第124話 こんなところで会うなんて
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
「あれはなんだ?」
一人の兵士が声を上げた。
こちらに大きな狼犬のような動物が向かってくる。
戦意がないことを示す白い旗も動物には通用しない。
そこで、数名の兵士がその大きな狼犬(のような動物)に向かって弓を構えた。
すると、犬の背から人が手を振りながら叫んでいるのが見えた。
「射るな! 私は、エイナー・ナーゲルスの妻、ジェイド・ナーゲルスだ!」
それを聞いた数名の兵士が声を上げた。
「ジェイド?!」
「何故、こんなところにいるんだ?」
「いる訳がないだろう。」
「いや、よく見ろ、あれはジェイドだ。」
「師団長、ジェイドです。ジェイドが大きな犬にのって、こちらに向かってきます。」
ジェイドと顔見知りの兵士が、先頭にいる男に声を掛けた。
先頭を行く男は、近づいて来る大きな犬を眺めながら呟いた。
「登場の仕方も、一味違うな。」
ジェイドは列の中に顔見知りの兵士を見つけて、横に付いた。
「ジャン、エド、テッド、こんなところで会うなんて。驚いたよ。」
狼犬に乗ったジェイドは満面の笑みで声を掛けた。
「ジェイド、それはこっちの台詞だ。お前こそ、何でこんな所にいるんだ? エイナーさんは一緒じゃないのか? あと、……それは、何に乗ってるんだ?」
兵士の一人が矢継ぎ早に質問をした。
「エイナーは、アバガスにいる。」
「アバガスだって。何でそんな所にいるんだ!」
顔見知りの兵士たちがざわついた。
「とりあえず、この隊の隊長に話があるんだけど、どこにいる?」
最後の質問には答えずにジェイドが尋ねると、兵士の一人が答えた。
「師団長ならば先頭に居るよ。行ってごらん、行けばわかるから。」
そう言われて、ジェイドは列の先頭に向かった。
先頭に、一際立派ながらも軽そうな鎧を身にまとい、黒い大きな馬に跨った男を発見した。
後ろ姿ではあるが、出で立ちからこの男が師団長と判断したジェイドは、その男に後ろから声を掛けた。
「この師団の師団長とお見受けいたします。私の名は、ジェイド・ナーゲルス。モラン国王女カリーナ妃からの命を受け、…」
と言いかけた所で、男の肩が上下に大きく動いた。
どうやら、笑いを堪えているようだ。
そして、その男は振り返って、鋼のマスクの部分を指で下した。
「そんなに畏まらなくて良いぞ。俺だ。元気そうだな。」
ジェイドは一瞬言葉に詰まったが、直ぐに満面の笑みになって、
「アクセルじゃないか! こんなところで会うなんて! 驚いたよ。」
「それは、こっちの台詞。元気そうで良かった。」
アクセルも満面の笑みを見せた。
「今回は、停戦の仲介役だろう? 随分と大軍で来るんだな?」
ジェイドが疑問に思ったことを尋ねた。
「仲介役っていうのは、ハッタリが重要なんだ。」
そう言ってアクセルは豪快に笑った。
「エイナーは一緒じゃないのか?」
それを聞かれたジェイドは王女からの手紙のことを思い出し、
「エイナーはアバガスにいる。そして、これがカリーナ王女からアクセルへの手紙だ。」
そう言って、手紙を手渡した。
「エイナーはサムート・ハンに同行してアバガスにいる。アバガスは、今、大混乱に陥っていると思う。サムートとアシル王子の救出のために、ムンド軍、アルーム軍もアバガスに向かう手はずになっているが、その兵力だけでは不十分だと思う。」
アクセルは手紙をじっくり読んで、隣の兵士にそれを手渡し、ジェイドに向かって言った。
「俺たちの役目は仲介だから、表立って戦闘に加わることは出来ないんだよ。」
ジェイドもその言葉の意味を理解し、俯いて残念そうに答えた。
「そうだよね……」
「ただ、仲介役としては、これ以上の混乱を見過ごすわけにも行かない。」
「……ん?」
ジェイドが顔を上げた。
「今、アバガスを取り囲んでいる軍は、モラン軍ではなく、反乱因子とみなされているようだ。その反乱因子の制圧と言う言事であれば、許容範囲だと思う。また、制圧を条件にモラン国がこちらの提案を飲むと言うのであれば、多少の手伝いは出来る。」
そう言って、ニヤリと笑った。
「それにしても、お前、凄まじい馬にのっているな? スノースバンの馬か?」
アクセルが真面目な顔で尋ねてきたので、ジェイドも真面目に答えた。
「これは、スノースバンよりもう少し北の方に生息する馬だ。」
「今度、試し乗りさせてくれ。」
「ペペが良いって言えばね。」
「ペペって名前なのか? 随分、見た目にそぐわないな。」
「そうかな……いつもは、もっとペペって感じなんだよ。」
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍
ヤバン将軍:モラン軍の将軍の一人で、アバガスに攻め入っている。




