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魔法学園生活録  作者: 陽
6/12

雨季の訪れ 5

精神、肉体ともに疲れきっている3人をのぞいた、3名の男子はいまもって、状況の判断ができてはいなかった。


「説明を求めたいのだが」


普段から口数の少ないラディオが、端的に希望を述べる。


「これは、お前たちの悪戯か?」

「ちっ………がうわ!!!」

「こんな悪戯さすがにしんわ!!」


ユーリとアイリが、怒鳴るように否定する。


「なら、はやく状況説明をしないと、すぐに制裁会の者が駆けつけてくるぞ。さすがに、これがお前たちの仕業じゃないのなら、理由がないと庇う事ができない」


塔の壁が破壊されているのだ。倒壊音も凄まじかったことだろう。落ち着いて話すには、場所がよろしくなかった。


「あたし達もわけがわかんねぇ。1回状況を把握したい。」

「今、制裁会に見つかってしまうのは、ちょっと得策じゃないな……」


ユーリとアイリが、キサラの腕の中で穏やかに眠る猫を見つめて言った。


「言いづらいんだけどね、」


レオが、すごく申し訳なさそうな顔をする。


「こんだけの被害が出たんだ、正直誰か1人でもいい説明しないと、追求が激しくなるよ。特にここはユーリの魔法残滓が濃いから………キミに残ってもらって、スケープゴートになってもらわないといけないと思う。」

「くっそ!マジかよ………」

「でも、レオの言う通りだ。不本意かも知らんが、受け入れろ。それに、お前ら中庭でやらかしたこともあるし、やらかしてないことはないんだろ」


あの、奇天烈なオブジェのことだろう。

そんなこともあったと、遠い昔のように感じる。


「さすがに、アイリさんこの惨事はどこまでのペナルティになりますかな?」


恐る恐ると言った形で、ユーリが問う。


「首輪1ヶ月ってとこかな、情状酌量で2週間に減らしてもらいたいところだね」

「あゥチ」


そうこうしている間にも、人が集まっている。ざわざわと、ざわめきが聞こえ始めていた。

はやくここをズラかろうと、ラディオが急かす。

ユーリ1人を説明(生贄)に残し、5人はアイリの姿くらましの魔法でなんとか人混みを回避しながらその場を去っていった。





現場から、一番近い場所がジャスラの部屋だった。


「ちょっと、待てちょっとだ。ちょっと待ってくれ」


なんて言いながら、部屋の扉を閉める。レオとアイリはニマニマと、キサラは舌打ちをしながら、それを待ってやった。ガタゴトという物音がやがてなり終わると、控えめに扉が開いた。


「いいぞ」


少し照れているように、4人を迎え入れる。終始無表情なのはラディオだけだが、アイリとキサラは初めてはいる一人部屋に感心していた。


「こ、これが!最高クラスT級Tだけが与えられる一人部屋!!」

「あたしらは、2人部屋なのに!!」

「それよりも広いだと………!!」


天蓋付きのベッドと、本棚、テーブル、デスク、照明機具など大型家具はもちろん変わらないのだが、細々とした小物は性格が出る。

何しろ、ここで7年も暮らすのだ。好みのものを使いたい。

そんな彼の部屋は、少し統一感はないが年相応のものがあった。


「せっかく広いのに、なんか、ごちゃついてんな。」

「小物、もうちょい統一感揃えたら?あっちはドクロでこっちは砂時計て。」

「ほら、色はいいと思うな。赤と青、黄とか」

「レオくんは甘いよ。原色ばっかで眩しいって」

「お前らうるせぇ!だから、入れたくなかったんだよ!!」


キサラとアイリにごちゃついてるや、眩しいやら言われて恥ずかしさからか、怒鳴る。

ラディオの静かな瞳を見て、落ち着かされたが、まだ顔が赤い。


「それで、何があったんだ?」

「ぼくらも、よくわかんないんだ。認めるけど、中庭のあれを作成したあと、制裁会から逃げてたんだ。思えばあの時からなんか制裁会の動きが変だった気がする。慌ただしさと、緊張感があった。」

「その後、地の塔に避難したんだけど、そこでさっきの水の魔人に出会って襲われて、死ぬって時に」

「そんな、死ぬなんて大袈裟な」


ジャスラが驚いたように言う。


「でもあれは、本当に殺しに来てたよ」


キサラが猫を撫でながら呟く。


「こいつがとび出てきて、なんとか助けられた。」

「さっきから思ってたんだが、この生き物は、なんだ?なぜ、ここにいる?学園内に、認可動植物以外は入れないはずだ。」

「それも分かんない。人語を会す魔獣だと思うんだけど、魔獣にあるはずの角がない。」

「助けられたというのは?」

「こいつが炎を吐いたんだ。白い炎。それで、あの魔人が一気に溶けた。」

「こいつ、起きるのか?」


皆の視線が白い猫に集まる。一連の騒動さえ知らずに、寝息さえ立てて覚醒しない猫。その、毛並みは白いようにも、銀のようにも、虹のようにも鮮やかだ。


「なんにせよ、起きてもらわないことには説明がつかんのだが………」

「……………………」


キサラが、両手をすぅっとあげた。

そして、その手を猫の耳元まで持っていく。

そして、ニヤリと笑った。


ぱん!!!


『っ?!?!?!』


声もなくぱちりと目を開き首を竦める、そして瞳孔を目いっぱい開いて、耳を立てて周囲を睨み、身体の毛を逆立てる。直に立ち上がっていた耳は後ろに下がり、しっぽがぶわっと逆立ち、膨らむ。

その姿はまさに猫だった。


「起きた」

「簡単すぎんだろ」


どやぁ……というキサラの顔を、呆れ顔のジャスラが答えた。できれば、もっと特別な方法でおこしてほしかってもんだ。


『ここは………』


純白の猫は、きょろきょろと人間くさい挙動であたりを見回す。そして、きゅるん、と美しいブルーの瞳が問いかけるように見つめてくる。


「ここは、魔法大国グナの王立魔法学園だよ」

「わたし達は、ここの学生」


キサラが手を差し出す。それを、アイリが止めようとするが、それでも、猫の手をとった。

柔らかい肉球があって、それはしっとりと濡れていた。暖かい肉球を、指先で感じながら、自分の名を名乗った。


「わたしは、ここの学生の4年キサラ。階級はA級T」

「僕はね、アイリだよ。階級はA級B。僕達が最初君と出会ったの。助けてくれてありがとうね」


そして、キサラがちらりと男子3人に目配せする。名乗れ、ということらしい。


「そーゆーシステムか?恥ずかしいな………。オレは、ジャスラだ。階級はT級T」

「俺は、レオ。ジャスラと一緒のT級Tだ。よろしくね」

「………………」

「この、無愛想なのがラディオ。階級は一緒。」


猫は、静かに5人の顔を見渡す。瞳の色は澄んでいて、とても美しく、静かな湖畔を思わせた。深い碧を湛えた湖のような。


『ぼ、くは、ノア。』


猫が、喋った。それに、少しだけ驚く。人語は、猫の口がうごいて発されているようではなかった。その証拠に言葉通りには口は動かない。


「キミはなんなの?魔獣なの?そのわりには角がないけど………」

『ぼくは、マジンだよ』

「マジン?」

『えぇと、なんていうのかな?………所謂、かみさまだよ』


ノア、と名乗った猫はアイリの問いに答える。一同は、しばらく言葉をなくした。かみさまという言葉をさぐる。あまりに唐突な単語だったからだ。


『ことば、間違えたかな?日頃、ことばなんてはなさないから、わからなくて』

「マジン、ノアって、まさか………魔神・ノアズアークの事か?!あの、魔神宗教公国アドパの炎神?!」

「マジンって、魔神か!」

『そうか、あの一帯の国はそう呼ばれているのかな。ぼくらは基本、“ ココ”で過ごさないからね。北の大陸のことを言っているのなら、そうだと答えるよ』


魔神宗教、北の大陸で多く見られる一派で、炎、水、雷、土、金を司る五大神を崇めている。確か、ノアズアークを崇める地方は、北のアドパの国でもさらに北に位置する。

ことばで話すのが慣れてきたのか、随分と流暢に話すようになった。それを、まじまじと驚きの眼差しで見つめる5人。


「こりゃ、やばいと思わないか?」

「あぁ、俺たちでなんとか出来る事柄じゃなくなってきた。まさか、神話の存在が出てくるとなっては」


ジャスラとレオが顔を見合わせる。


「ちなみに、聞くが、この学園には何をしに来たんだ?とてもじゃないが、宗教違いだ。ここは大半が亜神信仰で成り立っている。ここだと、過ごしづらいのではないのか?」

『………………』


先程まで流暢に話していた言葉が途切れる。もちろん、この内容は残る4人もとても気になっていたから、自然と猫……、魔神・ノアの次の言葉を待ち、部屋には沈黙が漂う。


『…………キミたちからは、悪意が見られない………だから、話そうと思う。』


凛、とした瞳が5人を見つめる。


『ぼくは、大事な仲間を探している。彼女は魔神・ミシア。キミたちがいうところの水神だ。彼女はある日、僕達が暮らす“ 空海(ウツミ)”からでて、ココ“樹岸(キガン) ”へ来たみたいなんだ。ぼくと彼女は持ちうる力の性質上、また、双子神だから、どうしても共にいなくてはならないのだが、その時は彼女の崇拝地区がちょうど降臨祭をしていて、離れていたんだ』


空海(ウツミ)……五大神が住まう、空に海を湛えた山のこと。

樹岸(キガン)……人間、動物、魔物、あらゆる物質が住まうこの世界のこと。

宗教ごとに此岸の言い回しは変わるようだ。


『ぼくたちは互いにその力の気配だけで、それぞれの居場所が分かるのだけれど、唐突に彼女の気配が消え去ってしまった。双子神のぼくが見落とすことはないはずだが、突然彼女を見失ってしまったのだ。考えられる状況は他信教の土地へおもむいたか、迷い込んでしまったか、と思ったのだけど、

どこに全ての樹岸の大陸を見て回っても彼女の気配はない。唯一、ここから漏れてきた力の残滓を辿ってきたのだが、これが正解だったようだ。』

『ここに、彼女がいる。』


その静かな瞳でそう言い切る。


「……………そ、れは学園がその魔神を捕らえたということなの…………?」

「いくら、王立魔法学園とはいえ、魔神を捉えるなんてそれこそ神業をしでかせそうな奴なんていないだろ………そんなこと露呈してみろ、戦争だぞ。」


アイリが、戸惑いを隠せない様子で周りを見回し、呟いた。その問いにジャスラが答えたのだが、確かにその通りだ。戦争になりかねない。ラディオがノアに身を乗り出す。


「確実に、その魔神の気配があるんだな?」

『ある。今はまた、隠れてしまったが、あの水の魔人の力は彼女のものであると思う。』

「あの魔人が?!でも、なんでそれなら学園を襲っているの?」

『わからないんだ………なぜ、彼女がこんなことをしているのか。何かしらのトラブルがあったんだと思うのだが……』

「なんにせよ、これはオレたちの手に余ると思わないか?」

『…………ぼくからのお願いはひとつだ。ここで、自由に彼女を探したい。なぜ、こんなことになったのかも気になる。ここは果たして、それを許してくれるのかな?』


アイリとラディオが互いに見合わせる。アイリは小さく首を降った、ラディオもまた、それをみて静かに目を瞑る。

ここは王立の魔法学園だが、人里はなれ、様々な国からの学生で成り立っているため、王都からの指示を受けない。規律も学園そのものに任せた所謂学園法則で成り立ってるため、学園内のトラブルは学園内の法則内で解決されなくてはならない。だが、“ 学園認可動物では無いものが学園にいる”ましてや、神の一類。これは、学生で形成される制裁会、生徒会では話にならない。教師連に指示をあおがなくてはならないの事例だと、考えてはいるのだが。

だが、ここに、どういった理由で水の魔神がいるのか分からない以上、ノアの立場上は秘密裏に探し出したいはずなのだ。


「いいじゃん」


重苦しく黙り込んだ面々に、ノアが少し落胆の色を見せ始めたころ、今まで黙り込んでいたキサラが声を上げた。


「いいじゃん………って?」

「だまって、見逃す、あるいは協力する。どう?」

「どうって!!」

「だって、別にこの子は仲間を探したいだけでしょ?別に手伝ってあげたらいいんじゃない?」

「もし、この子が見つかったら、大変なことになるよ?」

「ねぇ、力を使えばバレるけど、使わなければバレないんだよね?」

『ここの索敵能力がどんなものか分からないけど、この部屋に長時間いてバレてないことをみたら、今すぐ見つかることは無いかな。今、ぼくはここの結界を通り抜けるだけで力の大半を使い果たした状態で、なんの放出もしていない。』

「なら、バレないじゃん!」

「バレないじゃんって………」


嬉しそうに、脳天気にそう言い放つキサラを、アイリが困ったように頭を抱える。


「面白そうだし!」

「面白そうだけど!」

「ならいいじゃん。アイリもなんか面白いことないかなーって、ずっと言ってたじゃん?」

「……………言ってたねぇ」

「けっこうカンタンに揺れるんだな!アイリ!」

「や、でもけっこうこれはいいんじゃないかなと思って。別にだって、誰に迷惑かけるでもないし。終わりよければにすればいいんでしょ?それに、ガッコー側が何かしら企んでる場合、この子を表沙汰にする方がやばいと思うんだよね」

「あ、うん??そういうもの………か?」

「ジャスラ、ジャスラもだいぶんカンタンに流されやすいぞ。俺は、まぁ皆がそうするならそれでいいし、協力もするけど、ラディオは?」


4人と1匹(一神?)の視線が、涼しい顔のラディオに向かう。


「…………………まぁ、いいんじゃないか。」

「おおおおおーーー」


ユーリの意見はいいのか?

いいよ、あいつの意見はあたしの意見だ。

あぁ、あいつに決定権はないんだな………

ジャスラとキサラの声を聞きながら、ラディオは手元の本に視線を落とした。その傍にアイリが寄る。


「あんたが、賛成すると思わなかったよ」

「そうか?俺も、オモシロイコトはすきだ」

「そんな無表情に無感動に言われてもね。………まぁ、賛成するしか無かったのかな?」

「どういうことだ?」


アイリが、にやりと白い歯を見せて笑う。艶やかな黒髪のショートをさら、と揺らして、小動物のような黒目をクリクリさせて、にやりと笑う。可愛らしく、愛玩動物のように。だけど、その笑みの中に、なにかを含ませて、笑う。


「なんでもないよ、何となく思っただけだよ」

「そうか」


なら、いい、と本をまた読み始める。

ノアはまた、疲れたように眠りに着いていた。




学園には、様々な委員会が存在するのだが、その中に修繕委員会というものがある。困ったことに色々学園を壊す輩が存在するので、その度に彼らが出陣するのだ。

ユーリが、なんやかんやと言い訳してから、言い訳を聞いて貰えずに制裁会にしょっぴかれた後、彼らはわやわやと集まり、ユーリが破壊した(主にキサラなのだが、)箇所の修繕にかかる。

地の塔のような、自己修正能は、当然普通の塔には備わっていないので、彼らの手が必要なのだ。


「あぁあーー、どうやったらこんなに壊すことが出来んだよーー」

「もっと大事にしろよな、ほんとにもーー」


惨状に辟易しながら作業に取り掛かる。およそ、瓦礫を片付けて、もろもろしていると、急に彼らの手元が暗くなった。


「あれ?今、雨季の時期だっけ?」

「ちょっと早いような気もするけど……」


濃い、藍色の雲がじっとりと雨を含んで、その一帯を覆い、陽の光を阻んでいた。

まだ、そんな時期ではなかったはずなのだが。

今年はえらくはやいな。

少年少女は、なんとか雨が降る前に、と手を早める。


「この部屋の改良しよーぜー。ユーリとかに使われないようにしてやろう!」

「いいねぇ、賛成」


こういう特権があるから、彼らは修繕委員会をやったのだろう。そういう目的を得た彼らは、すでに、はやい雨季の藍雲のことは忘れていた。


西の大陸の、そのまた西の、白紙地帯の森のそばの、隠されたような魔法学園に、雨季が訪れた。




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