二ムト
マスターの車でねこ屋に帰る。
「あーっやっと帰ってきましたねー」
美咲ちゃんが車を降りて大きく背伸びをする。
「あたし、眠くなっちゃった。」
「ちょっとした長旅だったもんね〜」
「ガンナガンはまたこんどにしますか?」
「そだね、今日は帰ってねることにするよ。」
「じゃあまた!」
「うん、またねー!」
この時帰ったことを後に私は後悔することになる。
家に着くと、私は倒れ込むようにベッドで眠りについた。
ふと、目が覚めると夜中の3時だった。
「あーっやっちゃった…」
スマホを見ると未読のLINEが3件入っていた。
美咲ちゃんからだ。
『今日はお疲れ様でした。また遊びましょうね!』
『あの…また通話してもいいですか?』
『もう寝ちゃいましたかね?おやすみなさい。』
今からLINEしても迷惑だろうし返事は明日にするか…
それから、風呂に入ったり、ご飯食べたり、洗濯したりしてたら朝を迎えていた。
「やっちまった。」
眠気覚ましに一服吸い。バイクで職場に向かう。
早めに着いたので、LINEの返事を送る。
『昨日はごめん!爆睡してたよ!また日曜日楽しみにしてるね』
それから一週間たっても、返事どころか既読すら付かなかった。
日曜日の朝、LINEで通話を掛けてみるが通じない。
ねこ屋に向かい店に入ると大賑わいでマスターが珍しくバタバタしてた。
「おっ、椿さんいらっしゃい!」
「あっ、マスター、美咲ちゃん来てる?」
「そういえば今日は遅いね、コーヒーでも飲みながら待ってる?」
そういうとマスターは、いつものコーヒーを出してくれた。
それから、1時間たっても2時間たっても、美咲ちゃんは現れず、結局閉店まで姿を表す事はなかった。
「椿さんもう、閉店時間だけど?」
「マスター…先週から美咲ちゃんと連絡が付かないんだ…」
「あの子は普段明るいけど、目が笑ってない時がたびたびあったからね、心配はしてたんだ。何もないならいいけど…」
私は店を飛び出すと、行くあてもなく走った。
「椿さんバイクー!」
「あとで取りにきます!預かっててくださいー!」
駅に着いた時だった。
目の前に宙に浮いたカルカソンヌのミープルが見えた。
目をこすり見直す。…やっぱりある。
ミープルはまるでコッチに来いと言ってるかのように、宙を走り改札口を抜ける。
私は適当に切符を買いミープルを追いかけると、1両目の電車に乗り込んだ。
どこに連れていくつもりだろう?
ミープルは私の膝の上に乗ると、終点まで動かなかった。
終点に着いたとき再び宙に浮き電車を飛び出す。
駅を抜けると近くには大きな浜辺があった。
気づいたときにはミープルは消えていて、浜辺にはみたことのあるワンピースの少女がいた。
「美咲ちゃん!」
「椿さん!?」
走って逃げようとする美咲ちゃんの手を掴む。
「離してください!」
「離さない!」
美咲ちゃんの目から涙が溢れる。
「どうしてここにいるってわかったんですか…?」
ミープルのおかげだが、信じてもらえないだろう。
「女の感ってやつさ」
それから、2人手を繋いだまま砂浜に座った。
「何かあった?話したくないならいいんだ。」
しばらく沈黙したあと、美咲ちゃんが口を開く。
「私、実は不登校なんです…人間恐怖症で、すぐにおどおどしちゃって…そのせいで学校ではいじめにあってて…死にたいって…そう思ってたそんなとき椿さんに出会ったんです。」
私はタバコを咥えて火を点ける。
「その気持ち、簡単にわかるっては言えないけどね、私も美咲ちゃんに会うまでは、自分って何で生きてるんだろうって思ってた。ただ淡々と毎日を過ごして、平凡な日常に嫌気が差していて…そんなときに美咲ちゃんと出会って、ボードゲームに出会って、色が無かったつまらない世界がカラフルになった。」
「椿さん…」
「マスターが言ってたじゃない、ドミニオンをやってから美咲ちゃんの目が輝いたって。私の知ってる美咲は…その…なんだ…すごく可愛くて…輝いてて…その私は美咲ちゃんの事を大好きだと思ってる…それじゃダメかな?」
声を上げて泣き出す美咲ちゃん。
美咲ちゃんをそっと抱きしめる。
だんだんと日も暮れてきて闇夜の海に月が映る。
「暗くなっちゃったね。ご両親に連絡しないの?」
「そうですね、連絡しないと捜索願い出されちゃいます!笑」
少し離れたばしょで美咲ちゃんは電話をかけ、話が終わると私の所に走ってきた。
「今日は少し遅くなるって言っちゃいました。」
「言っちゃいましたって」
「まだ、帰りたくないんです。椿さん一緒にいてくれませんか?」
上目遣いで見てくる美咲ちゃん…これはズルイ!
「あーっ!わかったわかったから、そんな目で見つめないで!」
頭を掻きながらどうしようか悩んでるとき、ふと思い出す。
「あっ!ねこ屋にバイク停めたままだった。」
2人で電車に乗り、ねこ屋に戻ると閉店してるはずの店に明かりが点いていた。
カランカラン
「すいませーん」
「おっ!二人ともお帰りっ」
店に入るとマスターが食器を拭きながら待ってくれていた。
「マスター、待っててくれたんですね」
「誰かさんがバイクを駐車場に置いたままだったから、チェーンかけられなくってねー」
マスターがジトーと見てくる。
「ほんっっっとごめんなさい!」
「いいよ!笑 どうだい二人とも、店は閉店したけど遊んで行かないかい?」
「いいんですかっ!」
美咲ちゃんが目を輝かせる。
「あっ、そうだ!」
私はバッグを漁り、カードを取り出した。
「二ムト?」
「おっ!椿さんいいの持ってるね!」
「実は仕事終わりに一人でボイさんのお店に行ってね…」
〜3日前〜
「いらっしゃい!…おっ?椿さんだったかな?またきてくれてありがとう!」
「すごく興味深いものがいっぱいあったからまた来ようと思ってたんです。」
「嬉しいねぇ、ゆっくり見てってよ!」
「はい!」
それからしばらくの間、ボイさんに教えてもらいながら色んなゲームを物色した。
「うーん。どれもこれも面白そうで悩むなぁ…」
「そうだなぁ、無難にこいつなんかどうだい?トランプの7並べができるならルールはすぐ覚えられるよ?」
「二ムト?」
「ルールはあの馬鹿の店に行って教えてもらいな。」
「…ってなことがあって、ねこ屋で遊ぼうと思って買ったんだ。」
「馬鹿は誰のことかわからないけど、ルールは俺が教えながらプレイしてみようか」
そういうとマスターはカードをシャッフルして、3人に10枚ずつ配り、テーブルに4枚表にして並べた。
「ボイジャンも言ってたように、ニムトは7並べに似たゲームなんだ。違う所は、みんなで同時にカードを出して、数字の小さい人からテーブルにある4枚のカードより大きい数のカードを右側に並べていくんだ。このとき出したカードと1番数字の近いカードの場所に並べられる。」
「なるほど、確かに7並べっぽい!マスター、カードの上にある牛のマークは何?」
「おっ!美咲ちゃんいいとこに気づいたね!その牛の数がペナルティの点数になる。二ムトは数字が小さ過ぎてどこにも置けない時に好きな場所一列を、6枚目のカードを置いてしまった場合その場所の一列を引き取って10ゲーム終了時に、ペナルティの点数が少ない人が勝ちってゲームなんだ。」
「うーん、説明だけ聞いても頭に入ってこない…」
私は相変わらず頭から煙を出しながらゲームを始める事にした。
「手札からみんな1枚選んで裏向きでだして」
それぞれカードを伏せる。
「せーの」
カードを公開すると
私23
美咲ちゃん46
マスター52
私からカードを並べる。
次に美咲ちゃん
最後にマスター
こんな感じでゲームが進んでいき
5枚の列が2列
2枚の列が1列
4枚の列が1列
となった。
「5枚の列が出来てきたら、出す手札をよく考えてだすんだよ?」
マスターの言葉に手札を見直すが…一体何を考えたらよいかわからず2枚の列に置ける67を伏せる。
「せーの」
私67
美咲ちゃん10
マスター3
「美咲ちゃんとマスターは置けない。」
「そうだね、だから1番数字の小さい俺はこの二枚の列を引き取る。」
「私は10なのでその隣ですね!」
「私は…」
場を見直す、5枚の列にしか置けない
「やられた!」
5枚を回収して67を置く。
これは、手札を出すのが怖い…どれも危険札に見えてくる。
「さあ椿さん出して!」
どうせ危険ならいっそでかいの行こう!
「さあ勝負!せーの」
私、104
美咲ちゃん、68
マスター、37
「しまった!」
マスターが5枚の列に置き、美沙ちゃんが67のとなり私がその隣に置いた。
「7並べに似てるけど、7並べにはない読み合いが面白い!」
「だね!単純なようで読み合いが必要なのがこの二ムトの醍醐味なんだ!ルールが覚えやすいこともあってボドゲーマのランキングでは3位にランクインしてるくらいだからね。」
「ボドゲーマ?」
「ボドゲーマはボードゲーマーが集う有名なサイトですよ!ちなみにアプリもあります!」
そう言って美咲ちゃんがアプリを見せてくれた。
「へー私も後でダウンロードしてみようかな!」
それからしばらく二ムトで遊んでると美咲ちゃんのスマホに着信が入った。
「ママからでした。もう帰りなさいって」
「外は暗いし私が送るよ!メットもあるし」
「本当ですかっ!やったー!」
マスターに見送ってもらい。店を後にした。
美咲ちゃんが背中に抱きついてくる。
意外と家は近くにありすぐに着いた。
「椿さんありがとうございました!」
「いーよ!また日曜日に!」
「はーい!また日曜日!」
それから、私は自分の家へと帰った。
タバコに火を点けると、さっそくボドゲーマをダウンロードしてみる。
「へー、ランキングだけじゃなくてレビューや攻略なんかもあるんだ!」
ピコン
LINEだ。美咲ちゃんからだった。
『今日はありがとうございました。いろいろ心配かけてごめんなさい…』
『気にしないでいいよ!そうだ、来週はガンナガンやってみないとね!』
ピコン
『ガンナガンのこと完全にわすれてました!笑 負けないように予習しときますね!』
『私だってまけないんだから。』
ピコン
ん?
蓮からだ、珍しい。蓮は私の弟で高校三年生の顔だけはいい、何を考えてるか私にもわからないやつ。
『姉貴、来週の日曜日遊び行くね!』
『え?無理』
『予定ないでしょ?行くね!』
えー
来週、弟が来ることになった。