表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/40

美味しすぎて止まらない

いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。

本当に助かっております!

美味しい……。

アリスターが用意してくれたロイヤルなクッキーが美味し過ぎて止まらない。


今は私を真ん中にしてベンチに三人並んで座っている。

フィルとアリスターがスピンオフるのを阻止しようと二人の間に割り込んでやったのだ。


「あんたも甘いもんが好きなんだな」

「はい!これ美味しいですね」

「だろ?俺もよく作ってもらってるんだ。気に入ったならよかった。また持ってきてやるよ」

「いいんですか?ありがとうございます!」


私はアリスターに満面の笑みで答えてしまう。

おかしいな……フィルの古参患者としてガツンとかましてやるつもりだったのに……。


「次は何の味がいい?」

「別の味もあるんですか?んー、チョコ……いや、ナッツ系も捨てがたい……」

「じゃあ両方用意してやる」

「やったぁ!ひゃっはー!」

「奇声はやめとけ」


アリスターとそんな会話をしていると、ふと右隣から視線を感じる。

そちらを見るとフィルが眉間にシワを寄せ、じっとこちらを見ていた。


(あ………)


これは、フィルがなにやらご機嫌斜めな様子……。

古参患者な私はフィルがかなりの甘党だと知っている。

どうやら私がクッキーを独り占めしている現状に怒っているようだ。


「えーっと、フィル先輩も食べますか?」


私はフィルの機嫌を直そうと、今更だがクッキーを勧めてみる。


「いや、今はいい」


不機嫌そうな声で目を逸らされてしまった。

だいぶご機嫌斜めのようだ。


実はもうロイヤルなクッキーは残り数枚になっており、今食べないとフィルのぶんはきっと残らない。

あとになって文句を言われるのも嫌なので、無理やりにでも今食べてもらわなければ……。

私は(つま)んでいたクッキーをフィルの口元へと持っていく。


「そう言わずに。美味しいですよ?ほら、あーん」 


すると、フィルはその切れ長の瞳を思いきり見開く。

しかし、口はしっかりと閉じられたままだった。


「あーん」


クッキーでフィルの閉じた唇をつつく。


「………」


フィルがその瞳に困惑の色を滲ませたまま、おずおずと少しだけ口を開ける。

その瞬間に、クッキーをぐっと口の中へと押し込んだ。


「んぐっ!」

「ほら!美味しいでしょう?バターの風味が絶妙ですよね!」

「………」


フィルは右手で口元を押さえ、俯きながら必死に咀嚼している。

無理やり口の中に押し込んでしまったせいか顔が真っ赤だ。


「……あんたら二人は本当に仲良いんだな」


今度は左からアリスターがなぜかドン引きしたような表情で呟いた。


「そうですね。私とフィル先輩は仲良しです!」


ここぞとばかりにフィルとの仲をアピールし、マウントをとっておく。


「アリスター殿下は仲が良い方はいらっしゃらないんですか?」

「あー、学園にはいねぇかな……」

「じゃあどこにいるんです?」


存在しているのかな?なんて、失礼なことを考えながらも聞いてみる。


「第三騎士団の連中とはよく喋るけど」

「第三騎士団……?」


この国の騎士団には王族の警護を任されている近衛騎士団を筆頭に第一から第三までの騎士団があり、それぞれ与えられる任務にも違いがあった。

アリスターが言う第三騎士団とは魔獣の討伐任務を主とする騎士団である。


ゲームでは魔獣が出てくる描写はなかったが、この世界には当たり前に魔獣が存在している。

それらは普段は森の中などに生息し、時々人里に現れては人や家畜を襲うことがあった。

ルネが王都に来る前に暮らしていた町でも、レッドボアと呼ばれる猪型の魔獣が出没し畑を荒らして家畜を襲ったので、第三騎士団に討伐を依頼したことがある。


この国は、ここ百二十年程は戦争のない平和な状態が続いており、騎士団の中でも魔獣を相手にする第三騎士団が一番危険と隣合わせだと認識されている。

そのせいか、唯一平民を受け入れている騎士団でもあった。


そんな第三騎士団と第二王子であるアリスターとの交流が少し意外だった。

昨日の話の続きにもなるけど……と、前置きしたアリスターが事情を話し始める。


「兄上に避けられるようになってからいろいろ言ってくる奴らが出てきたんだ。俺の出来の悪さを遠回しに馬鹿にしてくる奴とか、逆に兄上の悪口を俺に吹き込んで余計に仲違(なかたが)いさせようとする奴だとか……」


昨日のカフェでフィルが言っていた『周りから軽んじられることもあっただろう』という言葉が脳裏に浮かぶ。


「そのうち、なんかそういうの全部が嫌になって……兄上のために真面目にやってるのが馬鹿みたいだなって……」

「ブライアン殿下のために……ですか?」


アリスターの言葉の意味がよくわからない私に、第二王子であるアリスターは将来の国王であるブライアンを王弟として補佐するため、幼い頃から王城で様々な授業を受けていたことを説明される。

これもゲームでは描かれなかった内容だ。


「それで授業サボってるところをバージル団長……第三騎士団の団長なんだけど、その人に見つかって『うじうじ悩んでるくらいなら身体を動かせ!』って言われて、無理やり第三騎士団の訓練に参加させられた」

「………」


そんな理由で王子を訓練に参加させるとは、その団長はなかなかパンチの効いた性格をしていらっしゃる。


「第三騎士団には貴族も平民もいろんな奴らがいて、俺が王族だからって特別扱いもしてくれないし……まあ、それが居心地よくってさ。そのうち自分から訓練に参加するようになってたんだけど」


(なるほど……)


私はちらりとアリスターの胸元に目を遣る。

今日も第二ボタンまで外されたシャツの隙間から、いい胸筋がチラついている。


(なるほど……)


この胸筋は第三騎士団で鍛えられたものだということだ。

どうりでいい胸筋をしていると思った。

それに、ゲームのアリスターは服をきっちりと着込んでいたので胸筋のコンディションはわからないが、全体的にもっと線の細い印象だった。

こんなところにも違いがあるのだと再認識する。


「それで、俺は学園を卒業したら第三騎士団に入りたいと思ってるんだ」

「ええっ?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヒャッハーってwwwそしてそのマウント斜め上ですよ!ある意味ヒロインの鈍感力を発揮していますよ!と、ついツッコんでしまいます。胸筋に二度「なるほど」とか…1話につき2回以上は笑いのツボを押…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ