もしも悪役令嬢に婚約破棄を叩きつける王太子が百合の間に挟まりたい男だったら
王立学園の卒業記念パーティーのさなかでのことだった。
「公爵令嬢アンリエッタ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」
「な、何ですって、クリス王太子殿下……!」
王太子クリスから婚約破棄を告げられたアンリエッタの顔が、衝撃に青ざめる。
「アンリエッタ、俺をなめるな。おまえがここにいるミナに行なっていた所業、全て調べはついている。言い逃れは許さん。俺はおまえに失望したぞ!」
言って、クリスは隣に立つ儚げな印象の男爵令嬢ミナに瞳を向ける。
「殿下……」
彼の言葉に感激してか、ミナは頬を赤らめ、クリスを見上げた。
場にいる誰もが、ああ、二人は通じ合っているのだな、と、理解する。
呆然と立ち尽くす、アンリエッタも含めて。
「待ってください、殿下。わたくしは……」
「見苦しいぞ、アンリエッタ!」
「待って、お願い! 私はただ、その子にあなたを渡したくなくて……!」
アンリエッタは瞳に涙を浮かべて訴えた。
彼女は、本当にクリスを愛していた。
それがゆえの想いの暴走。
確かに、ミナには辛く当たったが、それには理由があったのだ。
だがその理由も、クリスには通用しない。
「もうよい、アンリエッタ。俺からの裁定を言い渡す!」
「ああ、そんな……」
アンリエッタが涙を流す。
自分は彼の婚約者ではなくなってしまうのか。
そして、あの女が――、ミナがクリスの新たな婚約者の座に……、
「おまえの新たな婚約者は、ここにいるミナだ!」
「えっ」
「えっ」
アンリエッタとミナが、全く同じ驚きの表情を浮かべてクリスを見た。
「そして俺は、おまえ達の間に挟まる男だ!」
「何それ」
「何それ」
アンリエッタとミナが、全く同じ疑問の表情を浮かべてクリスを見た。
「百合の間に挟まりたい男――、つまり、ロマンだ!」
「殿下?」
「殿下?」
アンリエッタとミナが、全く同じタイミングで瞳から光を消してクリスを見た。
「待ってください、殿下。私はノーマルです。私はこんな女……」
と、アンリエッタが憎々しげな顔つきでミナを見る。
彼女の視線に気圧されて、ミナがビクリと震えて涙目で身を縮こまらせた。
そんなミナの仕草を目にした瞬間、アンリエッタの心臓が高鳴った。
何、何でこんな女にときめくの。
だって私からすれば、この女は恋敵で、それなのに、どうして……!
「アンリエッタ、素直になれ。何でおまえは、ミナをいじめたんだ?」
クリスに言われ、アンリエッタはハッとする。
「そうか、私、ミナに私のことを気にしてほしくて……」
「そういうことだ!」
その瞬間、アンリエッタは気づいた。
自分が本当に好きなのは、クリスではなく、ミナ。可愛らしい彼女なのだ、と!
「ま、待ってください……、私はそんな……!」
だが、ミナの方は無理です無理です、という感じにかぶりを振っている。
しかしクリスは揺るがない。彼は声を張り上げた。
「今のアンリエッタをよく見るんだ、ミナ!」
「え……」
クリスに命じられ、ミナはおそるおそるアンリエッタを見る。
いつも自分のことをいじめてくる彼女に、当然、苦手意識が先行する。
「ア、アンリエッタちゃん……」
だが、今はまるで違った。
自分のことを慈しむように見る今の彼女の瞳はどうだ。
心臓がドキンと高鳴った。
それは、クリスにも感じたことのない、本物の恋のときめきだった。
「ミナ!」
「アンリエッタちゃん!」
互いの想いを確かめ合った二人が、熱く抱擁を交わす。
「ここに新たなる百合が完成した。そして、そこに俺が挟まる!」
言葉通り、クリスが二人の間に挟まるべく、ダイブを敢行しようとする。
「百合の間に挟まる男、許すまじ! 死ねェェェェ――――!」
「な、何ィ――――!?」
クリスは突如襲ってきた貴族令息によって、メッタ刺しにされて死んだ。
やはり百合の間に挟まる男は許されない。それは、世界の真理なのであった。
王太子が死んだので、次の王様はいなくなって国は滅びた。
だが百合は守られた。てぇてぇ。てぇてぇな。
ハッピーエンド!
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