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第117話 お嬢の帰還

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 三人の前で二匹は止まり、姿勢を低くした。


「二人とも無事で何よりです。」


 モーイエは満面の笑みで、ムーから降りてきたジェイドに抱きついた。


 そして、ジェイドの両手を掴み持ち上げようとしたとき、ジェイドの表情が歪んだ。


「い、いっ…痛い。」


 ジェイドの表情が一層歪んだ。


 モーイエはジェイドの両手をゆっくり放して、左手を優しく触った。

 ブレスレットと左手首がぶら~んとしている。


「折れてますね。左手首。」


「…やっぱり、折れてるか。」


「はい、見事に。他に痛むところは?」


 ジェイドの頬を両手でさすったり、口や目の中を覗き込ん見ながら尋ねた。


「私は大丈夫だ…ズーシュエンの方がやばい。」


 痛みを堪えてジェイドが答えた。


 ぺぺから降りてこないズーシュエンのことを思い出し、モーイエは駆け寄った。

 既に、宿の主人がズーシュエンに話し掛けていた。


「ズーシュエンさん、大丈夫かい?私たちの声は聞こえますか?」


 ズーシュエンは、片目を少し開いて主人を女将を見ると、小さく頷いた。


「一先ず、このまま宿に運びましょう。」




 ぺぺから降りるまでは意識があったが、その後は気が付くと一階のベッドで横になっていた。

 起き上がろうとすると全身が痛んだ、特に背中と右手に痛みが走った。無理に起き上がるのを諦めて辺りを見渡した。

 窓の外は既に暗くなっていた。

 もう一つのベッドにはディーフィンが横になっている。

 彼はこちらに気づいて声を掛けてきた。


「目が覚めましたか?」


 ディーフィンにそう声を掛けられて、ズーシュエンは念のため確認してみた。


「はい……あの、ここはあの世じゃありませんよね?」


 ディーフィンは横になったまま、少し驚いた表情になり、直ぐにその意味を理解して、笑いだした。


「……笑わせないでください。笑うと体中が痛むんですよ。」


 そう言って、涙を流した。


「じゃあ、ここは、この世なのですね。」


 ズーシュエンはホッとして微笑んだ。


「はい、私たちは生きてます。お互いに運が良かったですね。」


「本当に。」


 そう答えて、ズーシュエンはマラトがどうなったのかを思い出そうとした。


「…主は、…どうなりましたか?」


 そんなズーシュエンの考えを感じ取ったのか、ディーフィンが尋ねた。


 ズーシュエンは、その時のシーンを思い返しながら話をした。


「…老人が仕掛けた爆薬で洞窟が崩れました…、彼は老人に背後からしがみ付かれて……多分、一緒に瓦礫がれきの下敷きになったと思います。」


 ディーフィンは黙って彼の話を聞いていた。


「老人は何かに取りつかれていた様に見えました。赤い煙に巻かれて、目も赤く光っていたように見えました。物凄い力でマラトの頭を掴んでいて、指が頭にくい込んでいた気が……

 ただ、その時、私は必死に外へ逃げていたので、はっきりと二人を見た訳ではありません。そんな風に見えただけです。」


「そうですか、では、無事に敵討ちを果たせたと言う事ですね。」


 ディーフンの表情は穏やかに微笑んでいた。


「そうですね…そうだと良いのですが…」


 ズーシュエンはそう言って、少し考え始めた、と同時に誰かが部屋に入って来た。


「ズーシュエン、目を覚ましたか!」


 左手首を添え木で固定されたジェイドが、満面の笑みを浮かべた。直近まで寝ていたのか、頭には寝癖がついていた。


 その横には、同じく満面の笑みのモーイエが立っていた。


「命に別状はないですし、背中の傷も浅かったです。ただ、右手は当分治療が必要です。毎日、針とお灸をして、リハビリもしないとなりません。しかし、ちゃんと治療すれば、元の様に動かせることが出来ますよ。」


 そう言い終わると、急に真剣な表情になり、


「あ、でも、ジェイドから聞いた話によると、かなり体を強く打ち付けたりみたいですので、数日は安静です。特に頭を打っていたりすると、数日たってから症状が出ることもありますからね。油断は出来ません。」


 そう言われてズーシュエンはちょっと恥ずかしそうに笑って、答えた。


「大丈夫ですよ、今、体中が痛くて動く気にもなれませんからね。」


 それを聞いたモーイエは「安静第一です。」と言って笑った。



 ジェイドはズーシュエンのベッドの横の椅子に腰を下ろし、


「明日の早朝、アバガスに向かう。ぺぺならば明日中にはアバガスに着けるだろう。」


 ズーシュエンは、止めようとしたが、思いついた言葉を飲み込み。


「止めても行くんだろう?」


「ああ、私が行ったところで役には立たないだろうけど、ただ、ここで待ってるほうが辛いんだ。」


「わかった。ただ、城の周りは敵に囲まれているから、正攻法ではアバガスに近づけないだろう。流石にぺぺだって、何万の敵の中を通っていく訳には行かないだろう。」


「…確かに。」


 ジェイドの表情が暗くなった。


「空を飛ぶ方法は?…いや、もしかしたら、これならば行けるかもしれない。」


 そう言って、ズーシュエンは自分のアイディアをジェイドに伝えた。

 それを聞いたジェイドの表情が明るくなった。

「やってみるよ。ありがとう、ズーシュエン。」


「でも、やはり、無理は禁物だよ。」


「ああ、分かってるよ。決して無理はしない。」


 明るく答えるジェイドの表情を見て、不安が募ったが、


「信じてるよ。」


 と、一言だけ言った。


 それを聞いたジェイドの表情が少し引き締まったように見えた。


 だが、すぐに仏頂面になり、右手首をこちらに見せてきた。


「これ見てよ。エイナーにもらったブレスレット、こっち側の宝石が全部取れちゃった。」


 ずっと左手にしていたブレスレットである。翡翠とアメジストが交互に並んだ金の太めのブレスレット。

 確かに宝石が抜け落ちてしまっている。


「そう言えば、ジェイドは怪我? 左手は?」


 ズーシュエンが尋ねた。


「左手首が折れたよ。でも、このブレスレットのお陰で折れただけで済んだんだと思う。」


 それを聞いたズーシュエンは、心底ホッとするのを感じたと同時に、再び不安になった。


「それは良かった……

 ……やはり、負傷した人がアバガスに行くべきじゃないと思う」


「え?右手が使えるんだから問題ないよ。モーイエに全身確認してもらったけど、体中に痣はあるけど、骨折はないって。」





今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性


エレン・クム:元ムンド国皇太子

アシル・クム:元ムンド国第二王二

ルスラン八世:元ノンイン国王

アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍

ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍

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