第7話‐② 彼女の過去の世界を覗き見る
始めまして、白黒西瓜です。
某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。
ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。
若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。
主に、水、土、日あたりに2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。
自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
見れば見るほどジェイドに似ている、彼女の上位互換とでも言うべき者が目の前に立っていた。
「私が、ここの副堂長をしているリュウ・ズーシュエンです。」
あっけにとられながら、エイナーは答えた。
「エイナー・ナーゲルスです。ハリス・ドゥゴエルの娘ジェイドの夫です。」
それを聞いたズーシュエンは少し驚いた顔をしたが、直ぐに優しく微笑んで、
「ドゥゴエルさんのお嬢さんは結婚されたのですか、それは、おめでとうございます。それで、ナーゲルスさん、今日はどういったご要件でしょうか?」
どう切り出すのが良いかと悩み黙っているエイナーを、ズーシュエンは首をかしげ、紫の瞳で優しく見つめながら彼の言葉を待った。
「私の妻ジェイドは、幼いころ母親をある男に殺され、今でもその男への復讐を諦めていません。近いうちに私たちはその男を探しにモラン国へ向かいます。彼女はその男と戦うことになるかもしれません、その時、一緒に戦ってくれる人を探しに来ました。」
それを聞いたズーシュエンの笑顔は消え、彼の表情はたちまち愁いを帯びた。
「一緒に……ですか。」
「はい。私だって、彼女に復讐を諦めてもらいたいというのが本音です。しかし、彼女は長い間それに囚われたままなのです、何か彼女の中で区切りがつかない限り、彼女は前を向こうとしてくれません。どうしてもというならば、可能な限り彼女に有利な状況を作りたいと考えています。」
「そうですか……、貴方ご自身ではどうなのですか?それなりに覚えがあるようにお見受けしますが。」
エイナーはズーシュエンの目を見つめて、懇願するように言った。
「私では無理なのです。そもそも私はさほど強くありません。それに、彼女と何度か手合わせをして感じましたが、多分、互いに邪魔をしあうことになるでしょう。なので、彼女が武術を学んだ虚明堂ならば彼女と共闘できる方いるのではないかと思い訪ねました。」
ズーシュエンの紫瞳は暗い影を落としたままだった。
「彼女に武術を教えたのは私です。でも、それは復讐をして欲しくて教えたわけではありません。何があっても自分を守れるようにと願ってのことです。その気持ちは今も変わりません。」
そして、苦い表情のまま言葉をつづけた。
「復讐の手伝いは私には出来ません。それに、彼女は私のことを憎んでいるはずです。彼女の脇腹に大きな傷跡がありませんか?それは私がつけたものです。」
「ハリスから聞きました、ジェイドをここから逃がすための偽装だったと。何故切る必要があったのか、私にはわかりませんが、事情は承知しています。それに、彼女はここで生活していた時の記憶が殆どありません、貴方のことも覚えていないと思います。多分、貴方に切られて崖から川に落ちた時に記憶を失くしたのだと思います。」
それを聞いたズーシュエンは目を見開いて黙っていた。
エイナーは言葉を続けた。
「彼女は、五歳から十二歳の頃の記憶がないのです。ただ、ここに母を殺したという男がやってきた時のことは覚えていて…、他の記憶と一緒に忘れてくれればよかったのに。それと、記憶を失ったこと以外は至って健康で、自己鍛錬を怠らず、毎朝、森の中を走り回っています。よく食べるし、頑丈です。ここで学んだ知識は武術以外のこともそのまま残っているようでした。脇腹の傷跡のことはそこまでは気にしていない様子で、ただ不思議だとは言っていました、『これだけの技量があるのに、なぜもっと深く切り込まなかったのか、わざと広く浅く切り込んだみたいだ。そもそも殺す気がなかったんだろう。』って。」
それを聞いているズーシュエンの目に涙が溢れているように見えた。
彼は直ぐに道服の袖で目を拭い、平静に戻ると、
「復讐の手伝いは出来ませんが、何か他に手伝えることがあるかもしれない。いつモラン国へ向かうのですか?その手前で落ち合いましょう。」
エイナーは九月の中頃にイーロア国の首都ベレンでズーシュエンと落ち合う約束をした。
麓の食堂『西山唯一の西方料理店 やっぱりパンが好き』に戻り、今夜はそこに泊めてもらうことにした。
シャンマオはジェイドが記憶喪失になっていることを知らなかったらしく、
「そんな事態になってたんですね、お気の毒に。あの件以来、こちらからは、不用意にドゥゴエル家とは連絡を取らないようにしていたので、無事だということは聞いていたのですが、記憶喪失になっていたとは知りませんでした。ズーハン様…、いや、ジェイド様は、ここでの生活のことは忘れちゃったんですね。寂しいですね。」
「シャンマオ…って呼んでいいのかな?」
そうエイナーが尋ねると、シャンマオは嬉しそうに答えた。
「はい、勿論です。今ではその名前以外で呼ばれても、自分のことだと気づかないくらいです。」
「シャンマオもその脱出劇の時には、その場に居たのかい?」
「はい、私の他にハリス様の部下が二人、後、お医者様が一人の合計四人で崖の下の川で待ち構えていました。ジェイド様が落ちてきたのを直ぐに船に引き上げて、直ぐにお医者様が手当てをして、ノーサンストの近くまで運んだんです。」
「何で、わざわざ切りつけるなんて方法を取ったんだい?もっと穏便には出来なかったのか?」
「私には詳しくは分かりませんが、いろいろ考えた末の作戦だったようです。あの男、マラトのことですが、あいつがこの辺に出没していることがジェイド様に知られたら、自ら会いに行ってしまう危険もあったので、速やかにここを離れさせなければなりませんでした。ジェイド様はここではズーハンと名乗っていて、ズーハン様が死んだことにする必要もありました。ジェイド様ご自身に協力のお願いは出来ませんでしたし、何でも、ジェイド様は睡眠薬が効かない体質だったようで、眠らせて運ぶことも難しかったそうです。それに、何があっても虚明堂で十六歳まではみっちりと修行をして、十分に強くなるまでは家にも帰らないと言っていたそうなので、ああするしかなかったんだと思います。」
「苦肉の策だったって訳か、それじゃあ、あのズーシュエンって人も辛かっただろうね。」
「それは、それは、お辛そうでした。周りの人達からはズーハン様がそんな悪事を働くなんてありえないのに、ズーシュエン様が濡れ衣を着せて殺したと、一時は凄い批判の的になっていました。それでも彼は誰にも何も言わずに堪えていました。それよりも、ズーハン様に怪我をさせてしまったことをずっと気に病んでいました。」
「こんなことを聞いていいのか分からないが、あの二人はとても似ている気がするんだが、血縁関係があるのか?」
シャンマオは困った顔をして答えた。
「私に言えることは、ジェイド様はハリス様のお嬢さんです。それは、ハリス様もズーシュエン様もそうだと言っています。」
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