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第113話 弔い合戦①

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 階段の上で二匹が出迎えてくれた。頭を撫でられると目を細めて嬉しそうな表情をした。


「さっきは取り乱してしまったみたいだから、エイナーに心配を掛けてしまったかもな。」


 そう言って、ジェイドは自分の左の薬指の黒い指輪を眺めた。すると、指輪は薄っすらと鈍い青色を発した。


「指輪が光ってる。」


 そう言って、ジェイドはズーシュエンに指輪を見せた。


「何かあったのかな?でも鈍い光だから、大事ではなさそうだね。指輪を通して元気づけてあげられるんだろう?」


「ああ。」


 そう言うとジェイドは、自分の左手を右手で包、右手の親指で指輪を優しくなでた。

 そして、指輪に唇を近づけて何か呟いた。すると、指輪は光るのを止めて、いつもの黒い指輪に戻った。それを見たジェイドの表情が一瞬だけ柔らかくなった。

 次の瞬間には厳しい表情になりズーシュエンに向かって言った。


「さあ、行こう。今度こそ決着をつけよう。」


 ズーシュエンは力強く頷き、二人は洞窟の中に入って行った。




 奥の方に灯りが見える。広間の扉が開いていて、中のかがり火の明かりが漏れてきている。気配を消して襲い掛かって来るかもしれない、ウズラたちに用心しながら、ゆっくり進む。


 広間に入ると人の気配はなかった。

 部屋の片隅に倒れていた老人の姿もない。転がっていた火薬玉もなくなっていた。代わりに、床には血の付いたちぎれた縄が落ちていた。ジェイドはそれを拾い上げた。


「あの爺さん、自分で縄を切ってどこかに行ったのか?」


 ジェイドの腰の高さくらいの岩にも血が付いていた。


「まだいたのか。」


 突然、二人の背後から声がした。


 振り返るとマラトが扉が開いている正面の入口から広間に入って来るのが見えた。

 彼は、ゆっくりと玉座に向かい、腰を下ろした。


 ジェイドはマラトに剣を向けた。


「お前を倒すまでは帰らない。」


 それを聞いたマラトは、ひじ掛けに右ひじをついて頬杖をついて黙っていた。


 暫くすると、ジェイドに目を向け。


「気長な私を怒らせる前に、帰るべきだったな。」


 そう言って、面倒くさそうに立ち上がった。

 次の瞬間、マラトは素早い身のこなしで一瞬のうちにジェイドの間合いに入り、ジェイドの首に手を掛け、片手でジェイドを高く持ち上げた。


「ズーシュエン、動けばこの娘の命はないぞ。」


 マラトの背後に回ったズーシュエンの動きが止まった。


 ジェイドは手にしていた剣を投げ捨て、そしてマラトの太い腕を両手でつかみ爪を立てて力を込めた。


「痛くも痒くもないぞ。」


 そう言って鼻で笑ったが、ジェイドが爪先により一層力を込めてマラトの袖の布を引き裂くと、表情が変わった。


「このクソガキが……」


 そう言うとマラトは手に力を込めた。ジェイドの表情が苦しそうになった。


 このマラトの集中が途切れたほんの一瞬を突いて、ズーシュエンがマラトの首に剣を当てた。


「手を放せ。」


「…お前こそ、この剣をどけろ。」


 マラトはそう言うと、自分の手に力を込めた。ジェイドの表情がより苦しそうになった。


 それでも、ジェイドは自分の手の力を緩めず、彼女の爪はマラトの腕にくい込んだ。

 そしてジェイドは自分の両足をマラトの腕に絡めたかと思うと、マラトの顔面を目がけて蹴りを入れた。ジェイドの足がマラトの鼻をとらえ、マラトがよろめいた。


 その隙に、ズーシュエンがマラトの腕を切りつけ、ジェイドが地面に落ちた。

 ジェイドは直ぐに立ち上がると、剣を拾い再びマラトに向けて剣を構えた。

 左手で絞められた首を撫でている。首には赤い絞められた痣が出来ていた。


「参ったな、いきなりやられるかと思ったよ。エイナーに怒られちゃうよ。」


 切られた腕を抑えてマラトが言った。


「軽口ばかり叩きやがって、お前は、全くリーインに似てない。顔も全然似ていない。お前はリーインの娘などではない。」


「良く口元が似ているって言われるけどな。後、瞳の色が茶色なのも母親譲りだ。ただ、奥の方が紫がかってるって言われるけど。それに、オヤジがいつも言うんだ、耳の形が全く一緒だって。」


 そう言って、ジェイドは自分の耳を触った。赤いピアスが揺れている。


「母上はおしとやかでも、物わかりのいい女でもなかった。口は減らないし、何でも人のせいにするし、割と我儘わがまま勝手だったと思うぞ。なあ、ズーシュエン。」


「彼女の悪口は言いたくないが、確かに、そうだな。」


 ズーシュエンが返事をすると、ジェイドの耳元の赤いピアスが、また揺れた。そして、さっきより赤が濃くなったように見えた。


「そうだった、母上の弔い合戦で悪口はダメだったな。子どもの頃は尊敬できる素敵な女性だと思っていたが、今思うと、気が強くって我儘わがままだった。オヤジはよく我慢していたと思うよ。」


「……お前たちに、リーインの何が分かると言うんだ。」


 そう言うマラトの表情は怒りに満ちていた。






今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性


エレン・クム:元ムンド国皇太子

アシル・クム:元ムンド国第二王二

ルスラン八世:元ノンイン国王

アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍

ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍

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