彼女の隣に座り自分の肩に寄りかからせた。
「ズーシュエンはこんなに酒に強いのに?ヤン・リーインとかいう人が弱かったのか?」
とアリマが呟いた。
「ヤン・リーインは多分強かったぞ。堂で作っていた酒を盗み飲みする常連メンバーの一人で、結構飲んでいた。」
と、フォンミンが言った。
「フォンミンはジェイドの母親を知ってるの?」
と、アリマが驚きながら尋ねた。
「ああ、俺もリーインも西山にある虚明堂って所で育ったからな、ズーシュエンの母ちゃんが堂長やってて、それが本当に怖いババアで、若いころは綺麗だったけど、何ていうの、一人だけ真っ赤なピチピチの袖なしの道服着ててさ、それも太ももの付け根まで切れ込みが入ってるやつ。その格好で毎日毎日、蹴るは、殴るは、木刀で叩きのめすは、スパルタ稽古されて本当に地獄の毎日だったよ。俺は顔が良かったから目を付けられて、他の奴らよりも厳しくされてたなあ。」
そう言って、フォンミンは遠い目をした。
「父の言葉を借りると、母は露出狂の狂暴女だかなら。」
と、ズーシュエンが隣でポツリと呟いた。
その言葉を聞いた、アリマもエイナーも唖然とした。
エイナーは、ズーシュエンの母親が露出狂の狂暴女だなんて、とても信じられないと思った。また父親の言葉を借りてということは、どういうことだ?と理解不能に陥っていた。
「何でまた、お父様は、お母様と結婚したんですか?露出狂の狂暴女なんて思っていた人と……」
と、尋ねてみた。
「脅されたんでしょう。父は端正な顔立ちでね、母が一目惚れだったらしい。かなりしつこく付きまとって、最後は父が根負けしたらしいよ。」
いろいろな夫婦がいるものだなと、エイナーは感心した。
今回はいかがでしたでしょうか?
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