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第108話 悪党の血(つづき)

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 ジェイドは黙って、老人を横目に見つめた。ぴくりとも動かない。


「それは、それは、優秀だったそうだ。お前らも気づいているだろう、私の部下は気配が消せる。しかも、常時、気配を出さずにいられる。通常、この技を会得するのには十年近くかかるらしい。だが、私の優秀な父上は、一年で会得されたそうだ。」


 そう言って鼻で笑って、話を続けた。


「気配を消すと言うことは、その間、自我を失くすことになる。自我のない人間は暗示に掛けやすい。この男を操り人形にするのは簡単だった。自分が一番得意とすることを逆手に取られて、今では私の操り人形だ。いつくばれと言えば、いつくばる。笑える。」


 そう言って、満足げに笑みを浮かべた。


「恨みでもあったのか?」


 ジェイドが尋ねた。


「恨み?」


 暫し沈黙が続いた。


「奴が望んだことだ。私に命乞いをして、何でも言うことを聞く、殺さないでくれと足にしがみついてきた。だからこうやって使ってやっている。ろくな仕事も出来ない出来損ないを、見捨てずに使ってやってる。」


 そう言ってマラトは再び鼻で笑った。


「そうか。」


 ジェイドは穏やかに答えた。


「これで話は終わりだな。」


 マラトも穏やかな声で言った。


「お前の母親のことを聞いてない。母親はどうした?」


 ジェイドの声にマラトの表情が少し強張った。


「私を産んで直ぐに死んだ。私を育てたのは、この男の別の妻だ。この男には六人妻がいた。」


「どんな人だったんだ? お前の育ての母親と言うのは?」


「そんなことを聞いてどうする?」


「ただの興味だよ。さっきもそう言っただろう。」


「生意気な口を利くようになったな。誰の影響だ?」


 そう言って、マラトはズーシュエンの方を見た。ズーシュエンは穏やかとも冷やかとも取れる表情でマラトの視線を受けた。


「食えない男だ。」


 ズーシュエンは何も答えなかった。


「強欲で、性根しょうねの腐った女。私の父親にお似合いのゲス女だ。」

 そう言って、マラトは壁際に向かって横たわっている父親の背中に目を向けた。直ぐに、ジェイドに視線を戻し、


「誰からも愛されたことがない哀れな人間とでも思ったか? それと比べて自分は何て幸せなんだろうって安心したか? 安っぽい人間性だな。」


 そう言われてジェイドは少し困った顔をした。


「お前のことを哀れとはこれっぽっちも思わない。だが、確かに、自分は何て幸せなんだろうって思ってしまった。そして、逆に怖くなった。」


「怖くなった?」


「ああ、何故か怖くなった。何でだろう?」


 ジェイドが誰にともなく呟いた。


「はぁ?……そんなこと知るか。」


「……そうか!」


 ジェイドが再び独り言のように呟いた。


「私は、もう何も失いたくないんだ。一度でも幸せを知ってしまうと、それを失った時の絶望感は凄まじい。ああ、始めから知らなければよかったって思うくらいに。だから、もう私を幸せにしてくれるものを、愛するものを、愛してくれるものを失いたくないんだ。」


「矛盾しているし、身勝手だ。何も奪われたくないならば、私に関わらなければいいだけだろう。強欲な小娘め。」


 マラトが苛立いらだちを見せた。


「私はずっと身勝手だよ。いつも自分のために生きてきた。何が幸せかは自分が決める。そして、その幸せは自分が守る。」


 ジェイドはマラトに向かってそう言い放った。


「……勝手にやればいい。そして、自分の非力を恨むことになるだろう。」


 そう言って、マラトは薄ら笑いを浮かべた。







今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性


エレン・クム:元ムンド国皇太子

アシル・クム:元ムンド国第二王二

ルスラン八世:元ノンイン国王

アサヤ将軍:元アルーム国軍の将軍

ナフナ将軍:元ムンド国軍の将軍

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