第15話 ユーリハ国王誕生祭の警護
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
来週に迫った国王の誕生祭の警護と言うことで、明日からエイナーとジェイドも城内での警護に参加することになり、城内に宿泊することになった。
そのため、宿に荷物を取りに行き、ズーシュエンに事情を説明した。
「奇遇ですね、私も明日からその警護に参加することになりました。」
とズーシュエンが言った。
ズーシュエンが会っていた知人と言うのが、司令官のヤン・フォンミンで、彼は虚明堂の出身者であった。彼に雇われて明日から警護に参加することになったそうだ。
「ズーシュエンが一緒ならば、心強いです。実は……」
エイナーはジェイドの様子がおかしいことを気にしていたが、原因も分からず、どう接していいか悩んでいたので、ジェイドの扱いに長けているズーシュエンも一緒と聞いて少し安心した。
「副司令官のタユナ・ハイネンは綺麗な方だと聞いていますが、嫉妬しているのであれば、大騒ぎをするか茶番をするだけでしょう。なので、今回はもっと深刻なのかもしれませんね。自分の母親がその組織にいたことを覚えていたら、いろいろと複雑な気持ちにはなるでしょうし、時間をかけてでも本人に聞いてみるのが良いんじゃないですか?」
とズーシュエンに言われた。
確かに、その通りだと納得したが、果たしてどう聞き出せばいいのだろうか?と悩んだ。
エイナーとジェイドは一足先に城へ向かい、ズーシュエンは明日の午前中に城に向かうことになっていた。
城に向かう道すがら、エイナーは無口なジェイドに頑張って話しかけた。
「そうだ、前から聞きたかったんだけど、どうしてミレンナのカラスが監視だって気が付いたんだ?」
「……以前、母上に教わったんだ、カラスが送ってくるイメージの受信方法を。母上もあの組織にいたから、そこで学んだんだろう。ずっと何かイメージを送り続けて来るカラスが付いて来たから、そうだと気づいた。」
ジェイドはそう答えて、少し間をおいてエイナーに尋ねた。
「エイナーはどこまで知ってるの?私の母上があの組織のメンバーだったと聞いても驚いていないし、虚明堂からズーシュエンを連れてきた。」
「君の母上のことはハリスから聞いていた。結婚式の次の日に、君が母上の敵討をしようとしているから、止めてくれと言われて、その時だ……。ズーシュエンは、君と太刀筋が近い人を探していて、知り合いに紹介してもらったんだ。」
エイナーは後半の回答は少し心苦しかったが、そう答えた。
「そうか。」
ジェイドはそう答えて、そのまま黙ってしまった。
城に着くと、二人別々の部屋が用意されていたので、エイナーが一部屋だけで良いと使用人に言った所、ジェイドが別々のままでいいと言い出し、結局別々の部屋を使うことになった。
今までそんなことを言われたことがなかったので、エイナーは心配になったが、ジェイドだって一人になりたい時もあるだろうと、今日は彼女をそっとして置くことにした。
数部屋隔ててジェイドがいると思うと、何ともやるせない気分になったが、考えても仕方がない、布団をかぶって寝ることにした。いつもは寝付きが良いのに、その夜はなかなか寝付けなかった。やっと、うとうとし出した時に、何となく左の薬指が冷たい感じがして、指輪を見るとほんの少し青く光っているような気がした。朦朧としながら右の掌で左手の指を包み温めた。
そして、不思議な夢を見た。
翌日、エイナーは早めに食堂に行ってジェイドを待った。暫くすると彼女も食堂にやって来て、エイナーと同じ席に座った。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
エイナーがジェイドに聞いた。
「うん、眠れたよ。エイナーは?」
「私は、なかなか寝付けなかったよ。寝たと思ったら不思議な夢を見た。」
「どんな夢?」
エイナーは思い出しながら話した。
「誰かに切り付けられて、崖から川に突き落とされるんだけど、どこまで落ちても川にも地面にもたどり着かず、ずっと落ちていく夢。そのうち、周りが本棚になっていて、見たこともない文字で書かれた本が並んでいた。下を見ると地面にウサギが沢山いて、このまま落ちたらウサギを潰してしまうって思って、避けようとするんだけど、避けられず。そこで目が覚めた。」
ジェイドが少し驚いた顔をして言った。
「前半は同じ夢だ。後半は違うけど。」
「後半はどんな夢だったの?」
エイナーが尋ねると、ジェイドが答えた。
「あんまりよく覚えてないんだ、でもウサギは出てこなかったよ。この先、野宿をすることがあっても、ウサギは食料にしないようにするよ。」
何となく、いつもの彼女が戻ってきたような気がして嬉しかったが、ウサギを食べるのかと、ちょっと切なくなった。
食事の後に、タユナが二人に城の中を案内すると言ってくれたのだが、リュウ・ズーシュエンが来てから三人一緒に案内して欲しいとお願いした。その方が一回で済むので良いだろうと思ってのことだった。
午後に、司令官のヤン・フォンミンが直々に城の中を案内してくれた。フォンミンはエイナーの想像とは全く違う人物で、少し西方の血が入った東方人のようで、軍人とは思えないナヨっとした雰囲気。背は高く美男子だが、あまり自分の容姿に気を使っている感じがなく、くせのある黒髪を一つに束ねていた。
ズーシュエン曰く、ああ見えて強いし戦略家なんだ、しかし、自分では何もしない、お守りのような男だとのこと。
「三人は鼻が利きそうだから、自分たちが怪しいと思う所を自由に警備してくれれば良い。身元はしっかりしているから単独行動も問題ないけど、基本は二人で行動してくれ。」
とフォンミンから言われ、エイナーはズーシュエンと城内の確認をすることにした。ジェイドにはフォンミンの部下のアリマと一緒に、ハンナと子どもたちの警護をしてもらうことにした。
ハンナの居住エリアは『後宮』と呼ばれ、原則、妃の夫または息子以外の男子は、立ち入り禁止のため、非常時以外の内部の警護は女性が行っていた。
「エイナーは、タユナのことをどう思う?」
と、後宮に向かう途中でジェイドに聞かれ、少し考えてエイナーは答えた。
「微妙だな。一般のメンバーだったと言う割には内情に詳しすぎる気がする。それに……」
「それに?なに?」
「ううん、何て言ったら良いのか分からないけど、喋りすぎな気がする。ジェイドはどう思う?」
「ううん、私も表現するのが難しいけど、何か大きな矛盾を感じる。」
矛盾か、具体的に何かは分からないが、確かにその言葉はしっくりくるような気がした。
後宮の入口で、アリマがジェイドを待っていた。
アリマは、ジェイドに背格好が似ていて、髪型や、切れ長な目と言う所も似ていた。素朴で愛嬌がある、賢そうで意志が強そうな女の子であった。
後宮の警護をするものは、橙色の上着と帽子、紺色のズボンを着用していて、アリマもそれを着ていた。
歳もが近いこともあり、二人は直ぐに打ち解けて、いろいろ話ができる関係になった。
「昨日、タユナ・ハイネンと手合わせして勝ったんだってね。凄いね。」
アリマにそう言われ、ジェイドは答えた。
「まあね。でも、昨日のタユナが本気だったのかは、分からないな。」
「ふーん、妃の関係者だからって手を抜く人じゃないと思うけどな。ジェイドはどこで武術を習ったの?」
「分からないんだ。五歳の時に母親に連れられて家を出て、帰ってくるまでの七年間の記憶がない。その間にどこかで習ったんだろう。アリマは?どういう経緯で軍に入ったんだ?」
「私、親がいなくて祖父母に育てられたの。お金がないから、早く働きたくて、たまたま見かけた、軍見習いの募集を見て十三歳の時に応募したの。」
「凄いな、家族のために十三歳から働いてるのか。それまでは、どこかで訓練していたのか?」
「訓練って程じゃないけど、近所の少年団で習ってた。筋がいいって褒められて、結構頑張ったんだよ。今の国王になってから、この国では女でも正式に軍に入れるようになって、お給料もそれなりに貰えるようになったって聞いてたからね。それに衣食住付きだから、お給料の半分は家に仕送りできるんだ。」
嬉しそうにアリマがそう言って、ジェイドに尋ねた。
「ジェイドは何してる人なの?仕事は?」
そう聞かれて、ジェイドは少し悩んで答えた。
「今は、トレーダーって呼ばれる商人をしている……らしい。」
「らしいってどういうこと?何を売ってるの?」
「一応、自分も商人なんだけど、エイナーの、夫の手伝いみたいな感じかな。馬とか麦とか売って、時々宝石とか買い付けたりしている。」
「へぇー、なんかすごそうだね。でも、妃の弟さんのお嫁さんだから、仕事なんかしなくても食べていけるんだよね。羨ましいな。」
「アリマは結婚しないのか?」
「相手がいないよ。誰か良い人紹介してよ。お金持ちが良いな。」
「分かった、お金持ちの独身がいたら紹介するよ。好きなタイプはあるのか?」
「優しい人が良いな。あと、お腹いっぱい食べさせてくれる人。」
「お腹いっぱい食べさせてくれる人かぁ、リュウ・ズーシュエンは料理が上手そうだったぞ。でも、彼女がいるから駄目だな。」
「リュウ・ズーシュエンって、ヤン・フォンミンの知り合いの?彼はジェイドのお父さんでしょう?」
「ズーシュエンは父ではない、私の父はハリス・ドゥゴエルだ。イルダル国のスノースバンにいるぞ。」
「イルダル国のハリス?なんか西方の人みたいな名前だね。」
「西方の人だ。」
「そうなの、ジェイドはどう見ても東方の人だよね。」
「でも、ハリスが父親だ。母が東方人だから、私はきっと母に似たんだ。」
「そうなんだ。」
それ以上、二人はその話は続けなかった。
代わりにアルタが、今、ナルクで一番人気がある役者の絵を見せてくれた。
数か月に一度、貯めたお金で彼のお芝居を観て、彼が描かれた絵を買うのが楽しみだと話した。芝居と言っても、歌ったり踊ったりする音楽劇で、観ているだけで嫌なことも、辛いことも忘れられる魔法の様な時間だそうだ。
「ジェイドは何か推してる人とか、ものはないの?」
そう聞かれて、少し考えて答えた。
「鐘楼の麻婆豆腐が一押しだ。」
ルッカで見つけたお気に入りの西夏料理屋のことだった。
「私たち、こんなにお喋りしていていいのかな?」
急に不安になったアリマが、ジェイドに言った。
「今日は、何も起きないと思うよ。一先ず、建物内をチェックして、怪しいところがないかは確認しておこう。」
そういって、二人は建物の中を隅々まで確認したが、特に怪しいところはなかった。
「国王の誕生祭、何も起こらないといいね。」
とアリマが言った。
「そうだな、何も起こらないと良いな。」
ジェイドはそう答えた。
後宮の警護をするものは、後宮内の警護室に寝泊まりをする。
ジェイドもアリマと一緒にそこで数日過ごすことにした。ハンナからは、ジェイドをそんな所に寝かせる訳には行かないと、アリマと二人で客室の方に寝るように言われたが、どこで寝ようが一緒だと言って、ジェイドは警護室で寝た。
次の日も、特に怪しいことは起こらず過ぎて行った。
夕方、タユナが後宮に警護の様子を確認に来た。警護に当たる女性二十名ほどが集められて状況報告を行った。特に目立った異常はなかった。
皆が去った後、ジェイドはタユナに話しかけた。
「ねえ、マラトを殺すとしたら、どういう方法を取るのが一番効果的かな?」
タユナが少し驚いた顔でジェイドの方を向いて言った。
「貴方は、マラトを殺したいんですか?」
「不思議なこと言ってないよね。奴のおかげで迷惑被っている国の人は、普通にそう思うだろう。ある意味、一般論だと思うぞ。」
ジェイドの意見に、タユナが答えた。
「もちろんです、彼がいなくなれば良いと思う人は多いでしょう。私も同じです。ただ、ちょっと驚いただけです。」
「それで、どう思う。どうやったら殺せると思う?」
そう聞かれてタユナは少し考えて、答えた。
「不可能だと思います。居場所も分からないし……それに、私には、勝てるイメージが持てません。」
「そうか、私も同じだよ。勝てるイメージなんて持てない。」
そう言って、ジェイドはタユナの目を見た。タユナもジェイドの目を見つめ返したが、直ぐに目を逸らして、部屋を出て行った。
エイナーとズーシュエンも、城の中をくまなく確認し、城内の噂話など何気なく聞いて回っていた。
夕方には、ヤン・フォンミンに一日の報告をすることになっていたため、司令官室で一日の報告を行った。
「現国王の、多様性を認める政策に反対する勢力がいて、そこが何かするんじゃないかって話はちらほら出てますが、何か準備をしている様子もなさそうでしたね。」
エイナーが言った。
「ヤン・フォンミン、お前は、既に調べているんだろう。」
と、ズーシュエンがフォンミンに尋ねた。
「何にも出てこないんだよ。流石に、今動いたら彼らも自分たちの首を自分で絞めることになるって分かってるだろうし、今回は、大人しくしてるんじゃないかと思うけど……」
そう言って窓の外を見た。彼の視線の先には、妃たちの住居である後宮があった。
「何かあるとしたら、皇太子の第一王子ですか。」
エイナーが言った。
「そうなるよね、他民族の妃が産んだ王子だ。王子に何かあれば、国王、皇太子と反対勢力の対立は深まるだろうね。」
フォンミンはそう言って、エイナーに目を向けた。
「後宮の警護ってやっかいですね。外をいくら固めても余り意味がない。非常事態でもない限り、私たちは中には入れないのでしょう?だったら、妃に出てきてもらうことは出来ないんですか?そしたら警護しやすい。」
と、エイナーが言うと、フォンミンもズーシュエンも呆気にとられた。
「それは、斬新な考えだなぁ。それが可能ならば後宮の意味がなくなる。」
と、フォンミンに言われ、エイナーは『確かにね。』と思った。
「昔だったら、宦官になって入るっていう手はあったが、今は無理だな。」
と、フォンミンが言うのを聞いて、エイナーは、いくら姉のためでも、その手は絶対に使わないと思った。
「タユナは、後宮に出入り出来るんでしょう?」
エイナーがフォンミンに尋ねた。
「もちろん、彼女は出入り可能だ。後宮警護は全員が私直属の部下だが、毎日の業務報告はタユナが取りまとめている。毎日、彼女は後宮に顔を出しているはずだ。」
そう言ってフォンミンは、言葉を続けた。
「もしも、彼女が何か企んでいたら。考えたくないな。」
それを聞いたエイナーは、少し眉をひそめて尋ねた。
「信じているのですか?タユナを、それとも?」
フォンミンは外を眺めて、悲しいような、笑ったような顔で言った。
「信じたいっていうのが本音かな。もし違うとしても、思いとどまって欲しいと願っている。」
「それは、危険すぎる賭けじゃありませんか?」
少しイラついた声で、エイナーが言った。
今回はいかがでしたでしょうか?
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