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魔法学園生活録  作者: 陽
7/12

それはまるで、驟雨のような 1



 西の大大陸のその南側に位置する魔法大国グナ。およそ半月型の形をしている国土の三分の一を魔物領域である深い『森』に支配されており、そのためか純度の高い魔石が発掘され、他国に輸出される。横にした半月を真ん中でさらに二分した東側に都市があり、国一番の流域面積を誇るデュティール川の河口に交易都市アムラ、中腹に王都リベラル・ヴィラーゼ、そのさらに上流、神山べラムの麓に聖都ブラハムがあった。

 王都と聖都に挟まれる形で学園都市マハがあり、『森』の入り口を塞ぐように王立魔法学校があった。



ユーリが、制裁会からのお説教が終わり、キサラたちと合流したのはあれから2時間ほど経ってからのことだった。

アイリが驚いたように迎え入れる。まだ、彼らはジャスらの部屋でノアとの話をしていたところだった。


「意外と早く帰ってきたね」

「めちゃくちゃぐちぐち言われたけどな。あたしは被害者なんだよ!!!って言いまくったら、何とかなった」


だが、その首にはしっかりと黒い皮でできた緋文字の刻印が掘られた首輪がついていた。

この学園で悪さをする生徒に問答無用で付けられる、いわば魔力供給防止装置。これが着いていると、正確な魔法構成が作れず、さらにそこに魔力供給もできないので魔法を使うことが出来ないといったものである。

そういったものを首に装着していても、これほど早く聞き取りから帰ってこられたということは。

さぞかし、駄々を捏ねたのだろう。その程度で制裁会が解放するはずもないのだが、それをさせてしまったということは、彼女がとんでもなく暴れたか、とんでもなく聞き取りが出来ないくらい騒いだかのどちからだろう。ユーリのことだから、どっちもやったんだろうが。はぁー、と肩を竦めたアイリをジトりと睨む。


「おまえ、今すごくあたしに失礼なことを考えてんだろう」

「ソンナコトナイデスヨォー」

「嘘つけ、顔に書いてあんだよ。ケンカうってんのか?………やっぱ、最高クラスの部屋って広いんだなー、羨ましいな」

「で、なんでそんなに早く帰ってこれたの?」


キサラの隣に座りながら、お疲れ様という声々に大変だったと返事をし、アイリの問に答えた。


「なんか、あっちの方でもなんか色々ゴタゴタしてるっていう感じだったな。聞き取りの仕方もなんか、なんでこんなややこしい時に問題起こすんだコラ、みたいな感じだったし。なんか、学園に侵入者がどうとか言う話だった。地の塔がどうこうは、まぁあたしらが見てきた通りだと思う。そこで、未確認の魔力があったとかなんとかな。」

「侵入者………」

「侵入者だねぇ」


ジャスラとキサラの目がユーリをなんとか視界に入れようとしていたが眠気に勝てない、ウトウトしていた猫に向かう。その視線の先をおい、ユーリが笑う。


「そーいや、お前起きたんだな、よかったな」

「そうだよ、私の愛のキモチがとどいたんだ」

「無表情にアイとか言われても、キモくね?」

「ユーリ、お前死にたいの?」


んで、とジャスラが出してきたお茶をひとすすりと、話を元に戻す。


「そいつが制裁会が探してる侵入者ってことで理解しててきいか?」

「ユーリって、バカだけどアホじゃないんだなー」

「レオ、あんたもケンカうってんのか?」

「あはは、そんなことないよ、飲み込みが早くて、えらいなーって思ってるよ」

「やっぱり、表出ろ、叩きのめす」

「え、なんかごめん」

「ねぇ、くだらないから話戻していい?」


ユーリはアイリから猫……ノアの正体を聞き、事情を聞き、そしてひとしきり驚いたあと、やっぱりそう来なくちゃな、となぜか得意げになる。


「だって、こんなおもしろいこと、見逃す方がどうかしてるぜ」

「ユーリならそう言うと思った」

「当たり前だろ」


さすがに長い付き合いだ、キサラとユーリはにやりと似た笑みで互いにハイタッチをかわす。

それを冷え冷えとした眼差しで見つめているのはラディオだ。ため息をつく。


「ちなみに、具体的にどうするのか、ということを聞いておきたいのだが、もちろんお前たちは、考えているんだよな?こんな重大事件を安請け合いしておいて、考えてませんでしたはバカのすることだと思うが。」

「簡単だろ、水の魔神を探し出して、止めたらいいんだろ?

そんなに難しい事じゃないと思うぜ?」

「バカか?水の魔神が、どんな理由で学園を害しているのか分からないんだぞ。ノアの話を聞く限りでは害を及ぼすことは無いはず。それが、あんな危険きわまり物を生み出しているんだ。俺たちが知らないところで何かが起こっているとしか思えない。なまじ手を出せば、どんなしっぺ返しが来るかも分からないんだ。」


つまり、それしか考えてなかったんだな、ともう一度深いため息混じりに言われると、少しカチンときたユーリが食ってかかる。


「んだよ、なら、ラディオはなんかかんがえてんのかよ!?」

「もちろん」

「じゃあ、言えばいいだろ?なんでそんな勿体ぶるんだよ」

「まずは、お前たちがなにかいい方法を考えてるのか、知りたかったんだ。俺が考えついたのは、3通り。」

「そんなにあるなら、そんな言い方することないだろうが!!ものにはな、言い方ってもんがあるんだ!!」


1人掛けソファーに座り、長い脚を組むその紺色の美青年の何考えてるか分からない群青の瞳に怯むことなく、ずいずいとユーリが迫る。ユーリは怒りを湛えたからか、ひどく上記し、赤らんだ頬をラディオの顔に近付けた。

それは、ラディオの冷めきった白い頬と対象的に可愛らしく、美しく見える。


「お前、ほんとにキレイな肌をしているな」

「はぁ???」

「触らせてくれ」


ラディオが無表情に、ユーリの顔に手を伸ばす。

まるで、初めて暖かさをしった氷の彫刻のように。

その、指先が触れるか触れないかで、ユーリの身体がラディオから離された。


「ばーーーか言ってんじゃないよ、ラディオ。それはセクハラって言うんだよ!!!」


アイリだった。


「そうか、それはすまなかったな」


ユーリの首根っこを掴みながら、クッションにその身体をほる。


「でもま、確かにユーリやキサラが悪いね。なんも考えてなかったんだから!」

「え、私も?」

「やーい怒られてやんの」

「ジャスラ、うるさい」

「誰が悪いとか、ないな、俺も煽るような物言いをした、すまないと思う。ひとまず、考えていることを伝えてもいいか?」


まずひとつ、とラディオは腕を組んで一同を見廻す。


「水の魔人がその魔神の力で鍵なのであれば、それの発生源を追う。いつから始まったのか、何か意思があって行われているのか、どこに現れるのか、どう言った場所に現れるのか。これにはたくさんの情報がいる。それを地道に辿っていく方法」


「2つ目、そもそも、どうやって水の魔神が入ったのか、ルートを調べる。この、ノアのように自力で入ったなら今回のように制裁会が放っておくはずがない。だが、そんな制裁会の様子ははなかった。なにか、ちがう方法で学園内に侵入したはずだ。その方法を調べる。学園内の隅々までなにか隠しルートがないかなど、これも地道にたどって行くしない方法」


「3つ目 ノアをいっそ公にして、相手の出方を待つ」

「そんなの!!おとりじゃん!!」

「囮だ」

「危ないじゃん!水の魔人に襲われる」

「仮にも魔神だからな、その辺は大丈夫だと思うのだが………」

「問題があるわけだな。」

「そうだ、レオ。」

「問題?」


きょとんと首を傾げるジャスラに、キサラとユーリが同じような顔をする。


「さっきも言ったと思うが、この問題自体が国際問題だ。本人の自覚はないと思うが、魔神は明らかに宗教象徴。教師はともかく、国が出てくることは必至だ。そうすると、ノアは俺たちの手を離れてしまう。」


未だ、少し理解が追いついていない3人に、アイリが苦笑する。


「楽しいことが出来なくなるでしょ?」

「あぁ!!それはダメだな。」

「やめだやめだ、その案ダメ。」

「仮にも、人が考えた案を一蹴するな。するなら考えてからにしてくれ」

「でも、それだけじゃないよね、秘密にするのは」


男子3人の中でも、1番に背の高いレオは、どことなくいつもみんなより1歩引いた姿勢で、まるで保護者のように周りを見守るタイプの大人しい男子生徒だったが、今、彼がいつものような笑みを浮かべているのに、その瞳が、笑っていないのは、一番の危険に気がついたからだろう。


「……………そうだな。ノアの存在を公にして、教師連が国に伝えて、国からの解答をまっている間のロスに、水の魔神をおびき出すのが実は相当手っ取り早い方法だ。だが、これには俺たちの身の危険が伴う。」

「どういう事だ?」

「言い過ぎだよ、さすがに。でも、圧力はかかるよね」

「あつりょく?」

「少なくとも、あと3年間、卒業まで影から日向から、ずぅぅぅぅっっと、見守られ続ける」


他国の象徴が、どう言った経緯で自国に来たかは定かではないぶん、おそらく関わったこと自体が問題にされるだろう。つまりそれは魔法大国グナが、魔人宗教教国アドパの象徴を奪い、宣戦布告したと取られても仕方ないかもしれない。

グナは今、軍事帝国グングルニアという国と休戦協定にあり、グナが揺らぐ様子が見られたらおそらくその協定を破って一気に攻め込んでこないとも限らない。


そういったリスクが、この国にある限り、魔神ノアズアークの対応は非常に繊細なものになる。ノアのデメリットとしては、おそらく自由には水の魔神を探させてはくれないだろう。

そこまで、ラディオが推察を話すと、話題の主であるノアが、欠伸混じりに、


『とかく、にんげんというのは面倒くさいなぁ。ぼくらはそんなに信仰しろなんて指示した覚えは無いし、むしろ争いのタネになるようなら捨ておいてくれても構わないのに。ぼくらはぼくらで、ぼくらの世界でのんびりと見守ってあげるのにねぇ』

「しかたないんだよ、それが生きる理由である人もいるんだ」

「存在意義ともいうね」

「大義名分にもしたいしね」

「珍しく、ユーリとキサラが分かったような口を利くなぁ」

「だって、そーゆーのをずっと見てきたからね……」


まぁ、なんにせよ、と立ち上がって窓のカーテンを少し開けノアの姿を隠すために締め切っていた部屋に光を入れる。アイリは、流石に全開はせずに身体で隠すようにして、くるりと振り向いた。


「地道な方法が1番の近道って事だよね?」

「そうだな、最後の案は一応こういうリスクがあることも理解して欲しかっただけだ。」

「んじゃま、行ってきますか」

「どこに行くんだ?」

「どこって、目撃情報集めかなー、ぼくが適任でしょ?侵入ルートは任せたよー」

「一人で行くのか?」

「まぁ、ぼく1人のが動きやすいけど」

「それじゃあ、俺も行こう」

「え、話聞いてた?なにレオくんなんでそんなにグイグイ来るの」

「俺も行こう」

「え、大丈夫だよ」


それじゃあねぇーと、ジャスラの部屋から2人が出ていく。

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