第23話 揺れる思いと揺れる黄金色の麦畑
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿
アラン2世:モラン国王
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
師匠:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
餅:ジェイドが飼っていた猫
フォンミンの作るお夕食は、それはそれは凄い物だった。
「何のパーティーだ?他に誰か来るのか?」
と、驚きの余りジェイドが尋ねた。
「他には誰も来ないぞ。このくらい食べなきゃやってらんないだろう。」
と、フォンミンが柄にもなく男らしいような、そうでもないようなことを言った。
「今頃、傷心か?」
と、ジェイドが聞いた。
「そうだ、何か文句あるか。」
と、フォンミンが言ったので、ジェイドは彼の頭を撫でてやった。
「さあ、今日はとことん飲むぞ!」
と、アリマが言った。
ジェイドは冷静にアリマに釘を刺した。
「駄目だよ、明日は朝早いんだぞ。」
「ごめんねジェイド、私はフォンミンを取るよ。明日はエイナーと行ってくれ。」
そう言って、アリマが酒を飲み始めた。
ジェイドは顔を歪めて反対の意を示したが、その甲斐もなくアリマは酒を飲み続けた。仕方なくアリマのことは諦めて、目の前にある塩水漬けのアヒル肉を一口食べた。
「…うまい。」
思わずそう言った。
「明日はどこかにいくのかい?」
と、エイナーがジェイドに尋ねた。
ジェイドは今日の幽霊騒ぎの話をエイナーとズーシュエンにした。
「早朝の黄金色に輝く麦畑か。付き合うよ。」
と、エイナーが言った。
「私は、おじゃま虫にならないよう、こっちの二人に付き合うことにするよ。」
と、ズーシュエンが言った。
「ズーシュエン、実はさぁ…」
そう言って、ジェイドは声を潜めて話をした。
「そっちに行った方がおじゃま虫になるかもしれないんだよ。アリマがフォンミンのことを好きになったらしくて……」
「…そういうことなら、こっちに参加しようかな。」
と、ズーシュエンは苦笑いをしながら言った。
エイナーとジェイドは早めに切り上げて城に帰った。二人が帰るときも三人は飲み続けていた。
エイナーは今日もジェイドと同じ部屋で眠れると思っていたのだが、何故か城に着くと、
「じゃあ、明日の早朝、馬小屋で。お休み。」
と言って、ジェイドは自分の部屋に当然のように帰って行った。
去っていく彼女の背中を眺めて、また一人で眠るのかと寂しくなった。
翌朝といっても、まだ真っ暗な夜中と朝の間くらいに、エイナーが馬小屋に行くと、丁度ズーシュエンが着いたところだった。ジェイドも直ぐにやって来た。
「アリマも試しに起こしてみたけど、起きなかったから諦めたよ。」
とズーシュエンが言った。
「そもそも、後宮管理の畑のことなのに、ここに誰も後宮の兵士がいないってのは変な話だよな。」
と、ジェイドが言った。
「ジェイドは後宮付き兵士の制服を着ていないし、昨日と違うメンバーで行ったら、先方が怪しむかもしれないね。なんて説明するんだ?」
とエイナーがジェイドに聞いた。
「…うん…アリマは急病ってことにして。二人のことは、女の子一人で夜道は危ないからと護衛を付けてもらったってことにするよ。」
普通は危なくて一人じゃなくてもこの時間には出歩かせなぁと、今更ながらエイナーは思った。
三人は夜道を馬に乗って麦畑に向かった。夜空には天の川がずっとずっと遠くまで流れていた。
「そう言えば、ジェイドの犬たちはついてこないのか?」
とエイナーが尋ねた。
「ペペとムーは師匠が連れてくるよ、元々師匠の犬だったからね。そろそろ合流できると思うんだけどな。」
「ペペとムー?犬の名前か?」
そうエイナーが尋ねると、ジェイドが答えた。
「ああ、師匠が付けた名前だから意味は知らない。何か思う所でもあった?でもさあ、ウサギのミミも中々だと思ったけどね。」
「それは、俺のネーミングセンスに難癖を付けてるのか?」
そう言って、エイナーはジェイドをジトっとした目で見た。
ジェイドはエイナーの方を見ずにズーシュエンに問いかけた。
「そういうことじゃないけど。ズーシュエンはどの名前が一番センスあると思う?犬のペペとムー、ウサギのミミ、猫の餅。」
「答えづらい質問しないで欲しいな。どれも可愛いよ。」
と無難に答えた。
「ズーシュエンってどういう意味なの?」
とジェイドが尋ねた。
「瞳の色から紫、父親の名前から轩でそう名付けられたと聞いている。ジェイドの由来は?」
「大切な宝物ってことで宝石の名前を付けたらしいよ。エイナーは?」
「何代か前の先祖の名前から取ったらしい、母親が響きが気に入ったとかでそうなったって聞いてる。」
そんな話をしながら進んでいると、昨日訪れた商人の別荘の前に到着した。
祖母には、アリマは急病、エイナーとズーシュエンは護衛であると説明することで理解を得ることが出来た。
ソフィアは既に黒ずくめの服で待ち構えていた。
ソフィアと祖母は馬車に乗り、三人は馬で護衛のように同行し麦畑に向かった。
ソフィアが馬車の窓からジェイドに向かって言った。
「見て、お花の冠、お姫様になったみたい。」
そう言って、持参した花冠をかぶり窓から身を乗り出したが、危ないと言われて、直ぐに祖母に馬車の中に引き戻された。
「輝きの花冠をかぶるお姫様だな。」
と、ジェイドがソフィアに言った。
ソフィアは嬉しそうに笑った。
馬車が麦畑に着く頃、東の空が白み始めた。
ソフィアと祖母は馬車から降りて、麦畑に前に立ち朝日が上がるのを待った。
折角、用意した花冠も結局は黒い帽子の下に隠れてしまい、首にスカーフを巻きつけられたソフィアは昨日のちびっこマダムギャングになっていた。
日が昇るとともに金色に輝く麦の畑が現れた。
祖母の手を離れて、一人ソフィアは麦畑の中に進んでいった。
風で帽子とスカーフが飛ばされた。祖母が声を掛けたがソフィアの耳には届いていないようだった、祖母も諦めて彼女を見守った。
彼女は朝日を浴びて黄金色に輝く麦畑に佇んだ。朝日に照らされてキラキラと輝く銀色の髪が風になびいていた、黄金色の波間に佇む輝きの花冠をかぶる乙女は息をのむほど美しかった。
暫くすると彼女は振り返り、嬉しそうに祖母の元に帰って来た。
祖母は直ぐに彼女を馬車に乗せた。彼女も素直に馬車に乗った。
ソフィアは馬車の窓から顔を出し、
「ありがとう。もう一人のお姉ちゃんにもお礼を言っておいてね。これ上げる。」
そう言って、ソフィアは青いガラス玉を二つくれた。よく見ると目玉の様な柄になっている。
「きれいだな。ありがとう。」
ジェイドはお礼をいって、そのガラス玉を朝日に透かして覗き込んだ。
祖母が三人にお礼を言って、馬車に乗り込み二人は帰って行った。
「これで、幽霊騒ぎも一件落着だな。」
そう言って、ジェイドは馬に乗りエイナーとズーシュエンと帰路についた。
「そう言えば、今頃アリマとフォンミンは二人きりなんだな。」
突然、ジェイドが言った。そして続けて言った。
「男と女が二人きりで、一つ屋根の下ですることと言えば?さて何?」
「はあ?なぞなぞか?」
と、言いながらエイナーは考えて答えた。
「トランプ」
ジェイドはくすりとも笑わなかった。
ズーシュエンの回答
「ちょっとした自慢話」
ジェイドは思わず噴き出した。
次のエイナーの回答
「え、そう言うこと?じゃあ、俺たち友達だから飲んでもそう言う関係にならない自信あるっていう、謎の予防線の張り合い」
ジェイドは笑いをこらえて変な顔になった。
次のズーシュエンの回答
「何の脈絡もない急な肩もみ」
ジェイドはちょっと納得したような顔をした。
「人にばかり答えさせてないで、自分も答えなよ。」
とエイナーがジェイドに言った。
「そんなこと、私の口からは言えないよ。エイナーのエッチ」
それを聞いたエイナーは呆れて何も言えなくなっていた。
そんな彼をよそ目にジェイドは遠い目をしながら呟いた。
「肩もみくらいはしてるのかな?」
ズーシュエンとエイナーは、遠い目をして立ち止まっているジェイドを置き去りにして先に進んでいった。
その頃、アリマとフォンミンはまだ眠っていた。
二人は飲んでそのまま居間で寝てしまい、ズーシュエンは二人に毛布を掛けてそのままそこで寝かせておいた。
フォンミンが眠ったまま
「…タユナ…」
と言いながらアリマに抱きつこうとした。
それで目を覚ましたアリマがフォンミンの顔面をグーで殴り、彼の分の毛布をむしり取ってもう一度眠りについた。
そして、二人とも仕事に遅れた。
翌日、ソフィアの祖母から後宮勤務の兵士宛に、昨日のお礼だと言って、珍しい果物とお菓子がたくさん届いた。そこにはソフィアからの手紙も入っていて、三人笑顔のソフィア、アリマ、ジェイドと思われる絵が描かれていた。
そのお菓子を一つつまみながらジェイドが言った。
「アリマはいなかったんだけどな。本当にきれいだったぞ、アリマも来ればよかったのに。」
「女には仕事か男どちらかを選ばなきゃならないときがあるんだよ。私は迷わず男を選びたい。」
と、アリマが言った
「そこは、欲張ってどっちも選ばなきゃ。」
と、ジェイドが言った。
「って、ジェイド仕事してないじゃん。」
と、アリマが笑いながら言った。
「だな。」
と、ジェイドが答えた。
二人で笑った。
今回はいかがでしたでしょうか?
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