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第119話 アバガスでの戦い⑥

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 逃げていく敵の兵士たちを見て、サムートたちがざわついた。


「何が起こっているんだ?」


 後ろからアシルがサムートに声を掛けた。


「デマを流してみたんだよ。」


 その声を聞いたサムートが振り返ると、アシルとエイナーが近くに立っていた。

 二人の顔を見て、一瞬だけ安心した表情になったサムートだったが、直ぐに真剣な表情に戻り、二人に話し掛けた。


「二人とも無事で何よりだ。…デマ? どんな手を使ったんだい?」


「カリーナ王女がジャーダンを罷免ひめんした、王女は戦いを望んでいないが、ここで戦いが起こっていることを認識していない。だから、今となってはこの戦いは無意味だって話を、捕虜に吹き込んで、彼らが逃げられるようにしておいたんだ。上手い具合に伝達されているようだ。」


 アシルも逃げていく敵の兵士たちを見て説明した。


「ほう、流石だね。今ならば、一層目に戦力を投入すれば奪還出来るかもしれない。排水溝を塞いだところで、また爆破されれば敵の侵入を許してしまうことになるが、今は、少しでも時間を稼がないと。」


 そう言うと、直ぐに一層目に兵を投入するよう指示を出した。

 第二城壁上からの攻撃も増強し、一層目から敵の兵を退けた。排水溝も簡易的にではあるが石を積み上げ穴を塞いだ。


 夜が更けると、敵の攻撃が落ち着いた。サムート側も半分の兵たちには休憩を取らせた。

 まだ戦いは始まったばかりで、兵たちの士気は高いままだが、先が見えない戦は、体だけでなく、心へのダメージが深刻になる。


「援軍がいつ頃来るのか、わかると良いのだけれど。」


 エイナーが何となく言った。


「あのおじさん、いや、マチアス先生のカラスを使って、そう言う情報を入手出来ないかな?」


 アシルも同じことを心配していたようで、何かいい手がないかを考えていたようだった。



 二人でマチアスの所を訪ねると、彼は、丁度、一息ついている所だった。

 年齢の割に、体力と気力の化け物のようなマチアスだったが、流石に、疲れの色が見て取れた。


「あのカラスを使ってか?」


「はい、何かいい手はないでしょうか? 先が見えると、見えないとでは、心持ちが違いますからね。」


 エイナーが尋ねた。


「今は、薬を使ってここに留めているが、一度放してしまうと、多分、ヨナスの元に帰ってしまうだろう。そして、ここで見聞きした事をヨナスにチクるだろうな。」


「それは、良くないね。」


 アシルが残念そうに言った。


「俺のカラスは連れてきていないからな。何かいい方法ね……」


 マチアスが考え込んだ。


「ズーシュエンが言っていたんだが、千里眼という力を使うと、遠く離れた場所や未来の出来事を知ることが出来るそうだ。」


「……は?」


 エイナーとアシルが同時に声を上げた。


「東方には、自称、そう言う力を持っていると言う術者が数多くいるが、その大半がインチキだと言っていた。」


「……で?」


「いや、そんな力があったら良いのになって思っただけだ。」


「……え?」


 エイナーとアシルは、声を発しながら前のめりになった。


「知る方法なんてわからん。信じて待つ。きっと来るさ。」


「はあ……」


「ただ、今更、カラスがヨナスの所に戻ったところで、ヨナス自体が、モラン国やマラトから手を引こうとしている。ここの状況を知ったところで、何をしてくるでもないだろう。だったら、可能性は低いけど、カラスに頼んでこの辺りの状況を見て来てもらおうか?」


 マチアスが提案した。


「う~ん、墓穴になるかもしれないけど、やれることはやってみたいね。」


 アシルが嬉しそうに答えた。


 この人は、どんな時でも好奇心が全てを凌駕りょうがするタイプのようだと、エイナーは思った。


「エイナーはどう思う?」


 アシルが尋ねた。


「何故、私に尋ねるんですか? アシルがやりたいならば、反対はしません。」


 少し困り顔でエイナーは答えた。


 マチアスも何故か嬉しそうだ。


 全くこの二人はと思いつつも、どうしても、自分も興味をそそられてしまう。それは、それで、仕方がないと開き直ることにした。


 あのデマだけで敵が撤退する訳はなく、翌早朝から再び敵の攻撃が始まった。



 マチアスは、カラスたちにアルタ語、西方後、イズミール公用語で繰り返し、繰り返し、自分の指示を刷り込むと二羽を空に放った。二羽は南西に向かって飛んで行った。


「……方角的に、ボヤーナに向かったのかもしれない……」


 マチアスはそう呟くと、持ち場に戻って行った。




今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30(最近は、時間が決まっていません。)に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性


エレン・クム:元ムンド国皇太子

アシル・クム:元ムンド国第二王二

ルスラン八世:元ノンイン国王

アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍

ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍

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