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窓際族の疲弊親父、この国の王になる(!?)  作者: ぐらたんくっきぃ
1/1

Story0 全ての始まり

まずこの物語に興味を示して下さり、誠にありがとうございます。


ひょんな事から、このような物語が生まれてきてしまいましたが、文面を見てお分かりの通り、初心者で拙い部分も多いです。


不快に思われるやも知れませんが、何卒よろしくお願いいたします。


この世界は平等であるが、同時に不公平でもある。

この世界は公平であるが、同時に不平等でもある。



太陽が昇ってから1時間も経たない時間、これから仕事や学校が始まるというのにくたびれた顔で密になった駅のホームで既に定員オーバーの電車を待つ。それに乗らなければ上司の怒号と部下からの冷ややかな目線が待っているからだ。

そんな窮屈な場所でも新聞を読み漁りネットニュースを読み漁って経済状況やら社会情勢やら新情報を頭に叩き込む。皆守るものを守るため、将来大きいことを成し遂げるため、それぞれのやり方で戦っている。


そしてこの男、中岡幸彦もその通り。駅ですらギュウギュウな中で眼鏡を曇らせながら、風邪を貰わないためにマスクをしっかり鼻までしている弊害を貰いつつ、今朝も反抗期の高校生の娘にキモいだの消えろだの……涙ぐましく戦っていた。


電車が到着し、乗るスペースとは?と問いたくなる混雑状況。にも関わらず身を粉にする思いで突っ込んで行った。


これはそんな親父の囁かな物語です。




___________________________



仕事真っ只中のオフィス。キーボードを叩く音がけたたましく鳴る電話とそれに出る明るめの声。コピー機が作動する音に人々の話す声などが埋め尽くされる内から外れ、端っこ窓際の方で周りより一型古いパソコンを使って一生懸命書類を制作している幸彦。御年45になっても尚、目立った功績もなく大きい商談をまとめたことも無く平社員歴23年を、その寂しげな背中で物語っていた。


机には只今絶賛反抗期中の娘の小さい頃の写真を飾っており、こんな仕打ちを受けても尚、愛する家族のためを思って負けじと会社に齧り付き仕事に燃えていた。



「中岡さん。ちょっと良いですか?」



それはそれは冷たくて面倒くさそうで、気を使うなどそう言うのは一切ない声かけがあった。声をかけたのは幸彦の10年以上の後輩に辺り、あっという間に追い抜いて行った人。役職は係長だ。


昔は良くしてやったのに今じゃ偉そうな口を……と思いつつ幸彦は係長に応える。すると係長は別室に来るように促して、大きくため息を吐いてからオフィスを後にした。


良い知らせという訳では無いだろうが、無視する訳にもいかないので進行中の仕事にケリを付けて席を立ち上がった。よく見ると周囲の人間はクスクス笑ってたり憐れむような顔をしつつ視線がバレないようにチラチラ見てきたり。嫌な予感しかしない。



係長に促された通りに指定された別室へ向かった。普段はあまり使わない若干物置と化している部屋に、先に待っていた後輩係長が部屋にひとつしかない椅子に鎮座している。幸彦に座る椅子なんかないと暗示しているのが伝わった。


来たことに気付くと足を組み替えてひと呼吸置いた後、ゆっくりと口を開いた。



「この前作って下さった書類、とっても良かったですよ……中岡さん」



なんと一言目は褒め言葉が放たれた。すっかり罵詈雑言浴びさせられると思っていたが、とんだ肩透かしだ。ただ、その褒め言葉を言う為に別室に呼んだと考えるには不自然すぎる……。



「その表情……安堵してますね。気楽な物だ……あなたの作った書類のせいで我々の時間を奪ってくれたんですから」



「……!?」



綺麗なくらいな褒め言葉からのカウンターをもらった。それもかなり心を抉る言い方をしてくる……。それは安堵したさ。そんな言い方されたらいい仕事出来たんだと思ってしまう。



「我々の残業代を稼がせるためだと言うならばそれはお気遣いどうも。同時に大きなお世話だがな」



長々と前置きを喋りたがる人だ。早々に本題を切り出せばいいものをあれよこれよと零れてくる。普段からかなり幸彦に対してのイライラが募っておられる。


かく幸彦もそれを察してはいるが、自分なりに努力しているし仕事は真面目に取り組んでいる。まして辞めるわけにもいかないので引くことは出来ないが、胃に穴が開きそうだ。


散々愚痴と皮肉をぶち撒けて幸彦もだんだん心が闇に染まりそうな所で、ようやく本題が出てきた。



「1つ聞きますが、この会社にとって貴方を雇うメリットって何だと思います?」



突拍子もない質問に小さく頭上に?が浮かんだ。だが、自分で考えてみても、大きい功績を残す余地がない自分を会社に置いておくメリットはないことは分かっている。



「答えられないでしょう? そうですよ。メリットが無いんですよ。そう判断されたので、渡す書類があるんです」



と、係長がクリアファイルから茶封筒を出して渡してきた。開けて中身を確認するように誘導されるがまま封を開けて中の書類に目を通してみた。



「辞令……整理解雇の通知!?」



所謂、リストラの通知と言うやつだ。来月末締めで、リストラをされてしまう人間にピックアップされてしまったのだ。


元来、リストラは会社の経営が不安定に陥り、再建の為に苦渋の決断で一定ライン以下の人間を切るものだ。だが、現在この会社で経営難とは聞かないが……。



「この書類にある通りだ。私の読みだが、この会社は経営難では無い。ただ、あなたの勤続年と家庭環境を鑑ての整理解雇だ。素直に受け取って下さい」

























仕事務めの人間が皆、勤労から一時的に開放される昼休憩の時間。オフィス内もお弁当の香りに包まれ、リラックスした気持ちになる。


外に出てみても食堂やらラーメン屋やら、オシャレなランチを提供する喫茶店でさえも行列が成されており、大量のサラリーマンとOLが今か今かとお腹を空かせている。


そんな輪から外れてオフィス街にひっそりと佇み、コンクリートの摩天楼となっている周囲とは別世界が如く木々花々が疲れを癒してくれる公園。その片隅のベンチで幸彦はうなだれていた。


突如解雇されるという悲痛な現実を中々受け入れられず、ほぼ放心状態で現実逃避するようにスマホを見ていた。家族の写真を見ながら不甲斐ない自分を悔やみ、涙が出そうになる。

何が間違っていたのか…どこがいけなかったのか…今更考えるのも後の祭りだが、到底昼ご飯を食らう気にもなれず、何を見ているのか分からない目で天を仰いでいる姿は正に疲弊親父。気の毒過ぎる。



昼休憩も半分を過ぎたところ、スマホで次の仕事について調べていたところ、サイト内に流れるある広告に目が留まった。普段なら絶対見向きもしない類の広告だが現状が現状のために何でも受け入れる体勢だったのも否めない。その広告というのも……。



「異世界転生体験…?」



との事。

見た瞬間は馬鹿げた話だと鼻で笑ったが、その後に続く文言が気になってしまった。


異世界転生体験と言うのは、所謂、電脳世界の中に意識だけを入れて体験するというもの。


現実では何かしらの機械を頭や身体に取り付けて脳波や体温などをセンサーで感知し、そのデータを元に電脳異世界を構築すると言う何とも厨二意識芽生える代物だ。異世界で怪我したり万が一死亡したりしても、現実には影響はない……はずだ。


して、華やかな広告の中、異世界転生の説明が小さく書いてあるその下に大きく『あなたも自信を持ってみませんか? 異世界で体験した全て、冴えないあなたでも』と書いてある。若干言い方が煽り口調で気に食わない部分もあるが、幸彦の心を動かすには十分過ぎる謳い文句だった。



「どうせ戻ってもクビを待つだけだ……久々にサボって自信とやらをつけてやろう。美佳、お父さんやってやるぞ!」



意気込みを十分に、記載された住所に向かうべくベンチを立ち上がり足を踏み出した。後先何も無い人ほど行動力は凄まじい。



























「ここ……か? 胡散臭い感じが凄い…」



誰もが馬鹿げてると思い相手にしないのだろう。『マクタ研究所』と古めかしい看板が傾いている建物前には誰1人おらず閑古鳥が鳴くどころか叫んでいると言っても過言では無い。


仕事場のある街から離れ人工物よりも自然の方が多い土地の、山肌を掘削した洞窟に研究所が建設されている。防空壕と言われればそうとも見えるし、核シェルターと言われても頷ける。そんな怪しい施設に訪れる人など恐らくいないだろう。閑古鳥も正しいところで鳴くものだ。


早速入りたくない気持ちが芽生えるが、幸彦も午後からの仕事を放棄して1時間以上かけてここまで来たのだ。今更後戻り出来るわけもなく、会社からは1つも電話が来ないので必要とされてない事実が研究所に入る背中を押す。意を決して入ろう。


ゴゴゴゴ…と大きい音を立てて砂ホコリを撒きながら、金属製の扉が開いた。中は少し暗いが、外からの明かりと中を照らす薄暗い蛍光灯で辛うじて進む道が見える。

中へ進むとメインラボであろう広い所へ出てきた。広いとは言えども10畳あるかどうかくらいに狭苦しい中に怪しげな棺のような機械が鎮座しているためスペースが少ない。



「いらっしゃいませ〜♪ ようこそおいでくださいました笑笑」



場所に合わないくらいの屈託のない笑顔でボサボサ頭の若そうな男が出迎えてくれた。胡散臭さ倍増。


彼がこの研究所を切り盛りしているマクタと名乗る男。部屋のど真ん中に鎮座している棺型マシンの開発者だ。広告を出したのに、ふた月くらいお客もなくて困っていたところの幸彦参上で舞い上がっている様だ。



「本当にありがとうございまぁっす! ではァ説明して行きますネェ〜」



いまいち掴み所の無い話し方で淡々と説明をされていく。


この機械は宣伝通り異世界へ意識を送る代物で、本人には機械の中で眠るだけで良いとの事。異世界では凄く長い時間が流れているように感じるが、現実世界での時間はほんの1時間だと言う。


異世界の中では五感全部が機能し、痛みもあるのでかなりリアルに表現しているらしい。だが1つ問題点があり、体験中に死亡してしまうと現実でも脳内にダメージが入り、二度と起きれなくなってしまう可能性があるとの事。


それを聞いた瞬間また帰りたくなったが、今更帰った所で自分に残されたものはもう殆ど無い。気休めかも知れないが、まず自分が変わらないことには何も始まらないと気合いを入れて、体験に臨む姿勢を取った。



そのあともマクタから細々と色々説明があったが量が膨大すぎるがあまり、齢45の頭で理解出来るのも限界がありすぎた。そんなことお構い無しに「行けばわかる!」なんて適当こく始末。


颯爽と話を終わらされ、いよいよ機械の中に入る時が来た。プシューッと白い煙のような物を吹き出しながら機械が開いて、寝転がる為のベッドが露になった。SFとかそこら辺の映画はよく見ていたが、ここまで精巧に作るとは恐れ入る。



「異世界か……不安がいっぱいだが、見ていてくれ美佳。お父さんは強くなって戻ってくるからな!」



そう言って幸彦は機械の中のベッドに横たわり、大きな音を立てて機械の蓋が閉まって行く。疲れ切った心と果てしない不安と家族を愛するが故に必ず守り抜くという使命感を胸に、機械の連れて行く先へと向かうのだった。






























その直後。



「では中岡さん…後は…よろしくお願いします」








吊るされていた紐が乾いた音を立てていた。

ここまでの清き愛読ありがとうございます。


投稿頻度は不定期でございますが、これからも宜しくお願いいたします。

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