第14話 あの組織の過去と今とそれを知る者
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
ユーリハ国の首都ナルクは、ベレンに負けず劣らずの栄えた都市だ。
ベレンよりも南に位置し、心なしか人々が陽気な気がする。
市場は活気にあふれていて、道端で音楽を演奏していたり、それに合わせて踊っていたり、開放的な雰囲気がある。
ただ、なんだか街中の警護の兵士が多いような気がする、普段を知らないので何とも言えないが、やたらと兵士を見かけるような気がした。
「この開放的な雰囲気に似合わず、兵士の数が多い気がしますね。」
エイナーはズーシュエンに話しかけた。
「確か、そろそろ国王の誕生祭だったと思います。お姉さまの義理のお父様になるんでしょう。」
そんなこと気にも留めたことがなかった。
「そうなんですね。知らなかった。手ぶらで来たけど大丈夫かな。」
エイナーは、早々に姉に会って相談してみようと思った。ハンナのことは、そこまで苦手ではなかった。
一先ず、宿を取り、ズーシュエンは知人の所へ、エイナーとジェイドはハンナの所に向かった。
予想外に姉との謁見までの手続きに時間がかかり、やっとのことで彼女の面談部屋に通された。
「お待たせさせてしまった様で、ごめんなさいね。いろいろあって、今、警備が物々しいのよ。」
ハンナが申し訳なさそうに言った。
「それはさておき、結婚おめでとう。服装も同じ感じに揃えて本当に仲が良いのね。今、お茶の準備をさせるからゆっくりして行ってね。」
そう言って、侍女に指示すると、侍女たちがお茶の準備を始めた。
目の前には、見る見るうちにアフタヌーンティー一式が広げられ、エスニックな部屋の中で、テーブルの上にだけ西方メルヘンワールドが広がった。
「こっちの食べ物も好きなのだけど、やっぱりお茶会っていったらこれなのよね。二人もこっちの方がいいでしょう。」
双子だけあってハンナはロアンに見た目が良く似ていた。背が高く、艶のある亜麻色の髪、琥珀色の瞳、長いまつ毛、しかし、ハンナは、守ってあげたくなる感じの女性で、いつも微笑んだような柔らかい表情をしている。
喋り口調もやわらかく、動きもどことなく可愛らしい感じがする。ただ、言いたいことは、はっきり言う性格ではあった。
「いろいろとは、何かあるんですか?」
エイナーがハンナに聞いた。
「まずは、国王の誕生祭が来週に迫っているでしょう。エイナーも有難うね、贈り物届いてたわよ。」
全く送った記憶はないが、実家から自動的に送られるシステムになってるのだろう。その点はホッとした。
「それに、いま情勢も良くなくて、何となくみんな疑心暗鬼になってて。」
「どういう意味ですか?」
「あんまり大きな声で話せることじゃないけど、知ってるでしょう。」
そう言って、ハンナは声を潜めて話をつづけた。
「あの国の周辺の国って、知らないうちに内部にジャーダンの手下が潜入していて、内輪もめを起こされたり、国王や要人が暗殺されたりして、その隙に乗っ取られたらしいの。近隣国の一部では、既にジャーダンの手下が潜入しているんじゃないかと疑心暗鬼になって、勝手に内輪もめを始めてる国もあるらしいの。うちも段々そんな感じになってきちゃって、警備も強化しているし、来週の誕生祭も取りやめにしようかって案も出たけど、国の沽券に関わることだから、そう簡単に取りやめにも出来なくて。」
あの国とはモラン国のことであり、ジャーダン・ナラハルトはモラン国王の娘婿で、アラン二世国王の体調不良を理由に彼が国王の摂政をしている。現在、名前のない『ある組織』のリーダーであるマラト・カンベルトと組んで、隣国への支配を広げていると言われている。
「今の国王になってから、多様性を認める政策が取られるようになったのよ。他の民族や女性であっても優秀な人材であれば重要な役職に登用するようになったし、王族に他の民族が入る事も正式に認められて、前の国王の時だったら私が生んだ子には王位継承権が与えられなかったわ。国の発展のためにも素晴らしい政策だと思うけど、中にはそう思わない人もいて……私も影で穢れた血なんて言われてる……既に、内輪もめの原因があるから、不安なのよ。」
本当に不安そうな顔でハンナが言った。
「ごめんなさいね、折角、結婚の報告に来てくれたのに、こんな暗い話をしてしまって。もっと楽しい話をしましょう。随分と急な結婚だったけど、どういう経緯だったの?」
ハンナの問に、ジェイドが経緯を話した。ズーシュエンにした話と同じ話である。
それを聞いたハンナが不思議そうにエイナーに尋ねた。
「そもそも、二人は結婚するって決まってたでしょう?それに、エイナーはジェイドのこと知っていたはずよね?わざわざ品定めに行く必要なんてあったの?」
それを言われたエイナーは、少し困った顔で答えた。
「親同士はそう決めていたらしいのですが、はっきり言われたことはなかったと思うんですよね。ジェイドとは子どもの時に会ってたのかも知れないのだけれど……その、なんというか。」
と言葉を濁していると、ジェイドが言った。
「エイナーは覚えてないんだよ。」
少し考えてハンナが言った。
「エイナーは、八歳から学校の寮で暮らしていたから、もしかするとジェイドが家に遊びに来たときは、家に居なかったのかもね。でも、お母様の葬儀の際は、彼女も来てくれたから、絶対にその時は会っていると思うのよ。」
エイナーは思い返していた、しかし、どんなに思い返しても何も思い出せず、
「母上の葬儀の日のことは、正直、何も覚えてなくて。ひたすら泣いていたこと以外。」
そう言って、バツが悪そうに顔を掻いた。
「そうだったわね、私たちだって凄く悲しくて泣きたかったのに、エイナーがずっと泣いているから、本当に引いちゃって、あんまり泣けなかったわよ。しかも、その後、顔がむくんで、物凄く不細工だったの覚えてる。」
そう言って、ハンナが笑った。
「そうか、俺たち会ってたんだな。覚えてなくてごめん。」
そう言って、エイナーはジェイドに謝った。
ジェイドは少しむくれた顔をして、そっぽを向いた。
エイナーは、さっきのハンナの話が気になり、
「話を戻すようで申し訳ないのですが、あの国とその隣国の話をもう少し詳しく教えてもらえませんか?」
エイナーはハンナからなぜそれが知りたいのか理由を聞かれ、また、サムート・ハンに会いに行く話をした。
エイナーはサムートのことを出しに使っている様な気がして少し心苦しかった、本来の目的は別にあるのに。その分、彼のために出来る事をしなければと根が真面目なエイナーは考えていた。
そう言うことならと、副司令官のタユナを呼んでくれた。タユナは、西方の血を引いていると思われる、黒髪に青い目の女性だった。
「私が副司令官のタユナ・ハイネンです。司令官のヤン・フォンミン(楊楓明)が急用のため、私が代わりに対応させていただきます。」
そう言って、詳しい話をしてくれた。
ジャーダン・ナラハルトが、名前のない『ある組織』のリーダーであるマラト・カンベルトと組んで、隣国への支配を広げているということは確かで、マラトの部下が隣国に潜入して、内乱を起こしたたり、国王や要人を暗殺していることは確かなのだが、その手口があまりにも見事で、モラン国に支配されるまで、その人物が潜入者で暗躍していたことには誰も気づけない場合もあった。
また、家臣が気づけたとしても、国王や妃が、その人物にすっかり心酔しきってしまい、最悪の末路をそのまま受け入れてしまう場合もあったらしい。
そして彼女はこう言った。
「実は、数年前まで私もその組織のメンバーでした。そのことを承知の上で、国王は私を雇ってくれていますし、隠している訳ではないので、知っているものは知っています。」
隣で、驚きの余り、ジェイドが飲んでいたお茶を高く噴き出した。そして、むせりながら、彼女に尋ねた。
「じゃ、じゃあ、タユナはマラトを知っているのか?」
「知っています。私がいた頃、彼は既にナンバーツーの人物だったので、そう頻繁に目にすることはありませんでしたが、何度か会ったことはあります。」
「やつは、どこにいるんだ?」
「今ですか?それは分かりません。当時もそうでしたが、彼はごく一部の自分の部下以外には、自分の素性や、住処、そう言った情報を全く教えていませんでした。ナンバーワンに呼ばれたときだけ、指示された場所にやって来て、それ以外は自分の判断で行動する、そういうスタイルだったと思います。」
エイナーは少し気になり尋ねた。
「呼び出すって、どうやって呼び出すんですか?」
「カラスを使うんです。」
タユナの話によると次の通りである。
ジョゼフ・テオという男が、約五十年ほど前に六人の仲間とこの組織を発足させた。その仲間の中には、東アルタの魔法学校であるスヴァルト・スコウルの出身者が二人いて、カラスを使役することが出来た。能力を持ったカラスを育成する技術はその二人にしかなかったが、既に育成されたカラスを使って、仲間と連絡を取り合うことはそこまで難しい技術が必要ではなく、他のメンバーでも実施可能だった。ジョゼフたちは、そのカラスを使って連絡を取り合ったり、新しく入って来たメンバーへの仕事の指示を出していた。
創設メンバーはジョゼフを残して、全員、この組織を離れて行ってしまったが、その後も、ジョゼフはそのカラスを使って、メンバーへの指示を行っていた。もしかすると、別のスヴァルト・スコウルの出身者を仲間に加えて、カラスを育成させていたかもしれないが、組織間に横のつながりがなかったので、タユナは自分以外にどんなメンバーがいるのかは、余り知ることが出来なかった。
その話を聞いたエイナーが、まるで初めて聞いた話かのように尋ねた。
「動物をそこまで使役出来るなんてすごい技術ですね。連絡手段以外にも使えるんですか?」
「私のような一般のメンバーからすると、カラスは連絡手段と言う認識でした、それも上司からの一方的な指示を受け取るための。ジョゼフはナンバーツーのマラトの動きをとても気にしていた様なので、もしかするとカラスを監視にも使っていたかもしれません。」
「育成されたカラスと、そうでないカラスの見分け方があるのでしょうか?」
エイナーはジェイドに聞こうと思っていて、すっかり忘れていたことをここでタユナに聞いてみた。
「育成されたカラスは、イメージで人に伝言内容を伝えようとしてきます。ただ、特定の人を選んで伝えるのではないので、受信方法を知っている人間であれば、このカラスは何かを伝えたがっているということがわかります。そこで判断が付きます。」
「え、それじゃあ、情報が駄々洩れじゃないですか。」
「そうですね、飛んでいく場所を指示することは出来るみたいなので、相手さえ間違えなければ問題ありませんが、たまたま受信できる人間にカラスが捕まった場合は、確かに情報が洩れますね。でも、このことを知っている人間はごく限られていますし、技術を持っている人間なんてほとんどいないと思います。それと、ジョゼフや上司からの指示はカラスを通して暗号で伝えられます。」
「組織のメンバーは、イメージの受信方法と暗号解読方法の両方を知っている必要があるってことですね。」
エイナーは納得してそう答えた。
「どうして今はジョゼフじゃなくて、マラトがナンバーワンなんだ?」
ジェイドがタユナに質問した。
「それは、三年ほど前に組織が分裂したからです。二人の価値観は全く異なったものでした。また、マラトは人の下で働くタイプの人間ではなかったので、逆に、そこまでマラトがジョセフの下で長い間働き続けていたことの方が不思議だったように思います。」
ジョゼフがこの組織を作ったそもそもの理由が、自分や自分が集めた仲間たちの能力を使って、どこまで難しい依頼をこなすことが出来るのかを試すことであった。好奇心や探求心で難しい依頼をこなしていくうちに、スパイ活動や国王、要人の暗殺を請け負う無節操な組織となっていた。
逆に、マラトは権力や富、名声に固執していた。自分の能力を使って自分の地位を確かなものにする、本来はそのためだけに自分の能力を使いたかった。
ジョゼフは細かいことは気にしない大らかな天才肌だったため、マラトが何をしていようと、自分の指示に従っていれば特に問題視はしていなかった。そのため、マラトは、組織に属しながらも自由に行動することが出来た。
しかし、数年前からジョゼフの監視が強くなり、動きづらくなったマラトは、自分を信仰する仲間を連れて組織を離脱することにした。それが三年前のことであった。
主要メンバーのほとんどをマラトに持って行かれてしまい、ジョゼフが高齢と言うこともあり、残ったメンバーの多くが組織を離脱、組織はそのまま解体状態となった。
「マラトの組織も同じようにカラスを使って、マラトから部下たちへ一方的な指示を行うスタイルのようです。メンバーは単独で指示を遂行する能力を持った者たちなので、マラトへの連絡手段は不要と考えられています。」
「マラトは、部下の仕事が成功したのか、失敗したのかどうやって確認していたんですか?居場所も分からないならば、部下たちは報告にも行けないでしょう。」
エイナーが尋ねた。
「マラトは『ウズラ』と呼ばれる部下を持っています。『ウズラ』だけがマラトの居場所を知っています。また、『ウズラ』がメンバーの職務遂行状況を確認して、マラトに報告していたようです。」
タユナが答えた。
「ウズラ?そいつを捕まえれば、マラトの居場所がわかるのか?」
ジェイドが尋ねた。
「そうですね。でも、誰が『ウズラ』かなんて、分かる人はいなかったと思います。」
と、タユナが答えた。
「もし、失敗したらどうなるんです?」
エイナーが尋ねた。
「失敗した時点で、他のメンバーにリプレイスされるだけだと思います。もう使えないと思ったら処分すると思います。」
と、タユナが答えた。
「どうして、そんな組織に入ろうと思ったんですか?」
「自分の居場所を探していて、そこにたどり着いてしまったんです。今になれば、自分がどんなに浅はかだったかがわかりますが、その時は必死でした。どれだけ自分の能力に自信があっても、女と言うだけで士官のような職業に就くことはほぼ不可能です。また、運よく就けたとしても、扱いは酷いし、重要な任務は与えられない。」
そう言ってタユナは少し言葉に詰まったが、また話をつづけた。
「ジョゼフは、そういう立場の人間の中に、まだ日の目を見ない優秀な人材がいることに目を付け、そういう人間を組織に誘っていました。彼はそういう人間が言って欲しいと思う言葉を言ってくれるんです。君の力が必要だ、一緒にこの世界を変えていこうと。同じような立場の人たちが、いつか日の目を見ることが出来る世の中にしていこうと。結局は彼のゲームの駒にされただけだったんですけどね……彼はとても穏やかで、心の底からそう思ってくれていると信じてしまったんです、その時は……」
タユナはそう言って、再び言葉に詰まった。ハンナはそんな彼女の手を、両手で優しく包んだ。
「教えてくださって、有難うございます。」
エイナーはタユナにお礼を言って、こう述べた。
「貴方は、今も志を変えずに、貴方と同じような立場の人たちが、いつか日の目を見る世の中になるよう、ここで貴方が出来ることをされているのですね。素晴らしいと思います。貴方も、国王もこの国も。」
その言葉を聞き、顔を上げたタユナの頬が少し赤らんでいた。
反対に、ジェイドの表情は少し暗かった。
国王の誕生祭に向けて、本当にそういう人物が潜入していないか、いろいろと炙り出しをしているが、今の所、特定されている人物はおらず、タユナが怪しいという声が多く上がっているそうだった。
「私が疑われるのは仕方のない事だと思っています。本当にそういう人物が潜入していない事祈るのみです。誕生祭直前まで可能な限りのことはしますが、勝負は当日だと思います。万が一、誰かが潜入していたとしたら、当日に動きがあるはずです。」
「私とジェイドも、当日の警護に参加できませんでしょうか?」
エイナーはタユナに願い出た。
すると、ハンナが目をパチクリさせながら、
「なんで、ジェイドもなの?」
と尋ねた。
「もちろん問題ない。」
とジェイドが答えた。
「いや、そうじゃなくて……なんで、ジェイド『も』なの?」
とハンナが再び尋ねた。
次はエイナーが答えた。
「言葉で説明するよりも、実際に見てもらった方がいいかもしれないですね。
どなたか、ジェイドと手合わせをしていただけないでしょうか?ジェイドはそれでいい?」
「ああ、いいよ。」
と答えて、言葉を続けた。
「差し支えなければ、タユナと手合わせがしたい。」
城内の修練所で手合わせをすることになった。噂を聞きつけた野次馬数十人が集まっていた。
皇太子夫人の弟の妻と、頭脳明晰で沈着冷静な副司令官との一騎打ちである、意味が不明過ぎて人が集まったようだ。
エイナーは、こんなに真剣な表情のジェイドを見たことがなかった。かと言って気持ちが高ぶっている訳でもなさそうだ。一言でいうならば『凪』とでもいう状態だろうか。
手合わせが始まっても、ジェイドは木剣を下げたままで構えに入らない。いや、これが構えなのかもしれない、既に、木剣を構えたタユナが容易には打ち込めない状況になっている。暫くしてタユナが振りかぶった木剣で、ジェイドに切りかかった。
次の瞬間、タユナの剣が空に弧を描いて飛んで行き、地面に突き刺さった。二人に目を戻すと、ジェイドは右手に持った木剣をタユナの鼻先に向けていた。ジェイドの勝ちである。
「参りました。」
タユナがそう言うと、ジェイドは木剣を下した。
完膚なきまでの勝利にもかかわらず、ジェイドは浮かない表情だった。
今回はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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