第11話 上の姉ロアン VS ジェイド
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
今の所、毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
ズーシュエンとも無事合流でき、街の様子も少しわかって来たので、エイナーは、いよいよ上の姉に会いに行くことにした。
本音を言うとあまり会いたくない。
幼少期に双子の姉二人にはそれなりのトラウマを植え付けられたが、特に上の姉は今でもこの世で一番怖い女性と言っても過言ではない存在だった。
継母のイレノアが魔女ならば、上の姉ロアンはエイナーにとっては悪魔である。
何かの手違いで謁見が叶わないことを心の片隅で望んでいたが、問題なく彼女への謁見が認められ、エイナーとジェイドは大広間に通された。
ああ、姪っ子が生まれた時以来だから、三年ぶりか。姫君を姪っ子と呼んでいいのか悩むが、皇太子の嫁ともなるとたとえ第二夫人であったとしても、おいそれとは実家へも帰れず、気軽に自分の親に孫を抱かせることもできず、自分で望んだとは言え、随分と不自由な生活をしているなといつも感心していた。
目の覚めるような青の衣装を身にまとった姉が、いや、皇太子第二夫人が二人の侍女を連れて颯爽と登場し、自分たちの前に座った。
上背もあり、顔立ちや雰囲気はエイナーにそっくりなのだが、自信に満ち溢れ、気の強さが前面に押し出されているところは彼女の特徴だった。腰よりも伸びた長い艶のある亜麻色の髪、琥珀色の瞳、長いまつ毛と、非の打ちどころのない美人ではあるが、威圧感が強く、話しかけることすら許さないという雰囲気を身にまとっていた。
エイナーは胸に手を当てて、挨拶をした。
「ロアン妃殿下、本日は、拝謁賜り恐悦至極に存じます。妃殿下に置かれましては、ご機嫌、見目伴に麗しく何よりのことと存じます。」
横で、ジェイドも胸に手を当てて一礼した。
ロアンは自分の爪先を眺め、エイナーを一瞥して、言った。
「まるで、美しいのは外側だけみたいな言い方ね。」
いちいち嚙みついて来る、面倒くさい。
と、エイナーは心の中で思いつつも、一先ず笑みを絶やさないよう努めた。
ロアンはジェイドの方に目を向けて、微笑みながら言った。
「ジェイドちゃん、本当に久しぶりね。大きくなったわね。相変わらず可愛いわ。エイナーのお嫁さんになってくれるなんて、本当に優しい子。所で、その男はあなたに服を買ってあげないのかしら?」
そう言われ、ジェイドが答えた。
「ロアンお姉さま、ご無沙汰しておりました、本当に久しぶりです。私を呼ぶときはジェイドでいいですよ。服は持っていますが、旅の途中ゆえ、このような服装で拝謁いたしますこと、心よりお詫びいたします。」
それを聞いたロアンが首をかしげて、
「旅?結婚の報告に来たんじゃないの?」
エイナーが答えた。
「勿論、結婚の報告が目的ですが、この足で、サムート・ハンに会いに行こうと思ってます。彼の現状をご存じでしょうか?」
「サムート・ハンって、シャナームトの友人で、アルーム国皇太子の?」
シャナームトはロアンの夫の名前である。
アルーム国は現在モラン国の支配下になっている国である。
双子の姉ロアンとハンナには、子ども頃、頻繁にいじめられた。
何か気に食わないことがあったのだと思うが、木に縛り付けられて何時間も放置され、母親や乳母が見つけに来るまでそのままにされたこともあった。
子どもの三歳差は大きな差で、しかも相手は二人組。その上、少しでもエイナーが反抗して彼の手が彼女たちの体に触れようものなら、男のくせに女の子に暴力をふるったと言っては非難した。
二人は自分たちの九歳の誕生日プレゼントに、ロアンは鞭を、ハンナはクジャクを希望した。
その頃、ロアンは巡業でやって来たサーカスの猛獣使いを見て、憧れを抱き、ずっと父に鞭とライオンを買ってくれとせがんでいた。
さすがにライオンは買えなかったので、誕生日に鞭と豹柄の猫がプレゼントされた。
ハンナは鞭を振り回しご満悦だったが、叩くものがないことに不満を抱き、難癖をつけてエイナーの腕や背中を叩き、彼に脅しをかけた。
「このことを誰かに言いつけたら、また鞭で打つからね。」
怒り心頭のエイナーは、叩かれた跡が分かるように、袖の短いシャツを着て、父に直談判にいった。
「ロアンの鞭を取り上げて。」
叩かれたことは一言も言わずに、その一言だけを言ったのだが、腕に残る蚯蚓腫れを見て父も直ぐに状況を理解し、ロアンから鞭を取り上げた。
ロアンは泣きながら、主張した。
「私は悪くない、鞭の練習をしている所にエイナーがやって来て、自分から当たったんだ。私のせいじゃない。」
そんなことがあったので、第二夫人となった彼女が鞭をちらつかせて、気に入らないことがあれば、誰これ構わずに打ちのめしているのではないかと面白半分に想像していた。
ただ、ロアンは昔から女の子には優しかったので、叩かれるのは男だろうなと思っていた。
「あんたが馬鹿なのは昔から知っていたけど、こんな時にアルーム国に行こうなんて、世間知らずなの?それとも本当の馬鹿なの?しかもジェイドも連れてそんな危険な場所に行こうなんて、頭がおかしいとしか思えない。」
エイナーはロアンの反応を予想していたので、特に何とも思わなかったが、ジェイドはエイナーが自分のせいで馬鹿にされるのを聞いて嫌な気分になった様で、エイナーの横で拳を握り締めて怒りを抑えているようだった。
しかし、ここに来る前に、エイナーからマラトへの復讐のことは本当に信用している人間にしか喋ってはいけない、特にこの辺りでは、どこに彼の手下が潜んでいるか分からないため、たとえエイナーの姉達であっても容易にはその話はしないようにと言われていたので、何も言わずに黙っていた。
「こんなか弱い女の子に剣なんか持たせて、これじゃ妻じゃなくて、お供の者じゃない。彼女を、結婚相手を何だと思っているの?」
エイナーも確かに、この状況を見ればそう思われてしまうのも仕方ないなと思い、甘んじて罵倒されつつも、どう話を持って行こうか考えて答えた。
「彼女は妻ですが、それと同時にこの旅では同志のようなものです。彼女の剣技は私より素晴らしく、強さは並みの士官ではかなわない程です。今回は私の我儘に付き合わせてしまう形にはなりますが、彼女も納得して付いてきてくれています。」
「そんな話をしているんじゃないのよ、そもそも、あんたと、ガイアム国王軍の士官が弱いってだけの話じゃない。妻よりも自分が弱いことを嬉々として話している士官を生まれて初めて見たわ、恥を知りなさい。エイナー貴方の価値はどこにあるの?夫として彼女に何をしてあげられるの?領主の長男だから生活には困らない?国王軍の連隊長だからエリートの妻の座を与えられる?そんなの自分自身の価値じゃないのだからね、その辺をはき違えていると、碌な人生送らないわよ。」
酷い言われ様だが、完全に外れている訳でもないので、夫としての自分の価値を述べよと言われても、何も言い返せない。今回はしくじった。
「私のことは良いのですが、余り国王軍の士官のことをそういう風に言うのは宜しくないかと、それに私はもう連隊長でも士官でもありませんし……」
とエイナーが言いかけた隣で、ジェイドが言い放った。
「これ以上エイナーのことを悪く言うのであれば、たとえ姉上であっても私は容赦はしない。私への宣戦布告ととらえます。」
『売られた喧嘩は必ず買う、そして勝つ。』それが彼女の信条だった。
全員が唖然とする中、ジェイドが続けた。
「エイナーは私のことを理解しようと努力してくれています。私は五歳から十二歳の記憶がなかったりと些か複雑な背景を持っていますが、それでも理解しようと努めてくれます。何だかんだ五月蠅いことを言うけど、結局最後は私の我儘も聞いてくれるし……」
そこで言葉が詰まり、少し考えているようだった。
エイナーは心の中で『それだけか?もう終わりなのか?』と焦りを感じた。
「気まずい雰囲気になると、気を使っていろいろ話をしてくれます。それがいつも想像の斜め上を行っていて、なかなか面白いと思うし……剣技が私より低い訳ではないし、彼は強いです。」
また言葉に詰まり、考え出した。指を折って何かを数えている。
再び、エイナーは心の中で、『想像の斜め上というのは、遠回しなクレームととらえるべきなのか?』と悩んだ。
「多少のことでは驚かないし、切り替えが早いし、人を往なすのが上手いし、転んでもタダでは起きないし、手先が器用で三つ編みもしてくれます。折り紙も折ってくれるし。私の犬にも懐かれたし、肌艶もいいし、結構頑丈だし。」
もう何が何だか分からない話になってきている。
「他の人とはしたことがないので、分かりませんが、キスも上手いと思うし、夜も満足しています。」
耳まで真っ赤にして、最後にそう言った。
大広間からロアンの居住スペースの手前にある、彼女専用の面談室に場所を移動した。ここから先は関係者以外立ち入り禁止である。
ロアンが少し迷惑そうに言った。
「今は、あの辺の話題には触れたくないのよね。こんな時にわざわざ行く必要ないでしょう。」
と言いつつも、夫であるシャナームト皇太子に伺いを立てに人を送ってくれた。
ジェイドの熱意に免じて、サムート・ハンと会えるように出来ることは取りなしてくれることになった。
「皇太子も、サムート皇太子のことは心配していたから、貴方が会いに行きたいというのであれば、何か手助けをしてくれるかもしれない。でもどうしてそこまで彼のことが心配なの?」
「彼とは約束をしていたのです、お互いに何か困ったことがあったら、助け合おうって。」
それは事実だった。
ロアンの結婚式に出席した際にエイナーはサムートと出会った。一方は皇太子、もう一方は領主の長男、立場は違えど似通った所もあり、年齢も近かったため、直ぐに意気投合した。
その後も、お互いの将来への心配や悩みなどを、手紙で相談し合っていた。文通していたのは一年程度で、その後はお互いに忙しくなって、手紙を書くこともなくなってしまっていたが、ああいった相談をし合えた相手は彼以外に居なかったと思うし、時々彼のことを思い出し、彼ならばどうするだろうか?などと考えることもあった。
学生だった時分に、一度彼を訪ねてアルーム国に遊びに行ったことがあった、とても温かく迎えてくれた。今思えば、心の支えの様な人だったのかもしれない。
この旅の出発前に、実家に置いてあった手紙を読み直し、そんな気持ちを思い出していた。
暫くすると、シャナームト皇太子とその家臣が面談室にやって来て、彼らが知っているモラン国周辺の現状を詳しく教えてくれた。
戦闘も随所で起こっているし、治安もかなり悪くはなっている。国民の避難や亡命への規制は行っているが、そのような状況に便乗して儲けようとする商人や、傭兵などは普通に出入りしているということだった。
アルーム国王が暗殺され、サムートが国王を継ぐ前にアルーム国がモラン国の支配下に置かれてしまい、現在、サムートはモラン国の家臣と言う立場になってしまっているが、存命であることも分かった。
また、現状では何の役にも立たないかもしれないかも言いつつ、彼の名前で紹介状を作成してくれた。
エイナーが軍を辞めて、夫婦二人で領主お抱えの商人をやっている話をすると、ワイン、馬、羊毛などを購入してもらえることになった。
「結婚したかと思ったら、仕事辞めて、フラフラしているなんて信じられない。本当に大馬鹿な貴方らしいわ。」
と、ロアンからはあからさまに呆れられた。
そんなロアンはシャナームト皇太子の隣でずっと、さっきまでとは別人のような愛らしい表情で、彼の話に終始耳を傾け、彼と目が会うたびに天使の様な微笑みを返し、小鳥のさえずりの様な声で答えていた。
そんな機会が訪れることはないと思うが、一度ゆっくりシャナームト皇太子とは酒を飲みながら、夫としての自分の価値をどこに見出すべきなのか、語り合いたいと思った。
今回は、ロアンが相手と言うこともあり難儀したが、ジェイドのおかげで、いろいろと有意義な情報も入手できたし、売り上げノルマも減らすことが出来た、上出来と言っていいだろう。エイナーは清々しい気分で宿へ向かった。
「エイナーにもこの旅の目的があったんだね。」
と、道すがらジェイドに尋ねられ、エイナーは答えた。
「いや、実はずっと忘れていたんだよ。でも、君に付いていく準備をしている段階で思い出してね、彼に会うことで今回の俺たちの目的達成に役立つこともあると思うし、たとえ些細なことでも何か自分に出来ることがあればと思って。」
「そうか、何か出来るといいね、私も手伝うよ。それと、エイナーが私のことを同志だって言ってくれたことが嬉しかった。私もそう思っている。」
そうジェイドに言われて、
「ありがとう。」
と、エイナーは返した。
そして、一つジェイドに釘を刺しておかなければならないことを思い出した。
ただ、満足していると言われて悪い気分はしないため、頭ごなしに人前でそういう話をするなと言うのも可哀想な気がしたので、やんわりと伝えることにした。
「あのさぁ、その、夜がどうこうって話は、二人の秘密ってことにしておく方がいいと思うんだよね。」
「どうして?」
「その方が、楽しいっていうか、ワクワクする感じがしない?」
「二人の秘密ねぇ……うん、わかった、そういうことにするよ。」
今回はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>




