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17/40

その見た目が大事

読んでいただき、ありがとうございます。


本日は2話投稿予定です。

(午後5時頃にもう1話を投稿する予定)

よろしくお願いいたします。

「………」

「………」

「じゃあ、その方針でやっていくということで!」


私の中で結論は出た。

あとはどのように演出していくかを考えなければならない。


「ルネ、ちょっと待て……」

「おい、説明をはぶくな……」


そこに二人から待ったがかかる。


「一体どういう方針で何をやるんだよ?」

「だから、ギャップ萌えでいきましょうって言ったじゃないですか」

「だから、そのギャップ萌え?が何なのか説明がほしいんだよ!」


アリスターが苛立った口調になる。


「あのな、誰かと何かをする時は説明が一番肝心なんだぞ!」

「……はい」

「作戦がちゃんと伝わってないと、それだけで成功率は下がるんだからな!」

「……はい」


そして、アリスターから騎士団仕込みの正論でお説教をされてしまった。

私は助けを求めてフィルの顔をじっと見つめる。


「ルネ、ゆっくりでいいから説明してくれ。わからないことがあればこっちから質問するから」

「……わかりました」


諭すように穏やかな口調でフィルにそう言われる。


「アリスターの言うことも正論だけどな。あんまり責めるとルネだって萎縮するだろ」

「あっ……そっか、そうだよな。……悪かった」


すかさずアリスターにもやんわりと釘を刺す。

フィルの言葉にアリスターは素直に謝罪をしてくれた。

やはり、根はいい子だ。


「あいつらと一緒にいるとどうしても口調が……」


そして、もごもごと言い訳めいたことを話し始めた。


どうやら、第三騎士団では皆がアリスターのような口調で気安い会話をしているらしい。

先ほど『俺が王族だからって特別扱いもしてくれない』とアリスターが第三騎士団での自身の扱いをそんなふうに言っていたように、皆がざっくばらんに会話をしているのに自分だけが貴族口調だと浮いてしまうので、自然とこのような喋り方になってしまったのだという。

てっきり悪ぶってわざとあんな口調なのかと思っていたが、彼なりの理由があったのだ。


そういえば、アリスターの話に出ていたバージル団長の口調も平民のようだった。

そのことを指摘すると、まさかのバージル団長はれっきとした貴族で、しかも侯爵家出身であると教えてくれた。

騎士団の皆をまとめるには、お綺麗な言葉を使っていられないらしい。


(それにしても……)


右隣にちらりと視線をやる。


相変わらず、フィルが声を荒げることはない。

もちろんフィルに感情がないわけではなく、先ほどのロイヤルクッキーの時のように不機嫌になったり怒ったりすることだってある。

それでも、怒鳴ったり乱暴な言葉遣いになるようなことはなかった。

きっと感情のコントロールが上手で、理性を優先させることのできるタイプなのだろう。


(フィル先輩みたいな人ほど本気で怒ったら怖いのかも……)


この時の私はまるで他人事のようにそんなことを考えていた。



◇◇◇◇◇◇



改めて、私はギャップ萌えという概念について二人に説明をしようとし……たら、昼休みが終わりそうだったので、慌ててランチボックスのサンドイッチを食べることになってしまった。

ロイヤルなクッキーを先に食べていたので、かなりお腹がきつい。

とりあえず一旦解散とし、放課後に再び裏庭に集まり、そこでギャップ萌えについて話し合うことになった。


てっきり放課後はフィルとよく行くカフェに三人で集まるのかと思っていたが、王族であるアリスターを護衛もなしに街へ連れ出すのはよくないだろうとフィルが言ったのだ。

今はお腹がいっぱいだが放課後には小腹が空くだろうと、勝手にカフェでケーキを食べるつもりだった私は少しガッカリしてしまう。


「また二人で甘いもの食べに行きましょうね」

「……ああ」


裏庭から教室のある校舎へと向かう途中、アリスターに気付かれないように小声でそう告げると、フィルは眼鏡を指で押し上げながら同じように小声で返してくれる。


その眼鏡に触れる指の隙間から見えたフィルの口角が上がっていたので、やはりフィルもロイヤルなクッキー数枚では足りず、あのカフェのデカ盛りデザートでなければ満足できないのだろうと思った。


そして放課後になり、裏庭のベンチにアリスターを真ん中に三人で並んで座りながら、私は懸命にギャップ萌えについて語っていた。


「ギャップ萌えというのは、不良なのに実はかわいいものが好きだったり、古典的なものだと、不良なのに雨の中捨てられている仔猫に『お前も一人なのか?』って言いながら拾っちゃったり……そういった意外な一面が魅力的な人に使う言葉です!ちなみに私は、不良なのに実は家族想いで、幼い弟の保育園のお迎えなんかに来ちゃうとぐっときますね!」


逆に優等生な彼が実は……みたいなギャップ萌えもあるのだが、今回は割愛させてもらった。


「仔猫……?ほいくえん……?」


私の熱弁を聞き終えたアリスターはイマイチよくわからないのか困惑している。


「……つまり、アリスターが周りから持たれているイメージとは全く違っていて、なおかつ好感が持てる一面をアピールするということか?」

「そういうことです!」

「なるほど……意外性か……」


フィルには無事に伝わったようだ。


「えー、俺にそんな一面ないと思うけどな……」


フィルの言葉で内容をやっと理解したらしいアリスターが自信無さげに呟いている。


「そんなことないですよ!アリスター殿下は口調は荒っぽいですけど、実際は素直で気遣いだってできるいい子じゃないですか!」


私の言葉にアリスターはそのアイスブルーの瞳を大きく見開く。


「そういうところを他の人にもちゃんと知ってもらうんです!」

「……わ、わかった」


アリスターは戸惑った様子だったが一応は納得してくれたようだ。


「あとは、どうやってアピールをするかだな……」


フィルの言葉に私も頷く。


「アリスター殿下ってクラスメイトに話しかけたり、交流することってあります?」

「いや……あんまり。怖がって近寄って来ねぇし……」

「じゃあ、自分から話しかけに行きましょう!」

「ええっ?急に話しかけたら変に思われるだろ?」

「うーん。じゃあ、今まで声をかけようとしてやめてしまった経験ってあります?例えば、困っている人を助けてあげようとしたり、手伝おうとしたりとか……」

「あー、それは……まあ、あった気がする……」


予想どおりだった。

アリスターのように気遣いのできる人は、他人のことをよく観察しているはず。

というのも、前世で『気遣いが足りないのは、他人のことをちゃんと見ていないからだ』と、上司から指摘されたことがあったのだ。

残念ながら、私は死ぬまで気遣いが足りないままだったが……。


「その時にどうして声をかけるのをやめてしまったんですか?」

「いや、俺なんかが声かけたら迷惑だろ?余計にビビらせるかもしれないし……」

「はい、そこです!そこで声をかけるべきなんです!」

「え?でも……」

「怖いと思っていたけど実際は優しかったと気付いてもらうんです」

「………」

「あ!別にいい人ぶる必要はありませんよ。あくまで、アリスター殿下の感情が動いた時に、ちゃんと行動で表してほしいんです」

「……やってみる」


アリスターは頷きながら小さな声で呟いた。


「そういう個人に対する行動も大事だが、もっと大勢にわかりやすくアピールする方法も考えたほうがいいんじゃないか?」

「たしかに……それも必要ですね」


今度はフィルからの提案に私も同意をする。


「こんなことを聞いて悪いが、今までの試験結果はどうだった?」


フィルがアリスターに問いかける。


フィルの言う試験とはこの学園で行われる、前期・後期試験のことだ。

乙女ゲームだが、舞台は学園なので当たり前のように試験がある。

それに、攻略対象者の中に眼鏡をかけた秀才っぽいビジュアルのキャラクターがいた。たしか、宰相の息子だったと思う。

恐らく、そんな彼のルートでは試験勉強を理由にヒロインと仲を深めるイベントでもあるのだろう。


「あー、去年の後期は……真ん中よりは下だったかな?」

「それは、必死に勉強をした結果か?」

「いや、試験勉強はあんまり……。どうせ、兄上には敵わないからな……」

「よし、じゃあ伸びしろはありそうだな。一ヶ月後の前期試験まで死ぬ気で勉強だ」

「でも、俺は兄上みたいには……」

「別にブライアン殿下に追いついたり、追い抜いたりする必要はない。ただ、お前のイメージを変えるための戦略だ。学年ごとに成績上位十名は公表されるんだから、ちょうどいいだろ?」


どうやらブライアンはメインヒーローらしく文武両道らしい。


「上位十名って……」

「何事もまずはやってみてからだ」

「……ああ、そうだな。やってみるよ」


フィルの言葉にやっとアリスターも覚悟ができたようだ。


「あ!イメージ変えるんならこの服装もきっちりしたほうがいいんじゃねぇの?」


アリスターが、自身のボタンを外したブレザーを右手で摘みながら言う。


「それは絶対に駄目です!アリスター殿下のその中途半端に悪ぶってる見た目が大事なんですから!」


私は慌てて止めに入る。

見た目を真面目に変えてしまうと、ギャップ萌えの魅力が大幅に減ってしまうのだ。


「そのままの見た目と口調でギャップ萌え作戦をやっていきましょう」


私はそう言って笑顔を向けるが、アリスターはフィルに何やら話しかけている。


「……なあ、フィル。俺って中途半端に悪ぶってるように見えるのか?」

「………」

「なあ?」

「……俺に聞かないでくれ」




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