オイラはちょん
おいらの名前はちょん。大通りある団子の美味い茶店の看板ねこさ。名前は頭にちょんまげがついてるからって、茶店のばあちゃんがつけてくれた。おいらのまげをじいちゃんも茶店に来るお侍さんも、みんな立派なまげだなってにこにこして褒めてくれる。
おいらも雨上がりの水たまりに自分の顔を映したことがあるけれど、なかなかいけてるまげをしてると思う。だから、おいらのまげは自慢のまげなんだ。
おいらは自分のまげが一番だと思っていたのに、ある日茶店にやってきたお殿様を見てびっくりぎょうてん、ひっくり返るほど驚いた。
「ふう、暑い暑い。ばあさん、お茶と団子を貰えんかね。」
「かしこまりましたお殿様。それにしても、立派なまげでございますねぇ。」
「はっはっは!わしのまげは自慢のまげじゃ、まげならだれにも負けんぞう!」
高らかに笑うお殿様のまげはおいらのまげよりも、ピーンと立ってて長い。
あんなにおいらのまげが一番だと言ってくれたばあちゃんも、お殿様のまげをにこにこ褒めている。おいらは悔しくなって、目をギラギラさせてお殿様の前に飛び出した。
「やいやいやい!お殿様だかお月様だか知らないが、おいらのまげの方が立派なんだい!そんな上に伸びたまげなんて、ひょろひょろしてて弱そうじゃないか!」
「なんじゃと、この無礼なねこめ!わしのまげの方が立派に決まっとる!」
いきなり足元にあらわれたおいらをみてお殿様はびっくりしていたけど、自慢のまげをばかにされて顔を真っ赤なやかんみたいにかんかんに怒ってしまった。
「おいらのまげと、お殿様のまげ、どっちが立派か勝負だ!」
「その勝負、うけてたつ!」
そうして、おいらとお殿様のまげ対決がはじまった。
お殿様とおいらのまげ対決の噂はすぐに町中に広がって、広場にたくさんの人が集まってきた。魚屋さんも、八百屋さんも、豆腐屋さんも、みーんなこの対決に夢中なんだ。
時間より少し遅れてやってきたお殿様は家来を何人も連れてきて、金ピカのカゴに乗ってやってきた。大きなうちわであおがれているのに、お殿様のまげはピンと立っている。みんなの前でぎゃふんと言わせてやると気合を入れていたのに、お殿様はおいらを見るなり意地悪な顔で言った。
「ところでちょん、お主はまげ対決と言ったが、まげは持っているのか?」
「何言ってるんだい!おいらのまげはちゃーんとはここにあるぞ!」
「お主のはまげではなく模様じゃないか!」
ガーン、と頭を殴られたような気がした。おいらが今までまげだと思ってたのは模様だったんだ。そんなの嘘だと思って、ばあちゃんを見ても困った様な顔をしている。おいらはしょぼくれて地面をじっと見つめた。
おいらと反対に、お殿様はどんどんご機嫌になっていく。
「はっはっは!愉快じゃ愉快じゃ。どうれ、わしの特技を見せてやろう!」
お殿様はそういうと、突然おいらの体が浮き上がった。どんどんみんなが小さくなって、ばあちゃんが真ん丸に目を見開いてるのに気づいた時にやっとわかった。
なんと、おいらが乗っているのはお殿様のまげだった。お殿様の特技はまげを伸ばすことだったんだ。
お殿様のまげに乗って、星がきらきらひしめく中を通って、おいらはお昼には見えないお月様に降ろされた。
そこにはうさぎが杵でお餅をついていた。いつもなら大好きなお餅に食いつくとこだけど、今はそんな元気もない。
「あっ!ちょん!君を待ってたよ!」
「えっ?おいらを待ってたの?」
うさぎがぴょんと跳ねて、おいらの方にやってきた。そして手に持つちょんまげを渡してくれた。
「これはちょんが生まれてくるときに忘れていったちょんまげだよ。」
「ええっ、おいらには本物のまげがあるの?」
「うん。生まれるときに落ちちゃったんだ。だから君の頭の模様はまげみたいなんだよ。」
うさぎはそういいながらおいらの頭にまげをつけてくれた。はまったまげは、首を振っても落ちない。初めからまげがあったみたいにぴったりだった。
「あ、ちょん。見てごらん、おばあちゃんが呼んでる。そこの穴からおうちに帰れるよ。」
「うん、ありがとう!」
うさぎの言う大きな穴に飛び込むと、おいらは茶店の前にドスンと落っこちた。目の前にはばあちゃんと、だんごを食べてるお殿様がいた。
「ちょん!まぁまぁ、立派なまげだこと…」
ばあちゃんは目に涙を溜めておいらにまげができたことを喜んでくれた。お殿様は、だんごを加えながらおいらを見てびっくりしていた。
「な、な、なんじゃそのまげは!」
「おいらのまげだい、この立派なまげに勝てるなら勝ってみろってんだ!」
おいらのまげは、港にやってきた黒船みたいに光っている。お殿様は悔しそうな顔をして、カゴにも乗らないで走って行った。置いて行かれた家来も慌ててそのあとを追う。
おいらはまげ対決に勝ったけど、懲りないお殿様は毎日茶店にやってくる。結果はもちろんおいらの全戦全勝!
やっぱり、おいらのまげは自慢のまげだ!