カルカソンヌ
「お疲れっしたー!」
狭い事務所に椿の声が響く。
「あ、水無月」
男が椿を呼び止める。
「佐々木部長、どうしました?」
「いやぁ、最近水無月変わったと思ってな。何と言うかいきいきしてると言うのかな?男でもできたか?」
「男ですか?」
すこし悩んで椿が口を開く。
「どちらかって言うと彼女ですね!それじゃ!」
椿は職場を後にした。
「女だったか、最近の若いもんはわからんなぁ」
佐々木は指で顎を撫でると、ふふっと微笑した。
椿は家路に着くと、いつものようにタバコに火をつけて、大きく吸い込み煙を吐く。
ピコン
「おっ、来たな!」
美咲からだった。
『明日が楽しみですね!カルカソンヌは私も初めてで…動画でしか見た事ないのでワクワクしてます。』
『私も!』
タバコを消してベッドに飛び込む。
にやけた顔を枕に埋めると、
「明日になれーっ」
っと叫んでしまった。
動画とネットの攻略で勉強して、頭の中ではシミュレーションを重ねながら1週間をすごした。
「待ってろ、カルカソンヌーっ」
その時だった
ピコン
「ん?美咲ちゃん?」
『通話しても、いいですか?』
『いいよっ』
何気に美咲ちゃんとの通話初めてだな。
着信音が鳴り響く
ピッ
『もしもーし!』
『もしもし…』
なんか声に元気がないような?
『なんかあった?』
『その…あっカルカソンヌ楽しみですね』
『そうね、こっちはバッチリ予習済みだから負けないわよ!』
『椿さんもカルカソンヌ勉強してたんですかっ』
『勿論!って美咲ちゃんも?』
『はいっ!最近負けてばかりですからね、明日は勝ちに行きますよ』
『相変わらず強気ね!さすが私のライバル』
『私、ライバルだったんですね!笑』
『じゃあまた明日、ねこ屋で!』
『はぁい!おやすみなさい』
『おやすみーっ』
ポチッ
「さあて、そろそろ寝るかな!」
灯りを消して、布団を被る。
いつのまにか眠っていた私はその日嫌な夢を見た。
美咲ちゃんが私の知らないどこか遠くに行ってしまう夢。
朝起きたら私は涙を流していた。
私、泣いてる?
泣いたのなんて幼い頃以来。
その日は急いでねこ屋に向かった。
「あっ椿さーん!」
「美咲ちゃん!」
良かった、心の底から安心していた。
「さて、入りましょうか」
「そうね!」
カランカラン
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃい」
「マスターに、奥さんこんにちは」
「マスター今日こそカルカソンヌやらせてください!」
「おっ、椿さんやる気満々だねえ」
マスターはカウンターの後ろの棚からカルカソンヌの箱を取り出した。
「今日はお客さんもいないし、説明がてら俺も参戦しようかな!」
「あっ!ずるい私も入る!」
なんやかんやでマスターと奥さんも含めた四人でやることになった。
「カルカソンヌはね、街や道を作っていき得点を稼いでゲーム終了時に得点の多いプレイヤーが勝ちなんだ!」
「知ってます!」
「私も、説明はいいので早くやりましょう」
「焦らない焦らない!大人の事情で説明は必要なの!」
「大人の事情?」
「メタな話になるからスルーして!笑 じゃあジャンケンで勝った人から時計回りにプレイしようか!」
ジャンケンをして
マスター→奥さん→美咲ちゃん→私の順番になった。
「では俺からだね。まずは全ての土地を裏向きにして適当な束にします。裏にした時色の違うこのカードから始まる!こいつを表にしてゲームスタート!裏向きの束から一枚をめくり最初のカードに合うように並べて置きます。」
マスターは道の付いた小さめの街のカードを引いて道を合わせるように並べる。
「ややこしいから、今回は草原ルールは無しでいいね」
「はい」
「OKです!」
「さて皆の手元にある7個の人型のコマ、これをミープルと呼びます。ミープルは皆の変わり身になる存在で、このミープルを置いた街や道、教会が完成した時、ミープルを回収してそれに合った得点が入ります!」
そう言うとマスターはミープルを小さな街に置いた。
「次は私の番ね!」
奥さんが一枚めくると教会のカードが出た!
「やった!教会ゲット!」
教会にミープルを置くと次は美咲ちゃんの番、一枚めくると道のカードが出た!
「あー道かー、そうだここに置くと…」
マスターの街の近くに美咲ちゃんが道を置いた。
「厄介な所に置かれちゃったなー」
カルカソンヌはいろいろな種類のカードがあるものの基本は2枚だったりする72枚中で道の付いた街と言うのは圧倒的にすくないのだ。
つまりは妨害作戦、カルカソンヌは街や道を作るだけではなく妨害も戦略の一つなのだ。
美咲ちゃんは道にミープルを置くことなく終わった。
ミープルはたった7体しかいない。街を妨害する反面道も完成しない可能性が高いと読んだのだろう。
次は私の番、一枚めくると斜めに大きな街がでて草原同士を繋げてミープルを街に置いた。
巡ってマスターの番
「ディスティニードロー!ってそんな簡単には出ないかっ」
道を引いたマスターは美咲ちゃんの道に繋げて道を置いた。
なかなかに戦略性が問われるゲームだ、数ターン過ぎた頃。
「きたー!」
初めて私の街が完成した!
「得点は街一枚につき2点なので、椿さんは12点だね」
マスターが計算する。
「街一枚につきなら4枚だから8点じゃないんですか?」
「よく見てごらん!椿さんの街には二つ盾のマークがあるでしょ?これ一つにつき更に2点追加されるのさ」
「なるほどー」
それから奥さんが巨大な街を作ったり、美咲ちゃんがやたら変な場所にサーキットのような道を沢山作ったりして盛り上がった。
最後の一枚が置かれると一枚の大きな地図が完成していた!
「なんか、勝負も大切ですけど、ゲーム終了したあとの完成した国を眺めてると感動しますね!」
「椿さんいいこというね!それもカルカソンヌの醍醐味の一つなんだ!」
「でも私も椿さんも下位で終わっちゃいましたね」
「二人とも強かったもんね、特に奥さんの引きが強すぎる」
「えへへ」
照れる奥さん…可愛いらしい
「二人とも、まだ勝負は終わってないよ!まあ巨大な街を作ったウチの嫁が一位なのは変わらないだろうけど…でもね、今盤面にいる未完成の場所のミープル達はゲーム終了時に得点へと変わるんだ」
「あっ、そうでしたね!」
「ってことで、2位は美咲ちゃん、3位は椿さん…って俺ドベじゃん!?」
落ち込むマスター。
「マスター!カルカソンヌ、流石に三大ボードゲームなだけありますね!すごく面白いです!」
「でしょ?気に入って貰えて良かったよ!」
「あとはカタンですねっ!」
「カタンでしょ?今なかなか手に入りにくいみたいでさ、ネットじゃ高いしいつもの行きつけに入荷してくれたらいいんだけどね。」
その時
カランカラン
扉が開く。
「いらっしゃい…って、おーお久しぶり」
「マスターの知り合いですか?」
「うん、古い馴染みでね、うちの店にもたまに遊びに来てくれるんだ。ちなみに左のメガネがかずみち右のメガネがあきらだ」
説明が適当すぎる
「おい!馴染みなんだからもっとちゃんと紹介してくれよ!笑」
かずみちが突っ込む
「まあまあ、あっ、こちらの女性は椿さん、で、こっちの可愛い子ちゃんは美咲ちゃん」
「よろしくお願いします。」
「宜しくです!」
「この2人は、俺がドミニオンを始めた頃から一緒に始めた仲でね2人とも強さは折り紙付きだよ!」
へぇー、そういえばドミニオンは美咲ちゃんと2人でしかした事なかったな。
「マスター、ドミニオンって何人でできるの?」
「2人から4人だね」
「かずみちさん、あきらさん一緒に対戦して貰えませんか?」
「ちょうどあきらとドミニオンしようと思ってたところだからいいよ?王国カードはドラフト方式で行こうか!」
「ドラフト方式?」
「あー椿さんは基本セットでしかしたことなかったね。ドミニオンには王国カードが実は25種類あるんだ。それを順番に決めていくのがドラフト方式だね。」
4人がテーブルに着くとジャンケンで順番が決まった。
私→美咲ちゃん→かずみちさん→あきらさんの順番だ。
まずは私から王国カードを選ぶ
「鍛冶屋で!」
次に美沙ちゃん
「民兵でお願いします!」
次にかずみちさん
「村かな」
最後にあきらさん
「じゃあ魔女で」
村は知ってるけど、魔女は初めて見るカードだ
それからじゅんぐり
「市場」
「堀」
「地下貯蔵庫」
「礼拝堂」
「改築」
「祝祭」
と10種類のカードが出揃った。
知らないカードに、新しい対戦相手、4人対戦…何もかもが初めてだったけど、ドキドキとワクワクの入り混じった初めての感覚に興奮していた。
対戦の火蓋が切って落とされた。