第137話 結婚式
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
今回でこのお話は完結となります。
お読みいただいた方、興味を持ってくれた方、ありがとうございました。
四人はユーリハを離れ、イーロアに立ち寄り、イズミール地方の都市を巡り、西山に立ち寄り、冬の間の一月ほどを西山で過ごした。
西山での生活でジェイドが記憶を取り戻すことはなかったが、沢山の人々が彼女の無事と再会を喜んでくれた。
機会があればその時のお話もどこかでしたいと思います。
そして、北の領地ノーサンストに遅めの春がやってきて、二人の結婚式が一週間後に迫っています。エイナーの実家はこの一月の間、盛大な式の準備に追われていました。
忙しなく準備が進む中で、二人も招待客を迎える準備に追われています。
「一日だけど、姉上たちも出席できるって。」
「本当か! 嬉しいな。」
「それに、サムートからの手紙も来ているよ。やはり、アルーム国は独立国に戻るらしい。それに、マルチナは意識が戻って体調も良くなっているらしい。ジェイドによろしくって。あと…アシルからは荷物が届いている。」
そう言って、アシルからの荷物を解いた。中には、男物の服が一枚と手紙が入っていた。
「エイナーにだけ服を送って来たのか?」
「なんだろうね?」
エイナーはそう言って、手紙を開いて読んだ。
「この服は贈り物じゃない、アシルの服だよ。」
そう言って読んでいた手紙をジェイドに渡した。
そこには、『二人とも元気かい? 式の日取りを教えてくれてありがとう。ムンド国も独立国に戻り兄が国王になる。サムートも同じような状況で式には出席できない。その代わり僕が行くよ。この服は、出席する際に着用するつもりだから、きれいにハンガーにかけておいてくれ。』
「アシル、来られるんだ! 凄いな。」
「なんだか、アシルらしいな。」
そう言って、エイナーは嬉しそうに服をハンガーにかけた。
「アクセルはいつ来るんだ?」
「アクセルは式の前日には来られるらしい。奥さんと子どもたちも一緒に来るって言っていたよ。」
「賑やかになるな。」
「アリマとフォンミンは?」
「アリマは、そろそろ到着すると思う。フォンミンは来ないって。気を使ったんだろう。」
「そうか、そうだよね。虚名堂の関係者は出席しないって言っていたもんね。」
「まあ、そうだよね。」
ジェイドも少し寂しそうだったが、西山に立ち寄った際に、既に二人の結婚を盛大に祝ってもらっていたので、エイナーとしてはハリスのことを考えると、それはそれで仕方ないと言う気持ちになっていた。
突然、ジェイドにそっくりな東方人が現れたら、大騒ぎになることは目に見えている。
西山に立ち寄った際に、ズーシュエンの妹のュエフゥアがくれた二枚の絵を部屋に飾っていた。
一枚は、ジェイドとエイナー二人が、白、薄桃色、赤の梅の花が咲き誇る中で微笑んでいるもの。
もう一枚は、ジェイド、エイナー、ズーシュエン、マチアスの四人が楽しそうに食事をしていて、その傍らにはぺぺとムー、そして猫の餅が寛いでいる絵だった。
どちらも素敵で二人のお気に入りだった。
エイナーがその絵を眺めて、少し前に虚名堂で過ごした日々を思い出していると。ジェイドが言った。
「あ、バナジールが来るってオヤジが言っていた。シャンマオの事だよ。」
「本当に! 会いたいな。シャンマオの作ったパンが食べたくなったよ。」
そう言ってエイナーは、西方では余り見られない柔らかいモチモチでフワフワのパンを思い出していた。
「あれは、美味かった。作ってくれるかな。」
そう言いながら、ジェイドが違う手紙に手をやった。
「これ、モーイエからの手紙だよ。」
そう言って、封を開けて手紙を読んだ。
「モーイエ、ディーフィンと一緒になったんだって。いつでも遊びに来てねって。」
そう言って、エイナーにその手紙を渡した。
「意外な組み合わせだね。」
手紙を読みながらエイナーが呟いた。
「私も途中までは、ズーシュエンとモーイエの組み合わせが良いと思ってたけど、実は、途中からあの二人もありだなって思ってたんだよ。」
「へー、そうなんだ。ズーシュエンにはリーファがいるから、そこは考えもしなかったけどね。」
小声でもぞもぞとエイナーは返事をした。
二人が虚名堂に滞在している間に、ズーシュエンとリーファの結婚も決まった。
リーファは堂の麓の町でズーシュエンの父の菓子屋を手伝っていて、後を継ぐことになっているので、二人は結婚しても今まで通り別々に暮らすことになる。それでも幸せそうだった。
そして、エイナーはズーシュエンの部屋に飾ってあった絵のことを思い出していた。
いつもは額ごと伏せて置かれていて、人に見せないように置いているようだったが、偶々(たまたま)、エイナーがズーシュエンを呼びに行った際に、ズーシュエンが留守でその絵が机の上に置かれていた。
七、八歳くらいの小さなジェイドとズーシュエンがしゃがみ込んで蟻の行列を観察している絵で、その後ろに大きな洗濯かごを抱えた女性が、呆れ顔で二人を見ている絵だった。ュエフゥアの絵だった。色のない、白い紙に墨で書かれただけの絵だったが、息を飲むほどリアルに感じる絵だった。
絵のことが気になって、後からュエフゥアに尋ねてみると、
「兄さん、持っていてくれたんだ。」
と嬉しそうに答えた。
「あの二人が真剣に蟻を観察している姿が可笑しくって、あの絵を描いたの。もしもここにリーインがいたら、こんな顔するだろうなって思ったら、思わず書き込んでしまっていたの。兄さんに怒られるんじゃないかと思って、見せられなかったんだけど、何かの拍子に兄さんの手元に渡っちゃって、そしたら、ありがとうって言ってくれて。私、嬉しかった。」
そう言って、ュエフゥアはより嬉しそうに微笑んだ。
「馬車が来た。誰だろう。」
窓辺に立って、ジェイドが声を上げた。
我に返ったエイナーも、窓の方に目をやった。
馬車からマチアスと妻のサラが降りてきた。
二人は顔を見合わせて、嬉しそうに彼らを出迎えに行った。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?ぜひ、感想を聞かせてください。
人生で初めて書いた小説を完結させることが出来ました。
いつも空想したりするのが好きというか、癖のようになっていて、時間ばかり食って何の役にも立たないなと思っていたのですが、だったら小説を書こうと思い書き始めました。読み直すと荒かったり、分かりにくかったりと、いろいろ思う所はありますが、こうやって一作品を完結出来たことはとても嬉しいことです。
PV数を見て読んでくれている人がいると思うと、励みになりました。読んでくれた方、感想を書いてくれた方、興味を持ってくれた方、本当にありがとうございました。
新しいお話も、漠然とですが考えていて、この「彼女の復讐」同様に、漠然のまま書き始めようと思っています。
近日中には開始予定です。(仮題名)「神様が茶飲み友だち」
開始出来た際には、どうぞよろしくお願いします。
更新頻度は下げて、毎週水、日の14:30にしようと思っています。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
マチアスの妻:サラ・ジュノー
マチアスの長男:マッティ・ジュノー
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
ディーフィン:ウズラの一人で、マラトの元部下
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍
ヤバン将軍:モラン軍の将軍の一人で、アバガスに攻め入っている。




