第13話‐② エイナーの甘く切なく苦い想い出
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
エイナーは昔の甘く切なく苦い思い出を噛みしめながら、その話を無意識のうちに、ジェイドとズーシュエンに語っていた。
二人は唖然として、その話を聞いていた。
ズーシュエンが何と言っていいのやらと言う顔で、
「甘く切ない青春の思い出話ですね……でも、そんな話を奥さんの前でしてしまって大丈夫ですかねぇ。」
とジェイドの方を見て言った。
ジェイドは、眉間にしわを寄せて、とても苦い顔をしていた。
エイナーは思った、ああ、やっちまった。全て焚火の炎がそうさせたんだ。
「貴様は妻子持ちに手を出したのか、クズめ。」
ジェイドからは容赦のない一言を浴びせられた。
何も言い返せないが、黙っていると次から次へと罵倒されるのが分っていたので、言い返してみた。
「その時は本気だったんだよ。私たちが出会う前のことなんだから仕方ないだろう。」
何故かその言葉が、ジェイドを余計に怒らせてしまったようで。
「はあ、出会う前だって。なんでそう言い切れるんだ。貴様は馬鹿だ。」
そう言ってそっぽを向いた。
そして、ズーシュエンに向かって、
「ズーシュエンには、私の初恋の話を教えてあげよう。エイナーの三文小説の様な話じゃなくて、もっと崇高なやつだ。」
彼女の言葉を聞きながら、エイナーは思った。崇高も何もおまえの初恋といえば、多分、五歳までの話だろう、それはきっと崇高だろうな。しかし、十二歳以降に好きな男がいたのだろうか?そう思うと彼の胸は少しざわついた。
ズーシュエンが困り顔で言った、
「それは楽しみだな、でもエイナーに恨まれてしまうかもしれないね。」
するとジェイドが言い放った。
「そんなことで恨むような輩は放っておけばいい。そんな奴はクズを通り越してカスだ。」
ズーシュエンは、ジェイドが虚明堂に来たばかりで、まだ自分の母親が殺されたことを知らなかった頃に、自分に教えてくれた話を思い出した。
その時、彼女はどうしても父親に伝えないといけないことがあるから、一度だけ家に帰らせて欲しいと言ってきた。
その時、母親のムーランが殺されたことは分かっていたが、ジェイドまで狙われているのかどうかは分からず、彼女を不用意に移動させずに虚明堂で預かっておくことにしていた。
そのため、彼女を家に帰す訳にも行かず、どうしたものかと考え、帰りたい理由を尋ねてみた。すると、当時はズーハンと呼ばれていたジェイドが、
「エイナーって男の子が、うちにお母様の形見のペンダントを取りに来るかもしれないの。ペンダントは私の部屋の机の引き出しに入ってるんだけど、そのことを誰にも教えてないから、彼が家に来ても、誰も知らないって答えてしまうわ。彼、泣いてしまうかもしれない。」
「君が家にいないことが分れば、その時は諦めて、君が家にいるときにまた来ようって思うんじゃないかな。だから、泣くことはないと思うよ。其れとも、そんなに泣き虫な子なのかい?」
するとズーハンが、
「私が会った時は泣いてたの、ずっと。お母様のお葬式の日だったから仕方ないと思うけど、だから私は、いつもの彼が泣き虫かどうかなんて分からないわ。でも、きっととっても大切なものよ。困ってると思うの。」
「そうか、それはとても大切なペンダントだね。その子は困ってるかもしれないね。でも、どうしてズーハンがそれを預かることになったの?」
「エイナーがね、このペンダントを見ていると、お母様を思い出して悲しくなるから、自分が大丈夫になるまで預かっていて欲しいって言われたの。だから預かったの。若しかしたらもう大丈夫になってるかもしれないわ。」
その話を聞いてズーシュエンは答えた。
「そのエイナーって子は君にペンダントを預けたのだから、きっと君に直接返して欲しいって思ってると思うよ。だから、お父様に伝えて返してもらうよりも、君がちゃんと返せる時が来たら返してあげた方が喜ぶと思う。それまで待ってもらえばいいんじゃないのかな。」
それを聞いたズーハンは、目を輝かせて言った。
「本当は私も直接返したい。ちゃんとエイナーとお話がしたい。あの時は泣いてたからあまりちゃんとお話が出来なかったの。本当にまた会える日が来るのかしら。」
最後は少し不安になって、口を尖らせて、うつむいた。
「直ぐにとはいかないけれど、必ずいつか帰れる日が来るから、その日を楽しみにしていよう。会えた時にちゃんとお話しできれば、どうして君がそれまでペンダントを返せなかったかの理由もきっと理解してくれると思う。だから、心配しないでその日を待つことにしよう。」
ズーハンは、顔を上げて、再び目を輝かせて言った。
「分かったわ。私、その日を楽しみにここで頑張る。弓以外の武術のお稽古はしないけど。」
多分、ジェイドの初恋の相手はそのエイナーという泣き虫の少年のことだろうと思い、ズーシュエンは可笑しくなった。
口元が緩んで表情も微笑んでしまっていたのだろう、それを見たジェイドがズーシュエンに聞いた。
「ズーシュエンも甘く切ない青春とやらを思い出してたのか?顔がにやけているぞ。」
それを言われ、我に返ったズーシュエンは、微笑みながら返した。
「私も甘く切なく、そして苦い青春の思い出がなくはないですよ。」
「お、どんな話だ?」
ジェイドが俄然身を乗り出した、エイナーも心なしか身を乗り出した。
「私はずっと、物心が付いた頃から、とある数歳年上の女性に憧れていたんです。彼女は向上心が強くて、私のように一か所に留まるようなタイプの人ではありませんでした、彼女が堂を出ると決めた時、私はまだ十三歳だったのですが、彼女を引き留めたくて結婚の申し込みをしたんです。結婚というか、一緒にここで暮らそうって言っただけですけど、自分としては将来結婚したいってつもりで言った言葉でした。勿論、相手にされませんでしたけどね。彼女が堂を出て、四年程経ったときに、偶然再会しました。その時、再度結婚の申し込みをしたんです、今度はちゃんと結婚して欲しいと言いました。でも、断られてしまいました。同じ人に二回プロポーズして、二回とも断られてしまったんです。」
ジェイドが身を乗り出したまま、尋ねた。
「その女はその後どうなったんだ?」
「その人は、他の人と結婚して、幸せに暮らしましたよ。」
少し寂しそうな顔でジェイドが尋ねた。
「ズーシュエンはそれで良かったのか?」
「良かったも何も、彼女の人生です。彼女が自分で選んで、それで幸せになったのだから、それ以上でも以下でもないでしょう。」
そう言ってズーシュエンは微笑んだ。
ジェイドは、何とも納得が行かないようで、
「本当にそんなものなのか?」
と呟いていた。
エイナーが気になって尋ねた。
「もしや、今でもその人のことを思って、独り身でいるとか?」
ズーシュエンは優しく微笑みながら、
「勿論、今でもその人を思い出すことはあります、でも、今は別に懇意にしている方がいるので、いずれはちゃんとその方と身を固めてとは思っていますよ。」
ジェイドもエイナーも驚いて声を上げた。
「え!、そんな人がいたんですか!どんな人なんですか?」
「どんな女だ?」
ズーシュエンはちょっと困りながら答えた、
「その人には十五歳になる息子さんがいまして、六年程前に、旦那に離縁されてしまって、仕事を探して虚明堂の麓までやって来たんです。それで父の菓子屋で働くことになり、知り合いました。私が辛かった時期に支えてくれて、私にとっては太陽の様な人です。彼女も女手一つで子どもを育てて、本当に辛い時期だったと思いますが、そんな時でも私のことを気に掛けてくれて、本当にありがたいです。」
そして、微笑みながらジェイドにいった。
「後、話をしていないのは、ジェイドだけですよ。私だけに話すなんてケチなことを言わずに、今ここで話してしまえば良いじゃないですか。きっとエイナーも聞きたいと思いますよ。」
まさかのズーシュエンからのキラーパスに、ジェイドは顔を赤らめて、
「エイナーには教えてやらないと決めたんだ。もう寝る。」
そう言って、横になって寝たふりをした。
今回はいかがでしたでしょうか?
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