第122話 ジェイドとアルの小冒険
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
ジェイドがモーイエの診療所に着くと、モーイエの弟子たちが忙しそうに働いていた。
そんな弟子たちを横目に、モーイエの父親らしき男が縁側で酒を飲んでいた。
ジェイドはその男に簡単に経緯を説明し、モーイエから預かった手紙を渡した。男はその手紙を読むと、近くにいた弟子に手紙を渡しながら、言った。
「モーイエが薬を持ってきて欲しいそうだ。行ってくれるか? それと、このお嬢さんにも薬を渡してくれ。費用は後でまとめてサムート様に請求するらしい。」
弟子は、手渡された手紙を確認し、「承知しました。」と言って、診療所の中に入って行った。暫くすると大き目の袋をジェイドに手渡した。
「ここに、痛み止めの薬、炎症を抑える薬、そして骨折の回復を助けてくれる薬が入っています。この紙に書かれている通りに使ってください。」
そう言って、また診療所の中に戻って行った。
ジェイドはもらった袋を自分の荷物入れに押し込んで、城に帰って行った。
ジェイドが城に戻ると、アルが馬車の前で手を振っていた。
「さあ、ジェイド乗ってくれ。」
アルが誇らしげに言った。
「馬車で行くのか? 何日かかる?」
「途中で馬を交換して、夜通し走れば二日で到着するよ。」
アルが得意気に答えた。
アルの言う通り、馬を途中の宿場で取り換え、殆ど休憩を取らずに走り続けて丸二日でパレオスに到着した。
青い顔をしたアルに、ジェイドが放し掛けた。
「ここまでの道のりも、何も起こらなかったな。」
「そうだな、何も起こらなくて良かった。」
そう言いながらも、アルは吐き気を我慢したような表情になっていた。
「乗り物酔い大丈夫か?」
「ダメだ。でも、大丈夫……もうすぐパレオスだ……」
そう言って、アルは横になった。ジェイドは馬車の窓から、初めて見るパレオスの城壁を眺めた。
パレオスの城門でアルが馬車を下りて門番に事情を説明すると、直ぐに馬車を通してくれた。
城門を抜けると、そこには賑やかで、華やかな街が広がっていた。
「パレオスは大都市なんだな。」
ジェイドが呟いた。
「そうだよ、イズミールで一番栄えている都市と言われているんだ。」
ぐったり気味のアルが答えた。
大きな石畳の道の両脇には新旧入り混じった建物が並んでいて、古い大きな石造りの門が何個か見え、その中を覗くと商店街のアーケードの様になっていて、小さな店が所狭しと並んでいた。
馬車が進む方向には、他のどの国で見た城よりも大きな城がそびえ立っていた。
大きな青い屋根の城の周りには、大きな四つの塔が立っていて、その天辺には黒いモラン国の旗がたなびいている。
城に入ると、広いエントランスには、白、青、青緑、白緑、赤、金などなど色とりどりのタイルが、壁や天井に貼り廻らさえれ、ステンドグラスからも美しい色の光が降り注いでいた。
二人は、息を飲むほど美しい広間を抜けて、手入れの行き届いた中庭を望む、広い回廊を渡り、部屋に通された。
部屋にはバナムと彼に同行した部下たちが数名いた。
「アル、……それにジェイドさん、どうしたんですか?」
バナムが二人に驚きながら声を掛け、立ち上がった。
「ジェイドが、アバガスの状況が心配だって言うものですから、パレオスに来れば、最新の状況が分かると思い、やって来たんです。それに、バナム様やカジャナ先生のことも心配だったので、自分も一緒に来ました。」
アルがそう言うと、バナムが少し考え込んだ表情になり
「そうでしたか…実は、アバガスのモラン軍が撤退を拒否しているらしいのです。」
それを聞いたジェイドが咄嗟に聞き返した。
「何故だ? カリーナ王女が撤退を指示しているのだろう? 王女だから駄目なのか? 王の代理と認めないのか?」
「そういう事ではない様なのです。どうやら、兵を率いているヤバン将軍が反乱を起こし、アバガスを占拠し、そこを拠点に自分たちの独立国を作ろうとしているらしいのです。」
その話を聞いたジェイドとアルが同時に声を上げた。
「はあ!!!!!」
「そんなこと不可能だろう? 王女も他国もそんなことは許さないだろう。」
ジェイドが大声を上げた。…
アルも横で頷いている。
「その通りなのですが、ヤバン将軍に賛同した一部のモラン兵士たちが、アバガスに集結しており、今、パレオスからアバガスの一帯は収拾がつかない状況のようです。今、王女はどのように混乱を鎮めるべきかを検討をしています。私たちも、昨日、グレナディに使者を送り、いつでもアバガスにグレナディにいる兵士を向けられるよう準備を進めている所です。」
バナムの説明にジェイドは呆然とした。
「じゃあ、アバガスは今も攻撃され続けているってことか! しかも、敵の兵士の数は増え続けているってことなんだな。」
「はい、その様です。」
バナムがそう答えると、ジェイドは青ざめた表情で呟いた。
「アバガスに行かなくちゃ。」
「……ジェイド。顔色が青いよ。心配なのはわかるけど落ち着こう。その手で行っても役には立たないよ。」
そう言って、アルがジェイドの肩に手を置いた。
ジェイドは胸元からネックレスの先についている黒い指輪を取り出し眺めた。いつも通り黒い指輪だった。
いつもは左の薬指にしている指輪だが、左手首を骨折したため、今はネックレスにぶら下げている。
「エイナーはきっと大丈夫だ。そう簡単にやられる男じゃない。師匠だって未払いの契約金を残してくたばる訳がない。」
そう言って指輪を右手で掴んで胸元にあて、彼らの無事を祈った。
そんな彼女を見ていたバナムが言った。
「ジェイドさん、こんな状況ですが、一ついい知らせがあります。彼らの道案内ならば今のあなたでも出来ると思いますよ。」
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍
ヤバン将軍:モラン軍の将軍の一人で、アバガスに攻め入っている。




