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ボドゲ日和  作者: A
1/7

ドミニオン

平凡な生活、無機質な日々、淡々と生きることに疲れた私はいつからかタバコを覚えた。


どちらかと言えば嫌いだった。


吸えば何かが変わるんじゃ無いかと思った。


暇さえあれば特にすることもなく、これといって仲の良い友達がいるわけでもない。


パチンコ屋に行っては散財して残りのお金で暮らしていた。


そんなある日の事だった。


コンビニの前でタバコを吸っていると、女子高生くらいの女の子が男に絡まれていた。


たまに見る光景。


いつもなら無視して関わらないのだが、その日は負けが込んでいたせいか、イライラして気づいたら男の手を掴んでそのまま地面に頭を押し付けていた。


幼い頃から合気道を習っていたので、こういう技は自然と出てくる。


「なにしやがるっ!」


地面に突っ伏しながら男が叫ぶ。


「お前みたいなのを見てるとムカつくんだよ」


吸っていたタバコを手にとり男の目にジリジリと近づける。


「わっやめてくれ、悪かった、もうしませんから許してください」


押し付けていた手を離すと男は一目散に走って逃げていった。


気分わるいな


立ち上がりその場を去ろうとしたときだ


ぎゅっ


右手を握られ振り返るとさっきの女の子頬を紅色に染めてこちらを見つめていた。


「あっ、あの、お姉さんありがとうございます!すごく、かっこよかったです。」


「べつに、ただ見てらんなかったからちょっと手だしちまっただけだよ。気にしないで」


そう言って去ろうとするとまた、ぎゅっと手を握られる


「あの…あの…お礼をさせてください」


「べつに礼なんていらないよ」


「わたしの気が治まらないのです。お願いします。」


わたしは渋々ながら了解すると、LINEを交換してお互い今度の日曜日に改めて会う約束をした。


ピコン


家路に着くとLINEが飛んできた。


『今日は本当にありがとうございました!日曜日が楽しみです。』


お礼をする方が楽しみだなんておかしな話だ。


「美咲ちゃんか、可愛い名前…」


LINEの名前を見ながらポツリと呟く。


約束の日当日


誰かと待ち合わせなんて久しぶりで、服にも金を掛ける方ではなかったので、ジーンズにライダースジャケットを羽織りバイクで約束の駅まで走った。


ピコン


スマホにLINEが飛んできた。


『今着きました!白のワンピースに麦わら帽子をかぶってます。』


『私も今着いたとこ。ライダース着てるの私くらいだからすぐ見つかると思う。』


「こんにちはっ」


後ろからワンピースの似合う女の子が声をかけてきた。


「椿さんかっこいいですね!」


「美咲ちゃんもワンピースすごく似合ってて可愛いよ!」


「ありがとうございます////」


美咲ちゃんはそう言うと駅近くのカフェに案内してくれた。


「すごくおしゃれなカフェ…私場違いじゃない?」


「そんなことないですよ!椿さん、ここのパンケーキとても大きくてふわふわですごく美味しいんですよ!」


「へー」


あまり甘いものは好きではないのだが、せっかく誘って貰ったんだし、おすすめのパンケーキを頂こうかな。


店員さんがきて注文を聞いてくる


「天使のパンケーキ二つ!」


ちょっと恥ずかしいネーミング


「天使のパンケーキ二つですね、かしこまりました。」


待っている間美咲ちゃんの方から話しかけてきた。


「椿さんは普段お休みの日何されてるんですか?」


1日パチンコとか言えない…


「あまり、趣味とかないからボーっとしてるかな」


ガタッ


美咲ちゃんが立ち上がり目を輝かせる


「パンケーキ食べたら行きたい場所ができました!今日はカフェを梯子しますよ!」


カフェを梯子!?


美咲ちゃんは何か企んだようににやけている。


そうこうしてるとパンケーキがやってきた。


「漫画に出てくるホットケーキみたい」


「ナイフを入れたらさらに驚きますよ」


試しに切ってみると、ナイフが吸い込まれるように切れる。


ふわっふわだ!


一口食べてみる。


「お…美味しい…」


「でしょ!ここに誘った甲斐がありました。」


美咲ちゃんは口いっぱいにパンケーキを頬ばると満面の笑みになった。


2人共食べ終えた頃


「さあ、椿さん次のカフェに行きますよ!」


「でも、もうお腹いっぱいよ?」


「大丈夫です。ご飯を食べに行くわけじゃありませんから」


そう言うと美咲ちゃんは次のカフェに案内してくれた。


「カードandカフェねこ屋。こんな裏路地にカフェがあったんだね。」


でもカードってなんだろ?トランプとか?ババ抜きと7並べしか出来ないけど大丈夫だろうか。


お店に入ると至る所に猫のアイテムをあしらった店内で、注文したコーヒーカップもティースプーンもあらゆるものが猫グッズで溢れていた。


「か…可愛いっ!」


「でしょ?でもここには和みに来ただけじゃないんですよ?マスターいつものあれ貸してー!」


「あいよ!美咲ちゃんはドミニオン大好きだなぁ」


そう言うとマスターは後ろの棚から大きな箱を取り出した。


「ドミニオン…何これ?」


「さいっこうに面白いボードゲームです!」


ボードゲーム?サイコロ降って遊ぶゲームかな?


美咲ちゃんは手慣れた様子で箱の中のカードを次々と並べて行って、あっという間にゲームの準備が整った。


「なんか難しそう…」


「そんなことないですよ?ルールは至ってシンプルです!なんたって初めてのゲームで私マスターに勝ったんですから」


「その話はやめて〜」


マスターが力なく落ち込む。


「ルールは簡単。私たちはちっぽけなお金と小さい土地を持った地主です。このちっぽけなお金でお金を買うか土地を買うかサポートカードである王国カードを買うか選びます。ゲーム終了時にお互いの山札にある、領地の得点が大きい方の勝ちです」


「なんかわかったような、わからないような」


「まあ、やっていくとすぐにわかりますよ!先攻は私からやってみますね!まずはお互い10枚の山札からはじまります。よーくきって上から5枚とって手札とします。」


言われるまま5枚引く


「さあはじまりますよっ!ドミニオンはABCの3つのステップからなります。A アクションフェイズ。アクションフェイズでは王国カードを使えます。最初はお金と土地しかないのでこのフェイズは飛ばします。」


「ほう」


「つぎはB バイフェイズ。お金を使って一つだけ買い物が出来ます。私は手札の銅貨4枚、4金を使ってコスト4の王国カード民兵を購入します。購入したカードは捨て札に置きます。」


「捨てちゃうんだ」


「そして最後にC クリーンアップフェイズ。場のカードと手札を全て捨て札置き場に置いて、山札から新たに5枚引きます。これでターン終了です」


私は頭から煙が吹き出しそうになりながらゆっくりプレイしていく。


「まず、バイフェイズ手札には銅貨2枚だから2金を使ってコスト2の堀を買います。そしてクリーンアップフェイズ手札を全て捨て札に置き5枚引くと…」


「今度は私の番ですね!私は3金払って、銀貨を購入しクリーンアップフェイズに入ります」


「あれ?美咲ちゃん山札ないよ?」


「ここがドミニオンの面白い所です。山札が無くなったら捨て札をシャッフルして、新たな山札にし、ここから5枚引きます。」


「なるほど、捨て札が最終的に山札になるのね!さて、私の番!手札から銅貨5枚、5金を払って、この市場を購入します!そしてクリーンアップフェイズ!捨て札をシャッフルして5枚引きます!」


あっ市場が来た!四金と市場で一金一枚銅貨が取れたら6金の金貨が買える!


「さあ、私の番!アクションフェイズ、民兵を使います。」


「民兵?」


「椿さん、手札が3枚になるまで捨ててください」


「えー!計画がー!」


渋々、銅貨2枚捨てる。


「さてバイフェイズ、民兵で2金出たのでプラス4金で金貨を購入します!そしてクリーンアップフェイズで5枚引いて終了です」


くやしい…


「私はアクションフェイズに市場を使用して一枚引きます!」


1枚引くと堀が出た


「市場でプラス1アクションなので堀を使って2枚引きます。」


ここで銅貨一枚と屋敷を引いた。


「そしてバイフェイズ、4金かぁ…この鍛冶屋さんを買おうかな」


「鍛冶屋に手を出すとは、センスいいね!」


「マスター!助言はダメですよ!」


「はいはい!」


マスターはウズウズしながら二人の戦いを眺めていた。


「美咲ちゃん、ちなみにどうなったら終了なの?」


「よくぞ聞いてくれました!財宝、領地、王国カードのうち三種類がなくなるか、領地の中でも最高得点の属州カードが全てなくなったら終了です!」


「つまり、」


「属州をより多く買い取ったプレイヤーの勝利ってことです!」


「面白いじゃない!」


私は今まで感じた事のない熱い何かを感じた!


「6金で金貨を購入!」


「民兵!プラス1金で銀貨を購入!」


「鍛冶屋!6金で金貨を購入!」


「8金で属州購入!」


30分くらい経った頃、お互いに属州を買いまくり5枚ずつ買ったときに美咲ちゃんは異変に気づく。


「マスター….抜きましたね」


「バレた?今回は属州12枚ではなく1枚抜いた11枚になってるのさ。つまり次の属州を取った方の勝利って事だね」


「面白い。さあ椿さんクリーンアップで手札引いて下さい!」


私は力を込めて5枚のカードを引く。


「それじゃあ私の番!アクションフェイズに民兵を使います。」


私は手札から属州2枚を捨てる。


「この勝負貰った…って1234567…1234567…7金!属州買うのに1金足りない…ここは手堅く公領を買います…でも椿さんの手札は3枚、まだ勝負はつかない」


私はニヤリと微笑む


「油断したわね美咲ちゃん!私の手札は金貨二枚に銀貨一枚!つまり8金!属州頂きーっ!」


「あー!負けたー!」


勝負に負けて涙目になる美咲ちゃん。


「ボードゲーム初めてやったけど、すっごく面白いっ!ドミニオン大好きになったわ。」


「でしょでしょ?」


美咲ちゃんは私の手を握り目を見つめると頬を紅らめた。


「椿さん、その…これからも一緒に遊んでもらえませんか?お友達になってください…」


私は美咲ちゃんの頭をぽんぽんと撫でる 


「あら?私はもう友達だって思ってたけど?気のせいだったかしら?」


「本当ですか?やったー!まだまだ面白いボードゲームたくさんあるのでいっぱい遊びましょうね」


「もちろん!また勝っちゃうけどね笑」


「今度は負けませんよ!」


私たちはいい時間になったので、それぞれの家路についた。


『今日はありがとう。楽しい1日を過ごすことができたわ』


ピコン


『こちらこそありがとうございました。良かったら来週の日曜日もねこ屋に行きませんか?』


『多分暇してるからいいわよ!また面白いゲーム紹介してね』


ピコン


『もちろんです!ではおやすみなさい。』


『おやすみー』


こんなに休みが楽しみになったことなんて無かった。私はタバコの火を消すと明かりを消して、スマホでドミニオンを検索する。


「高っ!こんなにするのドミニオン?!」


私は見なかったことにして、眠りについた。

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