第12話‐① ジェイドと媚薬
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
主に、水、土、日あたりに2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
帰り道、宿の近くの食堂で夕食を取ることにした。
いつもは宿の食堂で食事をしていたが、今日は気分を変えて違う食堂に行くことにした。
いつもの食堂とメニューもさほど変わらず、味の違いもそこまで分からず、どちらかといえばいつもの食堂の方が口に会う気もした。
食後にエイナーはワインを、ジェイドはお茶を飲んでいた。
店員がジェイドにサービスだと言って、四角いモチモチしたお菓子をくれた。
「子どもだと思われてんのかな、よくお菓子とかもらうんだよね。」
東方の人たちは若く見える傾向があるような気がする、ジェイドも十四、五くらいに見えると言えば見える。そういえば、リュウ・ズーシュエンは幾つになるのだろうか?などと考えながら、ジェイドが、そういうことを気にするのかと以外に思い、エイナーが尋ねた。
「年相応に見られたいのか?前はお菓子を貰ったら喜んでいただろう。」
「当たり前だろう、誰も私たちを夫婦だと思ってくれない。それに、私はもう、お菓子なんかで喜ぶ歳じゃない。」
「それは、服装のせいだよ、気にすることないよ。」
「私たちは釣り合ってない様な気がする。」
「どういう意味で?」
ジェイドはテーブルに顔を乗せて、不貞腐れたように言った。
「見ればわかるだろう、エイナーは良い感じだけど、私はちんちくりんだし、子どもみたいだし、男の子に勘違いされることもあるし。」
あれだけ姉に罵倒され、ダメ男呼ばわりされた人間を捕まえて、いい感じなんてよく言えたものだなと思いつつも、
「行儀が悪いぞ。もし、男の子に間違われたとしたら、それは服装のせいだ、今は仕方がない。ドレスを着て旅をしたいなら、別に止めなはしないけど。」
エイナーがそういうと、テーブルから顔を上げて、頬杖をついたジェイドが口を尖らせて言った。
「エイナーには分からないんだよ、この複雑な気持ちが。」
そういって、テーブルに突っ伏した。
酒を飲んでもいないのに、くだを巻きだした。今まで自分の外見のことで何か言いだしたことなんてなかったのに、今日はどうしたのだろうと不思議に思い、可能な限りの誉め言葉を掛けようと頑張った。
「ジェイドはきれいだよ。美人だし、スタイルもいいし、笑うと可愛いし、何を着ても似合う。」
突っ伏したまま答えた。
「良いんだ、慰めなんていらない、どうせマッチ棒は頑張ったってマッチ棒なんだよ。女としての魅力なんてないんだ。」
「何と比べているんだ?」
「初めて姉上たちに会ったのは、私が四歳の頃だ、その時既に二人は美女が出来上がっていた。良い匂いがしたし、色気もあった。」
まさかと思ったが、ロアンと自分を比べて僻んでいたとは、あんなのを手本にされたら堪ったものじゃない。
「あの二人は特別だよ、生まれた時からそういう方面に、自分たちの関心の全てを注ぎ込んでいたのだから。ジェイドも今回の件が落ち着いたら、好きなだけ自分の関心を注ぎ込めばいいだろう。」
「ああ、もしこのまま死んじゃったら、マッチ棒のまま消えていくんだ。墓石だってマッチ棒みたなのが建てられるんだ。」
「怖気づいたなら、家に帰るぞ。」
突然、顔を上げて、
「怖気づいてなんかいないよ、じゃあ、私のどこに女としての魅力を感じるか言ってくれよ。」
「そういうことは、部屋に帰ってからゆっくり話そう。」
そう言って、エイナーは席を立った。
トイレか会計だろうと思い、ジェイドは突っ伏したまま席で待っていた。
一人の若者が彼女の側に近づいてきたのに気づき、顔を上げた。
やたらニヤニヤした顔でこちらを見ている。
そういえば、さっきからこちらをチラチラ見ていた男がいたが、多分彼だろうと思い、
「何か用か?さっきからこっちを見てただろう?」
「いや、気づかれてましたか?きれいな顔立ちの二人組だなと思い、つい見惚れていました。」
「男を探してるのか?だったら他を当たってくれ、私はニヤケ顔の男には興味はない。」
「そんなあからさまな言い方をしなくても、そういう訳じゃありませんよ。お二人はどういった関係ですか?」
「上司と部下でデキている。職場では秘密の関係だ。なんか文句あるか。」
とジェイドは答えて、再びテーブルに突っ伏した。
その隙に、その男がエイナーのワインに何かを入れたことに気づき、ジェイドは再び顔を上げた。
「今、何を入れた?」
「何も入れてませんよ。」
ジェイドはその男が手に、薬包紙のようなものを握っているのに気づき、それを奪い取ろうとした。
男は奪われまいとして逃げた。逃げ足の速い男で、途中で見失ってしまい、次に会ったら打ちのめすと心に誓いながら、その時は店に戻った。
戻ってみると、エイナーがそのワインを飲み干していた。
「どこ行ってたんだ?」
「何で飲んでるんだ!」
その後、エイナーは背後からジェイドに両腕でホールドされ、胃の辺りを両方の拳で思い切り押し上げられた、ジェイドが大声で何か叫んでいる、
「おやじ、桶と水を持ってきてくれ、毒を盛られた。」
そんな声を聴きながら、段々意識が遠のいて行った。
意識がもうろうとする中、ジェイドが自分の顔の周りの匂いを嗅ぎながら、何か言っているのが聞こえた。だが水の中にいるようではっきり聞こえない。
気が付くと朝になっていた。
宿の部屋のベッドで寝ていた。
起き上がって周りを見渡した。
自分は服を着ていない。隣には、同じく服を着ていないジェイドが、こちらに背中を向けて丸まった態勢でスヤスヤ寝息を立てて寝ている。
よく見ると、彼女の腕や胸元には青あざや噛まれた跡がかなりあった。自分もなんだか背中がヒリヒリして痛いような気がする、肩のあたりを見てみると、引っ掻かれたような跡があった。
頭を抱えて、昨日のことを思い出そうとしてみた。
多分、ジェイドがこの部屋まで運んだのだろう、彼女の肩に担がれていたような気がする。
その後、彼女が自分の体をやたら触っていたような気がするが、服を脱がせていたのかもしれない。
彼女が何か言いながら、悪そうな笑みを浮かべて、自分の上に馬乗りになってきたような気がする。
総合すると、昨晩、自分は、『ジェイドに犯された』ってことか……『返せ俺の純潔を』。
冗談はさて置き、もう一度辺りを見まわし状況を確認した。
特に変わった様子もない、二人以外誰もいない、部屋の鍵も内側から掛っている。窓も締まっている。
考えてみれば、こんな時間までジェイドが寝ていることが異常である。ベッドにいたとしても必ず目を覚ましていた。
心配になり、彼女を揺さぶって起こしてみた。
「なに……まだ眠い。疲れてヘトヘトだか……」
と言って眠りに戻って行った。問題はなさそうだ。
体中の痣や傷もお互いに付け合っただけだろう、それにしても、どんな状況だったのだろうか?
考えても思い出せないので、まあそんなこともあると思い、一先ず、身支度を整えて下に降りて行った。
下に降りると、食堂の窓際の席にズーシュエンが座っていて、何か事務作業の様な事をしていた。
「今日は、随分ゆっくりでしたね。ゆっくり眠れましたか?」
優しい笑みで問い掛けてくれた。
「昨晩、夕食の時にどうやら酒に薬を入れられてしまったようで、その後の記憶がなくて。」
「え、それで大丈夫なのですか?」
「ええ、飲んだ直後にジェイドが吐き出させてくれたみたいで、とりあえず問題はなさそうなのですが、記憶がないのがなんとも。」
食欲がないので、お茶だけ頼んだ。
自分も今までの発注処理などがあったことを思い出し、ズーシュエンと一緒に事務作業をしていた。
暫くすると、ジェイドが下りてきた。
「腹ペコで死にそうで目が覚めた。」
と言って、朝食を頼んだ。と言ってももうすぐ昼である。
やたら機嫌が良さそうだったので、エイナーが尋ねた。
「今日はご機嫌だね。」
「当たり前じゃないか、これが女の幸せってやつなのかな。」
何故か恍惚とした顔をしている。
「昨日の悩みが解決したってことかな?」
「解決はしていないけど、対症療法による症状の緩和には至ったと思うよ。」
朝食が届くと、ジェイドはそこに付いている桃をフォークで刺して、それをこちらに向けながら、言った。
「エイナーは硬い桃が好きなんだよね。」
いや、柔らかくなった方が好きだけど、昨晩、自分は何か言ったのかな?と不思議に思い、一生懸命食べているジェイドに尋ねた。
「昨晩の記憶がないんだけど、どういう経緯でああなったの?」
「昨晩って、どこからの記憶だ?」
「食堂で、ワインを飲んで、君が『何で飲んでるんだ!』って叫んで、全部吐かされた後の記憶が、殆どないんだよ。」
ジェイドが冷ややかな目でこちらを見て、言った。
「何で覚えていないんだ。」
何故、責められなければならないのか分からないが、一先ず誤った。
「ごめん。薬のせいだと思うけど……」
こちらの謝罪を無視して、ジェイドはズーシュエンに質問をした、
「この辺りで、媚薬を売っている店を知らないか?」
思ってもいなかった質問が飛んできたようで、少し悩んでから答えているようだった。
「媚薬?媚薬かどうかは分からないけど、市場に行けば、非合法で興奮剤や幻覚剤の様なものを売っている人たちはいるよ。お店じゃなくて売人と呼ばれる人が売っていると思うけど、そんなことを聞いてどうするんだい?」
「昨日、エイナーに薬を盛った奴を探しに行こうと思う。」
「懲らしめに行くのかい?既に彼は元気そうだし、そこまでする必要はないと思うけど。」
困りながらも、優しく諭すように言った。
「勿論、懲らしめる。あと、原料と調合を聞いて来る。」
「何のために?」
「それは、秘密だよ。」
そういって、再び朝食を食べだした。
朝食が終わると、ジェイドは市場に行くと言って出かけて行った。
心配そうにしているエイナーにズーシュエンが言った。
「この辺りのごろつき程度ならば、何人束になって掛っても、彼女ならば問題ないでしょう。その点は心配ないのですが、以前も、一度何かに興味を持つと、飽きるまでは異様に執着していましたね。大人になっても変わってなさそうですね。今回は媚薬ですか、厄介そうだ。」
「媚薬……なんでまたそんなものに?」
と思いつつ、昨日の食堂でのグダグダした彼女の愚痴を思い出し、女の魅力を薬で手に入れようということなのか?と推測した。
「ジェイドってどのくらい強いんですか?」
少し悩んでズーシュエンが言った。
「そうですね、技術や技量だけの話ならば、彼女は十二歳の時点で、既に彼女の母親が十六歳で堂を出た時よりも強かった。ある意味驚異的です。」
「じゃあ、今回の敵討は特に問題なくできるってことですか?」
「それが、そうとも言い切れなくて。奴は心理的に相手を追い込むのが得意です。彼女が追い込まれずに対処できるかが心配です。そこが崩れると、どんなに技術や技量が素晴らしく、時には経験値があっても、全てがた崩れになることもあります。それに、彼は用心深く、逃げ足も速い。何重にも逃げ道を準備していて、いつでも逃げられるようにしている分、彼の方が精神的に有利に戦える。それに、彼は真っ向から勝負することがほぼないので、本当の実力が良く分からないんです。」
「油断はできないってことですね。」
「そうですね。」
再び、お互いの作業に戻った。暫くして、ズーシュエンが顔を上げて、
「彼女の記憶がないのをいいことに、何食わぬ顔で普通に接してしまっている。本当はその前に、謝らなければならないのに。心苦しいが、正直、とても幸せを感じています。駄目ですね、どうしても自分には甘くなってしまう。」
そういって、寂しそうに笑った。そして付け加えて言った。
「あ、そういう心配は必要ありませんからね。彼女はあくまで昔の教え子というか、その……、私の大切な人の娘さんなんです。」
と言って、いつもの優しい笑みを見せた。
今回はいかがでしたでしょうか?
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