第121話 アルタイルとの再会
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
2週間程更新出来ていませんでした。黄金週間後半にキャッチアップしていきます!!
絶対に無理はしない、戦乱が続いていたら引き返してくることを条件に、ジェイドはグレナディに戦いの状況を確認しに行くことになった。
ぺぺと共に夜のうちにひっそりとグレナディに向かった。
左手首の痛みは引いているが、まだ腫れは残っており、添え木をしている。
モーイエからは薬を持たされて、きちんと服用するよう指示を受けていた。
また、もしグレナディに行くことが出来たならば、自分の診療所の様子を見てきて欲しいと言われた。
マラトの隠れ家の近くの村からモラン国の国境は目と鼻の先で、国境には関所の様なものはなくすんなりと入国することが出来た。
グレナディが近くなっても、どこかで戦闘が起こっている様子はなかった。
ぺぺから降りて、歩いてグレナディの城塞に近づいた。警備の様子も以前と変わらない程度の物物しさだった。
ジェイドは門番に関所で渡された札を見せながら言った。
「私は、少し前にここで厄介になっていた商人のリュウ・ズーハンと言うものだ。バナム・アルマン又はアルタイルに会いたいのだが。」
門番が札を手に取り、裏表を確認した。
「リュウ・ズーハン……。ああ、少し前に滞在していた商人の一行がいたな。その一人か。話を通してくるから、この先の部屋で待っていてくれ。」
そう言うと、男は城の方に向かった。
指示された部屋に入り、そこにある椅子に腰を掛けた。
部屋にはジェイドとぺぺ以外には誰もいない。見回しても変わった様子はない。暫くするとアルが小走りでやって来た。
「やあ、ジェイド! 元気そうで本当に良かった。」
「アルも元気そうで何よりだ。」
アルがジェイドの両手を握ろうとして、彼女の左手の添え木に気づいた。
「左手どうしたんだい?怪我したのか?」
「手首を骨折した。もう痛みは殆どないけど、動かせないんだ。」
そう言って、ジェイドが自分の左手を上げて、アルに見せた。
「手首を骨折だって! それは痛かっただろう。大変だったね。」
「まあね。所で、現状を教えてくれないか? 随分と平和そうに見えるけど、私たちが出発した後、何があったんだ?」
「そうそう、短い間に本当に色々あったんだよ。」
そう言ってアルは状況を説明してくれた。
アルの話によると、
サムート率いるアルーム軍が出発して間もなく、パレオスからジャーダンが差し向けたモラン軍が攻めて来た。ノンインからの援軍の到着を待たずに戦闘が始まり、グレナディの城壁ぎりぎりまで攻め込まれるという苦しい状況に陥ってしまったが、どうにかノンインからの援軍が到着して、ここから反撃という時に、モラン軍から一時休戦の申し出があった。
ノンイン軍が到着したとは言え、モラン軍の方が有利な状況だったため、サムートの留守中に代理をしていたバナムは、この休戦の申し出は、罠なのではないかと疑いつつ休戦合意交渉に臨んだ。
その際、アルも同席をしていた。
合意交渉時のモラン軍側の話は全く信用出来るものではなかったが、一先ず休戦に合意した。
すると翌日、モラン軍は撤退し、その数日後に、バナムはカリーナ王女の命令でパレオスに呼ばれた。
「バナム様がパレオスからお帰りになれば、もっと詳しい状況が分かると思うよ。」
「バナムはいつ帰ってくるんだ?それと、モラン軍側の話とはどんなものだったんだ?」
ジェイドがアルに尋ねた。
「いつお帰えりになるかは分からないけど、そんなに遅くはならないと思うよ。と言うかそう願うよ。」
そう言ってアルは心配そうな表情になったが、話を続けた。
「話って言うのが、不思議だったんだよ。カリーナ王女がダージャンの摂政の任務を解いて、ご自分が一時的に国王代理になったそうだ。そして、王女の判断でこの戦いは終わりにすると言う事だった。今まで女王はそんな素振りを見せたことがなかったから、俄かには信じられない話なんだよ。本当だと良いんだけど。」
少ししょんぼりした顔でパレオスの方に目をやった。
「…確かに、不思議な話だけど、本当かもしれないぞ。」
ジェイドが真面目な顔でアルに言った。
「…何でジェイドはそう思うんだい? 何か理由があるのかい?」
アルは不思議そうな表情でジェイドの返事を待った。
「確証はない。ただ、ヨナス・デスモンの伝書カラスが私の元にやって来たんだ。カラスの伝言によると、ヨナスは自分の伝書カラスたちをボヤーナに撤退させようとしていた。と言うことは、ジャーダン側に何か問題が起こったと考えることが出来る。それに、マラトは倒した…というか、洞窟の崩壊に巻き込まれて、多分、生きてはいないと思う。」
「そうか、マラトは倒したのか…え、じゃあ、無事に仇を討てたってことか! やったな、ジェイド。凄いじゃないか。それでこの怪我って訳か。いや~骨折で済んで良かったな。ズーシュエンも無事なのか?」
アルは満面の笑みでジェイドの両手を掴もうとして、彼女の手首のことを思い出し、手を引っ込めた。
「ああ、ズーシュエンも無事だよ。怪我をして治療中だけど、モーイエ先生が診てくれている。」
「そうか! そうか! いや~これはお祝いだな。って事は、王女の話も本当かもしれないなあ。……所で、……ヨナスのカラスってのは何だ?」
アルにそう尋ねられて、ジェイドは伝書カラスの説明をした。
「やっぱり、王女の話は本当なのかもしれないね。だったら、本当に嬉しいんだけど。一先ず、バナム様のお帰りを待って話を聞いた方が良いな。泊まるところを準備するから、お前もここでバナム様を待つと良いよ。生憎、カジャナ先生もバナム様に同行してしまっていないけど、他のお医者様が診てくれるから心配ないよ。」
その話を聞いて、ジェイドが思い詰めが表情で答えた。
「そうしたいけど、ここに長居はできない。アバガスで師匠が、マチアスが、援軍がいつ到着するのかを知りたがっているんだ。伝えに行かなくてはならない。」
すると、アルが不思議そうに答えた。
「そっちのモラン軍も撤退しているんじゃないのか?」
「そうだと良いけど。もし、王女の話が嘘だったら……まだモラン軍の攻撃を受けて籠城しているかもしれない。」
暗い表情のジェイドを見て、アルは一生懸命考えた。
「それは心配だな。だったら、一緒にパレオスに行って、状況を確認してこよう。俺もバナム様やカジャナ先生のことが心配だから。」
ジェイドはアルの顔を見上げた。
「アル! それは名案!」
ジェイドの瞳がキラキラ輝いた。
「そうと決まれば、出発の準備をしないとなぁ。準備が整い次第、出発だ!」
アルが嬉しそうに右の拳を上げた。
「ありがとう! アルが準備している間に、私はモーイエ先生の家を訪ねて来るよ。先生からの言づけがあるんだ。」
「ああ、早く行っておいで。準備は任しておいてくれ。」
そう言うアルに手を振って、ジェイドはモーイエの家に向かった。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍




