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第112話 幻覚の池

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 深い深い池の谷間に彼女は落ちて行った。手が届きそうで届かない、どんなに泳いでも潜っても、手を伸ばしても届かない。そして、ジェイドは静かに目を閉じて沈んで行く。


 ズーシュエンは必死に潜りながら、ふと考えた。

 ジェイドは、なぜ泳がないのだろうか?

 そして、なぜ、こんなにも自分の体が思うように動かないのだろうか?


 ……


 幻覚を見ているのはジェイドではなく、自分?


 そんな考えが頭をよぎった。


 そして、目を閉じた。

 数秒置いて再び目を開けると、そこにジェイドの姿はなかった。


 見失ったのだろうか?

 そんな不安が頭をかすめる。


 いや違う。池の底がすぐそこに見えた。この池はそんなに深くはないようだ、せいぜい人の背丈の倍くらいの深さだ。深い深い谷間などどこにも見当たらない。


 それを確認すると、ズーシュエンは水面に上がり、辺りを見回した。

 池に飛び込んだと思ったジェイドは、船に乗って池を渡っていた。


 水面に上がると、あの嗅ぎ覚えのある匂いを微かに感じた。多分この匂いのせいで二人とも幻覚を見たのだろう。そんなことを考えながら、先回りをして対岸まで泳いだ。


 自分は池に入ったため、一時的にこの匂いを嗅がずに済んだ。多分そのお陰で正気に戻ったのだろう。だが、また嗅ぎ続けたら、再び幻覚を見ることになるだろう。

 それに、自分の意思で抗えるものでもなさそうだ。


 岸に上り立ち上がる時に、下の方が匂いが強く、立ち上がると少し匂いが薄くなることに気が付いた。身長から考えると自分よりもジェイドの方がこの匂を強く嗅いでいることになる。


 ジェイドの船が岸に到着した。


「ズーシュエン、どうしてここに?」


 青ざめた顔に、うつろな瞳でジェイドが尋ねた。


「さあ、アバガスに向かおう。二人を助けないとね。」


 ズーシュエンはジェイドを刺激しないように、優しく声を掛けた。


「そうだ、アバガスに二人を助けに行かなくっちゃ。」


 そう言って、ジェイドは差し出された手を掴んで船を降りた。


 ジェイドは、ふらつく足取りで、マラトの馬車の御者席に向かおうとした。


「ジェイド、その馬車は使えない。ぺぺとムーにお願いして乗せてもらおう。」


 また、優しくズーシュエンがジェイドに声を掛けた。


 そう声を掛けながらも、自分の頭がフラフラするのを感じた。


 それと同時にズーシュエンの頭にはリーインがマラトに刺される場面が過った。その場面を振り払おうと意識を集中させると、今度はリーインの顔がジェイドの顔になった。


 これは、この匂いのせいで見せられている幻覚だと自分に言い聞かせて、ジェイドの手を掴み、急いで洞窟の外に向かった。




 洞窟の外に出た。お昼を少し過ぎたくらいだろう、外は燦燦と輝く太陽で眩しかった。


 岩陰に朦朧もうろうとしたジェイドを座らせた。


 しばらくすれば正気に戻るだろうなどと考えながら、自分の濡れた上着を脱ぎ、水を絞った。


 あの匂いは、心にある心配ごとや恐怖を増大させて、それを具現化し幻覚として見せるのかもしれない。しかし、そんな薬物があっただろうか?


 そんなことを考えていると、横から声がした。


「……何で外にいるんだ?」


 ジェイドが正気に戻ったようだ。


「正気に戻ったみたいだね。」


「正気? ああ、確かに……城が燃えて人が逃げ惑っているような気がして、とても怖かった。あれは幻覚だったのか?」


「多分ね。所で、洞窟の中で変な匂いを感じなかったかい?」


「変な匂い?…言われてみれば、苦みがかった匂いがした気がする。所で、何でズーシュエンは濡れているんだ?」


「ああ、私も幻覚を見て、池に飛び込んだんだよ。」


「ズーシュエも見たのか、それは、それは、どうしたものかな。」


 二人は空を見上げて暫く考えた。


「どうやら、あの匂いは下の方に行くほど強くなるみたいなんだ。だから、あの洞窟の下の馬車置き場に溜っていたのかもしれない。」


 ズーシュエンが言った。


「と言うことは、洞窟の上の方だったら大丈夫ってことか。それに、マラトたちだってあの匂いの中で正気ではいられないだろう。ということは、上に居るのかもしれない。」


「彼らが何か対策を持ってない限りはね。まあ、いつまでもここでこうしている訳にも行かないから、またあの広間に行ってみよう。」


 そうズーシュエンに言われ、ジェイドが頷いた。


「そうだな、行こう。」


 そう言って二人は立ち上がり、再び洞窟の正面にある階段を昇った。


 階段の上からぺぺとムーが不思議そうな顔で、登って来る二人を見ていた。





今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性


エレン・クム:元ムンド国皇太子

アシル・クム:元ムンド国第二王二

ルスラン八世:元ノンイン国王

アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍

ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍

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