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彼から見た彼女1(side.フィル)

読んでいただき、ありがとうございます。


※今話はフィル視点となります。よろしくお願いいたします。

「うおっ、フィル!?」


教室に入るなり、バートが驚いた表情で俺の名前を叫んだ。

他のクラスメイトたちも同じように驚いた表情で俺に視線を向けている。


「おはよう」


俺はバートにそう挨拶をすると、そのまま自分の席へと向かう。

すると、バートが慌ててこちらに近寄ってきた。


「なあ、髪どうした?あっ!眼鏡も!」


俺が黙ったまま自分の席に座ると、バートは俺の前の席に勝手に座ってこちらを振り向く。


「で、イメチェン?失恋?」

「……その二択しかないのか?」


バートは昨年も同じクラスで親しくなった友人だ。

水色の髪に茶色の瞳を持ち、明るくて人当たりもよく、外見から暗い印象を持たれがちな俺にも臆することなく普通に声をかけてくれた。


「いや、だってお前……こんなにばっさりと髪切るからさぁ」


バートが驚くのも無理はない。

俺だって、自分自身の行動に驚いているのだから……。


『うーん、隠したいのなら隠したままでもいいと思いますけど……いっそのこと見せてしまったほうが楽じゃないですか?』


きっかけは彼女のそんな言葉。


『それに、人ってけっこうすぐに見慣れますし』


同情でもなく、励ますでもなく、ただ自身の考えを述べているだけのその言葉が、なぜだかストンと自分の中に入ってきた。


『そんなことより、フィル先輩に聞きたいことがあったんです』


それに、彼女の態度は俺の火傷跡なんてどうでもよさそうだった。


(そういうものなのか……?)


長い間凝り固まっていた自身の考えが簡単に(くつがえ)されて、不思議な気分に陥る。

そして、彼女に言われたことをさっそく試したくなっている自分がいた。


その日の放課後、まずは美容室へと向かい思いきって髪を短くすることにした。

担当してくれた美容師は俺の火傷の跡をちらりと見たあと「髪を切る際にもし触れて痛ければ言ってくれ」と、気遣う言葉を口にしたぐらいで、他には何も言わずに時折こちらの要望を確認しながら手際よく髪を切ってくれた。


鏡には、見慣れないすっきりとした短い髪の自分の姿が映る。

こんなに髪を短くしたのは十年ぶりくらいだろうか……。しかし、以前の髪型よりも似合っていると思った。


そのままの足で今度は眼鏡屋に寄り、目元を隠すための眼鏡ではなく、自分に似合う眼鏡を選びたいと店員に相談をした。

その店員も俺の火傷の跡をちらりと見たが、ただそれだけで、あとは様々な種類の眼鏡を出しては俺に何度もかけさせて真剣な表情(かお)で選んでくれた。 


俺は買ったばかりの眼鏡をかけて街を歩いてみる。


短くなった髪に、銀の細いフレームの眼鏡では火傷の跡は隠せない。けれど、久しぶりに視界が(ひら)けてみると、そんな俺のことを見てくる人なんてほとんどいないことに気が付いた。

たまにすれ違いざまに視線を寄越すことはあっても、すぐに興味をなくしたように視線を外された。


(思ったよりも、たいしたことなかったな……)


そんなふうに思えたのは彼女のおかげだった。



それが昨日のことだ。

バートは無遠慮にジロジロと俺の髪や顔を眺めてくる。


「……気になるか?」

「ん?ああ、こんなところに火傷の跡があったんだな」


バートの視線が俺の右眉辺りに注がれる。


「子供の頃に火魔法で遊んで火傷したんだ」

「まあ、子供の頃の魔法の失敗は誰にでもあることだからな。俺もさぁ……」


バートはおねしょを誤魔化そうと焦って水魔法でベッドを水浸しにして余計に叱られたことや、好きな女の子にカッコいいところを見せようとして水魔法を披露したら、相手のドレスを水浸しにして罵詈雑言を浴びせられたことなどを話してくれた。


そんなバートの失敗談に笑って「好きな女の子からの罵詈雑言はキツイな」と共感すると、「いや、それがそうでもなかったんだ……」と、なぜか頬を赤らめるバートに俺は真顔になってしまう。


すると、話し終えたバートが再び俺の顔を見つめる。


「それにしても、お前ってそんな顔だったんだな。なんていうか……普通だよな」

「………」


(お前もそれを言うのか……)


そう思うと同時に『普通が一番ですよ』と言いながら嬉しそうに笑った彼女の顔が脳裏に浮かび上がる。

頬が緩みそうになるのを隠すために思わずバートを睨んでしまった。


「だって、あんなに隠してたから勝手に期待値が上がってたんだよ」

「期待に添えなくて悪かったな」

「いやいや、素顔がイケメンじゃなくて普通なのがお前らしいよ」

「どういう意味だ?」

「で、本当のところは、イメチェン?失恋?……どっち?」


そんなことを話していると、クラスメイトたちの視線が俺たちから外れて一斉に教室の扉へと移る。

それだけで、誰が来たのかすぐにわかってしまった。


教室の扉から中へと入って来たのは、同じクラスのブライアンとアデールだ。

ブライアンはこの国の第一王子で、アデールは公爵令嬢であり、ブライアンの婚約者でもある。

その後ろに、ブライアンの護衛も兼ねている騎士団長の子息クライブが続いた。


クラスは違うが宰相の子息イライアスと、二年生の魔術師団長の子息セシルを含めたこの五人は生徒会のメンバーであり、学園で一目置かれる存在となっている。


俺はそんなブライアンを見つめながら、彼女を初めて見かけた時のことを思い出していた。



◇◇◇◇◇◇



それは三年になってすぐのことだった。

俺は春休みの最終日に熱を出してしまい、新学年になって早々に一週間も学園を休んでしまった。

ようやく登校した日の昼休み、大勢の生徒たちで賑わう食堂で並んでいると、ふと、小柄な女生徒の姿が目に入った。

まだ制服を着慣れていない雰囲気から、タイの色を見ずとも新入生であることがわかる。

ふわふわの栗色の髪に大きな翠の瞳、小柄で華奢な体型も相まってまるで小動物のような印象だ。


正直なところ……ものすごく可愛いと思った。


ついつい目で追ってしまう。

そんな彼女に食堂にいる大勢の生徒たちも視線を送っている。

しかし、それらは好意的だとは言い難いものだった。


「なあ、あの子って何かあるのか?」

「ん?……ああ、噂の新入生か」


隣にいたバートに小声で聞いてみると、彼女は光魔法の使い手で特待生としてこの学園に入学してきたのだと教えてくれた。

そんな彼女は、入学式の日にブライアンたち生徒会のメンバーに『二度と近づくな』と強い口調で叱責されたらしい。


「ブライアン殿下が?一体、彼女は何をしたんだ?」

「それが……理由はわからないらしいんだ」

「わからない?」

「噂じゃあ、殿下たちに色目でも使ったんじゃないかって言われてるけどな」


彼女は元平民だということもあり、自身の立場を(わきま)えずにブライアンたちに近付いたのだろうと噂されているらしい。


しかし、新入生が入学式の日にいきなりブライアンたちに近付くような真似をするだろうか?

もし、それが事実だったとしても、ブライアンを含めた生徒会メンバーはとてつもなくモテるのだから、女生徒一人をあしらうことぐらい簡単だろう。

それを公衆の面前で叱責とは……。


━━なぜだか、違和感を感じた。


「まあ、理由はわからなくても、あのブライアン殿下が声を荒らげるくらいだからよっぽどなんじゃない?」

「………」


バートの口振りに『なるほどな……』と、心の内で納得してしまう。


ブライアンは王族でありながら高圧的な態度を取ることもなく、優秀でリーダーシップにも秀でており、婚約者のアデールのことも大切にしていた。

アデールも、真面目で優しい人柄だと評判で、似合いの二人に皆が羨望の眼差しを向けている。 

そんな二人を支える他の生徒会メンバーの評価も高い。


だからこそ、そんな彼らに叱責されるだなんて、彼女がよほど(あく)どいことをしたのだろう……と、はっきりとした理由はわからなくとも、皆がバートのように判断しているようだ。


それ以来、俺は彼女の存在が気になってしまい、ついつい見かける度に目で追うようになっていった。



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