第20話 頑張れエイナー
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿
アラン2世:モラン国王
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性武官、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
師匠:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ジェイドの部屋の扉をノックした。
「ジェイド、もう寝ちゃった?」
少し待つと、扉が少し開いて、隙間からジェイドが顔を出した。少し目が腫れているようにも見えた。
「まだ寝てないよ。でも、こんな時間にどうしたんだ?」
「何か食べたかなと思って、これ、持ってきたよ。」
そう言って、袋を渡した。
「適当に食べた。でも、ありがとう。じゃあ、お休み。」
そう言って、ジェイドは袋を受け取り、扉を閉めようとした。
締まる扉に手と足を入れて、強引に扉を閉じさせないようにして、エイナーが言った。
「前に、怖気づいたら連れて帰るって言ったけど、もうそんなこと考えてないから。いろいろあって不安になるのは当然だと思う、不安な気持ちを抱えきれなくなる前に、話して欲しい。ジェイドが前に進めるように、自分に出来ることは何でもしたいと思ってる。」
ジェイドは俯いたまま、黙っていた。
「明日の朝は一緒に行こう。迎えに来るから。じゃあ、お休み。」
そういって、エイナーは扉から手と足を引き抜いた。扉はゆっくり閉まって行った。
ジェイドは、机の上に袋を置いて中身をのぞいた。
サンドイッチとお菓子とリンゴが入っていた。リンゴを取り出して、一口かじった。
こぼれた涙でリンゴが甘塩っぱかった。
この夜も、エイナーは不思議な夢を見た。
夜中に目が覚めて、横を向くと鏡台があった。そこに映っている自分は、自分が思っている自分ではない。この人は誰?これが今の自分なのか?随分年上に見える。
混乱しながらも、机の引き出しに大事なものが入っていることを思い出し、引き出しを開ける。皮の袋を取り出し、中から赤い石の付いたペンダントを取り出す。ホッとしてその石に頬ずりをする。
そして、もう一度鏡に映った自分を見る。さっきと同じ人が映っている。この人は誰?何か思い出さないといけないのに、思い出せない、頭が痛い。
頭が痛い気がして、エイナーは本当に目が覚めた。これもまた、ジェイドが見ている夢だろうと思うと遣る瀬無くなった。指輪が薄く青く光っていた。
翌朝、エイナーは再びジェイドの部屋の扉をノックした。
「ジェイド、起きてる?もう出かけられる?」
少し待つと、扉は開かず、中からジェイドの声がした。
「先に行っててくれ、後から行く。」
そう言われたので、仕方なくエイナーは先に行くことにした。
火葬場に着くと、既に三人は遺骨の回収を始めていて、エイナーを見たアリマが言った。
「何で、一人で来たんだ。」
これはデジャブか?と思いつつ、エイナーは答えた。
「後からくると思うよ。にしても、アリマは元気だね。あんなに酔いつぶれていたのに、もうケロッとしてる。」
「まあね、うちはみんな酒が強いんだよ。家系かな。」
「ご両親も強いの?」
「そう聞いてる、祖父母も強い。特に、ばあちゃんは底なしなんだ。」
「ご両親を早くに亡くしてるって言ってたね、嫌なこと聞いてしまって、ごめんよ。」
「気にしなくて大丈夫だよ。」
とアリマが答えた。そして、続けた。
「うちの両親は行商人で、行商先で水害に巻き込まれて亡くなったんだって。でもさ、水害に復讐してやろうとは思わないよね。」
エイナーも、自分の母親が病気で亡くなった時のことを思い出し、悲しかったけど病気に復讐してやろうとは思わなかったなと。復讐する相手もいなかったが。
「災害とか病気って、復讐する明確な相手がいないからかな。其れで研究者や医者になったとかって話は聞くけど。」
と、アリマが空を見上げながら言った。
四人でタユナの遺骨を集めて骨壺に入れた。
結局、ジェイドはやって来なかった。
フォンミンとアリマは仕事に向かうため、エイナーとズーシュエンは特に用事もないので二人と一緒に城に向かった。城の敷地に入ると、四人は書庫に向かうジェイドに遭遇した。
ジェイドを見るや否や、アリマが言った。
「ジェイド、何で今日は来なかったの?待ってたのに。」
ジェイドは少し黙っていたが、直ぐにアリマの方に向かって、
「四人もいれば十分じゃないか、行く必要なかっただろう。」
と答えた。
アリマが少し怒り気味で言い返した。
「皆、ジェイドのことを心配してるのに、そんな言い草ってないよね。」
「心配されるようなことは何もない。」
そう言って、ジェイドは一人で書庫に入って行った。
アリマは、ムッとした顔で自分の職場に向かった。
ジェイドは書庫に用事があった訳ではなく、単に時間を潰しにやって来ただけだった。
エイナーの姉のハンナから昼に自分の部屋に来るように言われていたので、それまで書庫で時間を潰した。
気乗りはしてなかったが、断れずに行くことにしていた。
「タユナの件では、本当に大変な思いをさせてしまったわね。後で、アリマとジェイドにはきちんお礼をと思ってるけど、まずは、ゆっくりジェイドと話がしたくて。お昼でも食べながら喋りましょう。」
口数が少なく、食も進まないジェイドを見て、タユナのことでショックを受けてるんだろうと思い、ハンナは優しく話しかけた。
「ジェイドのおかげで実感したの、最後に子どもたちを守れるのは自分だけだって。今回はジェイドが守ってくれたから私たち助かったけど、もしあの時、ジェイドがいなかったら、私が子どもたちを守らなくちゃいけなかったんだって。ジェイドのようには守れないけど、最後まで諦めずに守り抜かなきゃって。」
「ごめん、私はハンナも子どもたちもおとりに使っただけだよ。それで、タユナが動かない事だけを祈っていた。ハンナたちのことは守ろうなんて思ってなかったかも……」
ジェイドはそう言って俯いた。
「謝らないでよね。ジェイドがあの時何もせずにいたら、いずれ私たちはタユナに殺されていたと思う。だから、そんな風に思わないで。」
ジェイドは俯いたままだった。
「貴方が強くて賢い勇気のある人だってことが分かったから、きっとエイナーのことも守ってくれるって姉として安心してるよの。あの子って単純で生意気で抜けてる所もあるけど、なぜか憎めないのよね。大切にしてあげてね。」
そういってハンナは笑った。
「エイナーを守る?守る必要なんかないだろう、何でも自分で出来るし。」
ジェイドが不思議そうに言うと、ハンナはまた笑いながら、
「エイナーもジェイドの前では相当頑張ってるのね。彼は完璧でも何でもないのよ、今まではお父様や上司の人が助けてくれることも有ったと思うけど、これからはジェイドも助けてあげてね。もちろん、ジェイドもエイナーに守ってもらうのよ。多少は役に立つと思うし、遠慮なんかいらないわ、お互い様なんだから。」
そう言って、笑い続けた。
「そう言えば、何でロアンはエイナーにあんなに厳しいんだ?生意気だから嫌いなのか?」
ハンナが笑いながら答えた。
「違うの、あれは大好き過ぎて憎くらしくなっちゃった方よ。エイナーが生まれて暫くは、ロアンはエイナーのことを本当に可愛がってたの。自分がお母さんになるんだって言って、何かと面倒を見ていた。でも、段々生意気になって言うこと聞かなくなると、それが憎らしくなったんでしょうね。木に吊るしたり、鞭でたたいたり、落とし穴に落としたり、エイナーの恥ずかしい秘密を友達にばらしたり、本当に酷いことばかりしてた。私は面白がってロアンと一緒にやってたけど、エイナーの反応が面白くって、面白くって、止められなかったわ。」
そう言って、笑い続けた。
「恥ずかしい秘密ってなんだ?」
とジェイドが聞いた。
笑いが止まらないハンナは、涙目で答えた。
「私が言ったって言わないでね。エイナーが五歳の時だったかな、ロアンに橋から突き落とされて川に落ちて、溺れて病院に運ばれたの。それで、エイナーが病院で出会った子に一目ぼれして告白したんだけど、断られたのよ。なんでだと思う。」
「エイナーは惚れっぽいんだな。うーん、軟弱だからか?」
と、ジェイドが答えた。
「ん?軟弱……ではなくてね、相手が男の子だったの。それを知ったエイナーのショック受けた顔が忘れられないわ。」
そう言って、ハンナは膝を叩きながら涙を流して笑った。
「エイナーが八歳から学校の寮で暮らしていた理由が分かった気がする。」
そう呟いて、ジェイドは目の前に置いてある謎の肉を食べた。
ハンナと話をしていると、あっという間に時間が経って夕方になっていた。
部屋に帰る途中で、ズーシュエンが城門を出ていくのが見えた、ジェイドは少し悩んで声を掛けた。
「ズーシュエン、何処に行くんだ?」
「ヤン・フォンミンの家だよ、泊めてもらってるんだ。」
「ヤン・フォンミンとは仲が良いのか?」
「彼は、母方の従兄弟なんだよ。」
「親戚なのか、あんまり似てないな。」
「そうだね。」
と言って、ズーシュエンは笑った。
暫く黙って並んで歩いた。ジェイドが呟くように言った。
「私は、五歳の時から何も成長していな気がする。ずっと、弱っちい子どものまんまで、いつも誰かに守られてる。」
「十二年間も成長しないなんて、そんな人間いる訳ないだろう。」
ズーシュエンからの意外な返事に驚き、ジェイドは彼の顔を見上げた。彼の顔は笑ってはいなかった、どちらかと言うと呆れた顔をしていた。
「体も成長しているし、知識も増えて、いろんな局面を乗り越えて心も強くなっている。何を甘えたことを言ってるんだ、五歳のままなんて。」
そう言われて、ジェイドが言った。
「何か雰囲気変わったね。」
「元々こうだよ。ベレンで会った時は、初対面ということになっていたから、それなりに気も使ったけど、私からすれば初対面でも何でもないし、もうその話もしたのだから普通に戻っただけだよ。」
少し微笑んで、ズーシュエンが答えた。
「そうか、そうだったね。」
ジェイドが驚き気味で答えた。
少し考えて、ズーシュエンが言った。
「変わらないことがあるとしたら、ずっと誰かに助けられて、守られているってことかな。」
その言葉を聞いて、気弱そうにジェイドが言った。
「そうなんだ、一人じゃ何も出来ないんだ……今回の旅だって、結局一人じゃどうなってたか、そう思うと情けなくって。」
「頼ってみればいいのに。助けてくれって。」
それを聞いたジェイドが、頭を振りながら訴えるように言った。
「そんな弱音を吐いたら、弱くなってしまう。自分が駄目になってしまうじゃないか。」
それを聞いて、ズーシュエンが呆れ顔で言った。
「弱音吐かなくたって、そんなに弱くなっているだろう、これ以上、どう弱くなるって言うんだい。一人では抱えられないような大きな問題を抱え込んで、殻に閉じこもって、このまま、土にでももぐるつもりかい、次に会うのは七年後かな。」
それを聞いたジェイドも呆れ顔で言った。
「蝉じゃないよ、私は。本当に酷いこと言うね。相変わらずズーシュエンは底意地が悪い。」
「おや、何か思い出したかい?」
にこやかにズーシュエンが聞き返した。
「いや、思い出さないけど、何となくそう思っただけだ。」
と、ジェイドも少しにこやかに返事をした。
「全然違う話だけど、君に謝らなければならないことがあってね。」
と、ズーシュエンが切り出した。
「さっき、毒づいたことだったら許さないけど、何だい。」
と、ジェイドが返事をした。
「それは、許さなくてもいいけど、君の左わき腹の傷のことだよ。昨日も話したけど、私が切った。傷をつけてしまったことは謝らないとと思ってね。申し訳なかった。」
申し訳なさそうにズーシュエンが言った。
「いいよ、気にして…………るよ。お嫁に行きそびれるところだったよ。相手がエイナーだったから気にしてないけど、普通あり得ないよね。」
そう言って、ジェイドは笑って話を続けた。
「エイナーの方が傷が多いから、何にも気にしてないみたいだった。エイナーってさ、わざと隙を作って相手を誘って切り込ませるの、そこで相手を叩くんだけど、何回かに一回本当に隙なの。打ち込んでみないと、誘ってるのか、本当の隙なのか分からないんだけどね。あんな戦い方怖くて出来ないと思ったよ。まあ、エイナーは体力オバケで、回復力も半端ないから出来る荒業なんだと思うけど。」
ズーシュエンが思い出したように言った。
「そうそう、右肩に矢を受けた二日後に薪割りしたって話、嘘かと思っていたけど本当なんだな。あり得ないと思って聞いていたよ。」
「エイナーならばあり得るね。」
そう言って、二人で笑った。
「ズーシュエン、私も謝らなければならないことがあってね。」
「何だい?」
「時々見る怖い夢があってね、母上と市場で買い物をしていると、そこにマラトが現れて、奴から逃げるために馬に乗って逃げる夢なんだ。馬に乗ってる間、私はずっと母上の首にしがみついて顔を埋めてるんだ。怖くて、息が苦しくてどうしようもなくなるんだけど、いつも途中から、しがみついている相手が、白い服を着た長い黒髪の男の人に代わっていて、今思うとそれはズーシュエンだったんだと思う。でもね、前回からそれがエイナーに代わってた。申し訳ないね。」
また、二人で笑った。
今回はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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