第135話‐① 聞く気はなかったけど、フォンミンの場合
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
132話以降は後日談になっています。
書く予定がなかった、フォンミンの場合が入ったので、2話ほど増えました。
もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。
ジェイドがエイナーを探して庭に出ると、エイナーは楽しそうにフォンミンと話をしていた。
ジェイドに気づいたエイナーが声を掛けた。
「ジェイド、フォンミンの身の上話を聞いたんだけど、それが面白いんだ。」
「ふーん、身の上話ねぇ。」
「興味あるか? お前のほどは、ぶっ飛んでないけどな。」
フォンミンはちょっとだけ意地が悪いような言い方をした。
「あっ? 今は暇だから、聞いてやっても良いぞ。」
ジェイドはちょっとだけ不愛想な返しをした。
「なら、聞かせてやろう。」
そう言って、フォンミンは話を始めた。
フォンミンはズーシュエンの母親である楊仙華の姉の下から二番目の息子として生まれた。
幼いころから、悪知恵ばかり働く口の減らない悪たれとして、両親から若干持て余されていた。
母親はそんなフォンミンを溺愛していたが、父親が息子の将来を憂いて、妻の妹であるシィェンフゥアの元に預け、息子のねじ曲がった根性を叩きなおして欲しいとお願いした。
シィェンフゥアは甥っ子にあたるフォンミンを特別扱いはせず、他の虚名堂にいる子どもたちと同じように接した。
また彼女曰く、「表面だけ叩き直しても、性根が曲がっていたら余計面倒なことになる。本人がなりたいようになるだけだ。」と言って、無理に根性を叩きなおそうともしなかった。
ただ、毎日のように稽古と称して木剣で叩きのめしていた時期はあった。
フォンミンは頭が良く、天才で(ここは、本人が誇張している。)、将来、自分に必要になると思う知識はどんどん吸収した。また、武術の稽古はどれだけ叩きのめされても、何故か休まずに参加した。(本人曰く、今思えば楽しかったんだと思うとのこと。)
そのうち、兵術の本を読み漁り、将来は兵学者になってどこぞの国の軍事に関わる仕事に就きたいと真剣に考え始めていた。
しかし、人に努力している姿を見られるのが嫌いだったので、人の目が届かない所でこっそり頑張った。そして、人前ではさぼっているふりをしていた。
「今思えば、俺も若かったな。努力しなくても出来るってのが、かっこいい男だと思っていた。」
「なあ、この話、どこが面白いんだ?」
話が始まって数分も経たないうちにあくびをしながら、ジェイドが尋ねた。
「え、面白いじゃないか! 縁も所縁もない知らない国で軍の司令官にまでなったんだよ。どんな紆余曲折を経てここまでたどり着いたのか、興味あるよ。」
エイナーが楽しそうに答えた。
「まあ、そう言われれば確かに。フォンミンはこんな感じだけど、成りたかったものに成れたって訳だ。どんな汚い手を使ったのか興味はある。」
そう言って、ジェイドは本腰を入れて話を聞く態勢を見せた。
「汚い手ってなんて使ってないぞ。」
そう言い放って、自分の身の上話を続けた。
虚名堂は、武術、戦術、語学など学びたいと思うものがいくらでも学べた。また、実戦訓練も本格的。
他国の情報も定期的に入って来る、特にイズミール地方や西夏とは人や物の往来も頻繁で、下手によその学校に行くよりも、ここで学ぶ方が知識や経験を積むことが出来るとフォンミンは考えて、大人しくそこに留まっていた。
それに、何よりも、一緒に暮らす者たちが気取っていないのが心地よかった。
フォンミンは裕福な家の子で、家にいた頃はその地域で一番有名な学校に通わされていた。
フォンミン的にはそこに通う子どもたちの多くが、家柄や親の職業などを自慢し、鼻に掛けている感じに居心地の悪さを感じていた。
しかし、ここには、家柄や親の職業など、そもそも知らない子どもが多くいた。
そして、自分よりも悪知恵が働くもの、平気でうそをつくもの、反省しないもの、何の根拠もないのに自信満々なもの、やたら力が強いもの、やたら頭の回転が速いもの、猿かと思うほどすばしっこいもの、逃げ足だけは早いもの、気配を消すのが異様に得意なものなど、思いもよらない面白い奴らが多かった。
そして誰よりも興味深かったのが、従兄弟にあたる、ズーシュエンとその妹の月花であった。
ュエフゥアは、幼いながらも整った顔立ちに、穏やかな物腰、いつも笑ったような表情で、何を考えているのか良く分からなかった。シィェンフゥアの娘とは思えない華奢な体で、運動は全く出来なかったし、本人もやる気がなかった。ただ、やたらと頭が良く、自分より四歳も年下であるにもかかわらず、会話が全て嚙み合ったし、楽しかった。
ズーシュエンは母親似の女の子の様な顔立ちで、一見、愛嬌があり穏やかな物腰だったが、ュエフゥアのように終始口元に笑みをたたえている訳ではなく、通常はどちらかと言うと冷めた表情をしていた。
自分よりも三歳年下だったがやたら強かった。妹のュエフゥアの聡明さが際立っていたが、彼は彼でかなり賢く、良く周りの状況を見て、時には、さらりと悪知恵、もとい、機転を働かすタイプだった。
そんな面白い面子たちと、日々楽しく、学びたいことを学びたいだけ学んで過ごしていたら、ある日、突然、シィェンフゥアから「いい年こいて、いつまでただ飯食ってんだ、何もしないならば出ていけ!」と言われて、堂を叩き出された。
フォンミン二十一歳の秋であった。
まあ、これまで蓄えた知識と経験で自分がどこまでやれるのか、丁度試してみたいと思っていたこともあり、素直に堂を出て行くことにした。
自分に恋心を抱いていたュエフゥアは涙した。
ずっと、自分を兄の様に慕っていたズーシュエンだったが、少し前に大喧嘩をしたためか、「やっと、やる気になったの?」と言う冷めた言葉を投げ付けてきた。
二人の父親、轩月は「体に気を付けてね。」と言う優しい言葉と共に、フォンミンの好物の緑豆糕という菓子くれた。
鬼のシィェンフゥアからは、特に何の言葉も餞別なかった。
そんなこんなで、フォンミンはまず西夏に向かった。
西山から川を下り、西夏の北にある大きな街に着いた。そこは、大きな歓楽街が有名な香壺という街だった。
香壺の花柳苑で用心棒の様な事をして過ごしていた。語学が堪能で、腕っぷしも強い男前と言うことでかなり重宝された。
すぐに、この一帯の豪族の長から声が掛り、そこで私兵の様な事をすることになった。
長からは一目置かれ、いずれは娘の婿になって欲しいと切望されていた。
しかし、既に、フォンミンは長の妻とねんごろな間柄になっていて、嫉妬心を燃やした妻が、娘と表立って対立するようになってしまった。
厄介なことになったと思い、ある日、長の使いで遠出をすることになり、そのまま行方をくらましてしまった。
「何だか、絵にかいたクズの様な話だな。」
ジェイドが呆れ顔で呟いた。
エイナーも口では、「まあ、まあ。」などとジェイドをなだめつつも、この話がどう転ぶのか、段々不安になって来ていた。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍
ヤバン将軍:モラン軍の将軍の一人で、アバガスに攻め入っている。




