第9話‐① 出発の時二人は何を考え思うのか
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
主に、水、土、日あたりに2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
いよいよこの日がやって来た。
いつもと変わらない朝、曇っている。
港で船を待つ二人は、最小限の荷物と剣、身軽な服装にマントを羽織って、商人というよりは、どちらも護衛役のようにも見える。
ジェイドは初めて会った時のように、髪の毛を頭の高いところで束ね、その下の方を赤い玉の髪飾りで束ねている。
今や、自分にとってはこの世で一番美しいと思える女性のはずなのに、こう見るとやはり整った顔立ちの少年のようにも見える。
以前、エイナーが話した『バラル湾を一番安く渡る方法』をジェイドが覚えていて、それで行きたいという話になったのだが、それは、南の領地まで移動して一番バラル湾の幅が狭くなっている所の港で漁船を見つけて、頼み込んで船に乗せてもらうというものだった。
そこの幅ならば漁船のような小さな船でも渡ることは可能だ。今回は、イーロア国の首都ベレンでズーシュエンと落ち合うことになっていて、そのルートだと遠回りになってしまうので、却下となった。
ジェイドにリュウ・ズーシュエンがどんな人で、どこで知り合ったのかを聞かれ、何と答えていいのか悩んで答えた。
「東方の人で、穏やかな優しそうな人だった。知り合いに紹介してもらったんだ。きっと君とも気が合うと思うよ。わかんないけど。」
船に乗り込んでしばらくすると、船が港を離れた。
実は数週間前に西山から帰ってくる時、エイナーはこの反対ルートを使って帰って来ていた。
今日はイズミール方面に向かう。明日の朝には上の姉が住むイーロア国の港に着くはずだ。
甲板で離れていく港を眺めていた。
特に感慨深い気持ちになる訳でもなく、任務でどこかに赴く時に近い、いやそこまで緊張感もなく、そうは言っても旅行に行くという気分でもない。
隣で柵にもたれ掛かりながら、船の帆を眺めているジェイドの顔も、特に希望に満ち溢れている訳でもなければ、不安に駆られている訳でもなさそうだった。
十二年間待ち望んだ彼女の復讐への旅立ちである、いったいどんな心持で今日を迎えたのだろうか?
「なあ、今はどんな気分なんだ?」
「うん、特には何も思うことはないな、まだ実感が湧かないだけかも。」
「まあ、そうだよな……あのさあ、復讐したいって思いつめるほど、人を憎み続けるってどういう気分なんだ?」
そんなことを聞くのはすごく残酷なことだとは思ったが、聞かずにはいられなくなった。
「憎み続けるって言っても、毎日毎日、憎い憎いて思い続けてる訳じゃないし、この気持ちが憎しみなのかももう自分でも良く分からない。だけど、ふとした時に思い出すんだ、あいつの言葉を。それで、あいつがこの世に存在して、息をしていることすら許せないって気持ちが沸き上がってきて、同じ空気を吸ってるって思うだけでもおぞましい気分になってくる。そして、段々、自分の体が強張って動かなくなるような気がして来る。最後は自分の憎しみで自分が汚れていくような気がして、どうしようもなく悲しくなる。だから、そいつを自分の手で消さなくちゃって思う。」
彼女の表情は淡々としている、そして、そのまま言葉をつづけた。
「誰に言われたのか覚えてないけど、昔、憎しみで人を切ってはいけないって言われてことがあった。一度でも、憎しみで人を切ってしまうと、永遠に自分の心にその影が残って消えなくなるって、死ぬまでその影を背負って生きることになるからって。エイナーは憎しみで人を切ったことってある?」
「憎しみねえ、怒りに任せてってのならあるけど、憎しみはどうかなぁ、そもそも、そこまで人を憎んだことがないと思う。」
「怒りと憎しみって何が違うの?」
「よくわかんないけど、今まで生きてきて、数えきれないほど怒りを覚えたことがあると思うけど、どれも覚えてない。」
ふと考えて、エイナーは言葉をつづけた。
「一つ思い出した、昔、学校の寮の裏にウサギ小屋があったの、その中の一羽がすごく懐いてくれて、ミミって名前つけて可愛がってたの。でも、ある日、上級生たちがそのウサギたちを放して、自分の犬たちに襲わせたの。単に面白がってやったんだと思うだけど、ミミもその犬にやられて死んじゃったんだ。その時は憎らしくてその犬の飼い主を殴った。」
「どんな気分だった?」
「余計、虚しくなった。それに、その後、そこにいた上級生全員からボコボコにされた。」
「で、どうしたの?」
「え、それでおしまい。その後は、腹いせに、そいつらが隠れて巻たばこを吸っている所に先生が行くように仕向けたの、まんまと見つかって、謹慎させられてた。ざまあ見ろって思ったよ。」
「結局、やり返したんだね。」
「そうだね。話のレベルが全然違うから何の参考にもならないけどね。」
絶望、嫌悪、恐怖、自己嫌悪。
彼女が抱く気持ちを何と呼べばいいのか分からないが、そんな気持ちで十二年間を過ごして来て、まともな精神状態でいられる方が凄い。
ずっと自分を鼓舞して修練を続けることで精神状態を保っていたのだろうか?
『あいつの言葉』って何を言われたのだろうか?
ただ、これ以上この話を今続けるのは、彼女の心理への負担が重すぎるのではと思い、今は聞き返さなかった。
彼女の精神力はどこまで持ちこたえることが出来るのだろうか?
船の旅は体が楽だが、することがないので暇だ。
部屋に行っても小さな窓が一つあるだけで部屋は暗いし、空気が淀んでいる。
寝るまでは甲板で時間を潰した。夜空の星を眺めながら、ジェイドの星座の講義を聞いた。
次の日の朝も、日の出前から甲板に出て日の出を待った。
ほの暗い海から太陽が顔を出し、辺りは青と赤の静寂に包まれていく。神秘的な光景だ。
横でジェイドが話しかけてきた。
「イーロアって何がおいしいの?」
「食べ物の話?」
「そう。」
「う~ん、名前は覚えてないけど、塊肉を焼いたものとか、長細い米の炊き込み飯とか、どれも独特な香辛料の味がしたけど、美味しいって言えば美味しかったよ。なんだ、腹が減ったのか?」
「うん、腹が減った。」
エイナーは荷物の中から、葉っぱに包まれた焼き菓子を一枚だして、彼女に渡した。
ジェイドはそれを半分に割って、片方をエイナーに渡しながら、興味深そうに尋ねた。
「戦に行くときは、こういうの食べてんの?」
そんな訳ないだろうという顔でエイナーは答えた。
「料理人が同行するから、普段とそんなに変わらないものを食べてたよ。」
「何ですと。」
ジェイドは、今年一番の衝撃を受けたようだ。
「やせ細って戦ったら、普通に負けるだろう。」
「確かに。」
そして、今年十三番目くらいの気づきを得たようだった。
今回はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>




