第12話‐② ジェイドと媚薬
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
その頃ジェイドは、市場で昨日のニヤケ顔の男を探していた。
似たような男は山ほどいるが、本人はおらず、昨日の食堂に聞きに行くことにした。
「おやじ、昨日は迷惑かけたね。これお詫びだよ。」
そう言って、金を渡した。
「小僧、良いんだぞ、そんな無理しなくても、大したものは壊れてないし。それより、お連れさんは大丈夫だったかい?」
と言いながらも、金を受け取ってポケットにしまった。
「ピンピンしてるよ。」
「それは良かった、でもお前には本当に驚いたよ、手際もいいし、そんな小さな体で一人で担いで帰るなんて、すごい力だな。」
「まあね。所で、昨日のあのニヤケ顔の男は良く来るのか?あいつに会いたいんだけど。どこに行けば会えるか知らないか?」
「ニヤケ顔?ああ、ヒマルのことか、時々来るよ。この時間だとまだ家じゃないかな、もっと遅くならないと出歩かないと思うよ。」
「ふーん、家ってこの近く?」
「近くだよ、そこの角の道を入っていくと、左側にある青い壁の家だ。母親と二人で暮らしている。」
「ふーん、あいつは薬の売人をしてるのか?」
「まあ、いろいろやってると思うよ、金が要るって言ってたからな。悪いことは言わない、あいつには近づかない方が身のためだ、悪い奴らとつるんでるから、碌な事にならないぞ。」
「分かったよ、忠告ありがとう。」
そういって、ジェイドは店を出た。
オヤジが指さした角を曲がり、細い通路に入ると左側に青い壁の家が見えた。
窓から中をのぞくと、あいつがいた。母親らしき人物はおらず、一人のようだ。
ジェイドは窓からじっと覗き込み、相手が自分の視線に気が付くと、ニヤッと最大限に悪い顔で笑った。
それを見たヒマルは幽霊でも見たかのような顔で後ずさり、後ろの方に駆けて行った。
多分、裏口があって、そこから逃げるつもりだ。
逃がすまいと、ジェイドも家の後ろに回ろうとしたが、家と家の間が狭く入れない。
仕方なく壁を登り屋根伝いに、後ろに回った。
あいつが、裏口を出て走って逃げていくのが見えた。屋根から飛び降りて追いかけた。
ヒマルの逃げ足は速かったが、追いつけない程ではなかった。
しかし、彼が市場の中に逃げ込んでしまったため、見失わないように必死に追いかけた。
市場の通路は狭かったが、お昼も過ぎたこの時間帯では客は殆どおらず、食堂も夜の営業準備をしているだけで、どこの店にも客は入っていなかった。
ヒマルが食堂のテーブルの間を抜けて逃げようとするのを、ジェイドはテーブルの上を走って追いかけ、奴の首元に手を伸ばした、首根っこを掴んで持ち上げた。
ジェイドはテーブルの上に立っているため、首根っこを掴まれたヒマルは宙に浮いた状態だった。
「く、苦しいよ、は、放してくれよ、い、息が出来ない。」
「よし、放してやろう。」
そう言って、彼を地面に叩きつけた。
失神した彼が逃げられないように、紐で縛り、気が付くのを待った。数分もしない内に彼は正気に戻り、自分が縛られていることに気づき言った。
「何も、こんな事までしなくても良いじゃないか、俺が何をしたって言うんですか。」
「お前が飲ませた薬のせいで、私の上司は意識不明の重体だ、彼を助けるために、あの薬の原料と配合を教えろ。」
「重体?そんな薬じゃありませんよ、きっと違うことが原因で意識不明になったんですよ、濡れ衣着せられてこんな目にあわされて、ただじゃ置かないからな。」
「おまえに選択権はないだろう。選択権は私が握っている。」
そう言って、ジェイドはニヤッと笑た。
「あの薬の原料と配合を教えてくれたら、大人しく放してやるって言ってるんだよ。」
「そんなこと言われても、私が作ってる訳じゃないから知らないですよ。」
「じゃあ、知っている奴の所に案内すればいいだろう。」
「誰が作ってるかなんて知る訳ないでしょう。」
「おまえは誰かからあの薬を受け取っているだろう。空から降ってくるのか?井戸から湧いて来るのか?馬鹿な会話を続ける気はない、早く言え。」
「言えないんですよ、言ったら酷い目にあう。もう助けてくださいよ。悪かった、薬を酒に入れたことは謝りますから、許してくださいよ。」
「そのことはもういい。まあ、今すぐ酷い目に合うか、後で合うかの違いだ、好きな方を選べ。」
そう言って、胸元から首から下げていた袋を出して、その中から錠剤と丸薬をひとつずつ取り出し、彼に向かって言った。
「好きな方を選ばせてやるよ、どっちがいい?『白い錠剤』と『黒い丸薬』。」
「飲むとどうなるんです?」
「一つは下剤だ、三日三晩下痢をする。もう一つは、死ぬ。」
本当はどちらも師匠からもらった薬で、一つは解毒剤、もう一つは痛み止めであった。下痢もしないし、死にもしない。
「飲みたくなかったら、素直に連れていけ。」
ヒマルは諦めてジェイドを自分たちのアジトに案内することにした。
よくよく考えればこんな小僧、多少、腕っぷしが強くても、アジトにいる屈強な奴らにかかれば、一溜りもないだろうと、敢えて連れていくことにした。向こうに着いたら、たっぷりと仕返しをしてやると、ヒマルははらわたを煮えくり返えらせていた。
いかがわしい店や宿が立ち並ぶ一角にやって来た。その中の建物の中に案内され、紐で縛られたヒマルに続いてジェイドも中に入った。
中に入ると、ガラの悪そうな男が十名ほどと、派手な化粧と服装の女が数名いた。
地べたに座って水たばこを吹かしているもの、ソファーで寝ているもの、カードゲームのようなことをしているものなど、皆なそれぞれ自由に時間を過ごしていた。
そんな中に、突然紐に縛られた仲間を連れた、謎の少年が入って来た。
「ヒマルどうした?何がどうなってるんだ?そいつは誰だ?」
奥の方からしゃがれた声がした。派手な女二人を両側に侍らせて、いかにもここのトップですと言わんばかりの風格だ。
「すいません、こいつに捕まって、あの薬の作り方を教えろって五月蠅くて。」
ヒマルがそう答えると。
「薬?何の薬だ?うちじゃあそんなものは作ってないぞ。」
としゃがれ声の男が返した。
ジェイドが辺りを見回すと、扉の隙間から、奥の部屋の作業台の上に、乾燥した薬用植物や、それを処理する器具の様なものが置いてあることに気づいた。
「昨日、こいつに薬を盛られた私の連れが、その薬のせいで重体なんだよ、医者に聞いたら、まずはその薬の成分が分からないと治せないと言われてね、申し訳ないけど、探させてもらうよ。人の命が掛かってるんだ。」
そう言って、ジェイドはずかずかと奥の部屋の方に向かって行った。
三人の男に行く手を阻まれた。
「どいてくれ。」
ジェイドがそう言うや否や、一人の男が殴りかかって来た。
その男の拳を左手で受け、相手のみぞおちに一発見まわせた。次は二人同時に殴りかかってきた。片方の男の後頭部に回し蹴りを食らわせ、もう一人の男は、蹴りをくらった男に頭突きをされる形になって、倒れた。
特に何事もなかったかのように、ジェイドは先に進んだ。
他の男たちが、彼女を囲んだが、全く相手にならず、先の三人と同様に直ぐに全員のされてしまった。
女たちは部屋の片隅に固まって、震えながら身を寄せていた。そちらには目もくれず、ジェイドは隣の部屋に入って行った。
しゃがれ声の男が、ジェイドに行った。
「いくら何でも、これは酷いじゃないか。俺たちが何をしたって言うんだ。勝手に人のアジトにずかずかと入って来て、薬の作り方を教えろって、俺たちよりよっぽどお前の方が悪党だ。」
その時、後ろで倒れていた男の一人が、立ち上がり短刀を手にジェイドに襲い掛かった。ジェイドはそれをかわし、自分の左脇で相手の短刀が握られた右腕をしっかり挟み、変な方向に捻じって力を込めた。男の右手から変な音がして、男が悲鳴を上げた。
「私だって、こんなことはしたくない。でも、彼は私の大切な人なんだ。孤児だった自分を拾って育ててくれた恩人なんだ。まだ私は彼に何の恩返しも出来ていない。私が五歳の時だ、両親とはぐれて道端に座りこんで、何日も何日も食べるものも寝床ものもなく、野犬に襲われ、蛇にかまれ、蜂に刺され、気力もなくなり、蠅にたかられ、ウジも湧きだし、もうこのまま死んでしまうのだろうと思った時、彼が助けてくれたんだ。そんな恩人が、今、虫の息で意識不明の状態なんだ、何でもいい自分に出来ることをしなければって、君たちに危害を加えたい訳じゃないんだ、ただ、ただ、あの人を助けたいんだ。薬の成分が分れば助かるかもしれない……ただその一心で、済まない。」
そう言って、ジェイドは泣き崩れるふりをした。
ヒマルは思った、こいつは正真正銘の大嘘つきだ。
昨日の話も、今日の話も全く一貫性がない。頭がどうかしている。ちょっと顔がきれいだからと、かかわってしまった自分を呪った。
奥の女たちは、ジェイドの話を聞いて、同情したのかおよおよと涙を流していた。
しゃがれ声の男も同情したのか、
「薬の作り方はそこの紙に書いてある、材料もそこにあるから好きなだけ持っていけ。それと、もう二度とここには来ないでくれ。」
と言った。
それを聞いたジェイドは顔を上げて、
「本当かい?ありがとう。この恩は一生忘れないよ。もう二度とここにも来ない、約束するよ。」
そう言って、作業台の上の紙を眺め、そこに、興奮作用や催淫作用があるとされる成分を有する薬用植物名が書かれていることを確認し、そこに書かれている薬草と、書かれてないけど変わった薬草を大きな布に包んで背中に背負って、意気揚々と帰って行った。
ズーシュエンが宿の裏庭を通りかかると、裏口の所でジェイドが大きな布を広げ、ゴソゴソと作業をしていた。
裏口の外にはもう使われなくなった竈があり、そこには大きな古い鍋がのせられていた。
ズーシュエンがジェイドに尋ねた。
「媚薬の作り方が分かったんですか?」
「うん、これだよ。」
そう言って、アジトから持ち出した紙をズーシュエンに見せた。それを見たズーシュエンは眉をひそめた。
「これを作るんですか?」
「ああ、奴らは粉末にしてたみたいだけど、私は道具を持ってないから、一先ず煎じてみようと思う。後は配合と濃度や量を調整して、記憶が飛ばない良い感じの薬を作るんだよ。」
「調整ってどうやって調べるんですか?」
「一先ず、エイナーに飲ませてみるよ。」
「飲ませるって、彼は同意してるんですか?」
「聞いたら断られる。黙って飲ませるしかないだろう。」
二人の会話を裏口の中側で聞いていたエイナーは、その会話を聞いて、唖然としたが、黙って二人の会話をそのまま盗み聞きした。
「相手の同意もなく人体実験のようなことをするなんて、倫理的に許される事じゃないでしょう。」
ズーシュエンにそう言われ、落ち込みながらジェイドが答えた。
「そうだけど、じゃあどうすればいい良いのさ。自分で飲んで調べるよ。」
「何を考えているのか私にはわかりませんが、薬に頼る必要なんてないでしょう。二人はとても仲が良いように見えるし、これ以上、惚れさせる必要なんてないんじゃないのかな。」
「でもさ、それって、私のことを女として好きなのかなんて分かんないじゃない。妹とかペットを可愛がるようなものかもしれない。そしたら、何時か、エイナー好みの綺麗な女に、彼を取られてしまうかもしれないじゃないか。」
「それが心配の種だったって訳ですか。なるほど。」
「世の中には、綺麗で色気があって、品もある女が腐るほどいる。そんな中から、わざわざ、ささくれ立ったマッチ棒なんか選ぶ方がおかしい。」
「ジェイドはマッチ棒なんかじゃないでしょう。そんなこと言ったら、ご両親が悲しみますよ。誰がどう見て素敵な女性じゃないですか。とてもチャーミングです。ただ、所作のせいでしょうかね、その魅力が人に伝わりにくい。」
「所作?」
「本気で、綺麗で色気があって、品がある女性になりたいならば、自分がそう思う人の真似をすればいいんですよ、所作が変われば段々と内面も品よくなってくるものです。それに、エイナーと一緒にいるときのあなたはとても素敵な良い顔をしている、彼と一緒にいることが、二人にとっての一番の媚薬かもれないですね。」
そう言われて、すっかり媚薬作りへの興味が失せたジェイドは、媚薬の材料を捨てようとしたが、ズーシュエンに薬屋に行けば売れるから、売ってきなさいと言われ、奪い取って来た薬草を薬屋に売りに行き、結構な小銭を稼いだ。
その後、ジェイドはズーシュエンの立ち居振る舞い、喋り方を真似するようになった。
また、エイナーに金魚の糞のように付きまとった。
エイナーは些か迷惑だったが、ことの経緯を知っていたため、無下にも出来ず、困りながらも一緒に行動していた。
しかし、数日もするとジェイドの『女としての魅力』への興味は完全に失せたようで、いつもの平常運転に戻っていた。
それにしても、ズーシュエンのジェイドの扱いは天下一品であると、エイナーは心から感心していた。
今回はいかがでしたでしょうか?
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