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第95話 再び、マラトの隠れ家へ

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 ジェイドたちは、再びマラトの隠れ家に近い村に到着した。


「お帰り、今度は奥さんも一緒かい?」


 宿屋の主人が嬉しそうにズーシュエンに尋ねた。


「いいえ、この方はグレナディからお連れした医者です。」


 ズーシュエンがそう答えると、モーイエが宿屋の主人と女将に自己紹介をした。


「はい、グレナディで医者をしているメイ莫耶モーイエです。暫く御厄介になります。」


 そう言って微笑んだ。


「へー、お医者さんかい……」


 主人と女将は口をそろえて言った。


 三人と二匹を部屋に案内し終わった主人が、女将に言った。


「何で、今頃になって医者を連れてきたんだろうね?二人とも元気そうに見えるのに。」


 女将は全く分からないと言わんばかりの表情をしたが、何かひらめいたように手を軽くポンと叩き、


「そうだ、最近、腰痛がひどいから相談してみようかな。お前さんも、足が痺れるって言っていたじゃないか。相談してみたら?」


 主人は、それは名案とばかりに答えた。


「そうだな、なかなか医者に相談なんてできないからな。いい機会だ。」




 二人がマラトの隠れ家に偵察に向かっている間、モーイエはムーと一緒に一階に降りて、女将さんに何か手伝えることがないかと尋ねた。


「そんな、そんな、お客さんなんだから手伝う必要ありませんよ。あ、でも、もしよかったら、私の腰痛を診てもらえたりしますか?旦那も足が痺れるって言っていて。お代はお支払いします。」


「勿論、お安い御用ですよ。高い薬が必要とかじゃなければお代はいりません。部屋でじっとしているのが耐えられなくって。もしよかったら、ここの空きスペースで仮の診療室を開いてもいいでしょうか?」


「それは有難い。村の皆に宣伝しておきますよ。」


 そんなこんなで、モーイエは、主人と女将の承諾を得て、食堂の一角で仮の診療室を開くことになった。

 午後になると噂を聞きつけた村人が数名やって来て、客がほとんどいない食堂が少し賑やかになった。




 マラトの隠れ家に馬車がある事を確認した二人はペペを外で待たせて、洞窟の中に入って行った。


 洞窟の中の松明には火がともってはおらず、少し進むと辺りは真っ暗になった。相手に気づかれないようにするため、明かりをともさずに進んだ。

 少しずつ目が慣れてきて辺りの様子がぼんやりと分かった。


 二人は無言で進んだ。


 後ろから何かの気配を感じ振り返った、人ではない何かが近づいて来る。

 敵意も殺意も感じない。その何かがズーシュエンの手の先に冷たい何かを押し付けた。


「ペペ?」


 ズーシュエンが小声でそう言うと、ペペは冷たい鼻を再びズーシュエンの手に押し付けながら、尾を振った。そして、自分について来いという仕草をした。二人はペペについて洞窟を出た。


 平原を見下ろすと、黒い馬車が走り去っていくのが見えた。


「嘘だろう。何で逃げるんだ。」


 ジェイドは呆然とその馬車を見つめた。


「彼にとって何のメリットもないからな、私たちと戦うことは。」


「じゃあ、戦う意義を与えてやれば良いのか?」


「どうやって与える?」


「あいつの大事なものを奪い取ろう。この隠れ家に隠していないかな?」


「大事なものかぁ、大事だと思うようなものを盗んでみよう。」


 そう言って、また洞窟の中に戻って行った。




 大きな扉にはかんぬきはかかっておらず、かんぬき老人もいなかった。何故かズーシュエンはホッとした。


「この隠れ家を爆破したら、怒って戦う気になるかな?」


 ジェイドが広間にある松明に火をともしながら言った。


「怒るかもしれないね。ただ、ここの構造から考えて、この部屋を爆破したら崖自体が崩れてしまうだろう。点火後に自分たちが逃げる時間をどう稼ぐかを考えないとだな。」


 松明が灯ると、辺りが良く見えた。部屋の四隅に何か置いてあって、そこから白い長い紐が出ている。ズーシュエンがそれに近寄って確認した。


「こちらが爆破しなくても、自分たちで爆破するつもりなのかもしれない。」


 ジェイドもズーシュエンに近寄ってそれを見た。


「爆薬?」


 ジェイドが呟いた。


「私たちがここに入るのを確認して、誰かが引火するつもりなんだろう。」


 辺りを見まわしたが誰もいない。ぺぺも静かだった。


「逃げた方が良さそうだな。」


 そう言って二人と一匹は出口に向かった。


 広間の松明の明かりで洞窟の中も薄っすら明るかった。


「あ、松明付けたままだった。引火したら爆発するな。」


 ジェイドが後ろを振り返った。


「もう、危ないから戻るのは止めよう。爆発してしまったら、それはそれで仕方がないだろう。」


「それもそうだな。」


 そう言って、そのまま洞窟の出口に急いで向かった。


 広間の明かりがずっと洞窟の中を照らしている。何かおかしいと思い振り返ると、松明を手にした誰かがこちらに向かってくる。


「誰か来る。」


 ズーシュエンがジェイドに言った。ジェイドも振り返って後ろを確認した。


「ウズラか、どうして引火しないんだ?何をするつもりだ?」


 ジェイドはそう言いながら暫し考えるような表情をした。


「もしかしたら、死ぬのが怖くなったのか?」


 ジェイドが呟いた。


「どういうことだ?」


 ズーシュエンが聞き返した。


「だって、あそこで引火したら自分も死ぬことになるだろう。だから、外に出てから仕掛けてくる気になったのかと思ったんだ。」


 過去のウズラたちの行動を考えれば、たとえ自分が爆死するとしても、あの場で引火をして自分の使命をまっとうするだろうとズーシュエンは考えた。

 しかし、石の効力が弱まってマラトへの忠誠心まで弱まったのだろうか?そして自分の命が惜しくなったのか?


「話を聞いてみるか?」


 ズーシュエンとジェイドは洞窟の入口で、松明を持った人物を待った。


 松明を手にした男が現れた。左手に黒い手袋をしている。背が高く、金髪で彫りの深い顔立ち、そして灰色の瞳。どことなく悲し気な表情をしている。


「逃げないのか?」


 男が尋ねた。


「お前こそ、どうして爆破しなかった?」


 ジェイドも尋ねた。


「怖くなったんだ。急に……こんなこと初めてだ。」


 男の薄い唇がそう呟いた。


「で、これからどうする?戦うか?」


 ジェイドが再び尋ねた。


「わからない。何をすればいいのか自分では判断がつかない……」


 男の手から松明が落ちた。男は両手で頭を抱えた。







今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性

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