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或るウイルスの物語  作者: RARUHI
4/5

彼らの戦い

今回の小説には特撮ネタや、特撮キャラをモチーフにした人物が物語中に登場します。

苦手なかたはブラウザバックを推奨します。

それでも大丈夫だと言う方は、ぜひお楽しみください。

「嘘だろ⁉︎そ、そんな……。何とか……何とかならないのかよ⁉︎」


そう言って俺は京水さんに詰め寄った。しかしこういう状況でも京水さんは冷静だった。


「落ち着きなさい。あなたが慌ててもどうにもならないわ」


「そんな事言われて、冷静になれるかよ‼︎」


乾いた音がした直後、焼けるような痛みが頬を刺した。

頬の痛みが痺れるようなものに変わる頃には、それまで感情に駆られて周りの見えなくなっていた俺に冷静を無理やり取り戻させてくれた。

その俺の目の前では、鋭い目つきをした京水さんがいた。

(そうか、京水さんに平手打ちされたのか)

打たれた痛みで意識が少しぼーっとしていて、そんな事しか頭に思い浮かばなくなっていた。


「……やっと、冷静になれたわね?

いい?さっきも言った通りあなたが慌ててもどうにもならない。こういう状況だからこそ冷静さが必要なのよ。

確かに『SCウイルス』は治療薬も特効薬もない薬。だけど、このままあなたの弟くんの死を指を咥えて見ている事しか出来無い訳じゃないわ。

一つだけ策があるの。大丈夫、ワタシに任せて」


そう力強く俺に向かって言ってくれた。


「……本当にありがとうございます」


「やっと、硬さが取れたみたいね」


そう言うと京水さんの表情も少し和らいだように見えた。

すると、ここまでのやり取りを静かに見守っていた東が俺を一瞬見て「もういいかな?」と言って京水さんの方を見ながら話し始めた。


「じゃあ京水さん、さっさとコイツの弟を助ける為の策っていうのを教えてくれよ。あんたがそこまで言うなら、相当自信があるんだろ?」


東はいつもの屈託のない笑顔を見せながら聞いた。

京水さんは静かに首を縦に振ると、ケータイで神垣さんに今いる場所を聞き淳の身体に触れないよう指示して、神垣さん達の所へ向かった。



「おい淳大丈夫か?」


「兄貴、そんな心配そうな顔すんなって。俺はまだ大丈夫だよ」


こんな状態に陥っているにも関わらず、相変わらずの笑顔を見せながら答えてはくれているが、その顔は少しキツそうだった。

神垣さんは何度も謝罪して来たけれど、そもそも連れてきてしまったのは俺の責任だから、と言って何とか頭を上げてもらった。


「……まだあまりウイルスは進行していないみたいね、少し安心したわ。いい?今から言う指示に従って動いてちょうだい。

まず敦ちゃんはワタシと一緒に地下にある研究所までついてきて。次に東ちゃんと神垣ちゃんは、彼の弟くんをこの住所の所まで運んでおいて。着いたらその家のベッドに寝かせて、この薬を飲ませておいて」


矢継ぎ早に指示を出すと、神垣さんに白い小さな紙袋と住所の書かれたメモを渡した。


「いい、なるべく急いでね。ワタシたちも頑張るから」


京水さんは淳を真剣な表情で励ますと、俺に向かって、行きましょう、と急ぎ気味に言った。


「じゃあ行ってきます。東、神垣さん、淳のこと頼みました」


そう言ってお辞儀をし、俺は少し先を走っている京水さんを追いかけた。



「…………なあ京水さん一つ聞いてもいいか?」


階段を駆け下りながら、俺はずっと疑問だった事を聞いてみた。


「何であんたはここまで淳の事を助けようとしてくれるんだ?……いや、別に疑ってる訳じゃ無いんだけど、どうしても疑問でさ」


そう聞くと、京水さんが顔こそ見えなかったが一瞬笑ったような気がした。そしてペースを少し落として、ここまで話さなかった、自分の過去の事を話し始めた。


「実はワタシね、元々政府軍で軍人として働いていたの。もう今から4年くらい前かしら。

その頃からウイルスに関する知識は、ちょっとしたその道の研究員よりも豊富だったの。ただ、ウイルスの研究所に入ろうとは全く思って無かったし、もっと言えばまさか研究員になるとは思って無かったの。

……あなたも知ってるかもしれないけど、4年前に結構大規模な反政府デモが起きたのは知ってる?」


そう聞かれて一瞬自分の記憶を探ると、僅かだがそのデモに関する情報があった。確かあの時はデモを起こした側はもちろん、鎮圧にあたった警察や軍の中でも怪我人や死者が出たはずだ。

そう、軍の中でも怪我人が出ていた。


「え、まさか、今研究所で働いているのって」


「そう、あのデモの時、暴徒と化した1人にナイフで腹部を刺されて、その怪我で退役したの。

刺された時、もう死んじゃうのかな、何て考えてたら仲間に助けられたんだけど、何とか命は落とさずに済んだ。

あの時の経験があったからこそ、ワタシは目の前で命の危機に瀕している人は絶対に見捨てられないの。

そして軍を退役したところを、この研究所のチーフにスカウトされたの。『SCウイルス』の治療薬を作る為にね」


「じゃあ京水さんにとって、そのチーフは恩人みたいな感じなのか?」


すると何故か京水さんは、うーん、と考えるような声を出した。


「確かに拾ってくれた事は感謝しているけれど、あの男はあまり信頼出来ないわ。ただ治療薬を作るだけじゃ無くて、実験自体を楽しんでいる様に見えて……ね。

しかも『SCウイルスα型』は『SCウイルスo型』っていう、別のウイルスから産まれた物なんだけどね、その産まれ方が……何というか、産まれるべくして産まれたって感じだったの」


「産まれるべくして産まれた?いまいち意味が分からないんだが」


すると京水さんは、どういう風に説明すればいいのか少し悩んだ後、感じていた違和感を吐き出す様に話し始めた。


「4カ月くらい前だったかしら、チーフの命令で治療薬用のデータを収集する為に『SCウイルス』を様々な環境保護においたり培養したら、あのウイルスが出来たんだけど、それをチーフに報告したらあんまり驚いた様子がなかったの。まるであのウイルスが産まれる事を予想していたみたいに」


「成る程、だから産まれるべくして産まれたってこと言ってたのか。

それはそうと、今この研究所には京水さんしか居ないのか?今のところ遭遇したのはアンタと、あとチーフだったっけか、その2人しか居ないじゃないか」


それを聞くと、そうなのよねー、と答えた。どうやら京水さんも疑問に思っていたらしい。


「ワタシ今日はいつもより遅く来たの。ちょっと疲れて家で休んでからこっちに来たんだけど誰も居なくて、どこにいるのかなって歩いてたらあなた達と出会ったってわけ」


だから歩いてたのかと1人納得していると、京水さんはもうすぐ研究所に着くわよと言った。

もうすぐ着くと安心していると、廊下の奥から1人の男が歩いてきた。


「やーあ京水、どこに行ってたのかなァ。随分と探したんだからなァっと、おォ?これはこれは、隣の君はウイルスの実験台になりに来てくれたのかいィ?嬉しいねぇ全くゥ」


「おい京水さん、あいつまさか」


京水さんは目つきを鋭くすると同時に、静かに首を縦に振った。


「お察しの通り、あいつがここのチーフの三田よ。

ちょっとサンタクロース、アンタ一体どういうつもり?一般人にウイルスを使うなんて正気の沙汰じゃ無いわよ。それに、他のみんなはどこに行ったの?」


京水さんは怒りを抑えながら言葉を放った。対してサンタクロースと言われた男は、終始ニヤニヤと薄気味悪い笑いを浮かべて静かに聞いていた。


「まァ落ち着きなよ、彼らは犠牲になったのさァ。これでトモダチの望んでいたウイルスも薬も出来上がったのさァ」


「ふざけないで。もし邪魔をするんなら、ワタシは容赦しないわよ」 


京水さんは白衣の内側から黒いムチを取り出してゆっくりと構えた。

それを見た三田は大げさに怖がると


「おおっと暴力は反対だよォ。もっとも、ボクは戦わないけどねェ。

君たちの邪魔をするのはコイツの役目だからねェ」


そう言い終わるや否や、三田の横にある壁を破壊して、ヒト型のバケモノが入ってきた。

そのヒト型のバケモノは、人の形をしてはいるものの背が異様に高く全身が浅黒い。身体は細く腕が異様に長かった。


「コイツは……まあ正式な名前は無いから、薬の名前を取って『F』とでも言っておこうかなァ」


「『F』……まさか、あの薬完成してたの⁉︎」


「さーァ『F』あいつらを、あの敵達をさっさとぶっ殺してこいィ」


三田がそう叫ぶと『F』はナイフを握り、俺たちに向かって襲いかかってきた。




[登場人物紹介]

三田 九郎(41)研究員 『SCウイルス』研究所のチーフ。彼が『トモダチ』と呼ぶ謎の人物から『SCウイルス』を生物兵器として利用できるようにするよう指令を受けていた。

あだ名はサンタクロース

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