第3話 真相と役割
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
4話以降は1つの話を小分けにして2~3日に1回くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
そもそもの始まりは、ハリスがヤン・リーイン(楊日瑩)と言う女性と出会ったことだった。
出会ったと言うのはやや語弊があって、リーインは東方の国「西夏」の商人の娘を装い、ハリスの兄を殺害するためにハリスに近づきドゥゴエル家の屋敷に潜り込んだのだった。リーインはイズミール地方を主な拠点として活動するとある組織のメンバーで、その組織はどこか特有の国に与することなく、誰からでもどの国からでも依頼されれば報酬次第で仕事を受け暗殺やスパイのようなことをしていた。
ハリスの兄の死は毒物による持病の悪化で事故として処理されたが、実は全てリーインが仕組んだものだった。
兄の死の前後、リーインの様子がおかしかったことに気づいていたハリスは兄の死とリーインに何らかの関係があると感づいていたが、既にリーインに心底心を奪われていたハリスはそれでもリーインとこのまま一緒に暮らしたいと願い、リーインを説得し一緒に暮らしていけるようにとある計画を実行した。
それは、組織からの足抜けのためにリーインの死を偽装し、新たにムーラン(木欄)と言う名前の女性として一緒に暮らすというものだった。難しいと思えた計画だったがリーインが変装して屋敷に潜り込んでいたため、カツラも化粧も取ると別人のような顔立ちになり、屋敷の使用人ですらリーインとムーランが同じ人物だとは気が付かなかった。
リーインはハリスの兄の死後、ホームシックも相まって極度の情緒不安定となってしまい自分の部屋に籠っているため、同郷から連れてきたムーランが彼女の世話をしているということにしていた。そのため、誰もその部屋には近づかず、時々錯乱したリーインが徘徊するのを目にする以外は、誰もリーインを間近に見ることはなかった。
リーインに体系が似た女性の身元不明の死体を手に入れることが出来たため、それを使ってリーインの死を偽装した。
リーインは孤児で両親の記憶はなく、物心のついた頃から東方の国「西山」にある虚明堂という所で育った。虚明堂は誰でも希望するものには広く門戸を開き、武術の修行やその他生活に必要な教育を受けることが出来る場所であった。
数百年前に南風(東方の一番南の国)の方からやってきた女性が山間の虚明湖の畔に住み着き、自衛を目的とした武術や南風医学を人々に教えたのが始まりとされている。
そこで武術を学んだリーインは十六歳で下山し自分の力を試すべく、軍隊に入ろうとしたのだがどこへ行っても身分の低い女性は門前払いとなってしまい、豪族の私兵や間者のような事をしていた。
しかし、女というだけで重要な仕事を任されることがなく、実力はあるのに不当な扱いを受ける現実への不満を募らせていた。その矢先、とある組織から声がかかり仕事をこなしていくうちに組織内での彼女の評価は上がり、やっと自分の実力を認めてくれる居場所を見つけたと考えていた。
はじめのうちは人々を悪者から守るための組織だと信じ、誇りをもって仕事を全うしていたが、組織内での自分の地位が上がるにつれ、本当は報酬次第で要人の暗殺やスパイのような仕事を請け負うただの無節操な組織であることが徐々にわかってきて、どうにかこの組織を抜け出さねばと考えていた。
この組織は固有の呼び名を持たず人々からは「あの組織」「その組織」「名前のない組織」のような形で呼ばれていた。
リーインの死を偽装した後、その組織は執拗には彼女の死に関して詮索するようなことはしなかったため、リーインはハリスの妻ムーランとして穏やかな生活を送ることが出来た。
二人の結婚後間もなくジェイドが生まれハリスはこのまま幸せな生活が続くと思っていた。
ただ一人リーインに執拗なまでに執着していた男がいた。彼の名前はマラト・ベルカント、大柄な男で流氷のような青い瞳に丸刈りの頭、左の口元に大きめの傷があった。組織内でのリーイン上司のような存在だった。
ジェイドが五歳になったある日、ムーランはどこかでマラトに会ってしまったのだろう、彼から身を隠すためにジェイドを連れてハリスには何も告げずに姿を消した。
自分の子どもに危害が及ぶことを恐れた彼女はジェイドを虚明堂に預け一人で逃亡を続けたが、マラトに見つかり殺害されてしまった。
ハリスはムーランとジェイドの捜索のため百人近い部下を各地に送った、特に西山方面に多くの部下を送り、ジェイドが虚明堂で匿われていることを突き止めた。
また、虚明堂から馬で二日ほど行った町でムーランの死体が身元不明人として上がっていることも知った。
ハリスは直ぐにでもジェイドを取り戻したかったが、マラトがジェイドも狙っていることを知り、一先ず事態が落ち着くまで彼女を虚明堂に留めて置くことにし、自分の部下数名を虚明堂やその麓の村に住まわせて彼女の監視をさせていた。
ジェイドは虚明堂で過ごした約七年間の記憶がほとんどなかった。
しかし、マラトが虚明堂にやってきて、中に入れろと騒ぎ立てたが入れてもらえず、門のところで自分がリーインを殺したことや、どんなふうに殺したかを大声で笑いながら怒鳴り散らしている姿を何故か覚えていて、母親が亡くなったこと、そしてその母親を殺した仇がマラトであることを覚えていた。
マラトはこの堂館に娘のジェイドが匿われていると睨んでやってきが、その時、ジェイドはマラトに見つからないように他の子どもたちと一緒に納屋に隠されていて、納屋の窓の格子越しに彼を見ていた。
その後のジェイドはただひたすら、母の仇打つためだけに武術の修行に打ち込んだ。
ハリスはここまで一気に話し、
「ここまでが、ジェイドが母親の仇に復讐しようと思うようになった経緯だ。」
と言って深いため息をついた。
話を聞いていてエイナーはなんとも不快な気分になった。
もとはと言えばそのリーインと言う母親が悪いのではないか、自分の力試しのためにと訳の分からない組織に入り、ハリスの兄まで殺害して挙句の果てには夫や娘にも迷惑をかけることになった。
ハリスもハリスだ、そんな怪しい、しかも自分の兄を殺した張本人に惚れ込んで偽装工作までして妻にした。
結局可哀そうなのはジェイドではないか、五歳でそんな辛い経験をして、家にも帰れず、マラトに命を狙われながら、知らない場所で知らない人たちの中で過ごす羽目になった。
「経緯は分かりました。」
しかし、そんな根深い恨みを抱いているジェイドを自分にどうしろと言うのだろう、両親が止めても諦めないのならば、もう自分では止めようがないのではないか?
「マラト・ベルカントと言う男は今何をしてるんですか?」
彼が実はもう存命していないとなれば話が早いのにと思ったが、そんなことはなく、
「彼は今でもその組織にいて、今はトップになっている。相当に強く冷酷で執念深いな男だ。」
「ジェイドは大丈夫なんですか?彼に狙われてたと言ってましたよね?向こうから襲いに来ることはもうないんですか?」
「彼女が十二歳の時に彼女の死を偽装して虚明堂を脱出させた。だからマラトはジェイドは死んだものと思っているはずだ。」
また話がややこしくなったと思い、エイナーは頭を抱えた。
ジェイドは虚明堂ではリュウ・ズーハン(劉紫涵)と名乗っていた、孤児などで苗字がない場合はその時の堂長の苗字がつけられた。
ズーハンと言う名前は、リーインがその名前とともにジェイドを虚明堂に預けて行ったということだった。そのためマラトはジェイドの名前はリュウ・ズーハンだと思っていて、そのズーハンは悪事を働き十二歳の時に副堂長のリュウ・ズーシュエン(劉紫轩)にその報復として切られ、崖から川に落ちて死んだことになっていた。
だが、実はこれはズーシュエンの芝居で、彼女を切ったことは切ったのだが、虚明堂に潜り込んでいたハリスの部下たちとズーシュエンが共謀して行った偽装工作だった。
ジェイドが十二歳になった頃再びマラトが虚明堂がある山の麓の村に出没し始めたため、予てよりの計画を実行に移した。
勿論この計画のことをジェイドは知らなかったので、やってもいない悪事の濡れ衣を着せられ、信頼していた師匠のズーシュエンに剣で切られ崖から突き落とされたのだから堪ったものではなかっただろう。
その時の衝撃で彼女は七年間の記憶を失くしてしまった。
ただしマラトが母を殺したという記憶を除いて。
ジェイドの人生の壮絶さも然るものながら、エイナーはこのハリスと言う男の執念?愛情(なのだろうか?)?には、感嘆の念を禁じ得ないと思った。
彼はどんな手を使っても好きになった女性を妻にし、いつも陰ながら娘のことを案じてはありとあらゆる策を弄してきたのだ、ただ驚くしかなかった。
ふと、自分はそんな男から、ジェイドを守ると言うことを引継ぐのだろうか?この先、ハリスと同じように、彼女の身の安全を守り続けていけるのだろうか?自分にそんな力があるのだろうか?と思い悩んでしまった。
「それは、私にあなたの役割を引継げということですか?」
「まだ若い君には重荷かもしれないが、他にお願いできる人がいないのだよ。」
先に教えて欲しかったと言いそうになったが、果たして事前にこの話を聞いていたら何か変わったのだろうか?結局この話を聞いて彼女の事が気になってしまい同じ道を進むことになっていた気もする。
結局自分には彼女を放っておくことは出来ないだろう、ならば腹をくくる方が話は早い、やれるだけのことはやって駄目ならばそれはそれで仕方ない。駄目な時ってどうなってしまうのだろう?いや深く考えずに最善を尽くせばいい。そんな気分になってきて、気がつくとこう言っていた。
「最悪の結果になろうともそれは結果であって、今、自分の出来る限りのことはしたいと思います。」
ハリスはこれが承諾なのかどうか理解に苦しみ。
「と言うことは、このままジェイドを妻として守り続けてくれるということでいいんだな?復讐をやめさせるために最善を尽くすということでいいんだな。」
「そうですね、勿論第一選択肢は復讐を止やめさせることですが、それは約束できません、止められない場合はどう彼女をサポートできるかを考えないと。」
ハリスがポカンとした顔で、
「まあ、君のやり方でやってくれていいが、彼女に危害が及ぶような場合は私も口を挟ませてもらうからな。あと、最悪ってのは何があっても絶対に避けてくれ。」
ジェイドが自分のことを好きでもないのに、彼女の復讐に利用するためこの結婚を進めたのではないかと疑っていたが、段々とそんなことどうでも良くなって来た。
出会って数週間で好きになってもらおうというのも虫のいい話だったのだろう、周りを見れば、アクセルだのハリスだの父のアドフルだってそうだ、相手が自分の事を好きかなんて誰も気にしていない、自分が相手を好きかどうかだけで行動している。一歩間違えれば偏執狂者だ。
アドルフは二十近くも年齢が違うイレノアに結婚を申し込んで四回断られ、五回目でやっと承諾してもらえた。
ハリスとエイナーが部屋に籠り話をしている間、ジェイドは寝室の大きな窓の窓辺に腰かけてすっかり暗くなった外を眺め、両開きの窓を全開にして夜風に当たっていた。
小さな皮の袋から大きな赤い宝石がついたペンダントを取り出し、その宝石を月明かりに透かして片方の目で覗き込んでいた。
エイナーが寝室に戻ると、ジェイドが両開きの窓を全開にして窓辺に座って、何かをコソコソと小さな茶色の袋に入れながら聞いた、
「随分と長かったね、何の話だったの?」
「君が家を離れるにあたって、お父上にはいろいろ思う所があるみたいだね。」
「また、愚痴でも聞かされてたの?」
「まあ、そんな所かな。」
ハリスはジェイドには一人で勝手に行動せず必ずエイナー君に相談するように言ってあるから、彼女からもこの仇打ちの話をされる事があるかもしれないと言われていたが、それは今日ではなさそうだ。
ジェイドが窓を閉めて、先ほどの小さな袋を自分の荷物に大事そうにしまい込んだ。
「何か大事なものなの?」
そう聞くと、ジェイドは背を向けたまま動かずに少し黙って、その後に、ゆっくりと言った。
「私のこと、覚えてる?」
エイナーは何を聞かれているのか分からずに一瞬戸惑った。
するとジェイドが、
「なぁ~んてね~」
とこちらを振り返り笑いながら言った。
エイナーは苦笑いをしながら、心の中で呟いた。
(全く、何をふざけてるんだこの人は、こっちはこっちでいろいろ大変だと言うのに。)
明日はいよいよルッカに帰る、馬車で三日は見ておく必要がある。
明日からの移動に備えて今日は早めに寝ようと思いながらも、彼女のことを抱きしめた。
ふと、彼女は本当は抱きしめられるのが嫌なのではないかと思い、手を緩めたが、彼女が不思議そうに顔を覗き込んできたので、再び抱きしめた。
抱きしめながら『一体、今の自分に何が出来るのだろうか?』と言う不安が過ったが、一先ずマラトとやらの情報を集めてみようと思った。
今回はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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