第8話 旅立つ者と見送る者と
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
主に、水、土、日あたりに2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
エイナーが家を出て約二週間が経っていた。
ナーゲルス家の使いの者からエイナーの帰りが予定よりも遅くなることを聞いていたジェイドだったが、理由の説明がなかったため、かなりムッとしているようだった。
やっと帰って来たエイナーに向かって、ジェイドが言った。
「やっと帰って来たね、どこで何してたの?」
エイナーとしては急いで帰って来たつもりだったので、多少は労をねぎらってくれるのではないかと期待していたが、その期待は一瞬にして崩れ去っていった。
さすがに、虚明堂でリュウ・ズーシュエンに会っていたなどとは言えず、
「人を探しに行っていた。その人とは近いうちに落ち合うことになっているから、その時に紹介する。」
と言って、その場を凌ごうとしたのだが、何故かジェイドが突然態度を変えて、照れくさそうにモジモジしながら言った。
「そうだったんだ、それは大変だったね。寂しくてつい冷たい態度を取ってしまった、ごめんなさい。」
夢だと思った。エイナーは自分の手の甲をつねってみた、痛かった。
「ジェイド……」
「実は、エイナーが出発した後、私も出掛けたんだよ。」
「はあ」
「いや~、マーサにはエイナーを追いかけるって言っちゃったから、そこは口裏合わせてくれよ。」
「……」
「エイナーにはまだ紹介してなかったと思うんだが、東アルタに住んでいる師匠がいてね、その人はもともと軍医をしていたんだけど、今は田舎で医者をやっていて、家族ぐるみでお世話になってるんだ。」
「ああ」
「ずっと師匠流の冗談だと思ってたんだが、復讐に行くときは医者として同行するから声を掛けてくれって言ってたのを思い出だして、試しにお願いに行ったら、同行してくれるってことになったんだよ。凄いだろう。そうそう、ここから東アルタって遠いね、エイナーが戻ってくる前に帰らないとって焦ったけど、焦って損したよ。」
「うぐ」
軽い吐き気を感じた気がした。
『どうしたら死なずに済むか』の彼女なりの答えが、
医者を同行させることなのだろうか?
彼女なりに考えてのことならば褒めるべきなのだろうか?
その師匠とやらは、秋の健康診断シーズンが終わってからの合流になるため、十月以降に合流するらしい。
その後は、証明割符が届くとともに、トレーダーの基礎知識の詰め込みトレーニングを受け、一週間ですべての基礎知識を詰め込んだ。
また、イズミール地方の地図も頭に叩き込んだ。
既に、姉たちには手紙を書いていて、いつ来てもいいように準備しておくという返事をもらっていた。
実は、エイナーにはもう一人連絡を取りたい人がいて、その人とどうやって連絡を取ろうか考えていた。
彼とは姉の結婚式に出席した際に知り合い、その後、しばらく文通をしていた。その時の手紙が実家に残っていたので、一先ず持って帰って来たのだが、彼の住む国は既にモラン国の配下になっていて、手紙が無事に届くのか、そもそも彼が無事なのかも分からなかった。
仕事はというと、ジェイドから出発の日付を言い渡された翌日、アクセルに軍を辞める事を伝えに行くと、
「もう、明日から来なくていいぞ、いろいろやること有るんだろう?お前の部下は良い感じに他の部隊に割り振っておくよ。今、特に何処かと揉めてるってこともないし、国内も全体的に落ち着いてるからな。」
と言われ、その翌日から仕事には行っていなかった。
彼の部屋を出るときに、また彼から言われた。
「俺に出来ることがあったら言ってくれ、出来ることは手伝うよ。」
十分に融通を効かせてもらっているし、これ以上、彼にお願いできることとは何だろう?
きっと彼のやさしさから出た言葉だろうと、その言葉だけは有難く貰っておこうと思い、感謝した。
九月に入り、数日後には出発という日の昼前くらいのことだった。
ジェイドは洗面所で歯磨きをしていた。
エイナーは食堂のテーブルで資料に目を通しながらお茶を飲んでいた。
来客のようだった、外に馬車が数台止まるのが見えた。
玄関の方が騒がしくなり、喋り声が聞こえてきた。
「親が話しかけてるのに、歯磨きしてるってどうゆうことよ、直ぐにやめなさいよ。」
「歯磨きしてるところに来る方が悪いんだよ。」
「何でこんな時間に歯磨きなんかしてるのよ。」
「おやつ食べて…ぐぉ」
「やだー汚い。」
そんな騒ぎ声を背にして、執事に連れられたアドルフ、ハリス、イレノア、アーチが食堂にやって来た。
一番目に話し出したのはアドルフだった。
「急な訪問で済まない、今日しかなかったものでね。」
「皆さん、総出でどうしたんですか?」
「数日後には出発だろう、その前に一目会っておこうと思って。結婚式の日取りも変更しないと。」
すっかり忘れていたが、今年の十一月に正式な結婚式をすることになっていたのだ。
後から、ミレンナ、ドリス、ジェイドがやって来た。
「十一月なんて、寒くて嫌だって言ってたのよ。春にした方が絶対いいから、四月にしましょう。」
イレノアとミレンナが声を合わせて言った。
もちろん誰からも反対意見は出ない。
アドルフがエイナーとジェイドに向かって言った。
「では、四月に結婚式だ。それまでには帰ってくるように。」
少し間をおいて、再びアドフルが声を上げた。
「それじゃあ、これから二人の無事を祈って、パーティーを始めようじゃないか。」
その横で、ハリスがしょげた顔で唸るように言った。
「私は、無事は祈るが祝わないぞ。」
アドルフがハリスの肩を叩きながら、慰めるように言った。
「分かっている、これはお祝いじゃない。二人を見送ってやろうと決めたじゃないか。暫しこういう機会は持てなくなるから、その前に家族で食事会をしようって。そして、帰ってきたら盛大に結婚式だ、今回は三日三晩なんてケチなことは言わない、一週間の盛大な式にするぞ。」
人の家で話が勝手に進んでいく。これからパーティーだって?結婚式は一週間だって?
「いや、急にパーティーと言われても、何も準備してないですよ。」
焦るエイナーをしり目に、厨房から出てきたマーサが茶目っ気たっぷりに言った。
「大丈夫ですよ、準備は出来ていますから。ウフフ」
朝食が終わっても厨房から、何やら匂いがすると思っていたが、この準備をしていたとは、参った。
しかし、全員揃ってしまったのだから、仕方がない。
後のことは考えず、ひたすら飲んだ。
気がついたら、日は暮れて、すっかり宵の口になっていた。
多分、夜風に当たりに庭に出たのだろう、自分は庭のテラスに座っていた。
少し頭が痛い気がするが、そこまで気分は悪くない。
ハリスと言い争いをしたような気がするが、何を言ったのか全く覚えていなかった。
隣にイレノアがやってきて腰を掛けた、かなり酔っているようだった。
「寂しいんだよ。アドフルは気丈に振舞ってるけど、本当は心配してんの。あの人、いつも言うの、子どもたちには自分が決めた道を進ませてやりたいって。ロアンとハンナが異国に嫁ぐってなった時も、本当は心配で仕方なかったのにそんなことは一言も言わずに送り出して、エイナーが戦地の最前線に送られるって時も、ぎりぎりまで止めさせるべきかどうか悩んでた。でも最後は、行かせることにしたし。今回だって、ジェイドだけじゃなく、あんたのことも心配なんだと思うけど、そんなこと全然言わないし。そういう人なのよ。」
そう言って、うなだれた。
が、直ぐに顔を上げてこちらを向いた。
彼女の顔が迫ってくると思うや否や、エイナーの左腕に吐しゃ物を吐き掛け、そのまま動かなくなった。
「最悪だ。」
イレノアを運んで居間のソファーに寝かせていると、後ろからミレンナがやってきて、エイナーの体に鼻を近づけて、クンクンと彼の左腕辺りを嗅ぎながら言った。
「エイナー君、臭いよ。どこで何してたの?」
完全に目が据わっている。
「庭にいたら、イレノアが来て、腕にゲロを吐きかけられたんです。」
そう答え終わらないうちに、ミレンナが言った。
「学生の頃、私もよく吐きかけられた。薬草入りの酒は何歳からでも飲んでよかったから、二人でよく飲んだんだ。私その頃、好きな人がいてね。でもその人、奥さんも子どももいたから、全然相手にしてもらえなくて。飲みながらいつもイレノアに相談してたの。いつもイレノアは『その人は、ミレンナの運命の人じゃないんだよ、諦めなさい。』って言うの、それが悔しくって、イレノアの肩を掴んで『そんなことない。』って言って何度も揺すったりしてたから、そうなったんだけどね。」
ミレンナは据わった目で、愛おしそうにイレノアを眺めている。
訳の分からない思い出話を聞かされるのは今は辛い、
それに、早く着替えをしたかったので、一先ずここを立ち去ろうとした、
その時、ミレンナが真剣な声で、
「運命の人っているんだよ。でも、出会ってもそうだって気づけないこともあるし、気づけても一緒になれないこともあるし。出会えて、気づけて、一緒になれたなら、もう手放しちゃいけないんだよ。手放すことは運命に逆らうことになるんだから。」
振り向くと、薄暗い部屋の中に立っているミレンナがこちらを向いていた。
なんだか、胸が締め付けられるような気がした。
一瞬、物凄く重要なことを言われた気がして、目が覚める思いがしたが、よくよく考えると、よくわからない話であった。
『運命の人』という定義が曖昧で、答え合わせも出来ないようなものを信じられるほど強い心は持ち合わせていない。
そのまま黙って居間を出ようとしたが、ミレンナに呼び止められて、渋々振り返った。
「エイナー君、私、言い忘れてたことがあるんだけど。」
「はい、何でしょう?」
「指輪」
「指輪が何か?」
「その指輪、同じ石からとった指輪をしていると、別の指輪をしている人間が不安や恐怖を感じている時に、自分の指輪が冷たくなって青くなるの。近くにいるとならないんだけど、遠くにいるとそうなるの。」
自分の左薬指にしている黒い指輪をミレンナに見せて言った。
「これって魔法の指輪かなんかなんですか?でも、遠くにいたら、相手が不安を感じてることが分っても何も出来ないじゃないですか。」
ミレンナが自分の左薬指の金色の指輪を撫でながら言った。
「うん、具体的には何もできないけど、冷たくなった指輪を温めて励ましてあげるとね、相手にその気持ちが伝わるの。」
自分の指輪をまじまじと見て『そんなことあるのか?』と不思議に思った。
カラスが人を監視したり、犬が大きくなったり(これは実際には見てないが)、指輪で人の心が通じ合ったり、それが本当ならば、アルタの魔法文化とは、もしかすると凄いものなのか?と思った。
取り敢えず着替えをして、全員の無事を確認することにした。
イレノアとミレンナは居間で寝ていた。
アドルフとハリスは食堂のテーブルに突っ伏して寝ていた。
ジェイドと子どもたちは、庭で遊んでいた。
長い紙縒りの様なものの先に火をつけると、最初は赤い火花が出て、そのうちそれが黄色、緑色へと変化をしていく。
花火だ。
「きれいだね、どこで手に入れたの?」
「作った。」
花火を手に持っている彼女を囲んで、子どもたちと一緒にしゃがんで、色が変わっていく花火を見ていた。
翌日の昼過ぎに、親たちは帰っていた。
彼らが帰る前に、イレノアに気になっていたことを尋ねた。
以前、イレノアにハリスやジェイドにまつわる噂話を聞いたことがあった。その時、彼女はまるで真実を知らないような口ぶりで、世間で言われていた噂話を教えてくれた。
しかし、実際、彼女は真実を知っていた。
「何で、あの時、本当のことを教えてくれずに、世間の噂話を教えてくれたんですか?」
「それは、エイナーがどんな噂話があるか教えて欲しいって言ったからよ。だから、聞いたことある話を全部したのよ。」
「……」
「と言うのは半分冗談で、いずれは、エイナーとジェイドを一緒にさせようって考えていたから、エイナーには変な先入観を持たせたくなかったみたい。だから、私も本当のことは教えられなかったの。ごめんね。」
自分では、もう自立して一人でも生きていけるつもりでいるのだが、いつまでたっても父親の掌の上を走り回っているだけの様な気がした。
ジェイドもそうかもしれない、五歳まで生粋のお嬢様として過ごし、その後は大変な生活だったかもしれないが、側にはいつも、父親の部下とズーシュエンがいて守ってくれた。
そんな二人で、これからその掌を飛び出してどこまで行けるのだろうか?そもそも、飛び出すことが出来るのだろうか?
今回はいかがでしたでしょうか?
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