第92話 カリーナ王女とジャーダンの出会い
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
城内外ともに、夜明け前から出陣の準備で賑わっていた。
かがり火の明かりの中、馬装をするもの、甲冑に身を包み装備の最終確認をするもの、食事を取るものと各々が各自の準備を進めている。サムートは将軍や将校たちと最終確認を行っている。
話が終わるとサムートがエイナーを呼び寄せた。
「アシルを頼む。彼は戦略や戦術には長けているのだが、肉体的な戦闘力が…イマイチなんだ。もしもの時は彼を守ってやって欲しい。」
「勿論だよ。」
そう言ってお互いの腕を背中に回して、背中を叩き合い、強く握手をした。
出陣の準備ができると、サムートたちはパレオスに向かっておよそ半数の兵士たちと共に出発した。
城門を通って長い行列が西に向かって進んでいく。
彼らの掲げるアルーム国の赤い旗とムンド国の緑の旗が美しくはためいていた。
その後もエイナー達は城塞で応戦の準備に追われた。
「一カ月分の物資は運び込まれているから、その間にはケリをつけたいですね。」
エイナーがアシルに言った。
「そうだね、それにしても良くこんなに物資をここに持ち込めたね。」
「南から入って来る物資のほとんどはグレナディで管理していますし、どうやら、結構、横流しされている物も多いらしく、帳簿を誤魔化すのは簡単らしいんですよね。物資調達担当のアルがその辺上手くやってくれて、パレオスの物資管理者にばれないようにやってくれたみたいです。」
「やっぱり、ジャーダンって詰めが甘いよね。僕だったら、物資調達管理を属国の役人になってやらせたりしないのになあ。まあ、その詰めの甘いジャーダンに国を乗っ取られてしまった身としては何も言えないけどね。」
この人は、自分のことを「僕」と称するのだな、ちょっと不思議に思いながら、
「ジャーダンって、どうしてこんなに勢力拡大できたのでしょうか?カリスマ性がある訳でもないようですし、どちらかと言うと、家臣たちからの信頼はなさそうでした。やはり、マラト・ベルカントに寄る所が大きいのでしょうか?」
エイナーにそう尋ねられて、アシルは少し小首をかしげて考え、
「マラトの暗躍のお陰は大きいと思うけど、カリーナ王女の寵愛を受けている所が大きいと思うな。家臣たちはジャーダンではなく、カリーナ王女に従っているだけだと思うよ。王女はジャーダンにベタ惚れだからね。寄りにも寄って何であんな奴なんだろうって思うけど。」
「カリーナ王女ですか。強欲で分別のない人には見えませんでしたが、ジャーダンの横行をどうして許しているのかがどうしても理解できないのですよね。」
「カリーナ王女もマラトの部下にいろいろ吹きこまれていて、ジャーダンのことを本当に善良で献身的な人間だと信じ込んでいるんだよ。モラン国に支配された国の現状も知らされていない、それどころかパレオスの様に栄えていると勘違いさせられているんだよ。」
「他国がモラン国に支配されて、それで以前より良くなっていると思っているのですか……そんな勘違い、そう長くは続かないでしょう。」
エイナーは驚き、大きく目を見開いてアシルを見た。
「元々思い込みが激しい性格ってこともあるけど、カリーナ王女はジャーダンを信じたいんだよ。彼女にとってジャーダンとの出会いは衝撃的だったらしくって、パレオスの大広場にある猫を抱えた二人の像には『出会いの像』って名がついてるんだ。恋は盲目とは言ったものだよ。」
「はぁ……盲目の恋ですか……」
本当にはた迷惑な話だなと、エイナーはため息をついた。
「どんな出会いだったか、興味ある?」
これから戦闘が始まるというのに、この人と話をしているとどうも他人事の様に感じてしまう。気を引き締めねばと自分に言い聞かせつつも、
「そうですね、興味ありますね。」
そう答えてしまった。
「カリーナ王女は子どもの頃から、何故か西方からやって来る金髪で白い馬に乗った王子と自分は結ばれるって思い込んでいて、僕たちのような近隣国の王子には目もくれなかったんだよ。エイナーなんかきっと彼女の好みだよ。そうだ、今からでも遅くないよ、エイナーがカリーナ王女を誘惑して、この戦いを止めさせてくれよ。」
「私は金髪じゃないです、これは薄茶色です。王子でもないし。」
そう言って、エイナーは自分の亜麻色の髪を指でつまんだ。
「冗談だってば、彼女は一途だから、誘惑しても無駄だと思うし。」
そう言って少し悲しげな表情を見せたが、直ぐにアシルは話を続けた。
「僕は彼女のことを芯の強い美しい人だと思っているけど、美しさは人それぞれだから、彼女が好きになった男性が、必ずしも彼女を好きになってくれるとは限らなくって…
カリーナ王女の婿選びにはかなり時間がかかり、一時は王女が男性不信になり、もう夫は取らないとまで言いだしてしまった事があった。
カリーナ王女の婿候補のほとんどは、彼女自身にではなく、彼女の地位に魅かれて名乗りを上げるものばかりだった。その中の見目麗しい西方の男性に王女は心を惹かれたが、彼の関心が自分自身ではなく王女と言う立場だと言うことが分かると、そのショックから一週間は部屋に籠り泣き続けた。
そんなことが三回も続くと、王女は自分を愛してくれる男などこの世にはいないのだと言い出し、一生結婚をしないことを宣言した。
そんな意気消沈な王女が、ある日、王の名代として、ムンド国の皇太子の誕生会に出席することになった。その帰り道で、王女が乗った馬車の前に子猫が飛び出してきた。危うく馬車に魅かれそうになった子猫を、たまたま近くを通りかかったジャーダンが助けた。そして、馬車はジャーダンを避けようとして道脇のぬかるみにはまってしまい、脱輪してしまった。
責任を感じたジャーダンは、自分も泥だらけになりながら、王女が乗った馬車を付き人や御者たちと一緒に道に押し上げた。
その間、王女が馬車の外で待つ間に不快な思いをしないようにと、木陰に手ごろな切り株を運んできて、そこに自分の上着を置いて彼女を座らせた。
ジャーダンには四分の三ほど西方の血が入っているため、見た目はまさに王女の好みドンピシャリだった。性格が顔に出ておりやや卑屈な感じはあるものの、背は高く、顔の作りは整っていて、黙っていれば美男子である。
腕まくりをした白く逞しい腕で、泥だらけになりながら自分のために馬車を押し上げてくれている。しかも、優しくて気が利く。
後日、近くで見ていた王女の侍女は仕事仲間たちに、カリーナ王女がジャーダンを見つめる目が見る見るうちにハートになり、人が恋に落ちる瞬間を間近で見たと語った。
…僕は、ジャーダンは待ち伏せをしてこの作戦を実行したんだと思うけど、こんなことで恋に落ちるカリーナ王女も王女だと思うよ。その後は、王女からのモーアタックでジャーダンとゴールインになった訳だよ。」
そう言って、深いため息をついた。
んんん?この人はカリーナ王女のことが好きなのか?
そんなことを漠然とエイナーは思ったが、正直カリーナ王女とジャーダンの出会いは聞くだけ時間の無駄だったと後悔し、準備に専念することにした。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




