第97話 北の村の昔のお話
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
「私の故郷はムークアツの中央南部にある村です。」
ズーシュエンとジェイドは男の話に耳を傾けた。
「…そこは、針葉樹の森が広がり、一年のうち半分近くは雪に覆われているような所です。
男子は三歳くらいになると母親から引き離されて、男子だけで生活をします。女子が産まれると特に優秀なものの子どもでない限りは、どこかに売られて行きました。
また、閉鎖的な村で代々安定した子孫を繁栄させるために、よそから年頃の娘を連れて来て村の男の嫁にしていたようです。
男子は三歳から特殊な訓練を受け特殊な技術を身に付けます。また、十四、五歳くらいになると一人前とみなされ、殆どの者が、一族の上層部『大人たち』と呼ばれるものが決めた所に仕えることになります。
十六歳になっても十分な技術が身に付かなかったものは、ある日突然いなくなっていました。」
そこで、男は少し口ごもった。
「あの方は、マラト様は当時の当主の九番目の男子としてお生まれになりました。そして…十六歳の時に突然いなくなったのです。」
そう言うと、男はまた口ごもった。
「マラトは十分に技術を身に付けられなかったのか?」
ジェイドが尋ねた。
「そう言うことになります。」
男が言いにくそうに答えた。
「しかし、体術には優れておいでで、我が一族の特殊能力を身に付けずとも十分に良家に仕える能力をお持ちでした。
しかし、当時の当主はあの方の能力をお認めになりませんでした。
聞いた話なので、詳しいことは分かりませんが、そう言った者は目隠しをされ、袋に詰められて、もっと北の一年中雪に覆われた地方に連れて行かれて、そこに置き去りにされると言うことでした。ですので、帰って来たものは一人もおりませんでした。
しかし、あの方は、二年後、その村に戻っていらっしゃいました。
そして、ご自分の父親である当主や、御兄弟の全てを亡き者にしました。そして、ご自分が当主になられたのです。」
ズーシュエンとジェイドは、男の話の続きを待った。
「あの方は、その後、数年かけて自分の忠実な僕となるものをそこで育成し、その僕達を連れて村を出ました。村を出るとき、村は焼き払ってきたので、今はもう誰も住んでいないでしょう。」
男の目に涙が溢れた。
「……今までそのことを悲しいと思ったことはありませんでした。しかし、今、無性に悲しいのです。どうしてでしょうか。
自分の母や村に残った子どもたちを殺めた時でさえ、悲しいなどと思った事はありませんでした。村に火を放った時にも何も感じませんでした。
でも、今、その時のことが鮮明によみがえって来て、胸が苦しいのです。」
そう言って、止めどない涙を流した。
暫く涙を流した後、男は立ち上がり、
「取り乱してしまったようです。少し夜風に当たってきます。」
そう言って部屋を出ようとした。ズーシュエンも立ち上がり男に声を掛けた。
「この村で貴方を一人にするわけにはいきません。申し訳ありませんが、ご一緒させてください。」
扉を開けて背を向けていた男が振り返り、
「このまま帰ります。そっとして置いてもらえるとありがたいです。」
そう言って部屋を出て行った。ズーシュエンもジェイドも男を追わなかった。
窓から男がマラトの隠れ家の方に歩いて行くのが見えた。
男が二人の視線に気づき振り返って手を振った。二人も小さく手を振り返した。
自分で書いていて、無性に悲しくなってしまった。なんかすごく悲しお話。
と言うことで、
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




