第120話 カラスからのメッセージ
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
いつもならば、心配しながらもジェイドの意思を尊重してくれるズーシュエンが、今回ばかりは許容できないと言わんばかりに、ジェイドの方に顔も向けずにポツリと言った。
「その体でどうしてもアバガスに行くと言うのならば、万が一、君が生きていたとしても、私たちは二度と会うことはないだろうね。」
「…どういう意味だ?」
ジェイドが尋ねたが、ズーシュエンは、「自分で考えて。」と言うだけで、それ以上は何も言わなかった。
その直後、ジェイドの左手首は腫れあがり、高熱を出して朦朧としだした。
それでもなお、アバガスに向かいたい気持ちと、ズーシュエンに言われた言葉で体が引きちぎられそうになっているジェイドを見かねたモーイエと女将さんが、ラフラしているジェイドをベッドに縛り付けた。
「これで、もうアバガスには向かえません。そんな体で辿り着けたとて、邪魔しに行くか、死にに行くようなものです。」
仁王立ちになったモーイエがジェイドに向かって言い放った。
「……だけど、心配で、心配で仕方がないんだよ……体が痛い。手首も痛い。頭も痛い…心が痛い、胸が苦しい。ああ、私はどうしたらいいんだ……」
ベッドに縛り付けられたままジェイドは、延々とと愚痴をこぼした。
「まずは、痛み止めを飲みなさい。」
そう言って、モーイエが痛み止めの薬と水をジェイドの口に流し込んだ。それを飲み込んだジェイドがうわ言を言った。
「ああ、今だったら、毒を盛られても素直に飲んでしまうよ。ああ……」
「意味のわからないこと言ってないで、早く寝る。」
翌朝、高熱は下がったが、微熱が残り、左手首は腫れたままだった。
なんだかんだ言っても、ジェイドも疲労が溜まっていたようで、数日間は、痛み止めを飲んで殆ど寝ていた。
数日も経つと、微熱は下がり、手首の腫れも収まり始めた。
そんな折、ジェイドが窓辺に腰かけて、アバガスの方角を眺めていると、二羽のカラスが飛んでくるのが見えた。そのうちの一羽がジェイドの方に向かって来た。
ジェイドが右腕を差し出すと、カラスは彼女の腕に舞い降りた。足首には緑色の足環をしていた。
「むむ! お前はヨナスのカラスか?」
足環を見つめてジェイドが呟いた。カラスは黒々とした目を爛々とさせて、ジェイドを見つめた。
「伝言か?」
そう言って、ジェイドはカラスの目を見つめ返し、暫くの間、カラスからのメッセージに意識を集中させた。
カラスから送られてくる情報量が膨大で、イマイチはっきりしないことが多かったが、
ヨナスが自分のカラスたちをボヤーナに撤退させようとしていること。
マチアスが、援軍がいつ頃アバガスに到着するのかを知りたがっていること。
そして、エイナーが嬉しそうに、こちらに向かって、自分はアバガスで元気にしているとジェイドとズーシュエンに伝えて欲しいと言っていること。
の三つは鮮明に読み取れた。
ジェイドの心に嬉しい風が吹き抜けた、そして、直ぐに、不安に満ちた暗雲の雲が広がり始めた。
それを振り払うよウにジェイドは大きな声を出した。
「エイナーは元気なのか! だけど、どのくらい前のメッセージだろう。
それと、援軍がいつアバガスに到着するかを知りたいんだな。」
ここ数日間、もぬけの殻の様になっていたジェイドの心に火が付いた。
「援軍の状況を伝えに行かなくちゃ。」
そう言って、ジェイドはズーシュエンの部屋に向かった。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍




