第118話 アバガスでの戦い⑤
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
今週も変則的になってしまいました。
クライマックス真っただ中。頑張って書き切ります!と自分に誓う。
二度目の爆破をされた排水溝から、敵の兵士が雪崩のごとく入り込んでくる。
「まずいな。一層目は、一旦捨てよう。」
その状況を見たアシルが、煙を手で払いながら呟いた。爆破には巻き込まれずに済んだようだ、そして、全く動揺もしていな。
「第二城壁の門を死守するぞ。」
そう言うと、踵を返して城壁の上の通路を北に向かって走り出した。
「北側の門から第二層目に戻れる。皆、走れ!退避!」
アシルは大声で味方の兵士に指示を出しながら、自分も全力で走った。
エイナーもアシルの声に気づいていなそうな兵士に声を掛け、自分もアシルを追って走った。
アシルの足が思いのほか速く、エイナーも全力で走ってやっと追いつくことが出来た。
エイナーがアシルの横に並ぶと、
「逃げ足は速い方なんだ。」
そう言って、アシルが得意げにエイナーに微笑みかけた。息も上がっていない。
そんなアシルを見て、エイナーは少しほっとして、冷静になることが出来た。
二人は、後ろからついて来る兵士たちに声を掛けながら、自分たちも走り続けた。
第一城壁の階段を降りて行くと、北側にも敵が侵入しており、数多くの敵と味方の兵士が戦っていた。
その合間を縫ってアシルは、エイナーや他の兵士に守られながら、北側の第二城壁門に向かって走った。
「戻れるものは戻れ。私についてこい。」
そう叫びながら、アシルとエイナーは門に向かって走った。
そして、アシルが門番を見上げて叫んだ。
「私だ、門を開けろ。」
門番が下にいる者に指示をだした。アシルが門の前に着くと同時くらいに門が少しだけ開いた。
その隙間から、アシル、エイナー、兵士たちが駆け込んだ。
それと同時に、敵の兵士がその門をこじ開けようとしたため、内側にいた味方の兵士で門を閉じた。そして、門には内側から鉄の閂が掛けられ、何枚もの板が打ち付けられた。
その門を内側から眺めながら、アシルが呟いた。
「デマを流そう。
カリーナ王女がジャーダンを罷免したが、カリーナ王女はジャーダンがどこに派兵しているのか把握しておらず、アバガスを攻撃している兵士たちのことを認識していない。王女は戦いは望んでいない。なので、今は、ただ無駄な戦をさせられているだけだと。」
「士気を削ぐのにいいデマだ。それに、半分本当かもしれない。でも、どうやったら、そのデマを流せるかな?」
エイナーはそう言いながら、近くにいた指揮官レベルの兵士に言った。
「捕虜が欲しい、何人か中に誘き入れよう。」
「一度封鎖した門を開けるということですか?」
指揮官が少し怪訝な表情をした。
「いや、梯子で塀を上ってくる者が出て来ると思うから、それを捕まえよう。」
アシルと指揮官は、エイナーの案に同意して頷いた。
三人は城壁に上り、梯子を掛けて城壁を上ってくる敵の兵士を待った。
上がって来る敵の兵士を、数名の味方の兵士に捕らえさせ、十数名ほどの捕虜を捕らえた。
後ろ手にされ、縄で縛られた十数名ほどの捕虜たちは、口々に喚き散らした。
「なぜ殺さない! 命乞いなどしないぞ。殺したいならば早く殺せ。」
その様子を眺めて、アシルがエイナーと指揮官に向かって真面目な顔で言った。
「どうしようか? 数日前にやって来たカリーナ王女の話では、ジャーダンを罷免すると言っていた。王女もやっとジャーダンが国王に毒を盛っているという事実を受け入れて、目を覚ましてくれたってことだな。ただ……王女は、ジャーダンがここに出兵していることを知らないはずだ……無駄な戦いをさせられている彼らを、いくら敵の兵とはいえ、心が痛む。」
指揮官も真面目な表情で答えた。
「私も、無駄に命を奪いたくはありません。どうしたものか……」
エイナーも真剣な表情で
「本当に、お互いに何も得るものがない戦いだ。」
そう言って、深いため息をついた。
目の前で捕らえられている兵士の顔色が白くなっていく。
先ほどまでの高揚した表情は消え、不安な表情に変わった。
「それは、どういうことだ? この戦いは無駄だと言うのか?」
捕虜の一人が声を上げた。
アシルが、片目を開き、その兵士に向かって答えた。
「残念だけど、そういう事だ。どうしたものかな。」
そう言って、深くため息をついた。
すると、捕虜たちが口々に命乞いを始めた。
「国のために命を懸けて戦っているんだ、何もないなんて、無駄に命は捧げられない。頼む、見逃してくれ。逃がしてくれ。」
アシルが悩むような表情を見せた。
「逃がしてあげたいのはやまやまだけど、捕虜を逃がしたとあっては、私の面子にも関わる。申し訳ないが、君たちはそこでこの無駄な戦いが終わるのを見届けてくれ。生きていられたらの話だけどね。」
そう言って、アシルは捕虜に背を向けた。
エイナーと指揮官も申し訳なさそうな表情で捕虜を一瞥し、直ぐに背を向けてアシルの後に続いた。
後ろから、捕虜たちの声が聞こえる。
「頼む、助けてくれ!縄を解いてくれ。」
三人は聞こえない振りをして、そのままその場を去って行った。
捕虜の一人が、近くに折れた槍先が落ちているのを見つけ、小声で他の捕虜に言った。
「おい、そこに槍先が落ちている、それを持って、こちらに向けるんだ。見つからないように逃げるぞ。」
数十人の捕虜たちは、自分たちで縄を解いて、梯子を使って城壁を下りた。梯子を下から上ってくる兵士に、自分たちが効いた話をすると、上って来た兵士も下に降りた。
そして、城壁内に潜入してきた敵の三分の一ほどの兵士たちが、ぞろぞろと排水溝から出て行った。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第二王二
ルスラン八世:元ノンイン国王
アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍
ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍




