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第134話 ズーシュエンの場合

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

132話以降は、後日談となっています。


私が心変わりしなければ、後2,3話で完結予定です。

もう少しですが、よろしくお願いします。

「なあ、ズーシュエン。ズーシュエンはなにかやりたいこととか、将来なりたいものとかってあるのか?」


 そう聞かれたズーシュエンは事務作業の手を休めて、少し考えた。


「やりたいことねぇ。」


 フォンミンの家のダイニングテーブルは一人暮らしにしては大きく、そこでズーシュエンは溜っていた事務作業をしていた。


 今回の旅の目的はジェイドの助太刀がメインだったが、虚名堂の物産の行商や、新規客開拓なども並行して行っていたので、そちらの作業が溜まっていた。


「そうだなぁ、李花リーファに正式に結婚を申し込もうかな。今回のことは、自分にとっても大きな区切りになった気がする。」


 そう言って、ジェイドの方に目をやり、言葉を続けた。


「あの時、エイナーが西山まで来て、私を強引に連れ出してくれなければ、私はずっと何かに囚われたままだったかもしれない。それに、ジェイド、君が最後までやり遂げてくれたおかげだよ。」


 ジェイドは少し驚いた表情で、目を見開いたが、直ぐに笑顔になった。


「三度目の正直を願っているよ。」


「ありがとう、成功するよう頑張るよ。」


 ズーシュエンも笑顔で答えた。


 ジェイドは、ズーシュエンの正面の席に座り、自分の耳元に手をやり、赤いしずく型のピアスを外してテーブルの上に二つ並べて置いた。


「きっと、母上も応援してくれると思う。ズーシュエンの幸せを願っていると思うんだ。」


 ほんの少しだけ、ズーシュエンは寂し気な表情をしたが、直ぐにいつもの表情に戻り答えた。


「ありがとう。私もそう思うよ。」


 そう言って、テーブルの上の赤いピアスを見つめた。


 ジェイドも赤いピアスを見つめながら、思い出し笑いをした。


「このピアスは母上が大事にしていたものでね、一度、失くしたって言って大騒ぎになったことがあったんだ。オヤジが同じものを作るからって言っても、あれじゃなきゃ意味がないと言って、泣いて大騒ぎしたの。でもね、翌朝、ケロっとした顔でこのピアスを付けて、朝食を食べていたんだ。どこかにあったんだろうね。その後、その話には一切触れず、まるでずっとありましたって顔で過ごしていたよ。オヤジも何も言えなかったみたいで、まあ、見つかったなら良かったんじゃないかって苦笑いしていたよ。」


 嬉しいような、悲しいような何とも言えない表情で、ズーシュエンは卓上に並んだ赤いピアスを見つめていた。


「なあ、ズーシュエン、聞いてもいいか?」


 そう聞かれて、我に返ったズーシュエンが答えた。


「ああ、私で答えられることならば。」


「このピアスは、ズーシュエンが母上に送ったものだよね?」


 ほんの少しだけ驚いた表情になったが、直ぐに笑って答えた。


「ああ、そうだよ。私がリーインに送ったものだ。」


 少し緊張の面持ちだったジェイドの口元が緩んだ。


「何となく、そうじゃないかと思っていたんだ、すっきりしたよ。それと、これは私が持っていても良いんだよね?」


「ああ、勿論だ。その方が嬉しいよ。」


 そう返事をして、にっこりと笑った。

 ジェイドも、つられてにっこりと笑った。


「あれもズーシュエンかい? 私の赤い玉の髪飾りだよ。」


「あれは……私の母が君にあげたものだよ。元々は彼女の首飾りだったんだ。」


「ズーシュエンの母上か。」


「ああ、首飾りの皮紐が切れた時があってね。何でも、自然に皮紐が切れると、願いが一つ叶うと言って喜んでいたんだ。その後、首飾りだった赤い玉を髪飾りに直して君に渡していた。」


「ふーん。マラトがあの赤い玉を割ったら、そこから赤い煙が出て来て、その煙のせいで老人がおかしくなっている様にみえたんだけど……気のせいだったのかなぁ?」


 ジェイドが思い出しながら呟いた。


「私にもそう見えた。」


「だよね? 幻じゃないよね?」


 そう言って、二人で顔を見合わせた。


「私の母はくだらない冗談や、よくわからないほら話を時々するんだけど、あの赤い玉は、彼女が若い頃に武者修行で龍と戦って、その龍の血から出来たものだと言っていた。謎のほら話だと思っているけど、意外と本当だったりして。」


「龍? 龍って実在するのか?」


「私は見たことがない。」


 すっぱりとズーシュエンが言った。


「そうだよな。」


 ちょっと残念そうにジェイドが答えた。


「でも、何か君を守るために怨念でも込めたのかもしれないなぁ。」


「怨念かぁ、でも守ってくれたなら有難い。」


 そう言って、二人で笑った。




「ジェイドは、この先どうしたいとかって考えているのかい?」


「それなんだよ、何となく、人の役に立つ仕事がしたいと思ったんだけど、具体的には何も考え付かないんだ。」


 そう言って、ジェイドは頬図絵をついて天井の方を見上げた。


 ズーシュエンも頬図絵をついて、窓の外を見つめた。

 窓の外ではフォンミンとエイナーが楽しそうに話をしていた。


「結局、後悔のない人生なんてないのだと思う。だったら、好きなようにやるのが一番なんだろうね。でも……」


「でも?」


 ジェイドはズーシュエンの方を見た。


「外の世界に目をやることは素晴らしいことだけど、でも、やっぱり、一番近くの人を一番に考えられたら良いなって……」


「良いなって?」


 ジェイドがいぶかし気に眉をひそめた。


「ああ、良いなって思った。それだけ。」


 そう言ってズーシュエンは、謎に満面の笑みをジェイドに向けた。


「あ? それはそうだろう。一番近くの人を一番に考えるなんて、普通の事だろう。」


 満面の笑みに当てられたジェイドは、何となく居心地が悪くなって、


「じゃあ、今度はエイナーにでも聞いて来るかな。」


 そう言って席を離れた。


 ズーシュエンは少しの間、席を離れていくジェイドの背中を見ていたが、直ぐに事務作業に戻って、また黙々と作業を続けた。





今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性


エレン・クム:元ムンド国皇太子

アシル・クム:元ムンド国第二王二

ルスラン八世:元ノンイン国王

アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍

ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍

ヤバン将軍:モラン軍の将軍の一人で、アバガスに攻め入っている。

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